実話怪談・短編集◆えみため◆

茶房の幽霊店主

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◇電信柱Man◇

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※(店主とクラスメイトの体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)



【電信柱の向こう側】


小学校2年生の春、クラスに転校生が入ってきたときの話です。


教室に入ってきたのはよく日焼けした肌に、ぱっちりとした目を持ったF井君という男子生徒でした。

父親の仕事先が変わりこの町へ引っ越してきたので、いちから友達を作ろうと一生懸命だったのが印象に残っています。

しばらく何の接点もなく平穏な日々を過ごしていたのですが、突然、F井君は私が「親戚・はとこ」であると言い出したのです。

ざっくりと説明するなら、曽祖父母が同じで自分の親同士が「いとこ」の関係にある子供同士。

私の母の「いとこの子供」なのだそうですが、「はとこ」と言われてもまったくピンと来ず、「コイツ何言ってるんだ?」状態だったので母に確認しました。

『F井さんのところのHちゃんのご長男?まあ、関係的には私の「いとこ」だけど、F井家のHちゃんは連れ子だから血の繋がりはないのよ』

『……どういうこと?』

『大おばが結婚した相手は婿養子で連れ子がいたの。それがF井君のお母さん。簡単に言えば、血の繋がりのない「いとこ」「はとこ」関係ね』

これが当時、小学校2年生の私にはきちんと理解することができず、脳裏に鳥類のハトがちらつくだけで、血縁ではない親戚関係に困惑するばかりだったのです。

分からないなりに「今まで離れて接点のなかった遠い親戚?」そう解釈して、おおざっぱにF井君の存在を位置づけました。

私にとっては「だから何なんだ」という感じで済ませていたのです。


※※※※※


夏休みに入る前、梅雨も明け湿気が吹き飛ぶほどの暑さが増していました。

F井君はボーイスカウトに入っていて、社会奉仕活動、キャンプ、ハイキングなどにも参加、ボーイスカウト階級の進級を目指していたようです。

キャンプで肝試しをしたことなどを、クラスのみんなと話していたのですが、いつの間にか、下校時の帰り道に立っている「電信柱」について白熱した情報を取り交わしていました。

『あそこの電信柱には、顔半分だけでこちらを見ている幽霊が出る』

『ソイツは電信柱の後ろから顔を覗かせてニタニタ笑っている』

『電信柱に憑りついている事故死した霊だ』

という、都市伝説的な噂話の内容でした。クラスのオカルト好きな面々は、F井君と一緒になって「電信柱マン」と命名し、かなり盛り上がってテンションも高くなっています。

『おい!○○、今日の帰り道で「電信柱マン」がいるか確かめようぜ!』

F井君から急に変化球が飛んできました。

確かに、帰り道には噂の電信柱がありましたがまったく興味はなく、なぜ私を誘うのかわかりませんでした。友人たちと帰る方向が違うなら、ひとりで検証すればいいだけの話です。

私は顔をしかめながら『ひとりで行ったら?興味ないから』と、冷たく突き放したのですが……。

『そんなこと言うなよ!「はとこ」じゃないか!』

などと、食い下がってきたのです。それを聞いた数名の男子が、F井君と私を交互に見ながら次々質問しはじめました。

『え?おまえ、F井の「はとこ」なの?』『親同士が親戚?』

『顔とかあんまり似てないな』『「はとこ」ってなんだ?』

「余計なことを言うな!黙っとけ!」心の中で文句を言っていたのですが、「はとこ」という親戚関係が珍しかったのか、クラスメイトを巻き込んで、「本当に血縁関係なのかどうか」の疑問に変わりF井君へ詰め寄ります。

『顔は似てないけど、薄くは血は繋がってる!なあ、そうだよな?○○』

よせばいいのにF井君は「血縁」であることを主張し、「お~!親戚同士が同じクラスなのかぁ」と各自が納得しているので、思わず、

『違う。親戚関係ではあるらしいけど、血は繋がっていない』

そう言ってしまい、F井君は一瞬で表情を強張らせました。

『ばあちゃんが……。ばあちゃんがそう言ってた!○○のお母さんと俺のお母さんが「いとこ同士」で、その子供は「はとこ」だって!そうだよな?……確かに薄いけど、それでも血は繋がっているよな!?』

F井君の母親は「連れ子」ですので、血の繋がりはまったくありません。

しかし、F井君はうちの家系と繋がっていることが重要であると、そう、大おばや、自身の母親から聞かされていたのでしょう。

私の母方の家は代々、とある山をお守りしていましたが、時代が変わって地元に人が少なくなり、一度は神様を捨て廃神社にしてしまった家……。

「山のお守り」と聞けば、子供時代にはあこがれるような要素なのでしょうが、大人になって詳細を知れば、へんぴな奥山に関わるのを煙たがって離れていくのです。

※(母方の祖母が暮らしていた地は、明治のある時期、世襲制の廃止、神社や祠の取り壊しが一気に行われていました。これについての詳細は事情により省かせていただきます)

