最弱悪役令嬢に捧ぐ

クロタ

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第59話 ササPの思惑

 ———あっという間に『アンゴル大峡谷遠征』から一年四ヶ月の時が流れた。

 復興で一年延期された卒業式の為に、僕は今日ノーティオ魔法学園に来ている。
 実に久しぶりの学舎だ。
 この学園も魔物の襲撃を受けて一部校舎と講堂を破壊された。
 修理が終わったのはつい最近で、生徒たちも僕みたいに戦闘力を期待される者は魔物討伐に、そうでない御令息や御令嬢は領地の復興で授業どころではなかった。
 まあ、もともと遠征が最終的な実地訓練みたいなものだったから、授業がなくなったところで特に問題はない。

 式開始までまだ時間がある。
 廊下でおしゃべりしていた御令嬢たちが目敏く僕を見つけ、駆け寄ってきた。

「まあ、クレアさん! お久しぶり!」
「クレアさんのご活躍は聞いているわ。先日もほとんどお一人で魔物を討伐されたんですってね」
「それ新しい騎士団の礼服? とっても素敵だわ」

 女子にちやほやされるのは悪い気はしないが、彼女たちに混じってのんびりおしゃべりするつもりもない。
 さて、どうやって離脱するか……。

「でも残念ね。配属が決まってしまっては、うちの領地にクレアさんを勧誘出来ないもの」
「そうよね。国で統一して騎士団の再編成をしてもらえるのは、うちみたいに税収が少ない領地では有難いけれど……」
「その分団員個人の配置に関して口出ししづらいのよねえ……」

 ———そう。
 遠征後、アルカ王国内では貴族が領地ごとに所有していた騎士団を、国がまとめて面倒を見ることになったんだ。
 税収が少なくて魔物に対する警備が薄い領地には、もともと国からの支援はあった。しかし今回の大改革で要請があった領地に、国から騎士団員を派遣する形に変わった。
 そして僕は、この春から正式に騎士団員となった。

「クレアさん」

 御令嬢たちの包囲から逃れるキッカケが、向こうから来た。

「グランス君!」
「フィリア様は見つかりましたか?」
「いいえ。あ、それでは皆さん、私はこれで」
「あっ、クレアさん! もし配置転換を希望される際には、ぜひうちの領地に来てくださいね!」
「いいえ、私の領地なら厚遇をお約束しますわ!」
「いいえ! うちの方が! 景観も良いし食べ物も美味しいし、暮らしていくのには最高ですのよ」
「まあお可哀想に。領民が少なくて街が繁栄してないから、それしか誇るものがないのね」
「何ですって!? そちらこそ人数の割に税収が少ないじゃない! 無能な領主を持った領民は本当に可哀想ね!」
「はあ!?」
「あははは、ではご機嫌よう」

 僕の引き抜きが、御令嬢たちのマウント合戦に発展してしまったが、僕のせいじゃないので知ーらない。

「相変わらずモテますね。クレアさんは」
「ふふー、羨ましいでしょう。グランス君」
「いや、別に」

 僕と同じく、騎士団の白い礼服を着たグランスが興味なさげに答える。

「デスヨネー。グランス君は一途だから、他の御令嬢なんて目に入らないよねー」
「なっ!? か、揶揄わないでください! クレアさん」
 取り澄ました顔が一瞬で朱に染まる。
 フィリア・メンブルム嬢が人ではなく『ノーティオの遺物』の魔剣であり、中の人が違うことが判明しても、彼の想いは変わらないようだ。
 もっともグランスの場合、初めてフィリアと会った時は既に中の人がB君に代わっていたから、特に印象が変わることもないか。

 ちなみに今の彼と僕は、騎士団の中でも配置が同じで、いわゆる同僚だ。

「あー、そうだ、フィリア様ね。教室にもさっき行ってみたんだけど、ノクス先生だけいて『魔物と魔術と魔法の研究に捧げたい人生だった』とか言ってエポカにスリスリしてたよ」
「……それは見なかったフリをしてあげましょう。ノクス先生も疲れてるんですよ」
「今や『総帥』閣下だもんね。そして教師の仕事は非常勤に……」

