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第21話 進捗と侵食

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第51階層での『亀もどき』討伐は、結局昼過ぎまでかかった。
魔力の調節に慣れた後半こそはまとめて倒す事が出来たが、前半は試行錯誤しながら戦っていたから、そこで時間を食ってしまった。

「……………現在は『レベル29』だな。及第点と言ったところか」
遅い昼食をとってる最中、俺の冒険者カードを見て、ロワが顔を顰める。
及第点とは言ったが、この結果に納得はしてないようだ。

「俺、結構頑張ったと思うけど、点数辛くないか?」
「自身で魔力を生み出せない以上、仕方ないだろう。甘くしてたらお前と私が死ぬぞ」
ロワの言う事はもっともだ。
俺達は『モザイク』のいた階層を目指す以上、ヤツらを倒さなきゃならない。
それには強さが必要なのは言うまでもないが———

ふと波音に視線を移すと、『亀もどき』を倒した後の海辺は平和そのもので、波も穏やかだ。
この海の中にも地上と少し異なる生態系が存在している。
ここが過去に俺が訪れたダンジョンの海と同じものかは分からないが、同様の生態系なら人間にも食べられる魚が泳いでいる筈だ。

「…………この海の魚、獲れるかな」

何気ない独り言に相棒の方が反応した。
「よし、雷魔法だな」
「おい、感電死させるな。普通に銛で突くんだよ」
「銛なんか持ってきていたのか?」
「ああ、組み立て式をな。ロワ、俺の荷物とってくれ」

彼の空間魔法で収納されていた大荷物の中から、銛を取り出す。
こんな事もあろうかと念の為用意しといて良かった。
ちゃっちゃと組み立てて、下着だけ残して着ていた服も脱ぎ捨てる。

「ロワはここで待ってろ。ちょっと行って来るから」
「おいっ!」

ロワが何か言っているが、気にせず俺は海に飛び込んだ。
水の冷たさに一瞬身体が竦むが、それもすぐに慣れて気にならなくなる。
目の前の光景に意識を持っていかれたからだ。

海の中は陸上とはまるで別世界が広がっている。
海藻がユラユラと水流に流され、海藻の森の合間を小さな魚達が泳いでいる。
地上の蟹よりも足の数の少ない甲殻類が海底を横断し、蛇のように細長い透明な生き物がその頭上をスルリと通り過ぎた。

うん。以前潜った事のあるダンジョンの海と同じだ。
だったら目当ての獲物がいるかもと心躍らせ、より深みへ入ろうとした時、俺の背後に気配を感じた。
振り向くと美形が台無しな感じでロワが溺れかけている。
なんでお前がここにいるんだよ!? 待ってろって言ったのに!!

俺が慌てて海面まで引き上げてやれば、ゲホゲホと海水を盛大に吐き出した。

「何でついて来るんだよ!? 陸上で待ってれば良かっただろう?」
背中をさすってやれば涙目で睨まれた。
「お、お前が、ゲホッ、勝手に1人で行くから、だっ!」
「『亀もどき』は倒したから危険は無いぞ?」
「………………そう、だが」

ダンジョンに棲まう生き物の頂点は魔物だ。
その階層にいる魔物さえ排除してしまえば、ほぼ危険は無い。
俺の方が正論だとロワも自覚しているのか、彼にしては言葉の歯切れが悪い。
相棒の不可解な行動の理由はどうあれ、何となく前から感じていた事が、今のでハッキリ確信に変わった。

「ロワ、泳げないんだろう?」
「……………………」

渋面で黙秘された。

「あのさ。泳げないのに、なんで海に飛び込んじゃうんだよ。ダンジョンでの死因が魔物によるものじゃなくて溺死なんて、笑い話にもならな」
「1人で潜って、ラントに何かあったら困るだろうが」
「え」

不貞腐れたように横を向くロワの顔に反省の色は無い。
泳げないのに海に入るとか、普通に考えれば自殺行為もいいとこだ。
でも要するにこれは———

「俺を心配してくれたのか?」

無言は消極的な肯定だ。
俺は泳げるし大丈夫だと言ったところで、泳げない彼からしたら不安だったのかもしれない。
俺が万が一ここで死んだら、ロワが大いに困る事も分かっている。
ごく当然の理由だと分かってはいるが———

