その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第4章 青い竜の村

70話 ようこそ汚家へ

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「借金を背負うことになったとは言え、仕事も住む場所も一気に手に入ったんだ、なかなかに悪くないだろ」
 なんてルクレツィアは言っていたが、ルクレツィアの家についてなかなかに悪いだろう、と本人に言ってやりたくなった。
「まあ、言葉を失うのも無理はないな」
 今日、何回目かのダネルのため息を聞く。
 ゴミ屋敷って言葉の意味が最初は分からなかった。
 家がボロなのかなくらいに思ってた。
 違ってた。
「ゴーヴァンのお義兄さんがいる場所から近いのはいいけれど、この家で過ごせは無理じゃないかね」
 オレたちについて来たレーテが呆れたように言う。
 そりゃそうだ、家の中はゴミを詰め込んだような有様だった。
「ルクレツィア教授はこの家の一階部分しか使わないから、二階と三階は自由に使って言いそうだ」
 一階しか使わないって、すでにその一階が足の踏み場もないくらい散らかっていた。
 テーブルの上にはいつ使ったのかわからない汚れのついた皿が積み重なり、何かが入っていただろう瓶や脱ぎ捨てた服が床の上を埋め尽くしている。
 ここでどうやって生活してるんだ、アイツ?
「ニイちゃん、中入っていいんだよな?」
「ああ、好きに見て構わない。教授は自由に使っていいと言ったからな」
 カルロが落ちている物を踏みながら、家の奥に見える階段の方へ向かう。
 少しして、上の階からカルロの変な悲鳴が聞こえてきた。
「どうしたカルロ! 何かあったか!」
「何か変なもの踏んだ! 何だよこれ、上もゴミだらけじゃん!」
 うわ、見たくねえ。
「ダネル君、本当にここであの人、暮らしてるの?」
「恐ろしいことに本当にここで暮らしてます。一回は台所と階段脇のトイレがあるんですが教授はこの部屋の隅の、ほら毛布が何枚か被さっているソファの上で寝てます。
 二階と三階は入ったことがないのでよくわかりません。上に行ったカルロ君に聞いてください」
 え、ここでオレと姉さんとアズとカルロで暮らせっての?
 いや、これどう考えても寝る場所もねえだろ。
「ねえ、おかあさん。ここなに?」
 ゴミ溜めだ、なんてアズには言えねえな。ここで当分暮らすんだし。
「しかしこれは……上の階の惨状がどの程度かにもよるだろうけど、今夜寝る場所があるのかね?」
「正直、こんな場所で寝るのはイヤだな」
「……ましょ」
「姉さん、何か行ったか?」
「掃除しましょ! こんなところじゃ何も出来やしないわ!」
 姉さんはゴミの中に踏み出すと、部屋の隅のゴミをかき分け、自分が立てるくらいの場所を作る。
「ほら、あなた達も手伝って! ダネル君、お金は持ってる?」
「金ならオレが持ってるよ」
 階段からカルロが顔をのぞかせる。
「じゃあカルロ君、ダネル君と一緒に掃除に使える道具を買ってきて。
 ゴーヴァンは大きな物を家の外へ運んで。
 レーテさんは服だけをココに分けでちょうだい。
 アズはレーテさんのお手伝いをして。
 私はまずこの汚れた食器を片付けていくわ」
 テキパキと指示を出す姉さんに、オレたちはちょっと呆然としてしまう。
「ほらミンナ、ボケっとしてない。早く動いて!」
 全員キレイにハイと答えて、一斉に動き出す。
 カルロとダネルは家の外へ駆け出していき、姉さんが作った場所にレーテとアズが服を積んでいく。
「ねえ、ゴーヴァン。洗い場ってどこにあるのかしら」
「あー、多分皿で埋まってるそこだ。風呂屋でに頼みたことある。
 ほら、上の形が変わってる部分あるだろ、ココをひねると……ほら、水が出た」
 曲がった金属筒についた形の違う部分をひねると、水が出たり止まったりする。
 それを見ると姉さんは袖をまくり、汚れて積み重なった皿を洗い出す。
 オレは姉さんに言われたように、邪魔になりそうなよく分からないものを家の外へ出していく。
「姉さん、二階にあるベッドと衣装入れはどうする?」
「そう言う家財道具は置いておいてちょうだい。とにかく床の上の物を片付けていって」
 なんだか分けのわからん置物を両手に抱えて、オレが通るには狭く感じる階段を上へ下へと動き気続ける。
「シアラ、服はある程度ここに積んだけれど、次はどうしたらいいかね」
「そうしたら、汚れの酷い物とまだ着られそうな物でわけてちょうだい。
 着られそうかどうかはレーテさんの判断で構わないわ」
「それじゃあアズ、綺麗な服はこっちに、汚い服は向こうに分けようね」
「うん、わかった」
 レーテとアズは服の仕分けを始めている。
「なあ、上にも結構服あるぞ」
「はあ? まだあるっていうのかね!」
「そういうのも、どんどん持ってきてちょうだい。
 運び出せそうな物がなくなったら、着られない服を家の外に出して」
 姉さんに言われたとおり、床の上やらベッドの上やら衣装入れから飛び出した服をあつめ……うげぇ、何でこんな湿ってるんだ。
 抱えられるだけレーテたちの所へ持っていっては、他に持っていくものがないか、家中を探す。
「おーい、色々買ってきたよ」
「とりあえず使えそうなものを買ってきました。足りなければ買い足してきます」
 お、カルロとダネル帰ってきたのか。
「ゴーヴァン、上の階はどんな感じ?」
「下程ものはねえから、床は見えてきてる」
 さっきから片付けててようやく気付いたんだが、一階より二階の方が、
「ダネル君、木板の床って掃除の時はどうすればいいの?」
「モップとバケツと古布を買ってきましたから、これで磨いてください」
「その、モップていう毛の生えた棒って、どう使うの?」
「おれ掃除の仕事で使ったことあるからわかるよ」
 レーテとアズが分けた汚れた服を抱えて家の外へ運ぶ。
 うえぇ、人が来た臭いじゃねえぞこれ。
「じゃあカルロ君は、片付いた場所から床を磨いてちょうだい。
 ダネル君、いらないものやゴミってどこに埋めたらいいの?」
「そう言う物を回収する仕事の人がいますから今から呼びに行きます。
 捨てるのは家の前に山になっているものでいいですか?」
「ええ、それでお願い。
 後、お皿ってどこにしまったらいいか分かる?」
「食器棚は確かこのた……ぅぎゃああぁぁぁあああ! 虫が湧いてる!」
 何だよ、虫くらいで叫ぶ……
「っげえぇぇえっ! 何やったらそんな虫の巣が作れんだよ!」
「ああもう、虫くらいで叫ばないで。そこは私が掃除するから、ダネル君は早くゴミを回収してくれる人を呼びに行ってちょうだい」
「なあニイちゃん、バケツに水欲しいんだけど、井戸とかってどこにあるんだ?」
「あ、ああ、それなら家の裏に行けば水場があるからそこで入れるといいよ。汚れた水もそこで捨てればいい。
 出かけるついでに場所を教えるよ。こっちだ」
 カルロを連れてダネルが家から出ていく。
「なあ、姉さん。本当にこの家の掃除なんて出来るのか?」
「出来るのか? じゃなくてやるの。これから私達がお世話になるところなんだし、こんな所で生活するなんて体にだって良くないもの」
 姉さん、無茶言わないでくれよ。
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