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第4章 青い竜の村
閑話−2 魔術学院の事情
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「なあニイちゃん、学校って誰でも行けるの?」
夜、焚き火を囲みながらカルロがダネルに話しかける。
「カルロ君は学校や魔術に興味があるのかい?」
「学校や魔術にっていうか、前にニイちゃん魔術士組合の仕事をやってた、みたいなこと言ってたろ。ルクレツィア教授から雑用の仕事に誘われてるけど、他にも仕事できればなと思ってさ」
オイオイ、コイツどれだけ働く気なんだ。
「うーん。そう言う動機でなら入学はあまりオススメできないかな。
魔術学院は結構厳しいんだ。年に二回の定期考査があるんだけど、そこで一定以上の成績を挙げられないと即退校処分だからね」
「退校処分? 何させられるんだ、そりゃ」
「学院から出ていけということだ。魔術士としての力を行使できないよう首に封印紋という印まで入れられてな。
あの街じゃ封印紋を入れられているというのは最大の恥だ。しかもお前やカルロくんが受けた印を消す施術。あれを街のどこに行ってもやってはくれない。死ぬまでそのままでいろという印だ」
ダネルが自分の首を指で叩きながらそう言う。
それって、一生恥抱えて生きろってことか。
「だから必死な連中は本当に必死だぞ。定期考査以外にも専攻している学科の単位を一定以上取得しないと退校処分だ」
「そんなにすぐに、簡単に辞めさせられたら文句を言う者も少なくないのじゃないかね」
「それがそう言う訳にも行かないんです。魔術学院は学費不要で制服も中古品とはいえ貸与されます。
その代わりに一定以上の能力を持った魔術士になれなければ、卒業どころか進級も出来ないんです」
「弱かったり臆病だったりすると戦士として認められないようなものか?」
「そう考えてくれて構わない。戦士と違うのは必要なのは知識と技術ということだ。
様々な街に様々な特産品や産業があるが、あの街の最大の産業は学問と技術、特産品は知識と技術を持った魔術士だ。
能力のある魔術士は生活の基盤を支える柱になる。他の街や国に売り出せる魔術士はどんどん売り込まれる」
「待てよ、それじゃあ魔術士ってのは奴隷と変わらねえじゃねえか。物扱いされて腹が立たねえのか」
ダネルは首を横に振る。
「待遇がぜんぜん違う。奴隷は物として消費されるが雇われた魔術士は高待遇で扱われる。使える能力や持つ知識、扱える技術次第では下手な市民の収入が足元に及ばない程の収入を得られるんだ。
そう言う身分になりたい奴もいるんだから必死になる理由もわかるだろう」
「ようは偉くなって金が欲しいってことか」
「その代わりみんながみんな、そう言う訳じゃないぞ。地方出身者の中には自分の故郷の生活を良くするために技術を学びに来ている者だっている。僕だってそうだ。
飲める水を腐らせず長期間保存する方法、火を簡単に自由に起こす方法。夜を明るく照らす方法。これがあるだけでも十分生活が変わる。
それに共通語の読み書きや計算は必須で覚えるからな。それを教えることだって出来る」
火を起こすのが大変なのは分かる。水だって井戸が必ず掘れる訳じゃないし、水場まで水を汲んで帰るのは楽じゃない。夜を明るく照らすってのはかがり火でも起こすってことでいいのか?
