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第4章 青い竜の村
89話 久しぶり
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義兄さんからアズとどう接したらいいかわからない、そう聞いた夜、どうしてか眠ることができなかった。
オレは物心ついた時には父さんも母さんもいなくて、姉さんと二人きりだった。
だから、父親と息子っていうのがどういうものなのか知らない。わからない。
アズには父親の代わりにはならないようにしていたつもりだが、本当にそうできていたかは自信がない。
「父親、か」
そんなことを考えていたら、いつの間にか窓から日の光が見える時間になっていた。
やべ、全然寝てねえ。
朝飯まで少しくらい寝とくかと思って目を閉じると、小さな足音が聞こえてきた。
何かと思って戸を開けると、アズの小さな背中が見えた。
「便所か?」
階段を下りていくのを見ながら、眠くなってきた頭に足音が妙に大きく響く。
足音は玄関の戸を開け、外へと出ていく。
「アズ?!」
なんで外に出ていくんだ?
どこ行くのか知らねえが、連れ戻さなきゃダメだろ。
慌ててアズの後を追って玄関の戸を開ける。
「オイ! ア、ズ……」
「あ、ゴーヴァンおにいちゃん」
「やあ、おはよう。久しぶりだね」
アズの隣に立っているヤツを見た瞬間、アズに駆け寄り、抱えて距離をとる。
「ゴーヴァンおにいちゃん?」
「ユリウス! テメェ、アズに何してやがる!」
殴りたくなる笑いを浮かべたユリウスからアズをかばうため、俺の後ろにアズを回す。
「いっしょに勉強をしていたのさ、ねえアズ」
「そう、だよ。おじちゃんに、魔術をおしえてもらってたの。どうしてそんな、こわいかおしてるの? ゴーヴァンおにいちゃん」
「テメェ、アズをどうするつもりだ」
ユリウスの口から大きな笑いが出る。
「まあ、こんな事やってればいずれ見つかるとは思っていたし、そろそろ頃合いかな……斬り伏せろ水刃」
ユリウスの前に浮かぶ、弓のような水の塊。
あの時みたいな狭い部屋の中じゃない、よけるのは余裕だ。
けどよければアズに当たる。
「クソっ!」
片腕を盾に半身で構え、ユリウスに突っ込む。
他に方法なんざ思いつかねえ、一撃は受けてでも、その後で殴れりゃ十分だ。
「ぐっ……く!」
腕を深く斬られた痛み、こっちは拳握れるかも怪しいな。
でもだ、もう片方は、無事だ!
テメェのその顔、殴り潰してやる!
「守れ硬盾」
突き出した拳に、岩でも殴りつけたような感触と痛みが走る。
「ああ、怖い怖い。そんな強く殴られたら、怪我じゃ済まないじゃないか」
見た目は薄ぼんやりした光なのに、大岩のような硬さだ。
「痛いのは嫌いなんだ。だから……お前に斬られたこと、忘れてないぞ」
ユリウスのワンドの先端が俺の胸に向く。
「穿け氷槍」
「お……ごっ!」
同胞の痛みに視線を下に向けると、オレの腹に氷の槍が突き刺さっていた。
ダメだ! こんな痛みでヒザなんか着くな!
「ああ、いい顔だ。腹を刺されてるんだ、辛いだろう?」
「なわけねえだろ。この程度、余裕だっ!」
もう一度拳を叩きつけるが、また壁を殴る痛みが拳に走る。
「そんな弱い壁は作らないよ。舞え風切鳥」
「っく……ぉお!」
体中を切り刻まれ、二、三歩後ろへ下がってしまう。
やべえな、最初に斬られた腕、使い物になるか?
「あは、はははははは! どう? どうだい、今の気持ちは!
