その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第3章 学術都市

37話 旅の途中で

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「いやいや、カルロがいてくれて助かったね」
「金って結構減らないもんだったんだな」
「二人の金の使い方がおかしいだけだろ。どんな生活してたんだよ」
 カルロが呆れた顔でオレたちを見る。
 二つ目の宿場で、あれこれ買い物してるときだ。
「相手が言ってきた金額そのままで買い物してどうすんのさ、値切れるところはしっかり値切らなきゃ」
「値切る、なんて考えたこともないからね」
 なんだよその、信じられない、みたいな顔は。
「物の値段なんざ、見ることも気にすることもなかったからな」
「ネエちゃんは市長のとこにいたから金の心配なんて必要なかっただろうけど、オッサンはどこでどういう生活してたんだよ」
「どこで、てね」
「まあカルロから見たら、何もないようなとこの生まれではあるな」
 村に行商が来ることはあったが、大抵は物々交換だった気がするし、そもそもそう言う場には村の代表のやつが行ってたから、まだガキだったオレは離れて眺めてただけだ。
「どんな田舎なんだよ、そこ」
「第一オレは、胸のコイツのせいでクソみたいな生活させられてたんでな。買い物なんざ、一度もしたことがないんだ」
 カルロの顔が曇る。
「別に気にすることはねえよ、今は好きにやれてるんだからな」
「そうなれるように払った金の話をしたら、レオナルドにあれこれ言われたっけね」
「ケチの市長にあれこれって、ネエちゃんどれだけ払ったんだよ」
「確か相場の十倍、とか言ってたね」
 軽い笑いとともに離すレーテの言葉を聞いて、カルロが変な声を出した。
「そういやそんな話したこと会ったな」
「あのときはゴーヴァンがレオナルドを殴らないかと、肝が少しばかり冷えたね」
「いや、十倍はおかしい。ネエちゃん、金銭感覚って無いだろ」
「それだけオレが価値があるってことだろ」
「いや、それは一番無い」
「んだとこのガキ!」
 カルロはよく喋るやつだった。その内容はどうでもいい、他愛もない話しだ。どうでもいい話なんだが、話すってのは意外と気を楽にしてくれた。
 あの街で買い手になったやつを何人も殴り飛ばしたこと、魔獣相手に戦わされてたこと全部話した。いや、義兄さんを手に掛けたこと以外は、だ。コイツは人から話を聞き出すのが上手いんだろう。
 まだ話してないことがあるとしたら、レーテが人の血を飲むってことくらいだ。
「けどホント、どんだけ田舎なんだよオッサンの故郷って」
「その田舎って言葉がバカにされてるようなきがするのは、オレの気のせいか?」
「オッサンの考えすぎだろ」
「確か竜種の村だったかね」
 そういやレーテには、故郷の話をしたことがあったんだっけか。
「おう、青い鱗、勇敢な戦士の村だ。魔獣相手でも怯まず立ち向かう、そんな戦士たちが大勢いるぞ」
「魔獣って、あのサラマンダーだっけ、みたいなやつだよな」
「燃えるトカゲなんざ、オレも始めてみたけどな。空を飛ぶようなやつでもない限り、剣一本で戦えて一人前だからな」
「その感覚がすでに、何か違っている気がするのは気のせいかね」
 ガキの頃は義兄さんや、村の戦士たちの話す魔獣討伐の話が好きだった。自分もいつかそうなるんだと思ってたら、違う形で魔獣と戦うようになっていた。
「ゴーヴァンは胸の印を消したら、故郷に帰るのだったっけね」
「おう、そのつもり」
 胸の印を消したら、故郷には帰るつもりだ。だが一つ問題があった。
 帰り方がわからなかった。
 地図ってやつを売ってる店があったから、村の場所がわからないか店のやつに聞いてみたんだが、竜種だけの村の場所は聞いたことがないと言われた。
 それ以前に、オレと同じ色の鱗の竜種を見たことすら無いなんて言われる始末だ。
「でもおれも見たこと無いんだよな、オッサンと同じ色の竜種」
「そんな珍しいのか、青い鱗ってのは?」
「私も改めて思い出してみても、緑以外は黒を一度見たことがあるだけだからね。ゴーヴァンがそう思ってないだけで、世間では珍しいのかも知れないね」
 帰りたくても帰り方がわからない、か。
「まあそれも、これがあればどうにかなるかも知れないね」
 そう言って、腰に下げた小袋を叩く。
 そういや、レオナルドの野郎に紹介状とやらを書いてもらったんだっけか。
「人間としては問題はあるけど、色々と伝手は効くからね。さっき見た地図も、学術都市で作られた物が大本らしいから、行けば何かしらわかるかも知れないね」
「てかさ、オッサンのいた村って他の町や村に、出稼ぎに出るやつといなかったのかよ」
「聞いたことはないし、村にいたのは今のカルロくらいの頃だからな。覚えてなかったり、忘れちまってることもあるだろうな」
「でも商人が来てたってことはさ、他の町や村から人が来てたってことだよな」
「だから知ってる人間がどこかに居る筈さね。焦らないことだね。私としても、ゴーヴァンとは長く付き合っていきたいからね」
 オレはイヤなんだがな。
 けど、コイツらとこうして話をしているのは楽しい。腹が立つことも、呆れることもあるが、誰かと話をしてるってのは悪いもんじゃない。
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