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第4章 青い竜の村

96話 煌めきの造物獣

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 乾いた、弾ける音が響いた。
 魔砲の一撃は、ユリウスをかばうように立ち塞がった虫モドキに防がれていた。
「教授から殺すなと言われているだろう! 殺すつもりか!」
「ウルセェ! そんなもん関係あるか!
 ユリウスなんかよりアズの方が大事に決まってんだろうが!」
 アイツ、放っておいたらアズに何しやがるかわからねえだろうが!
「何それ? 僕、初めて見るんだけど」
 魔砲の先端をユリウスに向けたまま、虫モドキがじゃまにならない場所に移動する。
 もう一度、撃つ!
 素早く動いた虫モドキに当たり、破裂音だけが響く。
「ルクレツィアか! あいつ余計な物与えやがって!」
 ユリウスの、虫モドキの注意がオレに向かう。
 クソっ! 虫モドキが邪魔でユリウスを狙えねえ!
 ……いや、これでいい。
 魔砲を構え直し、ユリウスへ向ける。
 オレが魔法を撃って、虫モドキに当たるのと同時に、別の弾かれる音が聞こえた。
「しまった!」
 見えない壁に守れてたんだろう
「ガーウェイさん!? いつの間にあんな近くまで!」
 ダネルが驚いている間に、義兄さんは休むことなくユリウスへ斬りかかる。
 虫モドキのヤツ、義兄さんに気づきやがった。
「邪魔すんじゃねえ!」
「馬鹿! 無駄に撃つな!」
 虫モドキに続けて二回撃ち、義兄さんからこちらへ注意を引き付ける。
「剣で斬ろうにも斬れねえんだ、仕方ねえだろうが!」
「僕は無駄撃ちするなと言ってるんだ。
 狙える場所はある。そこを狙え!」
 虫モドキの攻撃を避けながら、ダネルの言うことに耳を傾ける。
 どういうことだ、そりゃ?
「針の穴に糸を通すようなことだが出来るか?」
「悪い、裁縫は姉さんのほうが得意だ」
 よし、虫モドキのヤツ、オレに攻撃を集中させてるな。
「そう言う意味じゃない。
 小さな隙間に魔砲の弾を撃ち込めるかと聞いてるんだ」
「小さな隙間ってのは、どのくらいだ?」
 コイツ、体が大きいせいか、そこまで動きは早くないな。
 一撃一撃は重そうだから、当たったらタダじゃすまないだろうが、避けられない速さじゃない。
「ユリウスはそいつの核は内部の立体魔法陣だと言った。
 表面の晶石と晶石の間に隙間のある場所がある。そこに弾を撃ち込んで内側にキズを入れろ!
 僅かでも傷つけば立体魔法陣は瓦解する! 凍てつけ氷原!」
 ダネルがその場にしゃがみこんだかと思ったら、虫モドキの足が氷の塊に包まれて床にくっつけられていた。
「スゲェ、何だコリャ」
「あいつの動きは僕が封じ込める。
 お前はあいつの動きが鈍っている間に壊せ!
 この魔術は魔力の消耗がとんでもないんだ。長くは持たない」
「まかせとけ!」
 隙間、キラキラとキラキラの隙間……あそこか!
 魔砲を構え、的からブレないよう体で固定する。
 隙間の向こう、支木に刻まれた模様。あれか。
 この距離、位置、狙える!
「早く撃て! 長くは持たないと言っただろう!」
 ああ、わかってる。
 的を定めて、一撃を撃つ。
 虫モドキが大きくよろめき、足元の氷が重さに耐えきれず割れて砕ける。
「これでいいのか」
 ……ダメだ、まだ動こうとしてやがる。
「壊しきれてない! もういちごがぐぁぁあああっ!」
 足元の氷が砕けて、何本か自由になった足のうちの一本が、ダネルの太腿を貫いていた。
「ダネル!」
「ぐっ……く、僕のことはいい! そいつを壊せ! 凍てつけ氷原!」
 足を床に縫い付けられたまま、ダネルが床に手を打ち付ける。
 虫モドキの自由になった足が、ダネルの太腿を貫いている足が氷に包まれていく。
 ああ、次は壊すまで打ち続けてやる
 もう一度、魔砲を構える。
「ぶっ壊れろ、この虫モドキっ!」
 キラキラとキラキラの隙間を狙って撃つ。
 何度撃ったかなんて数えていなかった。
 ただ撃ち続けて、めまいでもして来たみたいに頭がくらくらしても、撃ち続けた。
 今までと違う破裂音が響く。
 クソっ、外したか……いや、違う。
 虫モドキの体が床に沈むように倒れていく。
 体中のキラキラが体から剥がれて、雪のように落ちていった。
「壊し、たのか?」
 大きな音を立てて、虫モドキの体が完全に床に沈んで動かなくなった時、やっとコイツが壊れたと感じた。
 ダネルは無事か!?
 ダネルのいる方を見ると、虫モドキが倒れた時に足は抜けたんだろうが、開いた傷口から流れた血が水溜りのようになっていた。
「ダネル! 大丈夫か!」
「大丈夫な、訳が……あるか。今すぐ、悲鳴を上げ、て……転げ回りたい、くらい、だ」
 上着を脱いで、太腿のキズにあてる。
「そんなで血が止まるわけねえだろ。ちょっと貸してみろ」
 強く巻きすぎると血が止まって腐るけど、弱すぎると血が止まらない。
 義兄さんが昔教えてくれたとおりに、やってくれたとおりにダネルの足に上着を巻いていく。
「随分、慣れてるんだな」
「子供の頃、義兄さんが色々教えてくれたんだ。
 ほら、後はあんまり動くんじゃねえぞ」
 義兄さん。義兄さんとアズはどうなったんだ?
 ダネルを担ぎ上げて、アズのいる方を見る。
「ぃひぎゃあああああああぁっぁぁぁぁあぁあぁああ!!」
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