光あれー蒼大と真紀ー

乾為天女

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第四章:鍵穴の部屋

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 1. 闇の先
 蒼大が手を引くまま、真紀は狭い通路を駆け抜けた。足音だけが重く響き、後ろから何かが追ってくるような錯覚に襲われる。息が上がり、心臓の鼓動が耳にまで届く。
「ねえ、これ、どこまで続いてるの?」
「分かんねぇ! けど……出口はあるはずだろ!」
 蒼大の声も少し震えている。懐中電灯の光が頼りなく壁を照らすが、通路は終わりが見えないほど暗く続いている。
 ――カツ、カツ、カツ。
 後ろから一定のリズムで鳴り続ける足音。その音が、真紀の背筋を冷たく撫でる。
「……誰か、いるの?」
 返事はない。ただ、不気味な沈黙と自分たちの呼吸音だけが通路を支配していた。

 2. 鍵穴の扉
 突然、通路が開けた。蒼大が懐中電灯をぐるりと回すと、そこには古びた石造りの扉が現れた。中心にはあの「鍵穴」の模様がくっきりと刻まれている。
「これ……石板にあったやつと同じじゃない?」
 真紀が小さく呟く。扉の表面には無数の模様と古い文字が刻まれていたが、その中央の「鍵穴」だけが異様な存在感を放っていた。
「鍵……鍵を探さなきゃ」
 蒼大が扉に手をかけるが、当然のようにびくともしない。真紀はポケットに入れていたメモを取り出した。
「強弱を見極めよ」
「強弱……音に反応する扉?」
「音楽室の仕掛けと同じかもな。けど、ここにはピアノもない」
 真紀は懐中電灯をかざしながら扉の模様を注意深く観察した。すると、扉の脇に小さな彫刻が刻まれているのを見つけた。
「これ……音符?」
 よく見ると、音符と数字が彫られていた。
「C 1、E 2、G 3、F 1」
 蒼大もそれに気づき、目を細める。
「……音階だ。C=ド、E=ミ、G=ソ、F=ファ。だけど“1”とか“2”ってなんだ?」
 真紀は必死に考える。音の強弱に関係があるとすれば――。
「“1”は弱く、“2”は強くって意味かも」
「なるほど……やってみるか」
 蒼大は扉の下に並んだ、石でできた小さなボタンを見つけた。鍵盤のように並んでいるそのボタンを、順番に押し込んでいく。

 3. 音の扉
 蒼大がボタンを押すたびに、低い音が通路に響く。真紀は息をのんで見守る。
 ド(弱)――ミ(強)――ソ(強)――ファ(弱)
 最後の音が鳴り終わると、石造りの扉が静かに揺れた。低い振動音が足元から伝わり、ゆっくりと扉が開いていく。
「開いた……」
 真紀が呟いた。扉の向こうには、さらに広い空間が広がっていた。
「行こう」
 蒼大が先に足を踏み入れる。その瞬間、真紀は背後に冷たい気配を感じて振り向いた。
「……今の音、誰か聞いてたんじゃない?」
 しかしそこには誰もいない。ただ暗闇が沈黙しているだけだ。

 4. 隠された部屋
 二人が入った先は、広い円形の部屋だった。天井には崩れかけたアーチがあり、中央には石造りの台座がぽつんと置かれている。
「これ、何……?」
 真紀は恐る恐る台座に近づいた。台座の上には、古びた鍵が置かれていた。黄金に輝くその鍵は、なぜか不気味なほど美しく見えた。
「鍵……これが、鍵穴に合うやつ?」
 蒼大が呟く。真紀は鍵に手を伸ばそうとしたが――。
「待って!」
 声が反射し、空間に響いた。蒼大が真紀の腕を掴む。
「これ、罠かもしれない。だって、こんな分かりやすい場所に鍵があるわけねえだろ」
 蒼大の言葉に真紀は一瞬戸惑ったが、違和感を拭えないまま鍵を見つめた。
「でも、これは絶対に“あの扉”の鍵だよ」
「……だからこそ、慎重になれ」
 蒼大の言葉は冷静だった。彼の表情が普段とは違い、まるで何かを知っているかのようだった。
「……ねえ、蒼大、何か知ってるの?」
「――いいや、ただの勘だ」
 蒼大はそう言って、鍵を慎重に掴み取った。すると、部屋全体が一瞬震え、どこからか風が吹き抜けた。
「光あれ――」
 低い声が、部屋全体に響いた。
「今の、何……?」
 真紀の背中に冷たい汗が伝う。部屋の壁に彫られた模様が、まるで何かを目覚めさせるように光り始めた。
「やべえ……出るぞ!」
 蒼大が叫び、真紀の手を引いて部屋の外へと駆け出した。

 5. 背後に迫る影
 通路を駆け戻る途中、後ろから何かが追いかけてくる気配がした。振り返る勇気はなかったが、確かに気配はどんどん近づいてきている。
「早く!」
 蒼大が叫ぶ。真紀は息を切らしながらも、足を止めずに走り続けた。
 やっとの思いで音楽室の壁の向こうへと戻ると、通路の入口が鈍い音を立てて閉じ始めた。
「ドンッ――」
 完全に閉まると同時に、あの不気味な気配はピタリと消えた。
「……なんだったの、今の」
 真紀は息を切らし、震える声で呟いた。蒼大も壁に手をつき、荒い息を吐いている。
「分かんねえ。けど、これだけは確かだ」
 蒼大はポケットから鍵を取り出し、真紀に向けて言った。
「これが“何か”を開く鍵だ。……次で真相に近づくぞ」

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