その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第4章 青い竜の村

68話 再会、そして借金へ

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 街につくと、オレたちはすぐにルクレツィアの所へ向かった。
「やあ、みんなよく戻ってきてくれたな。そちらの女性が彼の奥さんかな?」
「ガーウェイの妻シアラです。夫は、ガーウェイはどこに」
 ルクレツィアの部屋にオレと姉さん、アズ。それとダネルが入れられる。
 最後にあった時の机だけの部屋は村に行って戻る間見なかっただけなのに、本の壁ができていた。
「会いにいく前に、確認がある。
 君等が彼の家族、ということでいいかな」
 オレと姉さんは黙って頷く。
「なら聞かせてもらう。目覚めずに眠ったままの彼、ガーウェイと言ったか、彼を私に売って欲しい。
 もちろん治療は続ける。これは君達へ彼という検体を私へ売る代わりに、君達へ彼の治療費を渡す、ということだ」
 ルクレツィアがダネルを見る。
 ダネルはカバンから黒い板を取り出し、ワンドで板をこする。
「いま最高額を提示しているのは生命研究学ですね。これを見てください」
 ダネルから板を受け取ったルクレツィアの口元が引きつる。
「これだけの額、あそこが払えるのか? いや、私の提示額を釣り上げさせるつもりか?」
 なにか独り言を言ったあと舌打ちを一つすると、天井を仰ぐ。
「ダネル、その額に三割上乗せすると伝えてくれ」
 ルクレツィアに言われ、ダネルが板をワンドでこする。
「教授、他の教授方は降りるそうです。この件についての報告は明後日の報告会で正式にするようにと学長から」
「ああああああぁぁああぁぁ! これで実家との手切れ金もなくなった。どいつもこいつも私の個人資産まで潰しに来やがった!
 でもまあ、これで君達は私から当分、離れられなくなったな」
 オレたちを見て、ルクレツィアがいやらしい顔をする。
「テメェ、なにか企んでるんじゃねえだろうな」
「いやぁ、企んでいるだなんてそんな。安く使える労働力というのは、常に魅力があるというだけだ」
 オレたち働かせる気満々じゃねえか!
「言っておくが、これはガーウェイの治療費用を私が肩代わりしただけだ。君達は私に借金をするということだ。
 ダネル、彼らは銀行に口座なんて持ってないよな」
「ついこの間までどこに住んでいたと思ってるんです。口座どころかこの街に住むところもありませんよ」
「そうか。まあ金の話はここまででいいか。
 じゃあ、君達の家族に会いに行こうか」
 ルクレツィアが立ち上がりダネルがその後に続く。
「シアラさん、こちらです。ついて来てください」
 部屋から出るとレーテとカルロが待っていた。
「オメェらも来いよ。ここにいたって仕方ねえだろ」
「いいのかね、せっかくの家族全員での再開なのに」
「いいんだよ。何て言うか、その、不安なんだ。
 安心できるやつが一人でもそばにいて欲しいんだ」
「そんなふうに言ってくれるなんて嬉しいね。
 いいとも、家族の再開を邪魔しない程度にそばにいてあげるからね」


 天井も壁も床も白い建物に入って、奥へ奥へと進んでいく。
「ここだ」
 ルクレツィアが扉を開ける。
 扉の向こうには、義兄さんが変わらずにそこで眠っている。
 姉さんが駆け出していた。
 ベッドで横になっている義兄さんにすがりつく。
「ガーウェイ、ガーウェイ。私よシアラよ。アズ、こっちへ来て。ほら、お父さんよ」
 アズが姉さんのそばへ歩いていき、義兄さんの顔を覗き込む。
「おとうさん? おとうさんなの?」
 こうやって並ぶと、顔立ちも角も本当に義兄さんにそっくりだ。
「ねえ、おかあさん。どうしておとうさん、おきないの? まだ夜じゃないよ」
 姉さんは何も答えす、静かにアズを抱きしめる。
 肩を震わせ、姉さんは泣いていた。
「ごめん。姉さん、オレのせいで……ゴメン」
 オレは姉さんの肩に手を置き、ただ謝ることしか出来なかった。
 姉さんは首を横に振り、オレの頬を撫で背中に手を回す。オレもアズも姉さんに抱きしめられていた。
 オレも二人に手を回し抱きしめる。
 すぐそばでは義兄さんが静かに息をし、眠りについていた。
 ああ、家族みんな揃ったんだ。
 嬉しいのに、嬉しいのにどうして胸が苦しいんだろう。何でオレ、泣きそうになってるんだろう。
「さて、今後のことについて話をしたいんだがいいかな?」
 ルクレツィアの声で出かけていた涙が一気に引っ込んだ。
「今後の話、というのは?」
「彼の治療は行う。しかしだ、これで君達一家は私に対して莫大な借金を抱えたことになる。
 それをどう返すか、という話だ。あー、そうそう。具体的な金額は後で教えるが、普通に働いて返そうとしたら、キミら一家が死ぬまで働いても返せない額、とだけ思っておいてくれ」
「でも、ガーウェイを治してくれるんですよね」
「さっきも言ったが、治療は続ける。ただし、いつ目覚めるかはわからない、というのがここの連中の答えだ。
 明日には目覚めているかも知れないし、最悪は年老いて死ぬまで起きないかもれない」
 死ぬ、その言葉で胸を氷の剣で刺されたような感覚になる。
「で、キミら一家の借金の話だ。借金はキミら一家、君と、君と、その子が負うということでいいのかな?」
 オレは義兄さんのためなら、借金だろうがなんだろうが構わない。
 姉さんを見ると同じ気持ちなのだろう、首を縦に振る。
 そして二人でアズを見る。
「ふむ。その様子では、流石に子供に借金を背負わせるのは辛いか。
 まあ、私としても幼すぎると何もさせられないから、君ら二人で返済してくれるならそれでいいんだが」
「オレは別に構わねえ」
「私もやれることなら何でもやります」
 ルクレツィアがいやらしい顔をする。
 何なんだ、コイツのこの顔は。
「よぉしダネル、言質はとったな。この後、契約書作るぞ」
「教授、二人に何をさせるつもりなんです? 訳もわからないまま契約書を作られたってサインも何もしようがないでしょう」
 ルクレツィアが何かを考えているのか、部屋の中をウロウロと歩きだす。
「君達が私にする借金な、普通に働いたらどうやっても返せない額だが、返す方法がないわけじゃない。
 この街には特許という考えがあってな」
 大げさに両手を広げオレの方を見る。
「技術に対してそれを発見、開発したものに独占権が与えられて、他者がそれを使う際に使用料が入るんだ。
 最近で一番すごいのは冷蔵庫作ったやつだな。もう働く必要のないくらいこれで稼いでいる。
 でだ、いま一ついい物が出来そうでな。君にはこの開発を手伝って欲しい。
 頑丈な肉体、高い再生力! 鍛えられた竜種の手伝いが欲しいんだ、私は!」
「つまりは何だ、オレにルクレツィアの手伝いをしろってことか?」
「その通りだ。
 もし協力してくれるなら四割だ、特許料として私に入る収入の四割を君達の借金返済ということにしよう。
 悪い話じゃないと思うが?」
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