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第41話 ネブラ王国
一日目はつつがなく終わった。
しかしネブラ王国入りし十日目ともなると、遭遇する魔物の数は徐々に増えていく————
「そっちへ行ったぞ! ノッツェ!!」
「任せてください! フェール団長!」
ゴッッ!!
ノッツェの拳が魔物の腹を抉り、宙を舞う。
フェールもその傍らでゴツいプレートアーマーに似合わぬ、舞うような剣技を披露して、魔物を次々に倒していった。
ノッツェとフェールの華麗な連携に見惚れていると、幌馬車の外から声が掛かった。
「フィリア様、コイツの手当てをお願いします!」
見れば、馬の後ろに乗せられた男性の腕が、ザックリと切られている。
「分かりましたわ! こちらの馬車に移動してくださいませ」
俺の治癒魔法の出番も、日に日に増えていった。
誰かの役に立てるのは嬉しいが、負傷しないで済んだほうがいいに決まっている。魔物の攻撃による怪我もそうだが、昔は整備されていた街道も今は荒れ果て、そのせいで移動中の落馬や、転倒による怪我も増えてきている。
「———はい、終わりましたわ」
俺は息を吐いて、自分の仕事ぶりを確認する。
うん、傷跡も残っていない。完璧な治癒だ。
「ありがとうございます! フィリア様! これで持ち場に戻れます」
「フィリア様! コイツも診てやって下さい!」
治した男性と入れ替わりに、別の負傷者が飛び込ん来た。今度の男性は脛をざっくりやられていた。
「承知しましたわ! このフィリア・メンブルムにお任せあれですわ!」
魔力がすっからかんになるまで、俺は治癒魔法を使い続けた。
「グゥッ………」
唸り声を上げて、魔物の最後の一匹が地面に倒れ伏した。
「よし! これで最後だな」
「ハイ! 周りに魔物の姿はありません」
騎士団員がぐるりと隊列の周りを馬で走り、安全の確認をする。
行く手を阻む魔物たちを一掃した頃には、辺りは既に暗くなっていた。
俺たちのいる場所は、かつては人々の住む集落だったらしい。
朽ちかけた家が、ポツポツと点在している。
今日はここで野営することとなった。
「お疲れ様ですわ、皆さま。暖かいうちに召し上がって」
俺は食事の配膳を手伝っていた。
ご令嬢であるフィリアがやる事ではないし、リトにも止められたのだが、遠征当初は治癒魔法が活躍する場もなく暇だったのだ。
あと、長い隊列の後方にいるから、食事時でもないと前衛の面々と話す機会がない。
「コスタもお疲れ様ですわね」
酷使した目を揉み解しているコスタに、俺はスープの皿を渡す。
彼も前衛の一人だ。
「恐縮です。フィリア様」
「いいえ、あなたの目に今回とても助けられていますから」
角隠しの猫耳フードは健在だが、遠征中の彼は眼鏡を掛けていない。
「ハハッ、『見え過ぎる』と生活には支障をきたすので、こんな時でもないと使い道がないのですが……」
自嘲のようにコスタは力無く笑う。
普段彼がかけている眼鏡は『魔具』だった。
魔具は通常魔力を補強するものだが、コスタの眼鏡に関しては逆だ。
『見え過ぎる』ため、多過ぎる視界の情報を遮断する用途で、普段はかけていたそうだ。
「いやいや。魔物のいる場所が事前に分かって、先回りして攻撃出来る利点は凄いよ」
「ね~❤︎ 明日も頑張ってね~、コスタさん。ハイ、これ目薬❤︎」
「はあ、頑張ります……」
シルワとラティオという実力者二人に褒められても、疲れた笑顔のコスタ。
人にない特異な能力を持つのも、大変なんだな……。
「フィリア」
「あ、ディエス殿下。おかわりいかがです?」
「もらおう。………まだ先だが、アンゴル大峡谷に着いたら、君は絶対前に出てくるな」
突然ディエスに話しかけられたと思ったら、内容が意味不明だ。
「ええと……もちろん、そのつもりでしてよ。アンゴル大峡谷と言えば魔界の入り口、魔物の巣窟のような場所だと聞いていますもの。私が近寄る理由がありませんわ」
「それならいい」
「???」
彼の真意を理解する前に、会話が終了してしまった。
「ディエス殿下ー。ちゃんと言葉にしないと伝わらないよ?」
シルワが呆れたように口を挟む。
「つまりね、フィリア嬢。綻びがあるとは言えノーティオの結界が機能している限り、魔力の強い人間や魔物は通れないんだ。でも君は魔力が弱いから、結界をくぐり抜けて魔界へ落ちてしまう危険性がある。そして僕や殿下は魔力が強い。落ちたら助けに行けないから、気をつけろってことだよね? 殿下」
おー、さすがチャラくても先生だ。シルワの説明は分かりやすい。
「解説ありがとうございますわ、シルワ先生。それから殿下も。ご心配ありがとうございます」
「ああ」
モソモソとおかわりしたスープを食す殿下。
俺だって言われなくても、そんな危険な場所に不用意に近付くつもりはない。
しかも落ちたが最後、救助不可能とか怖過ぎる。
目指すはアンゴル大峡谷に違いないが、俺は絶対近寄らないぞと心に決めた。
しかしネブラ王国入りし十日目ともなると、遭遇する魔物の数は徐々に増えていく————
「そっちへ行ったぞ! ノッツェ!!」
「任せてください! フェール団長!」
ゴッッ!!