神から逃げ出した者が「お守り」と名乗るなど言語道断なのですが、くすぶり続ける因縁に対し、年の離れた従姉妹に当たる人が、お互いの出生を知らずに偶然、他の神社の神主の息子と婚姻を結び、何とかお祀りしていた神様を鎮めてその相手方の神社へ御霊を移した……。

耳にタコができるほど聞かされるのはもっと先の話なので、F井君とこうして押し問答している時点では「役目を放り出したお守りの家」という、非常に不名誉な状態なのです。

私の母は継ぐことを拒否して父へ嫁ぎましたし、触れられたくない「逆鱗」であるのは感じていたので、関わりを主張してくる者は本当に厄介でしかありません。

おまけに母方の親戚はそろってプライドが高く、他者を見下しているようなところがあるので、親戚同士でのトラブルはご法度。穏便おんびんかどを立てず納めるのが定石でした。

相手が美少女だったなら、合わせるのもやぶさかではないのですが……。
土のにおいがするク〇ガキですので、こちらのやる気もあまり出ません。

しかし、後から母にグチグチ文句を言われるのは想像できましたから、真実と異なる主張へ一時いっとき合わせることにしたのです。

『……うっすーい、うすっぺらい、ぺらぺらの血縁、かな』

『そうそう!薄くても血縁だ!』

青ざめて半泣きになっていたF井君は少し元気を取り戻し、疑い始めていたクラスメイトの白い目から逃れるのに成功しました。

この年齢で「空気を読まなければならない」のは酷く苦痛で、大麦の穂を胸の前で丸めてガサガサさせたような、そんな気持ち悪さを我慢しなければならず、無表情になってしまいます。

F井君はまったく気が付いていないのか、陽気な声で「帰り道で電信柱マンがいるか確認しよう!」と再度誘ってきたので、仕方なく「1回だけ」の約束をして放課後になりました。


※※※※※


学校の下駄箱の近くで待っていたF井君は、他愛ない話をしながら合流してきてそのまま校門を抜け、通学路に指定された道路を歩いています。

『F井君、私のお母さんの家と繋がってるとか、周りに言わんほうがええよ。F井君は中学なったら進学校行くんやし、そこからの友達のほうが大事やで。小学校の友達なんて一生覚えてることないんやし』

『そんなに俺と「はとこ」なのが嫌なのか?』

『そんなんちゃう。この先F井君が「あんなこと言うんじゃなかった」って、頭抱えて後悔するからや。クラスメイトや私とは、テキトーな付き合いで済ませとけばええ』

『○○!あれ何だ!?』

話の途中でF井君が大声を出して遮り、通学路の黄色い三角マークが貼られている電信柱のほうを指さしました。

電信柱の向こうはブロック塀で人が入れる隙間はないのですが、人の顔らしきものがこちらを覗いていました。

その顔は砂絵のようにざらついた灰色で、周りの風景から浮いているため「人間」には見えません。

もしかしたら、ポスターが剥がれてその裏側に汚れがついているとも思えたので、よく確かめようと前へ進もうとしたのですが、F井君は私の半袖シャツを引っ張って離そうとしませんでした。

『服引っ張るな!手ぇ放せや!』

『やめておけ○○!「電信柱マン」だ!』

『それを確かめるために来たんやろ!?怖がってたら何もわからんやん。アホちゃうか……』

目を細めてどうにか確認すると、それは髪の長い女性の顔のようで、肩や胴体、手足は見当たらず、本当に顔半分だけが電信柱から覗いていました。

『F井君。今、どんな風に見えてるん?ほんまに「電信柱マン」か?』

『…………』

『女の人やろ。普通の』

『……ふ、つう……』

「自称はとこ」のF井君は掴んでいたシャツを離して、その場から全速力で逃げ出しました。

ポカンとしながら駆け去る背中を見送り、今一度現場を見れば、女性の顔は少しだけ穏やかな表情に変わり、そのまま電信柱の後ろへ引っ込んでいきました。


彼の目には、いったい何が見えていたのでしょうか。


次の日から、F井君は「電信柱マン」の噂話を一切しなくなり、私のことを「はとこ」とも呼ばなくなりました。そして、学校の帰りに通る例の電信柱から、顔が覗いていたのはあの時限りだったのです。

F井君は小学校6年生まで他のクラスメイトたちともよく馴染み、中学は有名な進学校へ入学してから、二度と会う機会はありませんでした。
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