 きっと今がこの世界の過渡期だ。
 魔石を大量に手に入れられるようになって、魔具の開発と製造は加速度的に進む筈だ。それは日用品だけではなく、兵器もだ。

 人の魔力を使わない兵器としての魔具の量産化の流れは、いずれ『騎士団』を『軍』に変えていくことだろう。

「ま、いいじゃない。これでノクス先生の立場は盤石になったんだし。今までは『魔力が少ないくせに王弟ってだけで遠征の司令官に選ばれて狡い』とかって貴族にイヤミ言われてたんでしょ?」
「本人はこの状況を全く喜んではいないと思いますが……」

 望むと望まざるとにかかわらず、ノクスは『アンゴル大峡谷遠征』という確かな実績を作った。
 シルワとラティオの実力者二人の後押しも効いて、ノクスは今やアルカ王国内で、国王の次に偉い権力者となった。権力には責任が伴う。それを行使する者となると仕事も滅茶苦茶多いだろう。

 ……まあ、ちょっとは不憫だと思うから、今度討伐で珍しい形態の魔物が出たら、お土産に持って行ってあげよう。

 遠征後に著しく環境が変わった人物といえば、僕に瀕死の重傷を負わせたディエス殿下の元傅役、レギオもそうだ。
 人質を取られた末の行動とは言え、この国の法に従えば重罪だ。最悪死刑を言い渡される可能性もあった。
 しかし結果は『国外追放』のみ———
 目や喉を潰された恨みはあるけど、僕としては彼に固執する理由も無いので、その罰は順当だ。
 彼——レギオは今後、ネブラ王国に生き残った数少ない民たちと、国の復興を目指して生きていくのだろう………。


 うん?

 僕の耳が声を拾った。目の前の教室の中からだ。

「ここにいるよ、フィリア様。声が聞こえた」
「声がしたということは、誰かと一緒ですか」
「みたいだね。失礼しまーす………!?」

 フィリア——B君はいた。
 何故かディエス殿下に壁ドンされて———

「ハッ! クレアさんにグランス様!? ちょっと、何で二人して戦闘態勢に入ってるんですの!?」
 ギョッとした顔でB君に睨まれた。
 おっといけない。つい条件反射で魔具のブレスレットをナックルに変えてしまった。グランスも構えた魔銃を慌てて下ろした。

「何でって、私とグランス君はフィリア様の護衛担当ですもの。フィリア様の危機的状況には常に対応しますよ?」

 そう——僕たちの担当はフィリアの護衛だ。
『ノーティオの遺物』だと判明してから、フィリア・メンブルムは国で保護すべき対象に変わった。
 ノクスの助言で、彼女の人としての意志は尊重され保証されることになったが、そこには護衛という聞こえの良い鎖が常に付き纏う。
 その護衛を僕とグランス、つまりフィリアの友人に任せたのが、せめてもの気遣いだろう。

「危機なんて……そんな物騒な状況ではありませんわ」
「あれ? じゃあ、お邪魔でしたか? フィリア様が殿下に迫られているように見えたので」
「なっ!? 違っ、違いますわよ! コレ! この髪飾りを頂いただけです! 髪が伸びたので、以前の物では似合わないだろうと仰られて!」

 グイッと頭を僕の方に突き出して、B君は訴える。
 確かに遠征時より伸びた髪に、青いリボンの髪飾りが揺れている。
 その時、教室のドアが開き、シルワ先生が顔を覗かせた。

「何だ、こんなとこにいた。ディエス殿下、生徒代表の挨拶の件でちょっとご相談が——」
 彼は不意に言葉を止めると、フィリアの青いリボンを凝視する。

「おー、やっぱり僕の見立ては正しかったね。最近のフィリア嬢には青が似合うんだって。ほら殿下、僕の言うこと聞いて良かったでしょ♪」

 ドヤ顔のシルワと無表情の殿下を除いて、僕らはスンとした顔になる。

「……シルワ先生、そういうことは黙っていた方が良いですよ」
 皆の気持ちを代表して、グランスが苦言を呈した。

 この場にいるのは肉体的にはともかく、精神的には野郎ばかりだ。
 それでも婚約者の贈り物が本人が悩み抜いて選んだ物ならともかく、実はチャラ男の適当なアドバイスによるものと知ったら、世の女子は少し冷めるんじゃなかろうか?

