光あれー蒼大と真紀ー

乾為天女

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第六章:影の囁きと光の暗号

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 1. 闇の中の逃走
「早く!」
 蒼大が真紀の手を引き、地下室の出口へと駆ける。後ろでは黒い影が音もなく迫り、壁を這うようにうねりながら形を変えていた。影の中には何かが――何者かが、こちらをじっと見ている。
「出口、閉まっちゃう!」
 真紀が叫んだ。さっきの重厚な扉がゆっくりと閉まりかけている。二人は息を切らしながら全力で走った。
 ゴゴゴゴ……
 扉が完全に閉じる寸前、蒼大が勢いよく真紀の体を押し込む。重い音を背に、二人はようやく外の通路へ飛び出した。
「はぁ、はぁ……閉じた?」
 真紀は振り返り、ようやく息を整える。扉は静かに閉じ、影の気配も次第に薄れていった。
「……なんだったの、あれ」
 真紀の声は震えていた。さっきまでの影は、まるで生き物のように彼女たちを追い詰めていた。
「分かんねぇ。でも、あのオルゴールが何かを起こしたんだ」
 蒼大はズボンのポケットから鍵を取り出した。黄金の鍵は、微かに温かみを帯びているように見える。
「祭壇にあった石板と、フェニックスの彫刻。あれが鍵だと思う」
 真紀は蒼大の言葉に頷いたが、頭の中では別のことが引っかかっていた。
「『光あれ』って……何を意味してるんだろう」

 2. 石板に残された暗号
 その夜、真紀と蒼大は再び図書館に戻ってきた。石板に刻まれていた「光あれ」という言葉を解読するため、学校に残された資料を徹底的に調べるつもりだった。
「これ、旧校舎の歴史資料か」
 蒼大が古い冊子を手に取ると、表紙には「黎明学院・創設期」と書かれている。
 真紀は隣の席に座り、祭壇の石板に刻まれていた文字をノートに書き写した。

 《光あれ――フェニックスの目覚めは鍵と強弱に従う》

「鍵と強弱……」
 真紀は小さく呟く。強弱の暗号は音楽室の仕掛けを開けた時にも関係していた。だとすれば――。
「もしかして、これ、音と関係ある?」
「音楽室で見つけた音階か?」
 蒼大が顔を上げ、真紀が書いたメモを指差す。
「強弱って、ド、ミ、ソ、ファの音のことだよね。でも、もうひとつ何か必要な気がする」
「待てよ。祭壇にあった石板に、フェニックスが描かれてただろ?」
 蒼大はノートに小さくフェニックスの形を描き、その周りに「光あれ」の言葉を並べた。
「これ、音階を“強弱”で組み合わせた上で、何かを示してるんじゃねぇか」

 3. 音と光の連鎖
「じゃあ、もう一回音楽室で試す?」
 真紀が恐る恐る言うと、蒼大が立ち上がった。
「今度は失敗しねぇようにする」
 夜の音楽室は相変わらず静まり返っていた。蒼大がピアノの前に座り、真紀は壁の古い楽譜をじっと見つめる。
「強弱で反応するんだよね。音階はさっきの“ド、ミ、ソ、ファ”だとしたら……」
 真紀はノートをめくり、整理し始めた。
 C(ド) → 弱
 E(ミ) → 強
 G(ソ) → 強
 F(ファ) → 弱
「順番に弾いて、強弱をつけるの。さっきの祭壇の光に反応するなら、何か起こるはず」
 蒼大は小さく頷き、指を鍵盤に乗せた。
「ド(弱)――ミ(強)――ソ(強)――ファ(弱)」
 音が静かに音楽室に広がる。すると、壁にかかった古い楽譜が再び揺れ始め、同時に天井に取り付けられた古びた照明がぼんやりと点灯した。
「光った……!」
 真紀が息をのんだ。
「待て、あれを見ろ!」
 蒼大が指差す先、壁に刻まれた模様が淡い光を帯びながら浮かび上がった。それはフェニックスの羽と、中央に大きな円の形――。
「……鍵穴?」
「また、鍵穴だ。次の仕掛けはここだ」

 4. もうひとつの鍵
 真紀が壁に手を触れると、模様の中心がゆっくりと回転し始めた。そして、壁の一部がスライドし、また新たな小さな扉が現れた。
「これが……次の扉?」
 蒼大が扉に手をかけようとしたが、真紀は彼を制止した。
「待って。あの石板には『強弱に従え』って書いてあったよね。これも何か、順序を間違えると危ないかも」
 蒼大は一瞬ため息をつきながらも頷いた。
「じゃあ、これも“音”で解くんだな」
 壁にある扉の隣には、再び古い音符が彫られていた。
「E(強) → C(弱) → G(強) → F(弱)」
 蒼大が小さく笑う。
「同じ音階だ。でも、順番は違う」
「やってみて」
 蒼大は再びピアノに向かい、強弱を意識しながら鍵盤を叩く。
「ミ(強)――ド(弱)――ソ(強)――ファ(弱)」
 音が鳴り終わると、扉が低い音を立ててゆっくりと開き始めた。

 5. 扉の先へ
 蒼大と真紀はゆっくりと扉の中へ足を踏み入れた。
 そこには――祭壇よりもさらに古びた、無数の石板が並べられた空間が広がっていた。中央には再び光を放つフェニックスの彫刻。
「これは……」
 真紀の目に、ある石板に彫られた文字が飛び込んだ。

「最後の鍵――崇拝と神託の先に光あれ」

「……まだ終わりじゃないんだ」
 真紀は呟いた。背後の扉が再び音を立て、ゆっくりと閉まり始める。
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