その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

文字の大きさ
98 / 103
第4章 青い竜の村

96話 煌めきの造物獣

しおりを挟む
 乾いた、弾ける音が響いた。
 魔砲の一撃は、ユリウスをかばうように立ち塞がった虫モドキに防がれていた。
「教授から殺すなと言われているだろう! 殺すつもりか!」
「ウルセェ! そんなもん関係あるか!
 ユリウスなんかよりアズの方が大事に決まってんだろうが!」
 アイツ、放っておいたらアズに何しやがるかわからねえだろうが!
「何それ? 僕、初めて見るんだけど」
 魔砲の先端をユリウスに向けたまま、虫モドキがじゃまにならない場所に移動する。
 もう一度、撃つ!
 素早く動いた虫モドキに当たり、破裂音だけが響く。
「ルクレツィアか! あいつ余計な物与えやがって!」
 ユリウスの、虫モドキの注意がオレに向かう。
 クソっ! 虫モドキが邪魔でユリウスを狙えねえ!
 ……いや、これでいい。
 魔砲を構え直し、ユリウスへ向ける。
 オレが魔法を撃って、虫モドキに当たるのと同時に、別の弾かれる音が聞こえた。
「しまった!」
 見えない壁に守れてたんだろう
「ガーウェイさん!? いつの間にあんな近くまで!」
 ダネルが驚いている間に、義兄さんは休むことなくユリウスへ斬りかかる。
 虫モドキのヤツ、義兄さんに気づきやがった。
「邪魔すんじゃねえ!」
「馬鹿! 無駄に撃つな!」
 虫モドキに続けて二回撃ち、義兄さんからこちらへ注意を引き付ける。
「剣で斬ろうにも斬れねえんだ、仕方ねえだろうが!」
「僕は無駄撃ちするなと言ってるんだ。
 狙える場所はある。そこを狙え!」
 虫モドキの攻撃を避けながら、ダネルの言うことに耳を傾ける。
 どういうことだ、そりゃ?
「針の穴に糸を通すようなことだが出来るか?」
「悪い、裁縫は姉さんのほうが得意だ」
 よし、虫モドキのヤツ、オレに攻撃を集中させてるな。
「そう言う意味じゃない。
 小さな隙間に魔砲の弾を撃ち込めるかと聞いてるんだ」
「小さな隙間ってのは、どのくらいだ?」
 コイツ、体が大きいせいか、そこまで動きは早くないな。
 一撃一撃は重そうだから、当たったらタダじゃすまないだろうが、避けられない速さじゃない。
「ユリウスはそいつの核は内部の立体魔法陣だと言った。
 表面の晶石と晶石の間に隙間のある場所がある。そこに弾を撃ち込んで内側にキズを入れろ!
 僅かでも傷つけば立体魔法陣は瓦解する! 凍てつけ氷原!」
 ダネルがその場にしゃがみこんだかと思ったら、虫モドキの足が氷の塊に包まれて床にくっつけられていた。
「スゲェ、何だコリャ」
「あいつの動きは僕が封じ込める。
 お前はあいつの動きが鈍っている間に壊せ!
 この魔術は魔力の消耗がとんでもないんだ。長くは持たない」
「まかせとけ!」
 隙間、キラキラとキラキラの隙間……あそこか!
 魔砲を構え、的からブレないよう体で固定する。
 隙間の向こう、支木に刻まれた模様。あれか。
 この距離、位置、狙える!
「早く撃て! 長くは持たないと言っただろう!」
 ああ、わかってる。
 的を定めて、一撃を撃つ。
 虫モドキが大きくよろめき、足元の氷が重さに耐えきれず割れて砕ける。
「これでいいのか」
 ……ダメだ、まだ動こうとしてやがる。
「壊しきれてない! もういちごがぐぁぁあああっ!」
 足元の氷が砕けて、何本か自由になった足のうちの一本が、ダネルの太腿を貫いていた。
「ダネル!」
「ぐっ……く、僕のことはいい! そいつを壊せ! 凍てつけ氷原!」
 足を床に縫い付けられたまま、ダネルが床に手を打ち付ける。
 虫モドキの自由になった足が、ダネルの太腿を貫いている足が氷に包まれていく。
 ああ、次は壊すまで打ち続けてやる
 もう一度、魔砲を構える。
「ぶっ壊れろ、この虫モドキっ!」
 キラキラとキラキラの隙間を狙って撃つ。
 何度撃ったかなんて数えていなかった。
 ただ撃ち続けて、めまいでもして来たみたいに頭がくらくらしても、撃ち続けた。
 今までと違う破裂音が響く。
 クソっ、外したか……いや、違う。
 虫モドキの体が床に沈むように倒れていく。
 体中のキラキラが体から剥がれて、雪のように落ちていった。
「壊し、たのか?」
 大きな音を立てて、虫モドキの体が完全に床に沈んで動かなくなった時、やっとコイツが壊れたと感じた。
 ダネルは無事か!?
 ダネルのいる方を見ると、虫モドキが倒れた時に足は抜けたんだろうが、開いた傷口から流れた血が水溜りのようになっていた。
「ダネル! 大丈夫か!」
「大丈夫な、訳が……あるか。今すぐ、悲鳴を上げ、て……転げ回りたい、くらい、だ」
 上着を脱いで、太腿のキズにあてる。
「そんなで血が止まるわけねえだろ。ちょっと貸してみろ」
 強く巻きすぎると血が止まって腐るけど、弱すぎると血が止まらない。
 義兄さんが昔教えてくれたとおりに、やってくれたとおりにダネルの足に上着を巻いていく。
「随分、慣れてるんだな」
「子供の頃、義兄さんが色々教えてくれたんだ。
 ほら、後はあんまり動くんじゃねえぞ」
 義兄さん。義兄さんとアズはどうなったんだ?
 ダネルを担ぎ上げて、アズのいる方を見る。
「ぃひぎゃあああああああぁっぁぁぁぁあぁあぁああ!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...