 空気を読まないディエスも、フィリアが浮かない顔をしているのには気付いたらしい。
「嬉しくなかったか?」と、直球な問い掛けをする。

「いえ、殿下からの贈り物は素直に嬉しいですわ。ありがとうございます。……でも、これを選んだのがシルワ先生だと思うと、少し有り難みが減る気が……」
「僕に対して酷いな、フィリア嬢」
「いや、最終的にその髪飾りを選んだのは私だ。シルワ先生にも選んで貰ったのだが、派手な冠羽のような選択肢しかなかったからな」
「意外と殿下も僕に辛辣だよね」
「あの、生徒代表の挨拶の件は良いんですか? シルワ先生」
 こういう時、常識人のグランスの存在は有難い。脱線した話をすぐに元に戻してくれる。

「そうだった。ディエス殿下、挨拶の原稿確認させてもらったけど、もう少し長くしようか? 授業や遠征の思い出話なんか盛り込んで。僕はこれでも良いと思うんだけど、ノクス先生がねえ」
「叔父上——ノクス先生がそう言うなら」
「僕の言うことも聞こうね、殿下」

「ではフィリア、また後で」
「はい、ディエス殿下」
 ディエスとシルワが教室を出ようとして、
「あ、そういえばグランス君。卒業式実行委員の子が探してたよ? 魔銃による射撃の実演を頼みたいとかって」
 そうグランスに伝えた。
「え!? そんなの聞いてませんよ」
「急遽決まったらしいよ。式辞や祝辞だけの式じゃ詰まらないからって、見映えがする技を持ってる子が選出されてるみたいだね。大方『うちの子の勇姿を見たい、見せつけたい』って貴族の親御さんのゴリ押しだと思うけど」
「えー、僕を巻き込まないで欲しいんですが」
「まあまあ、的のど真ん中に百発百中させれば、フィリア嬢の騎士はこんなに優秀だから手を出すなよって牽制にもなるし、良いんじゃない?」
「………まあ、そういうことなら」
 満更でもない顔をしつつ、グランスは納得したようだ。彼もチョロいとこあるよな。

 彼らが立ち去ると、教室には僕とフィリア——B君の二人だけになった。
 風が開いている窓を通り抜けて、フィリアの髪と青いリボンを揺らす。

「うん、フィリア様には赤も良いけど、青も似合うね。シルワ先生と同意見なのは癪だけど」
「それはどうもですわ」
 B君が苦笑する。


 彼が——フィリアが魔剣化したと知った時、僕はB君の魂は壊れてしまったと思った。
 実際、魔王の手下コスタに唆され、魔剣となったフィリアの魂はなくなってしまったわけだし、僕とB君がこの世界に飛ばされた原因がそれだ。
 でも魔剣になっても、B君の意識は残っていた。
『B君の魂が頑丈で良かった良かった』で終わる単純な話なら、どんなに良かっただろう———

 遠征後、しばらくして僕の認識が半分誤りだと気付いた。
 B君は彼自身の記憶を半分無くしていた。

 きっかけは些細な事だった。たわいもない会話で、僕らのいた世界で誰しも知ってる猫型ロボットを、B君が知らないと言い出した時だ。
 何か変だと引っかかった僕は、彼に次々質問をした。そして僕は理解した。

