イデオロギーは悪なのか

ササキ・シゲロー

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イデオロギーは悪なのか〈9〉

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 アルチュセールは、「イデオロギーとは人間の存在諸条件や人間の現実の世界に対する想像である」という「解釈」について、一般に考えられるような次のような疑問を呈示する。
「…なぜ人間たちは、彼らの存在の現実的諸条件を《想像する》ために、こうした現実的諸条件の想像的倒置を《必要とする》のか…。」(※1)
 人が自らのその「存在の現実的な諸条件を想像する」ためには、そのような現実的な諸条件を現実に対して「先取る」必要がある。そしてその現実的な諸条件とは、個々の現実が互いに関連づけられて、あるいは体系化されているものである。
 もしかしたら人がただ単に、その個々の現実に関係するだけで済むのだったら、その現実を想像することも、それを先取ることも必要がないのかもしれない。ただ歩くだけのことだったら、ただ実際に足を一歩前に踏み出せばいいだけのことで済むのかもしれない。
 しかし、足元に石ころやガラスの破片などの危険な障害物はないか?とか、目の前を自動車がビュンビュン行き交ってはいないか?とか、暗がりで視界が悪いようなことはないか?などといった「現実的な諸条件を踏まえて歩く」のであれば、そういった「互いに関連づけられた現実の条件を体系的に見出す」ことができたうえで歩くことができるのでなければならないのではないか。
 例えを変えると、働いていくらかの賃金を稼いだとする。「働いて、お金を稼ぐ」ということだけだったら、これだけで話は済む。しかし、その賃金に対して物価や税金が異常に高かったら、とても生活していけない。だから賃金は、物価や税金などの「現実的な条件」に関連づけられて、それらに「条件づけられたもの」として考えられなければならない。
 現実の諸条件は、「個々の現実の条件」が互いに関連づけられて、かつそれが体系化されて見出されるものである。そしてイデオロギーは人間に、「現実を体系的に想像させる」または「現実を体系化して想像させる」ことに役立っているのである。だから人がその存在の現実的諸条件を想像するためには、現実を体系的に、また体系化して想像し、それを現実に先行させる、すなわち倒置することが必要になるのであれば、まさにその必要性と必然性を、イデオロギーが担っていると言えるわけである。

 また、人がイデオロギーにもとづいて現実の諸条件を想像するとき、おそらくはきまって「より望ましい現実」としてそれを想像するはずだろう。たとえば、現実の道がもし石ころだらけのボコボコで、幅も狭くて水はけも悪くて、とても歩きづらい危険なものだったとしたら、人はもっとキレイに舗装されて、幅もゆったりと広く、雨が降っても水たまりができなくて、それで滑って転ぶこともないような安全で快適な道を、「より望ましいもの」として、それが人が歩くということの「現実的な諸条件を満たすような現実」として想像するだろう。
 イデオロギーはそのような、人が歩くという現実においてより望ましい現実的諸条件を体系化して、人々の意識において想像できるものとして提供することができる。人はそれに「希望」を持ち、「期待」を抱き、そのより望ましい現実に対する「憧憬」に胸を焦がすことができる。その、より望ましい現実という想像は、「人間の現実の世界の反映」なのである。石ころだらけのボコボコの道という現実が、キレイに舗装された道という想像に「反映」されているわけである。それは、人が道の上を歩くという現実的な行為についての現実的な諸条件として見出されている現実なのであり想像なのである。それらは互いに関連づけられて見出されるのであり、けっして別々に存在するものではないのだ。
(つづく)

◎引用・参照
(※1)アルチュセール「イデオロギーと国家のイデオロギー装置」 柳内隆訳

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