最弱悪役令嬢に捧ぐ

クロタ

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第38話 ササPの独白

 ———この世界に転生(いや正確に言うなら乗っ取りTSか)して、早半年弱。
 運命は確実にトゥルーエンドへ突き進んでいる。
 僕——主人公クレアが攻略キャラの誰ともフラグを立てなかった結果が、果たして凶と出るか吉と出るか。
 そもそもこの世界は、僕が手掛けた乙女ゲーム『空の彼方、刻の狭間でキミと…』そのものじゃない。

「クレア嬢」

 物思いに耽るのは一時中断だ。
 僕——クレアに声を掛けてきたのは、ノクス先生だった。
『アンゴル大峡谷遠征』を目前にして、眉間の皺が増えている。

「ピーッ!」

 彼のペット——いや、人に懐いた貴重な魔物のサンプルであるエポカが、ノクス先生のもとを離れ、僕の周りをグルグル飛び回っている。

 僕たちはノーティオ魔法学園に戻ってきていた。
 昨日、メテオラ王子が置いていった通信魔法使いが、王子率いるグラキエス騎士団がネブラ王国に侵攻したとの通信を感知した。
 僕たちも明後日には、アルカ王国側からネブラ王国に出発する。
 最後の調整にノクス先生も大忙しだろう。

「私に何か用ですか? 先生」
「いや、見かけたから声を掛けただけだ。明後日にはここを発つわけだが、体調や準備は万全か?」
「もちろん。何の不安も不足もありません」
「それなら良いんだ。君の活躍には期待している。些細な問題でもあれば、私に伝えるように。すぐ対処しよう」
「お気遣いありがとうございます、ノクス先生」

 国王の実弟という、威張り散らしてもおかしくない立場なのに、彼の心配りは繊細でさえある。
 国や民に害を与える魔物さえいなければ、魔法や魔術の研究に人生を捧げられたかもしれないのに、不憫な人だ。

「あ、そうだ先生。念の為一つ確認して良いですか?」
「何だ」
「フィリア様は本当に、今回の遠征には参加させないんですよね」
「ああ、彼女には危険だからな」
「ですよねー」

 よし! 言質とった!
 これで僕の懸念は一つ消えた。

「ここ最近、アルカ王国内においての魔物の目撃情報が激減している。グラキエス王国でも同様だそうだ。レギオの報告した『魔王』が実在するなら、魔物という兵力を他国に分散させず、侵攻してくる我々にぶつけるだろう」
「それって、こちらの行動を『魔王』が知ってるみたいですね」
「……私はあり得ない話ではないと思っている。エポカ!」

 僕の周りを自由に飛んでいたエポカが、ノクス先生の一声で彼の手に乗る。
「ピーッ!」
 嬉しそうに鳴くエポカの頭を優しく撫でてやりながらも、その表情は険しい。
「低級の魔物であるエポカでさえ、私の言葉を解するのだ。中級以上ともなれば、我が国を密かに偵察し、情報を持ち帰ることも容易いだろう」

 うん。正しく危機感を持って、現状を分析し認識するのは大事なことだ。
 指揮官として彼は適任者だ。
 ノクス先生にとっては実に不本意だろうけど———


『アンゴル大峡谷遠征』においての僕——クレアの役目は、立ち塞がる魔物を蹴散らし、ノーティオの結界を補修する魔術師や魔法使いたちを、無事に送り届けること。
 実に単純明快だ。
 魔術師は古に編み出された呪文や道具や言葉を紡ぎ、魔法使いは己の魔力で、それぞれ結界の補修と補強に当たる。
 魔物に戦力を分断された場合も考慮して、最低限の食料や飲み水は各自携帯するけれど、事前の準備と言っても他にやることがない。

 校内をプラプラしてたら暇潰しに最適なオモチャ——もとい、フィリア様こと、中の人B君を前方に発見した。
 いやー、この世界で初めて彼に出会った時は、そりゃあビックリしたよ。
 だって、あのフィリア様の髪型! 縦ロールじゃなくて初期設定案のボブなんだよ!?
 設定資料集に載せるつもりで、その情報は公表してなかったっていうのに。
 まあ、お陰でB君が僕と同じ転生者——この世界の異物だって、すぐ気付けたんだけど。

「……いつまでストーキングを続けるおつもりですの、クレアさん」
 アラ、声をかける前に見つかった。
 中の人は僕と同じ男だって分かってるけど、睨んでる顔が可愛いから気にしない!

「やー、フィリア様との出会いを回想モードで見てたら、声かけるタイミングを見失ってー」
「えええっ!? 私とクレアさんで視界の仕様が違いますわ!? 私の目には回想モードなんて——ハッ! ひょっとしてバージョン違い!!?」
「ごめん、回想モード嘘だから。本気にしないで」
「もーッッ!! 一瞬でも期待した私が馬鹿でしたわ!!」
 地団駄踏んでるフィリア様も可愛いなぁ。本当にフィリア様——B君は弄り甲斐がある。

「ごめんごめん。手持ち無沙汰なところにB君がいたから、ついね」
「あー、確かに今忙しいのは兵站部隊で、クレアさん——ササPさんの本番は出発後ですわね」
「そうそう。しばらく私留守するから、B君もどこの馬ともしれないモブに、チョロくたらし込まれたりしないでよ? 攻略キャラはみんな遠征に参加するから、残る野郎はモブだからね!」
「何の心配ですの!?」
 呆れた顔も可愛いよぉ……この癒しを当分摂取出来なくなるのが辛い!

「心配なら、私よりご自分のことを心配してください」
 ん?
 B君が上目遣いで僕を見上げる。
 良いなあ、この角度。
「大丈夫。私ヒロインだし、主人公補正あるでしょ」
「お気楽ですこと」
「うん、それが長所だし。君こそ気をつけなよ。まー、断罪される程の罪は犯してないけど、一応役回りとしては『悪役令嬢』なんだから」
「グッ、き、気をつけますわ」
 うん。是非そうして欲しい。


 ゲームどおりのトゥルーエンドなら、ヒロインと攻略キャラは誰も死なない。
 死んだのは———フィリア・メンブルムただ一人だ。

 僕はこれから起きるイベントで、彼女を外そうとしている。
 ここはゲームの設定を持った、ゲームではない世界だ。
 彼女の不在を運命が許すか、僕にも分からない。
 でも、この世界で過ごすうちに一つだけ分かったことがある。
 僕とB君以外の転生者の正体だ。


 フィリア——B君と別れて、僕は『彼』に接触した。
『彼』は怪訝な顔をしつつも、今は忙しいので話があるのなら夜にと、時間を提示してきた。
 僕にとってもそれは都合が良い。
 場合によっては『彼』を殺さなければいけないから———
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