俺の方を振り向いて、ロワが嫌そうな顔をして言った。
「何をニヤけているんだ」
「え、これが地顔だが。強いて言えば、あんたも可愛いとこあるんだなと思って。俺が心配だからって、服のまま慌てて海に入るなんてな」
「あぁ?」
今度は意図的にニヤニヤしてやったら、明らかに怒りを含んだ地を這うような低音で威嚇された。
沸点の低いヤツめ。
「じゃあ、ちょっと手伝ってくれ」
せっかくの好意だ。俺は有効に使わせて貰う事にした。


———いた!
俺の読みが当たった。

真っ白い巨大な魚影が、俺の潜んでいた海藻の森のすぐ横を通り過ぎる。
魔物ではないがダンジョンの海にしか棲息しない『白眼格子魚(シロメコウシウオ)』だ。
その名のとおりギョロリとした真っ白い目で、横っ腹に格子状の模様が入っている魚だ。
詳しい生態は知らないが体長は人の背丈程あり、味は地上の魚とはまた一味違って美味い。
煮ても焼いても美味いのだが、コイツの刺身は格別だ。

俺は気配を殺して狙いをつける。
殺意を向けられている事など知らぬげに、『白眼格子魚』は悠々と海中を泳いでいる。
魔物さえいなければ、コイツも海では食物連鎖の上位に位置するのかもしれない。
でも悪いな。お前には今日の俺達の晩餐になって貰う!

グッと柄を握る手に魔力を込め、思い切り『白眼格子魚』に向かって銛を投げた。
直後、水流の乱れに気付き身体を捻ったが、一瞬遅かった。
銛先がその頭部に真っ直ぐ突き刺さっていた。
俺は海面に上昇し、飛行魔法で上空にいたロワに合図を送る。

「ロワ、引き上げてくれ!」

波を割り、巨大魚が突き刺さった銛ごと姿を現す。浮力もあるので大した手間ではないが、陸上への運搬はロワの魔法の力を借りる事にしたのだ。
これで後は俺が泳いで海から上がれば———

「ん?」

ふわりと俺の意思とは関係無しに身体が持ち上がる。

「うわぁっ!? おいっ! ロワ!?」

こんな事が出来るのは相棒しかいない。
俺がジタバタ暴れるのもお構いなしで、『白眼格子魚』と共に砂浜まで運ばれた。
そして持ち上げられた時と同様に、そっと空中から降ろされる。
こういうところは丁寧なんだよな。

「まず血抜き処理だな」
「ああ」
もう慣れたもので、俺が指示しなくてもロワが下処理はやってくれる。
本当に食う事に関しては前のめりなくらい積極的で助かる。


そこで俺達は『白眼格子魚』の刺身をちょっと早めの夕食として、翌日の為に早々に就寝———

「という訳にはいかないよな………」
「当然だ。寝るのはやる事をすませてからだ」

日が落ちかかった砂浜で、俺はロワに押し倒されていた。
俺は海から上がってからも半裸のままだったが、彼が気を利かせて敷物を敷いてくれたので背中は痛くない。

「これは日課だと思って諦めろ」
「そうは言ってもなあ……まだ昨日の今日だし」
性欲以外の下心のある行為に、俺はまだ積極的にはなれそうにない。
「………あんなによがってたのに、痛かったか?」
「なっ!?」
たとえそれが客観的事実だったとしても、よがってたとか本人に言うな!
しかし抗議する前に太腿を持ち上げられ、下着を捲られた。
快楽に溺れている時は気にする余裕も無いが、理性が残っている今、秘部を覗き込まれるのは顔から火が出るほど恥ずかしい。

「み、見るなって!! わっ!? 指で広げるなぁっっ!!」

俺の臀部がロワの目の前にくるような格好に身体を折り畳まれ、下手な抵抗も出来ない。
「少し赤くなっているな」
「やっ、あっ………んぅっ!」
尻たぶを広げられ、くにくにと穴の縁を指で弄られる。
そのもどかしい感触に、凶暴な剛直で貫かれ性器と化した窄まりは、昨夜の記憶を思い出したかのように疼き始めた。
俺の気持ちとは裏腹に誘い込むように収縮を繰り返す穴に、注がれるロワの視線が熱を持つのが分かる。
背中に当たっている彼の男根が硬度を増す。
それで腹の底まで犯される感触を思い出し、ゾクゾクと鳥肌が立つ。

