その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第4章 青い竜の村

65話 酔い

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「かあぁあぁ! なんっだこりゃ!」
 腹の奥が火がついたみたいにカッカする。
「なんだゴーヴァン、お前酒飲んだことないのか」
「ねえな、これが初めてだ。酒ってのは冷たいのに熱い物だったんだな。変なもんだ」
 ハウエルが大声で笑う。
「それはお前が飲み慣れてないからだ。慣れればいい物だぞ」
 空になったオレの器に酒が注がれる。
「飲み慣れてないんだから、あまり飲まないでよ。倒れても知らないからね」
 姉さんが呆れた声でため息を吐く。
 あの後、長はオレとハウエル以外の戦士を集め、ダネルが話したんだろう人攫いの話をしていた。
 オレたち二人は少し休んでろってことで、オレは家に戻った。
 少ししてダネルが薬やら包帯やらを持ってきて、包帯を巻かれながら興奮したアズの相手をしていると、ハウエルが酒を持って来てくれたんで、いま一緒に酒を飲んでる。
「しかし本当に青は身内に対して優しいと言うか甘いと言うか。いつ見つかるかもわからない人攫い相手によくあそこまで熱くなれるな」
「お前たち黒が薄情なだけだ。仲間を攫った上、殺し合わせたような奴らをただにしておくか」
 ダネルに包帯を巻かれながらハウエルが吐き捨てる。
「大体あれだけ切り合って傷だらけなのに酒を飲むなんて考えられん。青は特別頑丈なのはわかっていたが本当に同じ竜種か」
「ウルセェ、あの程度じゃケガなんて言わねえんだ。ここまでしなくたって、血ぃなんざほっときゃ止まる」
「そうだゴーヴァン、言ってやれ。オレたちはそんなヤワな体じゃないってな」
 器の酒を一気に飲み干し、ハウエルと二人バカみたいな笑い声を出す。器が空になると、すぐにハウエルが次の酒を入れてくれた。
 なんか酒飲んでから気持ちが高まるっていうか、飛んでるっていうか変な感じだ。
「ほら、これでも食べなさい。何も食べずに飲んでたら、あっという間に酒気がまわるわよ」
 小魚を炙った料理を姉さんが出してくれる。
 一つをつまんで口に放り込む。魚の脂の甘味、腸の苦味が合わさって魚の大きさからは考えられない旨味が口に広がる。
 そこに酒を一口流し込む。なんだろうな、これ、美味い。
「オッサン、いる?」
 口の中の旨味に一人感動していると、家の戸の方からカルロの声が聞こえた。
 姉さんが戸を開けると、カルロとレーテが立っていた。
「ゴーヴァンの家はここだと聞いてきたのだけれど、間違いないみたいだね」
 姉さんに招き入れられ、二人が家に入ってくる。
「ぃよう、お前らよく来たな」
「酒臭いけど、まさかオッサン酒飲んでるの?」
 カルロが露骨にイヤそうな顔をする。
「何だよ。オレが酒のんじゃダメなのか?」
「ダメっていうか、酔っぱらい相手はイヤな思いしかしてないんだよ」
「安心しろ、小さな客人。ゴーヴァンは飲み慣れてないんだ、適当な所でオレが飲むのを止めるからな」
 大笑いするハウエルを全く信用していない目で見た後、カルロの視線がダネルに移る。
「ごめんカルロ君。僕はやることはやったから家に帰るよ。酔っぱらいの相手までしたくない」
「んだよ、おめえ付き合い悪いぞ。おめえもちょっとくらい飲んでったっていいだろうが」
「ああああ、これだから絡んでくる酔っぱらいは嫌いなんだ。離せ。腕を引っ張るな」
 イヤだね。誰が帰らせるもんか。
「ワザワザ黒を引き止めなくても、帰りたいんだったら帰らせればいいだろう」
「なぁに言ってんだよ。コイツな、チマチマしたことしかしてこねえけど、強えんだぞ。コイツ、オレ相手に引き分けたんだからな」
「何だよそれ、詳しく聞かせろ」
 ハウエルが身を乗り出して来る。
 よおし、じゃあ聞かせてやる。
 オレは街でダネルと闘ったときのこと、ユリウスと闘ってデカブツの相手をしたことを話した。
 ハウエルが目を光らせながら、ときどきダネルのことを見ている。
「じゃあ、アイツと闘って勝てばオレの方がお前より強いってことか」
「あぁ? オレのほうが先に勝つに決まってんだろ」
 二人でダネルを見て、何故か顔がニヤけてしまう。
「あーあ。ニイちゃんこれ、後で大変なんじゃねえの?」
「大変どころじゃないよ。下手したら次にこの村に来た時に村中の戦士の相手をする羽目になりかねない」
 なんかダネルが特大のため息を吐いてるが、なんなんだコイツ?
「あー、そうだレーテ。ちょっとこっち来てくれ」
 座ってオレたちを眺めていたレーテをそばに来させる。
「何だね、ゴーヴァン」
「ありがとな。オレが帰れたのはおめえのお陰だ。おめえに会えて本当に良かった。ありがとな」
 レーテに抱きつき、額と額をこすり合わせる。
「おやおや、これは相当酔ってるんのじゃないかね。ゴーヴァンが私にこんなに懐いてくれるなんてね。」
 レーテに頭を撫でられ、なんだか気分が良くなってくる。
「ごめんなさい、この子が突然変なことをしちゃって」
「別に何かされた訳でもないから、気にしないで構わないさね」
「レーテさん、この辺りに住む竜種が額と額をこすり合わせるのは親しい間柄での挨拶なんです。家族とか恋人同士とか。少なくとも友人関係ではしない挨拶なんです」
 レーテの笑い声が聞こえる。
「私のことを少なくとも、家族のようには思ってくれていたのだね。
 嬉しいね。私もゴーヴァンのことが好きだよ」
 レーテに抱きしめられる。
「バっカおめえ、オレはレーテもカルロも姉さんも義兄さんもアズもハウエルも、ダネルのことも、みんなみんな大好きなんだからな!」
 あーダメだ、本当になんか知らねえけど楽しくって楽しくって仕方ねえや。
「カルロ、おめえもこっち来い」
「いい、いいってオレは。ちょっ、オッサン止めろって」
 逃げようとするカルロを捕まえて額に額をこすり合わせる。コイツの毛、柔らかくて気持ちいいな。
 レーテをカルロを抱きしめ、なんだか嬉しくて楽しくて仕方なくて、笑い声だけがただただ口から出てくる。
「やっぱ酔っ払いってロクでもねえや」
 カルロがなにか言ってるが、まあ、どうでもいいか。
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