「実際に見せたほうが早いか」
そう言って、自分のカバンから自分の手と同じくらいの長さの筒を取り出した。
「この筒の中に魔晶石が入っている。魔晶石は魔術言語を刻み込むことで特定の魔術を誰でも使用できるようになっている。
これは蛍火の魔術を刻み込んだもので筒をひねると」
筒の片側をオレに向け筒をひねると、明るい光がオレを照らした。
「うおっ、まぶしっ! なんだそりゃ?!」
「蛍光筒という物だ。この筒には光を放つ蛍火の魔術を刻んだ魔晶石が入っている。こういう道具一つあるだけでも便利なのは分かるだろう」
「ねえねえ、おにいちゃん。ぼくもそれやってみたい」
アズがダネルの方に手を伸ばし、手に持った筒を触ろうとする。
ダネルは一瞬イヤそうな顔をしたが、オレと姉さんを見てアズに筒を渡す。
「壊さないでくれよ」
そう言ってアズに筒を渡すと、アズは嬉しそうに筒を光らせたり暗くしたりし、周りやオレたちを照らして遊びだした。
姉さんは申し訳無さそうな顔をしているが、まあ、壊さなきゃいいだろ。
「そう言えば私達が村への土産に持っていった物の中に、同じものが入っていたね」
「あれば便利そうなものを選んでまとめましたからね。村では手に入らないものは重宝されます。お二人が竜の氏族の村で歓迎されるにはそれなりの土産が必要でしたから」
「コラ、アズ。そんなにみんなの顔を照らさないの。眩しいでしょ。
ダネル君、ひょっとして村へのお土産で持ってきてくれたものって、高価なものだったりするの」
姉さんに捕まえられ、持っていた筒を取り上げられたアズは不満そうに頬をふくらませる。
取り上げた筒をダネルに返し、姉さんは少し不安そうな顔をダネルに向ける。
まさかコイツ、金よこせとか言わねえだろうな。
「品質の確かな工房の商品ですから値段はそれなりです。
けれどお金を取ろうとは思っていないので安心してください。
今回はあくまでレーテさんとカルロ君から村への土産です。支払いはルクレツィア教授に必要経費ということで全額払っていただきました」
ルクレツィアの財布から金出させてたのか。案外ちゃっかりしてんな、コイツ。
「何より僕個人として青に恩を売るようなことをしたくありませんから」
「ダネル、姉さん相手に余計な一言いってんじゃねえぞ」
ダネルの方を掴み、軽く睨みをきかせる。
「僕個人の信条をとやかく言われる筋合いはない」
「あぁ? オレは余計なこと言うんじゃねえって言ってんだ。黙ってりゃいいんだよ、黙ってりゃ」
「黙るのはお前の方だろ。喧嘩でも売りたいのか?」
「けんかするの?」
アズがオレたちの方をじっと見ている。
「喧嘩なんてしないさ、ね」
レーテのヤツ、随分楽しそうにオレたちの様子を見てやがる。
「まさかいい年下大人が、そんなことでケンカしないよな」
カルロはニヤニヤしながらこっちを見てるし、姉さんは、やべえ、あの顔怒ってるな。
「喧嘩なんてしないぞ、アズ。オレもダネルも仲悪くなんてないぞ」
「何だ急に肩なんて組んできて。気持ちわる……っいつ」
肩を掴む力をちょっと強めてやる。
声を低くしてダネルにつぶやく。
「ウルセエ、こっちに合わせろ」
「それなら僕の肩を離せ。痛いと声を上げてやっても構わないんだぞ」
みんなを見る。
いや、なんていうか変な笑いをする以外に、やれることがなかった。
夜、焚き火を囲みながらカルロがダネルに話しかける。
「カルロ君は学校や魔術に興味があるのかい?」
「学校や魔術にっていうか、前にニイちゃん魔術士組合の仕事をやってた、みたいなこと言ってたろ。ルクレツィア教授から雑用の仕事に誘われてるけど、他にも仕事できればなと思ってさ」
オイオイ、コイツどれだけ働く気なんだ。
「うーん。そう言う動機でなら入学はあまりオススメできないかな。
魔術学院は結構厳しいんだ。年に二回の定期考査があるんだけど、そこで一定以上の成績を挙げられないと即退校処分だからね」
「退校処分? 何させられるんだ、そりゃ」
「学院から出ていけということだ。魔術士としての力を行使できないよう首に封印紋という印まで入れられてな。
あの街じゃ封印紋を入れられているというのは最大の恥だ。しかもお前やカルロくんが受けた印を消す施術。あれを街のどこに行ってもやってはくれない。死ぬまでそのままでいろという印だ」
ダネルが自分の首を指で叩きながらそう言う。
それって、一生恥抱えて生きろってことか。
「だから必死な連中は本当に必死だぞ。定期考査以外にも専攻している学科の単位を一定以上取得しないと退校処分だ」
「そんなにすぐに、簡単に辞めさせられたら文句を言う者も少なくないのじゃないかね」
「それがそう言う訳にも行かないんです。魔術学院は学費不要で制服も中古品とはいえ貸与されます。
その代わりに一定以上の能力を持った魔術士になれなければ、卒業どころか進級も出来ないんです」
「弱かったり臆病だったりすると戦士として認められないようなものか?」
「そう考えてくれて構わない。戦士と違うのは必要なのは知識と技術ということだ。
様々な街に様々な特産品や産業があるが、あの街の最大の産業は学問と技術、特産品は知識と技術を持った魔術士だ。
能力のある魔術士は生活の基盤を支える柱になる。他の街や国に売り出せる魔術士はどんどん売り込まれる」
「待てよ、それじゃあ魔術士ってのは奴隷と変わらねえじゃねえか。物扱いされて腹が立たねえのか」
ダネルは首を横に振る。
「待遇がぜんぜん違う。奴隷は物として消費されるが雇われた魔術士は高待遇で扱われる。使える能力や持つ知識、扱える技術次第では下手な市民の収入が足元に及ばない程の収入を得られるんだ。
そう言う身分になりたい奴もいるんだから必死になる理由もわかるだろう」
「ようは偉くなって金が欲しいってことか」
「その代わりみんながみんな、そう言う訳じゃないぞ。地方出身者の中には自分の故郷の生活を良くするために技術を学びに来ている者だっている。僕だってそうだ。
飲める水を腐らせず長期間保存する方法、火を簡単に自由に起こす方法。夜を明るく照らす方法。これがあるだけでも十分生活が変わる。
それに共通語の読み書きや計算は必須で覚えるからな。それを教えることだって出来る」
火を起こすのが大変なのは分かる。水だって井戸が必ず掘れる訳じゃないし、水場まで水を汲んで帰るのは楽じゃない。夜を明るく照らすってのはかがり火でも起こすってことでいいのか?
