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早乙女静香ルート
すべてを賭けて見えたもの2
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※この作品は同人ゲーム「男子校でハーレムが作れる俺マジ勝ち組」からテキストを抜き出したノベル版です。
ゲームテキスト形式なので背景やキャラ名の指定が残っています。
原作ゲームは18禁ですが、今作は18禁シーンを削除し全年齢版として公開します。
PCを持っていない方のために、同じく全年齢版の体験版プレイ動画もございます。
詳しくは「はとごろTIMES」のホームページをご覧下さい。
また、漫画も投稿しています。そちらも是非ご覧下さい。
《静香視点》
もう何も考えたくなかった。
考えることが辛かったから、やめてしまえば楽になると思った。
でも、そうじゃなかった。
全部をやめてしまわないと、楽になれない。
僕がすること全部、自分のためにすらならない。
《病院》
静香
「…………なんで、こんなとこに来たんだろう」
一日誰もいない自分の家にいて、結局何も決められなくて、気がついたら母さんのいる病室まで来てしまっていた。
ここから先に行く事は、もう努力じゃない。
ただ歩いていたら向かっていただけ。あの人を求めて来たわけじゃないから、何があっても辛くはない。
もう、何もしない。
《病室》
母さんはベッドのうえにいた。入ってきた僕に気づくが、身体を起こすことすらできない。
ここまで病気に侵された身体で、娘に料理を教えていた。一緒にご飯を食べて、家事をして……
どれだけ無理をしていたんだろう。
そんなことをしなければ、少しでも長く生きられたかもしれないのに。
言うべきことはたくさんあるのに、言葉が出てこない。
僕が黙ったままでいると、先に母さんの方が口を開いた。
心
「あなたは……誰?」
静香
「え…………」
その言葉は、今までのどんな酷い罵倒よりも心に突き刺さった。
心
「病室を間違えたのね……ここは個室だから、だれもいないのよ」
静香
「ま、間違えてなんて……僕は……あなたに、会いに……」
心
「私に? 変わった子ね、知らないおばさんに会いにくるなんて」
僕のことどころか、「しずか」のことも忘れてしまっている……?
……そういえば、昨日医者に説明された気がする。
末期症状のうちの一つに、記憶障害があると。
僕が最後にあんなことを言ったから、母さんの信じた愛する娘すら消えてしまったというのか。
…………でも、よかったのかもしれない。
僕なんか元々いなかった。そうすれば、誰も傷つかない。
僕に幻の娘を重ねていたという後悔をさせることもない。
これでよかった。心からそう思う。
今度はいやな気持ちにはならなかった。
それから、僕は毎日のように母さんを訪ねた。
母さんは「つい最近知り合った変わった子」として僕を見る。
冷たい態度も、最後の優しさもない。でも、そんな関係がなんだか嬉しかった。
はじめて、早乙女心という人物に触れられた気がした。
二月になり、冬も終わろうとしていた。
母さんの病状は日を重ねるにつれて悪くなっていく。
咳をすることが増えた。血を吐くようになった。顔色はいつだって悪かった。
それから、会話がだんだんとできなくなっていった。
前日の話の内容すら覚えられなくなっていった。
昔のことを、まるで今起きているかのように話すようになった。
もう何もかもが滅茶苦茶で、終わりが近いことを感じさせた。
それでも、僕は顔を見に行くことをやめなかった。
回復を信じていたわけじゃない。思い出して欲しいわけでもない。
ただ、自然と病院に足が向かった。
春が一歩手前まで近づいてきた頃。
心
「私ね……あと少しで母親になるのよ」
母さんは、そんな話をはじめた。
心
「子供がうまれるの。私の子って言えるのかは分からないけれど」
静香
「そうなんだ……おめでとう、でいいのかな?」
心
「ええ、そうね。子供は祝福されて産まれるものだもの。貴女くらいはそう言ってあげて」
母さんの記憶は段々と後退し、はじまりの時までさかのぼった。
ねえ、母さん。その子供はね、ここにいるんだよ?
