その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第4章 青い竜の村

85話 義兄さんと家族

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 義兄さんが目を覚ました。
 その後は、あれやこれやと大騒ぎだった。
 誰かが義兄さんの状態を見に来たと思ったら、どこかへ連れられていっていろいろと調べられて。
 そんなことを何度も何度も繰り返して、オレたちが義兄さんとまともに会えたのは、夜も更けてきた頃だった。
「そうか、八年か」
 話しを終えて、最初に義兄さんが口にした言葉だった。
 オレと姉さんが今までのことを話した。
 オレが義兄さんがいなくなってからレーテに買われて、今まで行った街の話を、村に帰って、またここへ戻るまでの話をした。
 姉さんは義兄さんとオレがいなくなってから、アズが生まれて、その間どうやって過ごしてきたか、村で何があったかを話した。
「シアラ、今まで一人にしてすまなかった」
 義兄さんの手を握り、涙をこぼしながら首を振る姉さん。
「ゴーヴァン、お前一人に背負わせてしまってすまなかった」
 義兄さんのもう片方の手がオレの方へ伸びてくる。
 恐る恐る手を義兄さんの方へ伸ばす。
 義兄さんの手に触れる。
 強く握り返され思わず顔を見ると、義兄さんの笑顔があった。
 思わず目が熱くなってくる。
「ゴメン、義兄さん。オレのせいで、オレの……」
「あれはお前のせいじゃない、俺が自分で決めたことだ。
 お前を生かせることが俺の役目だと思ってやったことだ」
 義兄さんが笑いかけてくれた。
「無事に生きていてくれて、ありがとう」
 子供の頃のように泣きそうになる。
「ゴメン、ゴメン義兄さん。オレ……オレ」
 義兄さんの手を強く握りしめ、零れそうになる涙をこらえる。
 ありがとうという言葉で、こんなに泣きそうなくらい嬉しいのは初めてだ。
 義兄さんの視線がオレから別の場所へ移る。
「その子が……」
「ワタシ達の息子、アズよ」
 姉さんが涙を温いながらアズを呼ぶ。
 アズはと言うと、部屋の隅でカルロの後ろに隠れてこちらを見ていた。
「アズ、おいで」
「おとう、さん」
 アズが恐る恐るといった様子で近づいてくる。
 義兄さんのそばに来て、アズが迷った顔でオレや姉さんを見てきた。
 ああ、そうか。オレと姉さんが手を塞いじまってるのか。
 オレは慌てて、姉さんは袖で涙を拭いながら義兄さんの両手を離す。
 アズがすぐそばまで来ると、義兄さんは抱き上げようとするが上手く抱き上げられず、アズが自分でベッドの上に登る。
 義兄さんはしばらくの間アズの顔を見ると、額と額をこすり合わせ、アズの頭を撫でた。
「こういう時は、なんて言えばいいんだろうな」
 アズの頭を撫でながら、どこか照れくさそうに言う義兄さん。
「アズが一緒にしたいことを一緒にやれるよう、明日からがんばらないとな」
「あした、何かあるの?」
「色々と話しを聞かされたんだが、明日から体を動かす練習をしなくちゃいけないらしい。
 何せ、八年間寝てたようなものだからな。なまっている、なんてものじゃないだろうな」
 握った手を見る義兄さん。
「今も正直、あまり力が入らない。
 だからゴーヴァン、今より動けるようになったら手合わせして欲しい」
 子供の頃、義兄さんに剣を教えてもらった頃を思い出す。
 楽しかったし、嬉しかった。
 あの頃をやり直せるんだ。あの頃の続きに戻れるんだ。
「もちろんだ! いいに決まってるだろ!」
「待ってガーウェイ。あなた病み上がりのようなものなのに、大丈夫なの?」
「シアラ、俺は剣を振るうことしか能がないのは分かってるだろう。
 少しでも早く、感覚を取り戻したいんだ」