「…………っ、ちょっと待て」

しかし意外にもロワは強引に事を進めようとはせず自ら身を引き、空間魔法の収納場所から小さな小瓶を取り出した。
「……っ、それは?」
「私が作ったポーションだ」
「?」
何故今?———と言うか、そもそもロワ自身が回復魔法を使えるのだから、回復薬であるポーションは必要ないのでは?
相棒は正しく俺の疑問を汲み取ったようだ。
「万が一魔力切れが起こった時の為に用意してあったんだ。私自らが作った物だから当然、効力は抜群だ、が———」

言葉を切り、持っていた瓶の蓋を開ける。
瓶を傾けると、粘度のある液体がぬるりとロワの掌にこぼれ落ちた。

「副作用がある。体力回復の為に精力増強効果を付与したのだが、これが少し強過ぎてな」
「まさか、ロワ…………」
「ああ、そのまさかだ、ラント」
ぐちゅりと卑猥な音を立て、躊躇う事なくロワの指が窄まりに突き立てられた。

「やっ! あっ、あぅんっっ!?」

冷たさを感じたのは一瞬で、彼の骨張った指で中を掻き回されるたび、電流が走るような快感に襲われる。
「あっ! ぐっ、やっ、嫌だ……あっ、これっ! おかしく、なるっっ! ああぁっ!」
必至に身を捩って理不尽な快感から逃れようとしても、傍目からは無様に尻を振り、穴をひくつかせているだけの滑稽な姿に映っていることだろう。
事実、俺を指で蹂躙している男は唇を歪ませた。
彼自身はポーションを直接摂取していない筈なのに、今や俺の臀部に当たっているヤツの剛直ははち切れんばかりに成長している。

アレで俺の中をぐちゃぐちゃに掻き回されたら———

思考がドロリと欲に塗れる。
一旦想像してしまえば堕ちるのは簡単だった。
もう俺の身体はアレの良さを知ってしまっている。大きさも長さも太さも、形どころか味や匂いまでも。

「………っれ」

唇が、言葉を紡ぐのをやめてくれない。

「何だ?」
本当は俺の気持ちなど分かっているだろうに、ロワが問いかける。
初めての時のようにもっと強引に奪ってくれれば良いのに、今日はやたらと前戯に時間をかける。
ポーションを塗り込んで蜜壺のようにグチュグチュに潤んだそこは、もう指だけでは満足出来ない。

「……あっ、い、れてっ」
「何を、どこに」

コイツ——!
自分も息を荒くして欲情してるくせに、俺ばっかり辱めようとするな!
しかし俺もそれに抵抗するだけの理性は残っていなかった。
ただ欲しくて欲しくて、自然とそこに手を伸ばしていた。

「っ!?」

僅かにロワが怯んだ事に胸がすく。
わざと焦らすように。服の上からヤツの立派に育った陰茎を撫でさすってやる。
俺の顔にかかる息が一段と熱を帯びた。
乱れた前髪から覗く空色の瞳が凶暴な光を湛え、これから喰らおうとしている獲物を射た。

「このっ!」

彼の行動は早かった。
衣服の前をくつろげるとはち切れんばかりに怒張した肉棒を取り出し、抵抗する間を与えずズブリと一気に腹の中へ突き立てられた。
それは前回以上の、目も眩むような快感だった。
一突きで声も無く絶頂を迎え射精した俺に構わず、ロワは傍若無人に胎内を蹂躙する。

「あああっっ!! あっ、んうっ! はっ、あぅっっ!」

口を閉じる余裕は無い。
悲鳴のような俺の嬌声が、波音に紛れ薄暗い海辺に響く。
媚薬のせいか、ロワを待つ事なく快楽の高みへと再び押し上げられる。

「やぁっ! んっ、もっと、ゆっくり!」
「んっ、私を、煽った罰だ!」

グチュグチュと胎内を掻き回される音と、パンパンと肉体同士がぶつかる音が耳朶すら犯していく。
暴力じみた性交を、俺の身体は喜んで迎え入れていた。
手を押さえつけられ、口内を舌で蹂躙される。
俺もロワの身体に足を絡め、互いをこの快楽の淵から逃さぬように拘束し合った。
暮れゆくダンジョンの空に獣のような2人の吐息が溶け、長い享楽の夜が幕を上げた———
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