祝福は……してくれなかったよね。愛せない子供で、ごめんなさい。
心
「こんなに大きくなっちゃったらもう堕ろせないって言われたわ」
静香
「産みたくなかった……?」
心
「そう言ったら産まなくて済むのかしら」
心
「殺したくもない。育てたくもない。迷っていたらいつの間にか選択肢は一つになってた」
心
「どうして子供なんてできるのかしら……望んでない子供は、できないようになればいいのに」
祝福されない子供。偶然の産物。忌々しいだけの存在。
分かっていた。もう、認めたくないなんて言わない。
僕にはもう、失うものなんてないのだから、どうでもいい。
けれど、この人の話だけは最後まで聞きたい。そう思った。
心
「隣の病室の奥さんに声をかけられたわ。四ッ橋陽子さんって人よ」
静香
「そうなんだ。どんな話をしたの?」
心
「子供を抱いていたわ。産まれたばかりなんですって」
心
「その子を見ていたら私、不安になっちゃって……取り乱してしまったの」
きっとこれは過去の話。母さんと陽子さんの出会いのことだろう。
以前父さんに、陽子さんはお前が生まれる前から全て知っていると聞かされたことがある。
心
「とても酷いことを言ってしまったわ。初めて会う人なのに」
心
「でも、あの人は私の話を親身に聞いてくれた。いい人だった」
心
「母親らしい人だわ。私とは違う。私は母親なんかになれない」
心
「今すぐお腹に包丁を突き立てて、中の子を引きずり出したいなんて思う私とは……」
静香
「男の子が生まれるのは、嫌?」
心
「嫌よ。怖いもの。怖くてたまらない……」
どれだけ話を聞いても、僕の存在が不必要だという真実は覆らない。
何度も聞かされた、産まなければよかったという言葉は、ここでも同じだった。
でも、もう何もしない。
絆なんて取り戻そうとしない。そんなもの、元からなかったんだ。
心
「あの時の警官さんが、私と結婚するって言っていたわ」
心
「きっと生まれる子供が男の子だから心配してるのね。でも、当然のことだわ」
心
「男の人なんて嫌いだけど……その申し出は断れなかった」
静香
「どうして……?」
心
「だって、きっとこの先私は、生まれてくる子に乱暴するから」
心
「男の人を見るだけで怖いの。何かをされる前に、殺してしまおうとか本気で考えてしまうほどに」
心
「この子が成長した時、きっと私は正気でいられなくなる。その時のために、あの警官さんにはいてもらうの」
僕が生まれる前から、ここまで正確に未来が思い描ける。それだけ母さんの心の傷が深かった証拠だった。
生まれた子供が何をしても、その心の傷には勝てない。
だから、僕のしてきたことには意味がない。
心
「できるだけ長くこの子を嫌いにならないよう、静香って名前にしようと思ったんだけど、あの人に反対されちゃった」
…………え?
嫌いに……ならないようって……
静香
「そ……それで、どういう名前になったの?」
心
「せいか。静香の漢字はそのままで、読み方を変えたの」
心
「漢字がそのままならいいだろうってあの人は言ったけど……どうかしらね」
心
「私は生まれてくるせいかを、きっと愛してあげられない。そう分かっているのに産むの」
心
「最低ね……母親になる資格ないわ」
静香
「でも……親になるって決めたんだ」
心
「ええ。私の心が壊れない限り」
……ああ、そうだったんだ。
母さんは、最初から僕のことを嫌っていたわけじゃなかったんだね。
たくさん悩んで、考えて、嫌いにならない努力をしてくれていた。
無駄だったけれど。
僕は、愛してもらえなかったけれど。
その心だけでも、知ることができた……
心
「でも、できればせいかには私を嫌って欲しいわ。私なんて気にせずに生きて欲しい」
静香
「……それは、無理だよ……」
心
「私がこの子を嫌うんだもの。せいかも私を嫌わないと、可哀想だわ」
静香
「可哀想かもしれないけど、できないの」
心
「どうして、そんなことを言うの?」
静香
「だって、お母さんだから。こうやって愛しながら産んでくれた、たった一人の人だから」
静香
「どれだけ嫌われても、辛いことがあっても……嫌うことなんてできないんだよ」
心
「そうなのかしら……」
静香
「そうだよ……」
心
「だとしたら、せいかは私に似てばかなのね。駄目だと分かっていて家族になるんだから」
静香
「うん……そうだね、おんなじだ」
静香
「でも、親子だもん。しかたないよ」
静香
「ぼくも、母さんも……ばかだったね…………」
