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第21話 レッツお出かけイベント1
「ええっ! B…じゃなかった、フィリア様、まだ王都内を出歩いてないと!?」
「それの何がいけないのかしら、クレアさん」
休日の朝である。
リトを挟んで川の字で、二度目の『パジャマパーティー』を決行した翌朝だ。
「私、腕力に自信はありませんが、毒物に精通しております」
と、リトがクレア——ササPを牽制してくれたお陰で、昨夜は安眠出来た。
メイドとはいえ、初めて女性と同衾ということで(ササPは除く)ちょっとドキドキしたが、リトがジト目でガン見してくるので、邪な気持ちは一切消えた。
ウチのメイドさんは本当に有能だ。
「だって、ゲームでは…じゃなくって、普通はしない? 街の探索というか、お出かけ!」
「そう言われましても」
クレアに信じられないものを見るような顔をされる。
実際休日であっても課題をやったり、そこそこ忙しかったんだ。
そもそもメイドのリトがいるから、外出しなくても生活が成り立ってしまう。
「いいんですか!? リトさん! 年頃のお嬢様がこんな引きこもりで!!」
今度はリトに矛先を変えたようだ。
「護衛の問題があります。メンブルム領から騎士団の精鋭を数名、他の御令息御令嬢と同じように学園の詰所に待機させてはいますが、むざむざ危険な場所にお嬢様を行かせるわけには参りません」
有能ジト目メイドは揺るがない。
——実際、御令嬢の外出って、いちいち面倒なんだよな。
学園内の敷地内なら、一人である程度自由に歩き回ることが出来る。
しかし一歩外へ出るとメイドのリトはもちろん、馬車や御者、護衛が数名という具合に、それなりの人数と手間暇が掛かるのだ。
「———ふーん、リトさんは見たくないんですか? フィリア様が街の屋台で、お行儀悪く串焼きに齧り付いて、汁でベタベタに汚れている様を———」
「!」
「何故それでリトが釣れると思うんですの、クレアさん」
「……っく! 滅茶苦茶見てみたいです……!」
マジか。
ニヤリと笑い、クレアが畳み掛ける。
「あー、街では今、下着が見えるか見えないかくらいの丈の、部屋着が流行っているそうですよ? フィリア様に似合いそうですよねえ」
「買いに行きましょう。あと、串焼きは絶対私の目の前で食べて下さい、フィリア様」
「即決!?」
ジト目メイドの鼻息が荒い。
そうと決まれば彼女の行動は早い。
馬車と御者、護衛の手配をテキパキと済ませ、10分後には俺たちは車上の人になっていた。
———王都『アウルム』は、大まかに商業地域、工業地域、田園地域と別れている。
もちろん俺の生前の世界ほど厳密な制限はない。それぞれの都合上、そう固まっているだけだ。
そして商業地域=街は、王都だけあって華やかで、活気に満ち溢れていた。
「安いよ、安いよー! 今日メンブルムから届いたばかりの野菜だよー!」
「お花はいりませんか? 今ならもう一束、オマケしちゃいます❤︎」
「焼きたてだよー。肉汁滴る当店自慢の串焼き、食べてってくれよ」
「そこの素敵なお嬢さんたち、果実酒は如何かな?」
「髪留め、首飾り、足輪、今日だけ半額だよ! 見てってよー!」
クレアとリトと馬車から降りて一歩踏み出しただけで、そこらじゅうから客引きの声が掛かる。
馬車で通り過ぎるだけでは分からなかった、屋台の匂いや人熱がムッと押し寄せて来た。
「凄い……活気がありますわね」
「王都だからね。たまにはこういうの悪くないでしょ?」
「クレアさん……ササPさんは転生後よくこういうところに来ますの?」
俺はリトに聞こえないように、ちょっと声を顰めた。
「よくって程ではないけど、平民だからね。私が転生したクレアの実家は、王都の隣の小さな町だから」
「里帰りはしなくてよろしいんですの?」
そういえば、ササPの口からクレアの実家についての話を聞いたことがない。
「うーん。なんて言うのかな」
ササPは困ったような顔をした。
「B君の話を聞いてると、フィリアの過去の記憶がちゃんとあるみたいだけど、クレアの場合、ちょっと違うんだよね」
「と言いますと?」
「うん、記憶というより知識としてあるっていうか……確かにクレアの実家に帰れば両親揃っているんだけど、舞台装置としてそこにいるっていうか……まあ、ピンと来ないんだよね」
「ゲームの主人公とサブキャラの違いでしょうか」
「私も最初それかなって思って、ここが私たちが作った『ソラトキ』の世界そのままだと信じてたんだよ。でもそれだと違和感が」
「フィリア様、クレア様。一軒目はここに入りましょう」
俺たちの会話に割って入って、リトが断定的に主張した。
「これは……」
「そうそう、私の言ったの、こういう服のことだよ❤︎」
店の軒先にカラフルな女性物の洋服がずらりと並ぶ。
どれもこれもリボンやフリルがふんだんに付いて、可愛いの洪水だ。
いや、可愛いのはいい。
見るのもフィリアに着せるのも嫌じゃない。寧ろ積極的にさせたい。可愛いは正義だ。
———問題はデザインだ。
ここにある物はスケスケだったり、丈が短かったり、露出度が多いんだ。
「こんな服を着て、往来を歩けませんわ!!」
「だから言ったじゃん、部屋着だって」
「つまり見るのは私たちだけです。お嬢様」
「へ?」
「さあ、早速試着してみようか、フィリア様」
「ええっ」