本当はすぐに殺してアズを連れていきたいんだけど、こんなに楽しいと、すぐに終わらせられなくなるな」
視線を後ろに回す。
ダメだ、アズのヤツ怯えて逃げられそうにねえな。
「ハッ! こんなもん大したことねえな! 眠気覚ましに丁度いいくらいだ!」
「へえ、君は片腕が使い物にならない怪我を負って、腹を刺されていることを眠気覚ましっていうのか。
じゃあ、どのくらい痛めつけたら泣きながら命乞いをしてくれるのかな?」
「誰がテメェ相手にそんなマネするか!」
傷が深い方の手を強く握り、拳を作り力の限り殴りつける。
激痛が腕に走り、傷口から飛び散った血が宙に張り付く。
「これでも使い物にならないってか?」
「傷の深い手で殴るなんて、馬鹿? 腕、潰すつもり?」
「この程度で潰れる訳ねえだろ。腹のコイツだって、邪魔なだけだ!」
無事な方の手で拳を作り、力の限り腹に刺さった氷の槍を殴りつける。
氷が砕けると同時に、腹から走る痛みなんてもんじゃない衝撃に、何かを吐き出しそうな気分になる。
「はは、はっはっはっはっは! 何自分で傷ひどくしてるの? 口からも腹からも血をダラダラ流して、みっともない」
「このくらい傷のうちにも入らねえんだよ!
腕がダメなら足で! 足がダメなら貼ってでも噛みつく! それが青の氏族の戦士だ、覚えとけ!」
構えを取り、次の攻撃に備えると、尾の先に誰かが振れる感触があった。
「アズ?」
今にも泣き出しそうな顔のアズが、オレの尾の先を掴んでいた。
ああ、こんな傷だらけじゃ見てて不安にもなるよな。
「ダメ、ゴーヴァンおにいちゃん、しんじゃう。ヤダ」
アズ、そんな泣きそうな顔するんじゃねえ。
「おい、アズ。オレがあんなヤツに負けると思ってんのか? 見てろ、すぐに殴り飛ばして、二度とオメェの前に出てこれないようにしてやる!」
ユリウスの気分が悪くなる笑い声が響く。
その面、意地でも殴って歪めさせてやる!
オレは物心ついた時には父さんも母さんもいなくて、姉さんと二人きりだった。
だから、父親と息子っていうのがどういうものなのか知らない。わからない。
アズには父親の代わりにはならないようにしていたつもりだが、本当にそうできていたかは自信がない。
「父親、か」
そんなことを考えていたら、いつの間にか窓から日の光が見える時間になっていた。
やべ、全然寝てねえ。
朝飯まで少しくらい寝とくかと思って目を閉じると、小さな足音が聞こえてきた。
何かと思って戸を開けると、アズの小さな背中が見えた。
「便所か?」
階段を下りていくのを見ながら、眠くなってきた頭に足音が妙に大きく響く。
足音は玄関の戸を開け、外へと出ていく。
「アズ?!」
なんで外に出ていくんだ?
どこ行くのか知らねえが、連れ戻さなきゃダメだろ。
慌ててアズの後を追って玄関の戸を開ける。
「オイ! ア、ズ……」
「あ、ゴーヴァンおにいちゃん」
「やあ、おはよう。久しぶりだね」
アズの隣に立っているヤツを見た瞬間、アズに駆け寄り、抱えて距離をとる。
「ゴーヴァンおにいちゃん?」
「ユリウス! テメェ、アズに何してやがる!」
殴りたくなる笑いを浮かべたユリウスからアズをかばうため、俺の後ろにアズを回す。
「いっしょに勉強をしていたのさ、ねえアズ」
「そう、だよ。おじちゃんに、魔術をおしえてもらってたの。どうしてそんな、こわいかおしてるの? ゴーヴァンおにいちゃん」
「テメェ、アズをどうするつもりだ」
ユリウスの口から大きな笑いが出る。
「まあ、こんな事やってればいずれ見つかるとは思っていたし、そろそろ頃合いかな……斬り伏せろ水刃」
ユリウスの前に浮かぶ、弓のような水の塊。
あの時みたいな狭い部屋の中じゃない、よけるのは余裕だ。
けどよければアズに当たる。
「クソっ!」
片腕を盾に半身で構え、ユリウスに突っ込む。
他に方法なんざ思いつかねえ、一撃は受けてでも、その後で殴れりゃ十分だ。
「ぐっ……く!」
腕を深く斬られた痛み、こっちは拳握れるかも怪しいな。
でもだ、もう片方は、無事だ!