そっと、母さんの手が僕に触れる。
もう動かせないはずなのに、弱々しく、それでもしっかりと僕の手を握った。
いつかのように温かくない、冷え切った手。
それなのに、今までで一番あたたかくて、僕を安心させるなにかがあった。
心
「少しだけ、勇気出たわ。あなたと話せて……よかった…………」
心
「こんなお母さんでごめんね……せいか…………」
静香
「母、さん……?」
手を握り返しても、もう遅い。
ゆっくりと目を閉じて、そのまま、開けてくれることはなかった。
つめたくて動かない手を抱いて、ただ涙を流した。
はじめて、僕のことを呼んでくれた。
僕に向かってではなかったかもしれないけれど、それでもいい。
でも、それが最後。もう二度と会えない。声を聞くことはない。
静香
「母さんは、最後まで……ずるい……僕にだけ、ありがとうって、言わせてくれない……」
静香
「ぼくも……よ、かった……っく、ぅ……よかったよ……母さん」
さいごだけど、しあわせ、みつけられた
あなたの心が分かって、僕の心も伝えられた
ありがとう……母さん
さようなら
母さんの葬式が終わった後
父さんから一冊のノートを受け取った。
所々汚れている、年期の入ったノート。
誰のものかは一目で分かった。
中を見る。最初の方はきれいだった。
産まれたばかりの我が子への愛情。
それをいつまで持ち続けられるかという不安。
それが、段々と崩れていく。
ページを進めるにつれ、字に余裕がなくなっていく。
何度も書いては消したあと。涙の染み。
何が書いてあるのか分からないほど乱暴な字。
息子を産んでしまったことに対する、呪いの言葉。
これは、母さんの心のすべてを綴ったノートだった。
何も知らないまま見れば、狂気しか感じられないだろう。
だけど、今の僕なら見方を変えられる。
ノートの汚れも、古さも、書かれた字もぜんぶ、
僕のために残されたもの。
あの人が抱え続けた苦悩。
僕はそれを胸に抱える。
書かれていることを、刻みつけるように。
最後に知ることができた、母さんの意志を
絶対に、忘れないように。
父さんは、このノートを渡せる時がきてよかったと
絞り出すような声で言った。
はじめて、この人の笑顔を見た。
母さんを一番近くで見守り続けた人。
正真正銘、僕の父親。
「これからは一緒に暮らそう」
そう提案してみた。
僕とこの人には、帰るべき場所がある。
あの人が残してくれたもの
最後に教えてくれたこと
ずっと大事にするよ
ずっと大事に、生きていくよ
ゲームテキスト形式なので背景やキャラ名の指定が残っています。
原作ゲームは18禁ですが、今作は18禁シーンを削除し全年齢版として公開します。
PCを持っていない方のために、同じく全年齢版の体験版プレイ動画もございます。
詳しくは「はとごろTIMES」のホームページをご覧下さい。
また、漫画も投稿しています。そちらも是非ご覧下さい。
《静香視点》
もう何も考えたくなかった。
考えることが辛かったから、やめてしまえば楽になると思った。
でも、そうじゃなかった。
全部をやめてしまわないと、楽になれない。
僕がすること全部、自分のためにすらならない。
《病院》
静香
「…………なんで、こんなとこに来たんだろう」
一日誰もいない自分の家にいて、結局何も決められなくて、気がついたら母さんのいる病室まで来てしまっていた。
ここから先に行く事は、もう努力じゃない。
ただ歩いていたら向かっていただけ。あの人を求めて来たわけじゃないから、何があっても辛くはない。
もう、何もしない。
《病室》
母さんはベッドのうえにいた。入ってきた僕に気づくが、身体を起こすことすらできない。
ここまで病気に侵された身体で、娘に料理を教えていた。一緒にご飯を食べて、家事をして……
どれだけ無理をしていたんだろう。
そんなことをしなければ、少しでも長く生きられたかもしれないのに。
言うべきことはたくさんあるのに、言葉が出てこない。
僕が黙ったままでいると、先に母さんの方が口を開いた。
心
「あなたは……誰?」
静香
「え…………」
その言葉は、今までのどんな酷い罵倒よりも心に突き刺さった。
心
「病室を間違えたのね……ここは個室だから、だれもいないのよ」
静香
「ま、間違えてなんて……僕は……あなたに、会いに……」
心
「私に? 変わった子ね、知らないおばさんに会いにくるなんて」
僕のことどころか、「しずか」のことも忘れてしまっている……?
