その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第4章 青い竜の村

61話 青の氏族の村

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 今オレは村の長達の前にいる。


 日が一番高くなるより少し前、俺達は青の氏族の村へついた。
 ダネルは少し前まで村にいたから、村の番に名前を告げたら何のこともなく、あいつのオヤジさんが呼び出された。
 レーテとカルロは村につくより前に、ダネルからあれこれ街でないと買えない物を渡されてた。それを村にしばらく置いてもらうための土産だと言ったら、どこかへ連れて行かれた。
 一番面倒だったのは、オレだ。
 考えてみりゃそうだ。ずっと前に行方知らずになって、それがひょっこり帰ってきたんだ。そりゃ騒ぎにもなる。
 すぐに姉さんが呼ばれた。
 姉さんだけじゃない、村のヤツラも集まってくるのが見えた。
「ゴーヴァン? ゴーヴァンなの?」
 オレの記憶よりも少しだけ雰囲気は違っていたが、間違いなく姉さんだった。
「ああ、姉さん。オレだ、ゴーヴァンだ。いま……帰ってきたよ」
 姉さんに抱きしめられた。姉さんを抱きしめた。
 あの頃より、オレの方がずっと大きくなっているが間違いない、オレの姉さんだ。
 会えたんだ、姉さんに。帰ってこれたんだ、この村に。
 オレは生きて、ここに戻れたんだ
「ゴーヴァン、あの人は……ガーウェイは無事なの?」
 姉さんが瞳を輝かせ、オレを見上げる。
 すぐには答えられなかった。
 けど、オレはよっぽどひどい顔をしてたんだろう。姉さんの顔が曇っていくのが分かった。
「ゴメン、姉さん。義兄さんは死んだんだ。オレが、殺したんだ」
 周りの空気が変わるのが分かった。


 長の前の敷物に座り、両の拳を地につけて頭を低く下げ続ける。
 オレのすぐ横では同じように、姉さんが両手を地につけて頭を下げている。
 周りには長の他に、長の相談役や長老たち、戦士何人か椅子に座ってオレたち姉弟を囲んでいた。
 長が手に持った杖を一度突き鳴らし、オレと姉さんは頭を上げる。
「ロイドの子ゴーヴァン、八年前、お前とお前の義兄ガーウェイが何故いなくなったか、その間どうしていたのか、話せるか」
「ああ、話せる」


 そうか、もう八年も前になるのか。
 オレと義兄さんが狩りに出たときだ。
 森の雰囲気はいつもと変わらなかった。
 義兄さんが言うには、オレが矢で撃たれたらしい。
 その後はオレはすぐに倒れて、気を失ったからわからないが、気がついたときには身ぐるみ全部はがされて、義兄さんと二人、牢の中にいた。
 オレも義兄さんも胸に奴隷の印を入れられてた。
 最初に人買いに買われたのは義兄さんだった。けど、朝に買われて日が沈む前には傷だらけになって戻ってきた
「相手が気に入らなかったから殴ったらここに戻された。その後で手足を動けなくされて、殴られ続けてた」
 兄さんはそう言ってた。
「お前も相手が気に入らなければ殴ってでも、殴れないなら噛み付いてでも抵抗しろ」
 そう言われたから次の日オレが買われて、相手が気味の悪いやつだったから思い切り殴りつけてやった。そうしたら暗い部屋に連れて行かれて、殴られたりムチで打たれたり、火で焼かれたりした。
 そんなことを何度も繰り返すたびに、オレと義兄さんは魔獣と戦わされるようになった。
 牢の中で義兄さんから剣の使い方と戦い方を教えられた。
 狭い牢の中で出来ることなんて限られてたが、義兄さんは教えてくれることを一つでも多く教えてくれた。そのお陰で、今こうして生きていられてる。
 傷を負うこともあったが、オレも義兄さんも魔獣相手には負けなかった。
 次にやらされたのは同じ奴隷同士の殺し合いだ。
 これはオレも義兄さんも気分が悪くなった。戦士でもないヤツに武器を持たせて殺し合いをさせるんだ。
 それでも義兄さんは言ってくれた。
「いつか村に帰るまで、何があっても生き足掻け」
 義兄さんのその言葉に従った。
 気に入らないどこぞのバカに買われた時は殴りつけてやったし、魔獣も何体も狩り倒してきた。
 オレたちがどうやっても何をしても言うことを聞かないのが、気に入らなかったんだろうな。
 奴隷商の連中、オレと義兄さんを戦わせることにしやがった。
 戦わなければ二人とも殺すと言わんばかりに、周りを弓兵に囲ませてな。
 正直、オレはここで死ぬんだと思った。義兄さんは体に負った傷の数もオレより少なかった、オレよりもずっと強かったから。
 義兄さんと何度も切り結んで、いくつも傷を負った。腕のこの傷は、その時の傷だ。
 体中から血を流しながら、ああ、オレはここで死ぬんだって、そう感じてた。けど、魔獣に食われるより、奴隷として物として捨てられるより、義兄さんの手にかかるならそれでいいかと思ったんだ。
 義兄さんが何を思って戦ってたのかはわからない。
 オレは義兄さんに斬り伏せられて、終わりにするつもりだった。
 剣を構えて義兄さんに近づいた時、義兄さんは剣を捨てた。
 オレはそのまま、義兄さんの胸を突き刺してた。


「そうか、人攫いにあって義兄弟で戦わされたのか」
 長が目を閉じ、深く息を吐く。
 オレは口の中が熱いくらいに乾いていた。
 横を見ると、姉さんが声を殺しながら泣いていた。
「まだ幼かったお前は知らぬかもしれんが、我らの掟になぞらえれば身内殺しは死を持って贖いとする」
 背筋に一瞬、冷たいものが走る。
 ああ、でも、オレにはそれがいいのかも知れない。
「構わねえ。二度と踏めないと思った故郷の土を踏めたんだ、ここで死ねるなら悔いなんざねえさ」
「待ってください長! この子もガーウェイも望まずして戦わされました! ですからどうか、死罪は、死罪だけはお許しください!」
「いいんだ、姉さん。ずっと義兄さんを殺したこと、後悔してた。あの時死ぬのは、オレだったんじゃなかったのかって。
 義兄さんへの償いが、これで一つでも出来るんだ。オレは満足だ」
 オレの腕に姉さんが泣きながらすがりつく。
「オレは罰を受けるべきなんだ、姉さん。でも大丈夫だ、オレがいなくても義兄さんがいる。義兄さんはまだ生きてるから。
 ダネルのヤツに詳しいことは聞いてくれ、あいつが義兄さんに合わせてくれる」
 周りが少しだけ騒がしくなる。
 長が杖を二度突き鳴らすと一斉に静まった。
「ゴーヴァン、お前はガーウェイを殺したと言った。だが今、生きているとも言った。これはどういうことだ」
 長の目がオレを真っ直ぐに見てくる。
 レーテのおかしな目とは違って普通の目のはずなのに、どうしてこんなに体が固くなるんだ。
「すまねえ長、オレの頭じゃ上手く説明できねえ」
「なら、他にそれを知っているものはいるのか」
「ダネルのヤツなら、上手く話してくれると思う。」
「ダネルというのは確か、黒のファーガスの子か。すぐにここへ呼べ、話しを聞く」
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