その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第4章 青い竜の村

87話 義兄さんと魔砲

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「ここまで当てられれば、次は魔獣相手に使って欲しいんだが」
 ルクレツィアがオレが魔砲を使うところを見に来て、話を始める。
「ユリウスの件があるからな。君をどこかに行かせて、その間に襲撃されたりでもしたら、な」
 オレを見て、何かを考える。
「新しい武器がある訳だが、仮に君一人でユリウスと戦ったら、勝てるか?」
 ユリウスと戦ったときのことを思い出す。
 剣で戦うなら近づく前に攻撃を何度も受けるが、魔砲を使えばどうだ?
 近づくよりも早く、一撃を食らわせてやれる。
 剣だけで、魔砲だけで戦うと考えなければいい。
 離れたら撃つ、近づけたら斬りつける。
「ユリウスのヤツが何か隠してなけりゃ、ダメでも相打ちにする」
「そうか、勝てるとは言わないんだな」
「そこまで意味もねえ自信はねえさ。
 死ぬか生きるかなら生きられる方法を何がなんでも考えるが、アズを助けられるかどうかなら、確実に助ける方法を選ぶ」
 アズの顔を見る。
 オレとルクレツィアの雰囲気で何か感じるのか、不安そうな顔でオレを見ていた。
「ゴーヴァンおにいちゃん?」
 ダメだな、オレ、アズを不安にさせるような顔してるのか。
「アズ、オレ怖い顔してたか?」
 何も言わず頷くアズ。
 そうか、そりゃダメだな。
「ゴメンなアズ、ルクレツィアと難しい話してたら、変な顔になっちまってたな。
 ダメだよな、ちゃんと笑ってないと」
 口の端を持ち上げて、変な笑い顔を無理やり作る。
 オレの顔がよっぽど面白かったのか、アズが笑い出す。
「アズ、人の顔見て笑うか?」
「だって、ゴーヴァンおにいちゃん、すごくヘンなかおだもん」
「なんだとぉ? アズだって変な顔にしてやろうか」
 笑うアズを捕まえて、体をくすぐってやる。
 オレとアズの笑い声が部屋の中に響く。
「元気なものだな。ユリウスの件があるとは思えないな」
「だからだろ。落ち込んでしょげてたって、なんにもならねえ。
 腹に力入れて、笑ってやるくれえじゃねえとな」
 アズに笑いかけると、アズもオレに笑い返す。
 オレがコイツを泣かせたり、不安にさせるようなことはしちゃダメだ。
 義兄さんが戻ってくるまで、ゴーヴァンお兄ちゃんとして、こいつのことを守ってやらなきゃいけないからな。
「教授、入るよ」
 ドアを開けてカルロが入ってくる。
「アズ、父さんと母さんが来てくれたぞ」
 カルロが開けたドアから、義兄さんと姉さんが入ってきた。
 義兄さんは杖をついて、姉さんに体を支えられて歩いている。
「カルロ、連れてきてくれたか」
「病人連れて来させて、何するつもりなんだよ」
「いや何、治療費についてカルロに話してもらってな。
 実際に自分の家族がどんな仕事をしてるのか、見てもらおうと思ったんだ。
 回復したら、ガーウェイ君にも手伝って貰おうかと思ってな」
「それでわざわざ、義兄さんと姉さん呼んだのか?」
「いや、私が呼んだのはガーウェイ君だけだぞ。シアラ君は呼んでないな」
「ガーウェイったら、まだ自由に動けないのに一人で行こうとするんだもの。心配で一緒に来たのよ」
「一人で歩けるって言ったんだけど、心配されてしまってな」
 義兄さんはそう言うが、足を悪くしたヤツより足取りが危なっかしい。
 姉さんがついて来たのもわかる気がする。
「ちょっと待て、義兄さんに金の話したのか!?」
「教授にしろって言われたんだよ」
 なに考えてやがるんだ、コイツは。
 金出してもらったのは確かだけど、自分で払っといて、そんなに金が欲しいのか ?
「人をそんな、金の亡者を見るような目で見ないでくれ。
 私は自由に出来る人手というものがないから、使える人手は一人でも多く欲しいんだ」
「だからって起きたばっかりの義兄さんまで使おうとするんじゃねえ」
「いいんだ、ゴーヴァン。
 お前やシアラに面倒を見てもらうばかりじゃ、俺が辛い。
 村に帰れるまで、やれることは何でもやらせてくれ」
 ルクレツィアのヤツ、なに得意げな顔で人のこと見てやがる。
 いくら金のことがあるからって、姉さん働かせてるだけじゃなくて、義兄さんまで自分の下で働かせる気か?
「今回は見物人が多いが、全員私の関係者のようなものだ。
 ゴーヴァン君、魔砲の使い方と威力を見せてあげてくれ」
 ルクレツィアに言われ、義兄さんに魔砲をどうやって撃つのかを説明する。
 オレが義兄さんに何かを教えるなんて、何だか妙な気分だ。
「じゃあ、実際に使うから見ててくれ」
 的は相変わらずの金属製の胸当て。
 魔砲を構え、的に向け一撃、撃つ。
 金属を強く叩く音と同時に、胸当てに指くらいの穴が開く。
「すごいな……ルクレツィア、威力はどの程度なんだ?」
「今の弾でなら、竜種の頭蓋でも撃ち抜ける威力はある、はずだ。
 実際どの程度かは、実戦で使ってもらわないことには何とも言えないな」
「誰でも使えるものなのか? 例えば、そう、子供でも使えるのか」
「撃つだけなら子供でも出来る。当たるかどうかは別だがな」
 義兄さんは姉さんに支えられながら的に近づき、魔砲の撃った跡に触れ、ため息を吐く。
「俺が眠っている間に、こんな武器を作る者がいるだなんてな。
 弓をまともに射れるようになるのにも、それ相応の鍛錬が必要なのに、その武器は指を曲げるだけでこの威力だ。
 その武器を当てられるやつが相手では、俺の剣では相手にもならないだろうな」
「そんなことないだろ。義兄さん相手に勝てるヤツなんて、そうそういるもんか」
 義兄さんは首を横に振る。
「以前のように動けても、その武器、魔砲と言ったか、魔砲を持った戦士が相手では近づく前に撃たれてお終いだろうな。
 その魔砲は、弓よりも確実に、効率的に敵を仕留められる」
 義兄さんの視線が、オレの持つ魔砲に向く。
「剣を握り、振り続けて短くはないと思っていたんだが、まさか新しい戦い方を考えることになるなんてな。
 今までの剣の鍛錬が無意味になったとは思わない、けれど、また何かを始めから学んで強くなれるかも知れないというのは……何と言うんだろうな、凄く楽しみだ」
 オレを見る義兄さんの顔は、本当に楽しそうだった。
「剣に関しては教える側だったが、今度はオレが教えてもらう側か。
 ゴーヴァンのことは、先生か師匠とでも呼ぶべきかな」
「や、止めてくれ義兄さん。
 なんかすっげえ、変な感じがする」
 オレが義兄さんの師匠とかねえな。
 うん、絶対にねえな!
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