 B君はこちらの世界での出来事は覚えている。
 彼が失ったのは、おそらく生前の記憶の大部分——

 何故全部ではないと言い切れるかというと、僕と話した向こうの世界の記憶は残っていたからだ。つまり僕との会話で紐付けされた記憶だけが残り、他はすっかり消えてしまったのだ。
 僕に語っていない家族との思い出とか、大切な記憶だって失ったはずだ。

 当然、B君はショックだったと思う。
 僕もショックだった。魔剣化で、彼の魂は半分削ぎ取られていたんだ。
 もし次に変身を余儀なくされたら、その時こそ、彼の存在は消えてしまうだろう——


 しかし今は過ぎたことを悔やむより、未来のことだ。

「……モーレス王やノクス先生は、君とディエス殿下の結婚を進めたいだろうね」
「何故急にそんな話題を振るです」
 怪訝そうにB君が僕を見るので、思わず溜息が溢れる。
 そろそろ本人にも自分の存在価値の自覚と、危機感を持って欲しいもんだね。

「だって君は、世界の境界を閉じたり開けたり出来ちゃう伝説の魔剣なんだよ? そりゃあ国としては手元に置いておきたいでしょう」
「で、でも、ノクス先生は無理強いはしないって……ディエス殿下だって、好きなのはフィリアであって、中身が違ったらダメだと思いますわ!」
「いや、彼はフィリア好きガチ勢だから、中身B君でも大丈夫!」
「ササPさんの言葉に矛盾を感じますわ」

「要はね、君がどうしたいかってこと!」
 僕はB君にビシッと指を突き付けて言ってやる。

「僕たちが卒業するのと入れ替わりに君の弟、リベル・メンブルム侯爵が今春この学園に入学する。その間の一年間、侯爵代理として君が領地に戻って統治する——ここまでは理解してるね?」
「当然ですわ。初めての統治に不安はありますし、お母様とまだぎこちないのが心配ですけれど……」
 一瞬、彼の瞳が悲しみに揺れる。

 フィリアの父親、ウィルガ・メンブルムも『ノーティオの遺物』の一つだった。
『アンゴル大峡谷遠征』時に起きたアルカ王国への魔物の大規模な襲来。
 そこに魔物を殲滅すべく現れた巨大な蜘蛛型の魔具こそ、ウィルガ・メンブルムの真の姿だった。後にフィリアの弟リベルと、ウィルガの妻ミルレの証言で裏付けは取れている。
 彼——魔具は、国内に入り込んだ魔物をほぼ殲滅すると、僕らが帰還する十日前に市街地で活動を止めた。
 それ以降、いくら魔力を注ぎ込もうが、うんともすんとも言わない。
 自分の役目は終わったとばかり、オブジェのように今もそこに佇んでいる。

 ちなみに、メンブルム家の証言を取る時に、彼らにB君の事情も話してある。
 弟のリベル君は姉の変化に思い当たる節があったのか、割とすんなり納得した。最も彼の場合、自分も父親と同じ『ノーティオの遺物』だという事実の方が衝撃的だったらしい。
 母親の方はすんなりとはいかず、B君が言うには対応がギクシャクしているとのこと。娘の中身がまるっと他人と入れ替わってしまったんだから、無理もないよね。

 さらに余談になるけど、フィリア付きのメイドのリトさんも、最初から中の人が代わっている事を知っていたそうだ。これは僕が本人から聞いた。
 フィリアの違和感に気づいたリトさんは、寝ている隙に自白剤を飲ませ、洗いざらい真実を吐かせたそうだ。怖い怖い。
 中の人が別人に代わってしまった事、正直どう思ったか聞くと、
「最初はどうしてくれようと思いましたけど……もう以前のお嬢様は帰って来ないと何となく分かっていましたから」と、少しだけ寂しそうに笑った。
 あと「元のお嬢様はこう……分からせたくなるような生意気さが魅力でしたけど、今のお嬢様は困らせて赤面させたくなる要素に溢れているんですよね。フィリアお嬢様ならどっちでも良いんです、私」と、フィリア本人が聞いたらダッシュで逃げるようなことを、淡々と語ってくれた。
 うん。分かってたけど、この人もガチ勢の一人だったわ。

