イデオロギーは悪なのか

ササキ・シゲロー

文字の大きさ
10 / 20

イデオロギーは悪なのか〈10〉

しおりを挟む
 イデオロギーにおいて人がそれぞれに思い描くのは、それぞれの存在の現実的な条件に対するそれぞれの関係なのだ、とアルチュセールは考える。
 そこでアルチュセールは、一つの考えうる疑問を呈示する。
「…なぜ、諸個人の存在諸条件や彼らの集団的および個人的生活を操る社会的諸条件に対する諸個人の(個人的)関係について、諸個人に与えられた表象は、必然的に想像的なのか…。」(※1)
 想像は現実の回り道だというわけではない。むしろ「近道を必要とする」からこそ、人間は「現実を想像する」のである。「やってから知る」よりも「知ってからやる」方が、何事につけてもそれをするためには近道となるはずだろうと思っているからこそ、人間はそれを「必要としている」のだということである。

 アルチュセールの言葉に話を戻すと、「諸個人の関係について、その諸個人に与えられた表象はなぜ必然的に想像的なのか?」というのは、これは単純に「想像することは、個人の意識においてでなければできないことだからだ」と言える。
 想像されたものを「表象する」のは、個人ではなくてもできる。イデオロギーとはまさしくそれである。しかし「想像する」のは、あるいは「想像することができる」のは、決まって「個人の意識」なのだ。
 また、その個々の存在の諸条件や、集団的および個人的生活を操る社会的諸条件に条件づけられて生きているのは、他でもない「個々の個人」なのである。たとえ「諸個人」としてひとまとめに表象されるのだとしても、実際に生きているのは「ひとりひとりの人」なのだ。
 だから、「想像する」のはそのような「ひとりひとりの人=個人の意識」に他ならないのであり、その個人の意識に与えられる表象すなわちイデオロギーは、「個人の意識が想像できるようなものとして表象されている」わけなのである。

 人が生きるということは、彼の生きる世界と、または社会と、あるいは他の人々と、さらにその他のさまざまな対象と「関係する」ということであり、そのように「対象と関係する」ということは、「その対象が対象化されていることによって関係しうる」という意味で「社会的に関係する」ということであり、それは、「現に関係している対象との関係」のみならず、つまり「現に関係のある対象との関係」のみならず、「関係のない対象」ともまた「関係がないという対象化」によって関係しうるということであり、そのような「関係のない対象と関係する」ということは、「ない」関係を「想像的に見出して関係する」ということであり、ゆえに、関係することにおいて見出されている関係とは必然的に「想像的な関係」なのだと言いうるわけである。
 そのような「必然的に想像的な関係」を想像して、その想像された関係を媒介にして、人は「現実的に関係する」のだと言える。人は、想像することによって、そしてまたその想像を手がかりに、現にある現実と関係し、その現にある現実を現実的に生きるわけである。
(つづく)

◎引用・参照
(※1)アルチュセール「イデオロギーと国家のイデオロギー装置」 柳内隆訳

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...