迫り来る有能メイドと最強ヒロインに、最弱悪役令嬢の俺は抵抗する術がなかった………。
「それの何がいけないのかしら、クレアさん」
休日の朝である。
リトを挟んで川の字で、二度目の『パジャマパーティー』を決行した翌朝だ。
「私、腕力に自信はありませんが、毒物に精通しております」
と、リトがクレア——ササPを牽制してくれたお陰で、昨夜は安眠出来た。
メイドとはいえ、初めて女性と同衾ということで(ササPは除く)ちょっとドキドキしたが、リトがジト目でガン見してくるので、邪な気持ちは一切消えた。
ウチのメイドさんは本当に有能だ。
「だって、ゲームでは…じゃなくって、普通はしない? 街の探索というか、お出かけ!」
「そう言われましても」
クレアに信じられないものを見るような顔をされる。
実際休日であっても課題をやったり、そこそこ忙しかったんだ。
そもそもメイドのリトがいるから、外出しなくても生活が成り立ってしまう。
「いいんですか!? リトさん! 年頃のお嬢様がこんな引きこもりで!!」
今度はリトに矛先を変えたようだ。
「護衛の問題があります。メンブルム領から騎士団の精鋭を数名、他の御令息御令嬢と同じように学園の詰所に待機させてはいますが、むざむざ危険な場所にお嬢様を行かせるわけには参りません」
有能ジト目メイドは揺るがない。
——実際、御令嬢の外出って、いちいち面倒なんだよな。
学園内の敷地内なら、一人である程度自由に歩き回ることが出来る。
しかし一歩外へ出るとメイドのリトはもちろん、馬車や御者、護衛が数名という具合に、それなりの人数と手間暇が掛かるのだ。
「———ふーん、リトさんは見たくないんですか? フィリア様が街の屋台で、お行儀悪く串焼きに齧り付いて、汁でベタベタに汚れている様を———」
「!」
「何故それでリトが釣れると思うんですの、クレアさん」
「……っく! 滅茶苦茶見てみたいです……!」
マジか。
ニヤリと笑い、クレアが畳み掛ける。
「あー、街では今、下着が見えるか見えないかくらいの丈の、部屋着が流行っているそうですよ? フィリア様に似合いそうですよねえ」
「買いに行きましょう。あと、串焼きは絶対私の目の前で食べて下さい、フィリア様」
「即決!?」
ジト目メイドの鼻息が荒い。
そうと決まれば彼女の行動は早い。
馬車と御者、護衛の手配をテキパキと済ませ、10分後には俺たちは車上の人になっていた。
———王都『アウルム』は、大まかに商業地域、工業地域、田園地域と別れている。
もちろん俺の生前の世界ほど厳密な制限はない。それぞれの都合上、そう固まっているだけだ。
そして商業地域=街は、王都だけあって華やかで、活気に満ち溢れていた。
「安いよ、安いよー! 今日メンブルムから届いたばかりの野菜だよー!」
「お花はいりませんか? 今ならもう一束、オマケしちゃいます❤︎」
「焼きたてだよー。肉汁滴る当店自慢の串焼き、食べてってくれよ」
「そこの素敵なお嬢さんたち、果実酒は如何かな?」
「髪留め、首飾り、足輪、今日だけ半額だよ! 見てってよー!」
クレアとリトと馬車から降りて一歩踏み出しただけで、そこらじゅうから客引きの声が掛かる。
馬車で通り過ぎるだけでは分からなかった、屋台の匂いや人熱がムッと押し寄せて来た。
「凄い……活気がありますわね」
「王都だからね。たまにはこういうの悪くないでしょ?」
「クレアさん……ササPさんは転生後よくこういうところに来ますの?」
俺はリトに聞こえないように、ちょっと声を顰めた。
「よくって程ではないけど、平民だからね。私が転生したクレアの実家は、王都の隣の小さな町だから」
「里帰りはしなくてよろしいんですの?」
そういえば、ササPの口からクレアの実家についての話を聞いたことがない。
「うーん。なんて言うのかな」
ササPは困ったような顔をした。
「B君の話を聞いてると、フィリアの過去の記憶がちゃんとあるみたいだけど、クレアの場合、ちょっと違うんだよね」
「と言いますと?」
「うん、記憶というより知識としてあるっていうか……確かにクレアの実家に帰れば両親揃っているんだけど、舞台装置としてそこにいるっていうか……まあ、ピンと来ないんだよね」
「ゲームの主人公とサブキャラの違いでしょうか」
「私も最初それかなって思って、ここが私たちが作った『ソラトキ』の世界そのままだと信じてたんだよ。でもそれだと違和感が」
「フィリア様、クレア様。一軒目はここに入りましょう」
俺たちの会話に割って入って、リトが断定的に主張した。
「これは……」
「そうそう、私の言ったの、こういう服のことだよ❤︎」
店の軒先にカラフルな女性物の洋服がずらりと並ぶ。
どれもこれもリボンやフリルがふんだんに付いて、可愛いの洪水だ。
いや、可愛いのはいい。
見るのもフィリアに着せるのも嫌じゃない。寧ろ積極的にさせたい。可愛いは正義だ。
———問題はデザインだ。
ここにある物はスケスケだったり、丈が短かったり、露出度が多いんだ。
「こんな服を着て、往来を歩けませんわ!!」
「だから言ったじゃん、部屋着だって」
「つまり見るのは私たちだけです。お嬢様」
「へ?」
「さあ、早速試着してみようか、フィリア様」
「ええっ」
迫り来る有能メイドと最強ヒロインに、最弱悪役令嬢の俺は抵抗する術がなかった………。
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