テメェのその顔、殴り潰してやる!
「守れ硬盾」
突き出した拳に、岩でも殴りつけたような感触と痛みが走る。
「ああ、怖い怖い。そんな強く殴られたら、怪我じゃ済まないじゃないか」
見た目は薄ぼんやりした光なのに、大岩のような硬さだ。
「痛いのは嫌いなんだ。だから……お前に斬られたこと、忘れてないぞ」
ユリウスのワンドの先端が俺の胸に向く。
「穿け氷槍」
「お……ごっ!」
同胞の痛みに視線を下に向けると、オレの腹に氷の槍が突き刺さっていた。
ダメだ! こんな痛みでヒザなんか着くな!
「ああ、いい顔だ。腹を刺されてるんだ、辛いだろう?」
「なわけねえだろ。この程度、余裕だっ!」
もう一度拳を叩きつけるが、また壁を殴る痛みが拳に走る。
「そんな弱い壁は作らないよ。舞え風切鳥」
「っく……ぉお!」
体中を切り刻まれ、二、三歩後ろへ下がってしまう。
やべえな、最初に斬られた腕、使い物になるか?
「あは、はははははは! どう? どうだい、今の気持ちは!
本当はすぐに殺してアズを連れていきたいんだけど、こんなに楽しいと、すぐに終わらせられなくなるな」
視線を後ろに回す。
ダメだ、アズのヤツ怯えて逃げられそうにねえな。
「ハッ! こんなもん大したことねえな! 眠気覚ましに丁度いいくらいだ!」
「へえ、君は片腕が使い物にならない怪我を負って、腹を刺されていることを眠気覚ましっていうのか。
じゃあ、どのくらい痛めつけたら泣きながら命乞いをしてくれるのかな?」
「誰がテメェ相手にそんなマネするか!」
傷が深い方の手を強く握り、拳を作り力の限り殴りつける。
激痛が腕に走り、傷口から飛び散った血が宙に張り付く。
「これでも使い物にならないってか?」
「傷の深い手で殴るなんて、馬鹿? 腕、潰すつもり?」
「この程度で潰れる訳ねえだろ。腹のコイツだって、邪魔なだけだ!」
無事な方の手で拳を作り、力の限り腹に刺さった氷の槍を殴りつける。
氷が砕けると同時に、腹から走る痛みなんてもんじゃない衝撃に、何かを吐き出しそうな気分になる。
「はは、はっはっはっはっは! 何自分で傷ひどくしてるの? 口からも腹からも血をダラダラ流して、みっともない」
「このくらい傷のうちにも入らねえんだよ!
腕がダメなら足で! 足がダメなら貼ってでも噛みつく! それが青の氏族の戦士だ、覚えとけ!」
構えを取り、次の攻撃に備えると、尾の先に誰かが振れる感触があった。
「アズ?」
今にも泣き出しそうな顔のアズが、オレの尾の先を掴んでいた。
ああ、こんな傷だらけじゃ見てて不安にもなるよな。
「ダメ、ゴーヴァンおにいちゃん、しんじゃう。ヤダ」
アズ、そんな泣きそうな顔するんじゃねえ。
「おい、アズ。オレがあんなヤツに負けると思ってんのか? 見てろ、すぐに殴り飛ばして、二度とオメェの前に出てこれないようにしてやる!」
ユリウスの気分が悪くなる笑い声が響く。
その面、意地でも殴って歪めさせてやる!
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