その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第4章 青い竜の村

95話 突撃

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 日がもうすぐ沈むだろう頃。
 街の外れにある屋敷の前に俺たちはいた。
「ここでいいんだな」
 義兄さんが鞘から剣を抜き去る。
 手に持っている剣とは別に、三本の短剣を腰から下げている。
「間違いないです。
 示せ真実! ……ここから屋敷の入口までに罠のようなものはありませんね。
 屋敷の中に自動人形と思わしきものが一つあります……自動人形にしては大きいな」
 ダネルがワンドを振り、周囲を見回す。
「前に戦ったデカブツだろ、ならさっさと行こうぜ。
 ここにアズがいるかもしれねえんだろ」
 肩に魔砲を担いで、オレも剣を抜き、目の前の屋敷を睨みつける。
 ここにいるのはオレ、義兄さん、ダネルの三人だ。
「ああ、ここか教授たちの行った方のどちらかだ」
「なら行こう。
 邪魔をするものがいるなら斬り伏せて、向こうへ行くだけだ」
 義兄さんが門を開け、屋敷へと歩いていく。
 オレとダネルも急いでその後を追う。
「大丈夫かあの人。
 息子を攫われて冷静さを欠いてないか」
「イヤ、義兄さんに限ってそりゃねえだろ。
 義兄さんが冷静さをなくしたら、本当に突っ込んでいくからな」
 俺たちを置いて、一人で走っていかないだけ義兄さんは冷静だ。
「こっちに来たことが不安になってきた」
 ダネルが何か言ってるが、無視して義兄さんのあとに続く。
「開けるぞ」
 義兄さんの手が扉にかかる。
 義兄さんがオレを、ダネルを見てそれぞれ頷き合う。
 扉が勢いよく開かれる。
 吹き抜けの大きな広間。
 広間の真ん中の天井にはオレの背丈くらいはありそうな、キラキラした飾りが支木と鎖でつる下がっていた。
 そのさらに奥、上の階に繋がっている階段の下に小さな体が転がっていた。
 アズだ。
 口を、両手と両足を縛られたアズが転がされていた。
「アズっ!」
 義兄さんがアズの元へ駆け寄ろうとした瞬間だった。
 天井から下がっていたキラキラしたヤツが動いた。
「義兄さん上っ!」
 オレが義兄さんを呼ぶのと、義兄さんがそれに気づいて後ろに飛んだのはほぼ同時だった。
 キラキラしたヤツは天井から自分を支えていた支木を、鎖を引きちぎって義兄さんがいた場所に落ちてきた。
 義兄さんとアズは!? ……よかった、義兄さんは無傷だ。アズもホコリをかぶっちゃいるが、怪我をした様子はない。
「やっぱり潰されてくれないか」
 声のした方を見ると、ユリウスが階段をゆっくりと下りてくるところだった。
「ユリウス! テメェ、よくもアズを!」
「ああ、結構元気そうだね。
 腹に風穴開けられて、この短期間で回復するんだから、竜種っていうのはやっぱり素晴らしい種だ」
 義兄さんが動いた。
 床の上で崩れているキラキラを回り込み、ユリウスに斬りかかる。
 オレもそれに続こうとした瞬間、キラキラが動きたし、光る槍のような物が飛び出してくる。
 視線を動かすと天井から落ちてきたキラキラしたヤツの形が変わっていき、デカい虫みたいな見た目に変わっていった。
「特別性の自動人形だ。もっとも、人の形をしていないから、人形とはいい難いけどね」
 全身をキラキラさせた虫モドキが腕を槍のように突き出してくるのをかわしながら、アズを目指す。
「舞え風切鳥」
 体の周りの空気が動く感触。
「歌え奏鳥!」
 体の周りの空気の動きが少しだが、変わったのがわかる。
 次の瞬間、鱗の表面を細かい傷がいくつも走っていた。
 そこを狙っていたかのように、虫モドキの足が突き出される。
 体を捻ってかわし斬り上げるが、虫モドキの硬さに剣が弾かれた。
「ほうら、どうしたんだい。そんなところでゆっくりしていると、バラバラに切り刻むよ。
 捕らえ刻め水爪」
 足元に水が湧き始める。
 これ、ヤベェやつだ!
 虫モドキの突きをかわし、剣でいなしながら、後方へ大きく飛ぶ。
 さっきまでオレがいた場所を、地面から湧き出た水の剣が斬り刻んでいた。
 周りに視線をやると、義兄さんがオレのすぐ横にまで下がってきていた。
「ほらほら、じっとしてるとただの的だよ。射抜け流星」
「守れ硬盾!」
 ダネルがオレたちの前に走り出て、光の壁で光弾を防ぐ。
「ゴーヴァン、無事か!」
「大丈夫だ、義兄さん。
 あの虫モドキが邪魔でユリウスに近づけやしねえ!
 ダネル、アイツはどこを壊せばいいんだ!」
 氷を乱暴に踏み砕く音が響いている。
「探す暇がない! ユリウスの攻撃を防ぐので精一ぱぎょっ!」
 ダネルの襟首を掴み、自分の方へ引き寄せて横に飛ぶ。
 さっきまでダネルの板場所に、虫モドキの足が突き刺さっていた。
 あぶねぇ、もう少しでダネルのヤツ串刺しだったな。
「おま、ごほっ、たすけるならっ、もう少しそっとだなっ、げっふ」
 ワガママなやつだな。
 ダネルを引っ張って立ち上がらせながら、視線を周りに走らせる。
 義兄さんは虫モドキの向こうへ行こうとしているが、虫モドキの槍みたいな足とユリウスの魔術で前に進めずにいた。
 でも今はユリウスも、虫モドキも義兄さんに集中してる。
「ダネル、今なら」
「わかってる。示せ真実! ……冗談だろ」
 耳障りなユリウスの声が響く。
「分かった所で壊しようがないだろう! そいつの核は内部に作った立体魔法陣だ。
 表面は高硬度の白虹晶石で覆われるんだ、切ろうが殴ろうが壊せるものか!」
 ユリウスの笑い声が大きくなる。
「僕が今まで失敗してたのは、まともな盾を用意できなかったからだ。
 身を護る盾さえあれば、近づけさえさせなければ何の問題もないんだよ!」
 ユリウスの手がアズの角を掴み、無理やり起き上がらせる。
「竜種の体は何度も使ってきたけど、この子、綺麗な顔立ちだよね」
 ユリウスの手がアズの顔に触れた。
 それだけのことなのに、言いようのない怒りと気持ちの悪さが湧いてくる。
 その手でアズに触るんじゃねえ!
「アズに、触るな!」
 義兄さんの、静かだが怒りに震えた声が響く。
 ユリウスに斬りかかろうとするが、虫モドキに邪魔される。
 オレも後に続くが、虫モドキより先に進むことが出来ない。
「まだ少年というのもいい。若い体は何にもまさる美しさだ」
 気持ちの悪い手付きでアズの顔を、体を触り続ける。
 声を出せず、逃げることも出来ないアズが体よじって逃げようとしている。
 こんなヤツにアズが殺されるだ? ……ふざけんな!
「アズに、触るんじゃねえ!」
 魔砲に手をかけていた。
 その頭、撃ち抜いて殺す!
「馬鹿! 止めろ!」
 ダネルがそう言うのと、オレが撃つのとは同時だった。
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