 義兄さんがオレを見る。
「何より、自分のそばにこんな強そうな戦士がいるんだ。戦ってみたいと思うものだろう」
 それ、オレのことだよな。
 義兄さんがオレのこと、強そうって……オレ、義兄さんにそう言ってもらえるくらい強くなれたんだ。
 嬉しさで顔が、胸が熱くなる。
 そんなオレを見ながら義兄さんは笑顔を向けてくれ、その視線が部屋の隅に居るカルロに向く。
「ところでシアラ、ゴーヴァン。その子はアズの友達なのか?」
 カルロを見て、義兄さんがオレと姉さんに聞いてきた。
「おれ? おれは……」
「ワタシ達の家族よ」
「オレの弟」
「な゛っ!?」
 変な声に反応して、思わずカルロを見てしまう。
「二人がそう言うなら、そうなんだろうな」
「そこはそう簡単に納得するなよ! 何でおれが家族って……」
「そりゃあ、何日も同じ家に住んで一緒に飯食ってんだ。もう家族なんじゃねえのか?」
「いやいや、そんな簡単に決めるもんじゃないだろ」
「でも三日共に過ごせば兄弟、十日共に過ごせば家族って言うし、そう言うものでしょ」
「それって青い竜の村の話だよな? ここ村じゃないんだぞ」
 なんか焦った感じであれこれ言ってるが、尾振ってるぞ、カルロ。
「それにおれ、弟や妹たちが」
「連れて来れる用になったら、一緒に暮らせばいいわ。
 大丈夫、部屋はまだ余ってるし、ワタシは弟妹が増えるのに困ることなんてないわ」
 カルロは両手で顔を隠すと、肩を震わせている。
「何で、そんな簡単に、家族とか言えるんだよ……わけわかんねえ」
 最後の方は消えそうなほど小さい声だった。
 姉さんはカルロに駆け寄ると、抱きしめ、背中を撫でてやる。
「そうか俺が眠ってる間に、家族が二人も増えてたのか。
 ならいつまでも、こんな所で眠っていられないな」
 笑う義兄さんに、カルロのことを話す。
 どこで出会ったて、その頃は何をしていたか。
 オレと一緒に村に行ったことも話した。
 義兄さんはいろいろとオレたちに聞いてきた。
 オレに、姉さんに、カルロに。義兄さんがいない間、いない場所であったことを聞いてきた。
 オレと姉さんは喜んで話したし、カルロはどこか照れたような感じで話した。
 義兄さんのいなかった間の話は中々終わることはなかったし、どれだけ話しても話し足りない。
 ただ、オレも姉さんもカルロも、ユリウスのことだけは口にはしなかった。
 ここで働いてる白服が、今日の面会は終了です、なんて言ってこなければ朝まで話していたかも知れない。
 一度義兄さんに別れを告げ、オレたち家族は家に帰ることにした。
 街の明かりは消え、点々とある街灯が照らす中を家族四人で家に向かって歩いた。
「ゴーヴァンおにいちゃん、だっこして」
「どうした急に? 」
 アズを持ち上げ、頭にしがみつけるよう肩に座らせる。
「ゴーヴァンおにいちゃんは、ぼくを抱っこしてくれるね」
 このくらいなら甘えるうちに入らないし、アズの重さじゃ重くも何ともねえしな。
「おかあさんも、おもくなったって言うけど、だっこしてくれるよ」
 そりゃ赤ん坊の頃よりは重くなっただろうな。
「でも、どうしておとうさんはだっこしてくれなかったの?」
「それはアズ、してくれなかったんじゃなくて、出来なかったんだ。
 アズの父さんはずっと寝てたから、体に上手く力が入らないんだ」
 義兄さんが悪いんじゃない。オレが悪いんだ、アズ。
 だからそんな不安そうに、オレの角をつかんだりしないでくれ。
「おとうさん、ぼくに剣の稽古してくれる?」
「ああ、してくれるさ。
 だから今は、父さんが元気になるのを待とうな」
 アズは何も言わず、オレの角にしがみついていた。
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