……そういえば、昨日医者に説明された気がする。
末期症状のうちの一つに、記憶障害があると。
僕が最後にあんなことを言ったから、母さんの信じた愛する娘すら消えてしまったというのか。
…………でも、よかったのかもしれない。
僕なんか元々いなかった。そうすれば、誰も傷つかない。
僕に幻の娘を重ねていたという後悔をさせることもない。
これでよかった。心からそう思う。
今度はいやな気持ちにはならなかった。
それから、僕は毎日のように母さんを訪ねた。
母さんは「つい最近知り合った変わった子」として僕を見る。
冷たい態度も、最後の優しさもない。でも、そんな関係がなんだか嬉しかった。
はじめて、早乙女心という人物に触れられた気がした。
二月になり、冬も終わろうとしていた。
母さんの病状は日を重ねるにつれて悪くなっていく。
咳をすることが増えた。血を吐くようになった。顔色はいつだって悪かった。
それから、会話がだんだんとできなくなっていった。
前日の話の内容すら覚えられなくなっていった。
昔のことを、まるで今起きているかのように話すようになった。
もう何もかもが滅茶苦茶で、終わりが近いことを感じさせた。
それでも、僕は顔を見に行くことをやめなかった。
回復を信じていたわけじゃない。思い出して欲しいわけでもない。
ただ、自然と病院に足が向かった。
春が一歩手前まで近づいてきた頃。
心
「私ね……あと少しで母親になるのよ」
母さんは、そんな話をはじめた。
心
「子供がうまれるの。私の子って言えるのかは分からないけれど」
静香
「そうなんだ……おめでとう、でいいのかな?」
心
「ええ、そうね。子供は祝福されて産まれるものだもの。貴女くらいはそう言ってあげて」
母さんの記憶は段々と後退し、はじまりの時までさかのぼった。
ねえ、母さん。その子供はね、ここにいるんだよ?
祝福は……してくれなかったよね。愛せない子供で、ごめんなさい。
心
「こんなに大きくなっちゃったらもう堕ろせないって言われたわ」
静香
「産みたくなかった……?」
心
「そう言ったら産まなくて済むのかしら」
心
「殺したくもない。育てたくもない。迷っていたらいつの間にか選択肢は一つになってた」
心
「どうして子供なんてできるのかしら……望んでない子供は、できないようになればいいのに」
祝福されない子供。偶然の産物。忌々しいだけの存在。
分かっていた。もう、認めたくないなんて言わない。
僕にはもう、失うものなんてないのだから、どうでもいい。
けれど、この人の話だけは最後まで聞きたい。そう思った。
心
「隣の病室の奥さんに声をかけられたわ。四ッ橋陽子さんって人よ」
静香
「そうなんだ。どんな話をしたの?」
心
「子供を抱いていたわ。産まれたばかりなんですって」
心
「その子を見ていたら私、不安になっちゃって……取り乱してしまったの」
きっとこれは過去の話。母さんと陽子さんの出会いのことだろう。
以前父さんに、陽子さんはお前が生まれる前から全て知っていると聞かされたことがある。
心
「とても酷いことを言ってしまったわ。初めて会う人なのに」
心
「でも、あの人は私の話を親身に聞いてくれた。いい人だった」
心
「母親らしい人だわ。私とは違う。私は母親なんかになれない」
心
「今すぐお腹に包丁を突き立てて、中の子を引きずり出したいなんて思う私とは……」
静香
「男の子が生まれるのは、嫌?」
心
「嫌よ。怖いもの。怖くてたまらない……」
どれだけ話を聞いても、僕の存在が不必要だという真実は覆らない。
何度も聞かされた、産まなければよかったという言葉は、ここでも同じだった。
でも、もう何もしない。
絆なんて取り戻そうとしない。そんなもの、元からなかったんだ。
心
「あの時の警官さんが、私と結婚するって言っていたわ」
心
「きっと生まれる子供が男の子だから心配してるのね。でも、当然のことだわ」
心
「男の人なんて嫌いだけど……その申し出は断れなかった」
静香
「どうして……?」
心
「だって、きっとこの先私は、生まれてくる子に乱暴するから」
心
「男の人を見るだけで怖いの。何かをされる前に、殺してしまおうとか本気で考えてしまうほどに」
心
「この子が成長した時、きっと私は正気でいられなくなる。その時のために、あの警官さんにはいてもらうの」
僕が生まれる前から、ここまで正確に未来が思い描ける。それだけ母さんの心の傷が深かった証拠だった。
生まれた子供が何をしても、その心の傷には勝てない。
だから、僕のしてきたことには意味がない。
心
「できるだけ長くこの子を嫌いにならないよう、静香って名前にしようと思ったんだけど、あの人に反対されちゃった」
…………え?
