その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第4章 青い竜の村

閑話−1 ダネル先生の魔術教室

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 夜、食事を済ませ焚き火の火を眺めている時だった。
「なあなあニイちゃん、聞きたいことあるんだけど、いいかな?」
「なんだいカルロ君?」
「魔術ってさ、誰でも使えるの?」
「どんな意味かにもよるけど誰でも使えるね」
 魔術についての話しか、ちょっと興味あるな。
「魔術の系統は現在は二種類あって詠唱式と筆記式に分かれるんだ。
 詠唱式は魔術言語を正しく発音することで何かしらの効果を得られる方法。
 筆記式は魔術言語を正しく書き記すことで何かしらの効果を得られる方法。
 いま一般的に使われているのは筆記式だね」
「ダネルが魔術を使う時に杖を振ってる方法が、その筆記式というのになるのかね」
「そうです。正しくは振っているのではなくて文字を書いています。
 筆記式は宝石を加工して作った魔晶石という石で魔術言語を書くことで使えます。
 僕のこのワンドの先端に尖った石がはめ込まれているでしょう。これが魔晶石です」
 ダネルがワンドを取り出し、オレたちに見せる。
「でもそれって、その杖がないと魔術が使えないんだろ。
 口で言った方がが楽なんじゃねえのか?」
「それがそうでもない。魔術言語の中には只人の口でないと発音できない言葉もあるんだ。
 魔術の起源の話になるが、魔術はもともと森人という今はいない種族が作り出したと言われている。
 その森人の口の形が只人に似ていたらしくてな。犬種や猫種、僕ら竜種の口では発音できない音なんだ」
 森人ねえ、聞いたこともねえや。
「聞いたことがあるね。外見は私のような只人なのだけど、耳の形が犬種や猫種のような先端が尖った形だったらしいね」
「そうらしいです。その森人から只人へと魔術が伝わったらしいです」
 なんからしい、らしいばっかりの話だな。
「何で森人っていなくなっちゃったの」
 ダネルが一度レーテを見て、何かを考え口を開く。
「遠い昔の話なんだけど只人の国があったんだ。その国は犬種の国や猫種の国、竜種の各氏族と戦争をしていてね。森人はその戦争に巻き込まれてみんな死んでしまったとも、遠い場所へ移り住んだとも伝わってるんだ」
「へえ、そんな話があるんだな」
「かなり古い話だからな。どちらの氏族にも伝わらないほど昔のことだったんだろう。
 その戦争は始めの頃は只人の国が優勢だったらしい。魔術が使えるのはその時は只人しかいなかったからな。火や水を自由に出来ると言うだけで十分有利だった。
 何より他種はその頃は魔術が使えなかったからな。只人の国が有利になるのは明らかだった」
 まあ確かに魔術士の相手が大変、というか面倒くさいのはダネルと闘ったからよく分かる。
 遠い昔のご先祖様も同じ思いをしてたんだろうな。
「ところがだ。魔術学院の創設者と言われる名の無い賢者が魔晶石を作り出したことで全てが変わった。
 魔晶石を使って魔術言語を書き記すことでどの種でも魔術が使えるんだ。
 戦況は一気に変わった。
 何せたった一つの国が二つの国と竜の氏族を相手に戦うんだ。結果は明らかだった。
 只人の国は滅んで犬種の国と猫種の国、竜の氏族が残った。その犬種の国と猫種の国も滅んで今に至るわけだが」
 なんだ、結局竜の氏族以外みんななくなっちまってんじゃねえか。
「しかし何だって戦争が起きたのだろうね。私が人だった頃は、種族入り混じって生活してたのにね」
「昔は種族優位主義とでも言えばいいんでしょうか。自分の種が最も優れていて他は劣っているという考えが普通だったみたいです。
 確かに犬種は体力があり特に鼻が優れています。猫種は大人になるころには自分の身の丈よりも高く跳ぶなんて簡単な話です。竜種の肉体はどの種族よりも強いです。それに比べればただ人の体はあまりに弱く感覚も鈍いです。種による身体能力の差は越えられない壁が存在しました。只人の国はそんな考えに反発した只人達によって作られたそうです。
 けれど魔術が伝わり発展していくことでその壁は超えられないものではなくなりました。
 今ではどの種族でもやれないこと等なくなりましたからね。今を生きてる僕らからしたらよく分からない考え方です」
 ん?