 ——おっと、余談が過ぎたかな。話を戻そう。


「つまりこの一年間はB君、君にとって最後のチャンスだよ。グランス君とくっつくか、私と逃避行するか。さあ、どっち!? あ、メテオラ王太子——今はメテオラ王か。彼とのルートは私も巻き込まれそうだから諦めて!」
「何ですの、その二択は! 異議大ありですわ!! ふざけないでくださいまし!!」
 プンスカ怒ったB君——フィリアの顔は可愛いけど、こっちは大真面目なんだよ。

 ノーティオ魔法学園入学は、貴族の義務というより慣例だ。
 フィリアの弟リベル君の入学は年齢的に早過ぎるが、ウィルガ・メンブルム侯爵亡き後、彼が一人前の貴族として認められるには避けては通れない。
 そこで特例としてリベル君の入学が認められ、魔力の少ない彼を教えるという名目で、ノクス先生の教職員の立場も保たれていると言って良い。

「リベル君の代わりにB君がメンブルム領に帰るでしょ? それって国からの目が届きにくくなるってことだよね。グランス君と結婚するなら、国外に逃げないと踏んで邪魔してこないと思うけど、『ノーティオの遺物』の君が次世代を残さないという選択をするなら、殿下と強制結婚させられる恐れはあるね」
「ササPさん、怖い事言わないでくださいませ」
「でも無いとも言い切れないだろ?」
「う………」
 自分の価値に疎いB君も、魔具としての特異性は自覚していたようだ。
「ぶっちゃけ、B君。グランス君に乙女心開花させられそうになってたでしょ」
「グッ……! そ、そんなことありませんわ!!」

 明らかに嘘だな。
 グランス君に後一押しする積極性があれば、チョロいB君は恋する乙女に堕ちていただろう。

「本当に?」
「本当ですとも! ササPさん、言いがかりも甚だしいですわ!!」
「本当に本当? グランス君にときめいちゃったり、よろめいちゃったりしてない? 嘘ついたら襲うよ? ちょうど誰もいないし」
「怖っ! ……そ、それは私が中身が女の子だったら、そういう展開もあり得たかもしれませんが……。そもそもササPさん」
「ん?」

 スッとB君が僕に向き直る。

「何故ディエス殿下との結婚を回避させようとするんですの? もしかして、コスタからあまり良くない未来の話を聞いたとか……?」

 意外と鋭いな。
 でも僕は悟られないように笑顔で返す。

「そんなことないよ。コスタが……あー、私の会社に潜入してた時は『小島』って名乗ってたんだけど。彼の未来視って不完全だろ? 完全だったら、フィリアを魔剣に戻して運ぼうなんてウッカリを、最初っからやらかさないワケだし。気にする事はないよ」
「……それもそうですわね。ササPさんがコスタと最後に何か話していたのが、少し気になっていたものですから……」
「ああ……魔物といっても生前、元部下だった男だからね。私も思うところも言いたいこともあるよ」

 実際、あの時僕はコスタに問いかけた。
 彼の提案した乙女ゲーム『空の彼方、刻の狭間でキミと…』の続編内容は、彼の見た未来なのかどうかと。
 コスタは笑うだけで最期まで答えなかった。


 彼——コスタ——『小島』君は当初営業担当でウチの会社に入って来た。
 しかし何でもこなす器用さから、いつの間にか『ソラトキ』制作メンバーの輪の中にいた。今から思えば『ソラトキ』の世界観やキャラ設定の原案は、ほぼ彼のアイディアだった。