「実際に見せたほうが早いか」
そう言って、自分のカバンから自分の手と同じくらいの長さの筒を取り出した。
「この筒の中に魔晶石が入っている。魔晶石は魔術言語を刻み込むことで特定の魔術を誰でも使用できるようになっている。
これは蛍火の魔術を刻み込んだもので筒をひねると」
筒の片側をオレに向け筒をひねると、明るい光がオレを照らした。
「うおっ、まぶしっ! なんだそりゃ?!」
「蛍光筒という物だ。この筒には光を放つ蛍火の魔術を刻んだ魔晶石が入っている。こういう道具一つあるだけでも便利なのは分かるだろう」
「ねえねえ、おにいちゃん。ぼくもそれやってみたい」
アズがダネルの方に手を伸ばし、手に持った筒を触ろうとする。
ダネルは一瞬イヤそうな顔をしたが、オレと姉さんを見てアズに筒を渡す。
「壊さないでくれよ」
そう言ってアズに筒を渡すと、アズは嬉しそうに筒を光らせたり暗くしたりし、周りやオレたちを照らして遊びだした。
姉さんは申し訳無さそうな顔をしているが、まあ、壊さなきゃいいだろ。
「そう言えば私達が村への土産に持っていった物の中に、同じものが入っていたね」
「あれば便利そうなものを選んでまとめましたからね。村では手に入らないものは重宝されます。お二人が竜の氏族の村で歓迎されるにはそれなりの土産が必要でしたから」
「コラ、アズ。そんなにみんなの顔を照らさないの。眩しいでしょ。
ダネル君、ひょっとして村へのお土産で持ってきてくれたものって、高価なものだったりするの」
姉さんに捕まえられ、持っていた筒を取り上げられたアズは不満そうに頬をふくらませる。
取り上げた筒をダネルに返し、姉さんは少し不安そうな顔をダネルに向ける。
まさかコイツ、金よこせとか言わねえだろうな。
「品質の確かな工房の商品ですから値段はそれなりです。
けれどお金を取ろうとは思っていないので安心してください。
今回はあくまでレーテさんとカルロ君から村への土産です。支払いはルクレツィア教授に必要経費ということで全額払っていただきました」
ルクレツィアの財布から金出させてたのか。案外ちゃっかりしてんな、コイツ。
「何より僕個人として青に恩を売るようなことをしたくありませんから」
「ダネル、姉さん相手に余計な一言いってんじゃねえぞ」
ダネルの方を掴み、軽く睨みをきかせる。
「僕個人の信条をとやかく言われる筋合いはない」
「あぁ? オレは余計なこと言うんじゃねえって言ってんだ。黙ってりゃいいんだよ、黙ってりゃ」
「黙るのはお前の方だろ。喧嘩でも売りたいのか?」
「けんかするの?」
アズがオレたちの方をじっと見ている。
「喧嘩なんてしないさ、ね」
レーテのヤツ、随分楽しそうにオレたちの様子を見てやがる。
「まさかいい年下大人が、そんなことでケンカしないよな」
カルロはニヤニヤしながらこっちを見てるし、姉さんは、やべえ、あの顔怒ってるな。
「喧嘩なんてしないぞ、アズ。オレもダネルも仲悪くなんてないぞ」
「何だ急に肩なんて組んできて。気持ちわる……っいつ」
肩を掴む力をちょっと強めてやる。
声を低くしてダネルにつぶやく。
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