「いや、一番強いのは竜種だろ? 魔術でそこまで強さが変わるものなのか?」
「変わる。魔術士の力量にもよるがカルロくんが片手でお前を投げ飛ばせるようにすることだって出来る」
「すっげえ! ねえねえニイちゃん、おれそれやってみたい」
「ごめんカルロ君。僕の力量だとせいぜい力比べでゴーヴァンと同じくらいの力にするのが限界かな。ルクレツィア教授くらいになれば出来るだろうけどね」
 いや、それでも十分スゲエだろ。
 オレも魔術をなにか一つ使えるようになった方がいいのか?
「じゃあさ、おれでも勉強したら魔術って使えるようになるかな」
「ああ、なれるとも。学院に入学して勉強を続ければ誰でもなれるとも。ただ、ねえ」
 何だよ急に話しにくそうな雰囲気になって。
「筆記式魔術に必須のこのワンド、結構高価なんだ。僕の使ってるこれも魔術士組合で受けられる仕事を三ヶ月以上やって貯めたお金で買ったんだよ。それでも中古品なんだ」
「おやおや、その杖はそんなに高価なものだったのだね」
「高価どころか値段は上を見れば限りはありません。魔晶石の材料には宝石を使いますからね。宝石の質や希少性、大きさで値段は変わります。どういう訳か大きく希少な宝石ほど内蔵魔力から具現現象への変換能力が高いんですよ」
 ダネルのワンドに俺たちの視線があつまる。
 これがそんなに価値がある、ねえ。そんな物がないとやっていけないなんて、魔術士も大変っちゃ大変なんだな。
「じゃあさ、ニイちゃん。これとかも、結構高かったりすんの?」
 カルロが自分の荷物をあさり、一本のワンドを取り出す。
 そのワンドの先端にはダネルが持っているよりも大き石が光を受け、紅く強く輝いていた。
 ダネルのヤツ、目の色変えて見てやがる。
「カルロ君、それは、どこで?」
「ほら、ユリウスとかいうオッサンからおれがスっただろ。あの後そのまま持ってたんだよ」
「ユリウス元教授こんないいワンド使ってたのか。この先端の石、竜血石じゃないか。この大きさの石なら売れば働かなくても一年以上は食べていけるよ」
 金の計算が出来ないオレでも、それを聞いてギョッとなる。
 手にしているカルロも少し目の色を変えていた。
 何も変わっていないのはレーテくらいだ。
「ねえカルロ君。そのワンドだけど僕に預けてくれないかな」
「ニイちゃん、目が怖いぞ」
「だって竜血石で涙型の加工だ。この加工なら精密作業だってやりやすい。
 なにより買おうと思ったら宝石部分だけでも余程の金持ちじゃないと変えないくらいだ」
 ダネルのヤツ、完全に目の色変わってやがる。
 ダネルだじゃねえ、カルロもワンドを見る目が変わってる。
「でもこれ売れば、一気に大金に変わるんだろ。それだけ金がれば弟や妹たちにだって」
「売るなんてとんでもない! 魔道具の加工、魔術の使用、魔術の全てにおいて役に立つものなんだ。
 もしお金が必要なのなら僕が魔術士組合の仕事を受けて必要額は払うから。そのワンドは僕に譲ってくれないかい」
「やれやれ、二人共すっかり金に飲まれてるね。
 もし喧嘩するようなら、取り上げて川に投げ捨てるからね
 カルロ、そのワンドは私にお渡しね。元はユリウスのものだったのだから、ルクレツィアに会った時にどうするか決めればいいさね」
 レーテの言葉に二人は大人しくなった。
 カルロも半分、いや本気でイヤそうにレーテにワンドを渡す。
 金って人、変えちまうんだな。
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