追放冒険者と勘当王子と悪役令嬢、ときどき天才幼女──誤解だらけの王道物語

乾為天女

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第40話 それぞれの旅路

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 戦火の灰が静かに地に落ち、王国は新たな息を吹き返し始めていた。
  魔獣軍勢との最終決戦から二週間。前線で命を懸けた巧たちは、それぞれの持ち場へと戻り、再び“自分の生き方”を選び取っていた。
  巧は、新設された〈王国冒険者ギルド総本部〉の長官として、全国巡回の任を受けていた。かつて迷宮で見捨てられた男は、今や若き冒険者たちの“手本”として語られる存在になっていた。
 「……見られてる、ってことだよな。だったら、背中で語らなきゃな」
  迷宮で迷子になった新人を自ら助け出し、村で道を見失いかけた少年に「冒険者の心得」を一晩中語って聞かせる巧の姿は、どこか照れくさそうで、それでいて誇らしかった。
  一方、すずは〈王国記録官〉として、旅の記録を叙事詩にまとめ上げていた。だがその物語は、単なる武勲ではない。
  裏切り、赦し、誤解、そして絆――人の心の機微をすくい上げた物語だった。
  彼女は今日も広場の一角で、子どもたちに向けて優しく読み聞かせていた。
 「……そして、王子は言いました。『誰かのために強くなることを、恥じる必要はない』と」
  子どもたちは目を輝かせた。すずは、そんな彼らに微笑む。
 「次は、あなたたちが主人公ね」
  紗織は〈外務卿〉として、帝国・連邦・辺境諸侯との外交を飛び回っていた。かつて“悪役令嬢”とささやかれた貴族令嬢は、今や〈理知と誇りを持つ交渉の名手〉として王国中の尊敬を集めている。
 「私はもう、誰かの付属ではない。私自身の言葉で、世界と話す」
  敵国の全権大使を前にしても微塵も怯まず、毅然と交渉するその姿に、多くの後進が希望を見た。
  裕哉は〈王国情報院外交部顧問〉となったが、同時に町の劇場で脚本も書き続けていた。密偵と劇作家――奇妙な二足の草鞋は、彼の本質そのものを映し出していた。
  表の舞台と裏の真実。彼は今もその狭間で、人と人をつなぐ物語を書き続けていた。
 「真実は語る者の数だけある。でもな、嘘の中にしか救われないこともあるんだ」
  小さな劇場で、民が泣き笑いする姿を見るとき、裕哉は密かに呟く。
 「これでいいんだよ、きっと」
  友子は〈国際魔導観測所〉の主任研究員として、再建された魔導塔に篭っていた。彼女が手掛けた次世代魔導炉は、辺境の街に安定した魔力供給を実現させている。
  相変わらず飽きっぽく、夜中に突然「別の原理に挑戦したい!」と飛び出すこともあるが、それでも職員たちは彼女を“博士”と呼び慕っていた。
 「今度は……空を飛ぶ家とか、作りたいな。空中で遊園地ができるくらいの」
  発想は突飛でも、その瞳は常に真剣だった。

 そして、勇。
  新王政の礎を築いた“行脚騎士”は、戴冠式を終え、真に王たる歩みを始めていた。
 「俺は“王になった”わけじゃない。“王になる”と決めたんだ」
  彼は従来の玉座に座ることを避け、議場に立ち、民の声を聞き、汗を流して改革案に目を通す。
  王都には王の姿を模した銅像ではなく、〈王と共に歩く民の像〉が建てられた。自らの姿を神格化するのではなく、対等に未来を語り合うために。
 「巧、すず、紗織、裕哉、友子――誰か一人が欠けても、ここまで来られなかった」
  その言葉に偽りはなかった。
  ある夜、彼は王城の塔から満天の星を眺め、手紙をしたためる。
 《各地に散った仲間たちへ。
  世界は今も、未完成だ。だからこそ、君たちとまた語り合いたい。
  近いうちに、再会の場を設けよう。お互いどんな顔になっているか、楽しみにしている。
  王国国王 勇》
  その手紙は、すずの文官ルートを通じて巧のもとへ届いた。
  巧は、手紙を開き、黙ってそれを見つめる。
  そして――小さく、笑った。
 「やれやれ……あいつらしいな」
  すずは朗読会の終わりに、観客の少年に聞かれた。
 「その物語の続きはあるの?」
  彼女は少しだけ、目を伏せた後、こう答えた。
 「ええ、きっとあるわ。でも、それはもう……あなたたちの物語になるの」
  その夜。かつての仲間たちは、遠く離れた地で、同じ星空を見上げていた。
  手には、それぞれ同じ文面の手紙。
  彼らの物語は、終わりではなかった。
  それぞれの道を歩きながらも、彼らの絆は、決して途切れない。
  ──そしてまた、どこかの街角で。
  ──きっと、再び交わるその日まで。
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