ノッツェの拳が魔物の腹を抉り、宙を舞う。
フェールもその傍らでゴツいプレートアーマーに似合わぬ、舞うような剣技を披露して、魔物を次々に倒していった。
ノッツェとフェールの華麗な連携に見惚れていると、幌馬車の外から声が掛かった。
「フィリア様、コイツの手当てをお願いします!」
見れば、馬の後ろに乗せられた男性の腕が、ザックリと切られている。
「分かりましたわ! こちらの馬車に移動してくださいませ」
俺の治癒魔法の出番も、日に日に増えていった。
誰かの役に立てるのは嬉しいが、負傷しないで済んだほうがいいに決まっている。魔物の攻撃による怪我もそうだが、昔は整備されていた街道も今は荒れ果て、そのせいで移動中の落馬や、転倒による怪我も増えてきている。
「———はい、終わりましたわ」
俺は息を吐いて、自分の仕事ぶりを確認する。
うん、傷跡も残っていない。完璧な治癒だ。
「ありがとうございます! フィリア様! これで持ち場に戻れます」
「フィリア様! コイツも診てやって下さい!」
治した男性と入れ替わりに、別の負傷者が飛び込ん来た。今度の男性は脛をざっくりやられていた。
「承知しましたわ! このフィリア・メンブルムにお任せあれですわ!」
魔力がすっからかんになるまで、俺は治癒魔法を使い続けた。
「グゥッ………」
唸り声を上げて、魔物の最後の一匹が地面に倒れ伏した。
「よし! これで最後だな」
「ハイ! 周りに魔物の姿はありません」
騎士団員がぐるりと隊列の周りを馬で走り、安全の確認をする。
行く手を阻む魔物たちを一掃した頃には、辺りは既に暗くなっていた。
俺たちのいる場所は、かつては人々の住む集落だったらしい。
朽ちかけた家が、ポツポツと点在している。
今日はここで野営することとなった。
「お疲れ様ですわ、皆さま。暖かいうちに召し上がって」
俺は食事の配膳を手伝っていた。
ご令嬢であるフィリアがやる事ではないし、リトにも止められたのだが、遠征当初は治癒魔法が活躍する場もなく暇だったのだ。
あと、長い隊列の後方にいるから、食事時でもないと前衛の面々と話す機会がない。
「コスタもお疲れ様ですわね」
酷使した目を揉み解しているコスタに、俺はスープの皿を渡す。
彼も前衛の一人だ。
「恐縮です。フィリア様」
「いいえ、あなたの目に今回とても助けられていますから」
角隠しの猫耳フードは健在だが、遠征中の彼は眼鏡を掛けていない。
「ハハッ、『見え過ぎる』と生活には支障をきたすので、こんな時でもないと使い道がないのですが……」
自嘲のようにコスタは力無く笑う。
普段彼がかけている眼鏡は『魔具』だった。
魔具は通常魔力を補強するものだが、コスタの眼鏡に関しては逆だ。
『見え過ぎる』ため、多過ぎる視界の情報を遮断する用途で、普段はかけていたそうだ。
「いやいや。魔物のいる場所が事前に分かって、先回りして攻撃出来る利点は凄いよ」
「ね~❤︎ 明日も頑張ってね~、コスタさん。ハイ、これ目薬❤︎」
「はあ、頑張ります……」
シルワとラティオという実力者二人に褒められても、疲れた笑顔のコスタ。
人にない特異な能力を持つのも、大変なんだな……。
「フィリア」
「あ、ディエス殿下。おかわりいかがです?」
「もらおう。………まだ先だが、アンゴル大峡谷に着いたら、君は絶対前に出てくるな」
突然ディエスに話しかけられたと思ったら、内容が意味不明だ。
「ええと……もちろん、そのつもりでしてよ。アンゴル大峡谷と言えば魔界の入り口、魔物の巣窟のような場所だと聞いていますもの。私が近寄る理由がありませんわ」
「それならいい」
「???」
彼の真意を理解する前に、会話が終了してしまった。
「ディエス殿下ー。ちゃんと言葉にしないと伝わらないよ?」
シルワが呆れたように口を挟む。
「つまりね、フィリア嬢。綻びがあるとは言えノーティオの結界が機能している限り、魔力の強い人間や魔物は通れないんだ。でも君は魔力が弱いから、結界をくぐり抜けて魔界へ落ちてしまう危険性がある。そして僕や殿下は魔力が強い。落ちたら助けに行けないから、気をつけろってことだよね? 殿下」
おー、さすがチャラくても先生だ。シルワの説明は分かりやすい。
「解説ありがとうございますわ、シルワ先生。それから殿下も。ご心配ありがとうございます」
「ああ」
モソモソとおかわりしたスープを食す殿下。
俺だって言われなくても、そんな危険な場所に不用意に近付くつもりはない。
しかも落ちたが最後、救助不可能とか怖過ぎる。
目指すはアンゴル大峡谷に違いないが、俺は絶対近寄らないぞと心に決めた。
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