 そんな彼がある時『ソラトキ』続編のアイディアを僕に話した。
 その概要はというと———

 魔王と魔物を退けて結界を修復し、平和が訪れたアルカ王国。
 その後ディエスは王となり、結婚したフィリアとの間に男児をもうける。
 しかし平和の時は長く続かず、十年後に結界は破れ、再びアルカ王国は魔物の脅威に晒される。
 ディエス王は『ノーティオの遺物』として、妻のフィリアではなく、息子を魔剣に変える決断をする。
 心のない魔具にされた愛する息子の姿を見て、絶望した王妃フィリアは塔から飛び降りてしまう。
 ディエスは翼を広げて阻止しようとしたが、彼の手は後一歩のところで届かず、最愛の妻を亡くす。
 その後、ディエスは『地上の魔王』と囁かれる程非道な王となり、かつての仲間であり臣下であったグランスとヒロインに討伐される事となる——ざっくりそんな筋書きだ。

 味方が続編ではラスボス——というのは少し惹かれたけど、続編が『ソラトキ』トゥルーエンド後だと考えると、この内容は使えない。
 何故なら、トゥルーエンド後にフィリアは魔剣としてしか存在しないからだ。
 それにヒーローポジションがグランスなのも解釈違いだと、当時の僕は思った。
 そつのない彼に珍しくアラだらけのアイディアに、僕はあっさり没にした。

 だけど今なら、それが決して整合性のないものではないと分かる。
 ディエスは良くも悪くもフィリアガチ勢だ。
 もし魔剣が必要となる状況下で、フィリアか息子、どちらを犠牲にするか選べと言われたら、フィリアを選ぶ可能性が高い。
 グランスもそうだ。
 キャラで正義感が強いのはカロルだが、フィリアが関われば話は別だ。
 暴君に対する反逆ではなく、愛する人を死なせた者への復讐としてなら、きっと彼はディエスに銃を向ける事を厭わないだろう。

 そもそもコスタが僕らの世界にやって来て、わざわざこの世界の実在の人物を使ったゲームを作るなんて、最初から奇妙な行動だ。
 ゲームのプレイヤーをフィリアの中の人にするという案は、分からなくもない。
 全く知らない人の中に入って、その人物を演じろと言われたら難しいが、良く知ったゲームキャラなら不可能ではない。
 しかし『ソラトキ』はフィリアの破滅の原因も彼女の正体も、全クリアすれば分かる仕様だ。そんなプレイヤーが、コスタの思い通り自分が破滅に向かう言動をわざわざするだろうか。

 B君はトゥルーエンドに辿り着く前だったから、たまたま知らなかっただけだ。
 …………本当にたまたまなのだろうか?

 もし、コスタの未来視が不完全などではなく、彼が見た未来の予定に沿って行動していたとすると、この先のB君——フィリアの行末は…………………………。


「フィリア」
 教室のドアが開くと同時にディエスが顔を覗かせる。

「あら殿下、挨拶の原稿の件は終わりましたの?」
「ああ、廊下でノクス先生と会った。その場で修正するつもりの内容を話したら、それで良いと」
「まあ、そうでしたの」
「だからフィリアを迎えに来た」
「え?」

 ディエスが自然にB君——フィリアに手を差し出す。

「一緒に行こう。明日からしばらく会えなくなるからな」
「そうですわね。では参りましょうか、殿下」

 フィリアは躊躇わず彼の手を取ろうとする。
 これは———よろしくない展開だ。
 僕はフィリアの手をディエスから掠めとった。

「ダメでーす。フィリア様は私と一緒に行くんですぅー!」
「ちょっと、クレアさん!」

 抗議の声も丸っと無視して僕はフィリアを抱え上げ、開いた窓から飛び降りた。

「ひえっっ!! 馬鹿なんですの!? 馬鹿なんですのね!! ここ五階ですわよ!!」
「うん、思ったより高いね」

 僕にとっては大した高さじゃないけど、しがみつくフィリアをしっかりと抱きしめた。彼女の運命の相手は最初っから翼が付いているのだから、これくらいしないと彼からは逃げ切れないだろう。
 これから僕が何が何でもフラグを折って、コスタの予言した悲しい未来を回避してやるんだ!

「さあ、ここから私のターンだよ!」
「何の話ですの!?」

 僕は晴れ渡る空の下、高らかに運命とやらに宣誓布告をしてやった。
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