嫌いに……ならないようって……
静香
「そ……それで、どういう名前になったの?」
心
「せいか。静香の漢字はそのままで、読み方を変えたの」
心
「漢字がそのままならいいだろうってあの人は言ったけど……どうかしらね」
心
「私は生まれてくるせいかを、きっと愛してあげられない。そう分かっているのに産むの」
心
「最低ね……母親になる資格ないわ」
静香
「でも……親になるって決めたんだ」
心
「ええ。私の心が壊れない限り」
……ああ、そうだったんだ。
母さんは、最初から僕のことを嫌っていたわけじゃなかったんだね。
たくさん悩んで、考えて、嫌いにならない努力をしてくれていた。
無駄だったけれど。
僕は、愛してもらえなかったけれど。
その心だけでも、知ることができた……
心
「でも、できればせいかには私を嫌って欲しいわ。私なんて気にせずに生きて欲しい」
静香
「……それは、無理だよ……」
心
「私がこの子を嫌うんだもの。せいかも私を嫌わないと、可哀想だわ」
静香
「可哀想かもしれないけど、できないの」
心
「どうして、そんなことを言うの?」
静香
「だって、お母さんだから。こうやって愛しながら産んでくれた、たった一人の人だから」
静香
「どれだけ嫌われても、辛いことがあっても……嫌うことなんてできないんだよ」
心
「そうなのかしら……」
静香
「そうだよ……」
心
「だとしたら、せいかは私に似てばかなのね。駄目だと分かっていて家族になるんだから」
静香
「うん……そうだね、おんなじだ」
静香
「でも、親子だもん。しかたないよ」
静香
「ぼくも、母さんも……ばかだったね…………」
そっと、母さんの手が僕に触れる。
もう動かせないはずなのに、弱々しく、それでもしっかりと僕の手を握った。
いつかのように温かくない、冷え切った手。
それなのに、今までで一番あたたかくて、僕を安心させるなにかがあった。
心
「少しだけ、勇気出たわ。あなたと話せて……よかった…………」
心
「こんなお母さんでごめんね……せいか…………」
静香
「母、さん……?」
手を握り返しても、もう遅い。
ゆっくりと目を閉じて、そのまま、開けてくれることはなかった。
つめたくて動かない手を抱いて、ただ涙を流した。
はじめて、僕のことを呼んでくれた。
僕に向かってではなかったかもしれないけれど、それでもいい。
でも、それが最後。もう二度と会えない。声を聞くことはない。
静香
「母さんは、最後まで……ずるい……僕にだけ、ありがとうって、言わせてくれない……」
静香
「ぼくも……よ、かった……っく、ぅ……よかったよ……母さん」
さいごだけど、しあわせ、みつけられた
あなたの心が分かって、僕の心も伝えられた
ありがとう……母さん
さようなら
母さんの葬式が終わった後
父さんから一冊のノートを受け取った。
所々汚れている、年期の入ったノート。
誰のものかは一目で分かった。
中を見る。最初の方はきれいだった。
産まれたばかりの我が子への愛情。
それをいつまで持ち続けられるかという不安。
それが、段々と崩れていく。
ページを進めるにつれ、字に余裕がなくなっていく。
何度も書いては消したあと。涙の染み。
何が書いてあるのか分からないほど乱暴な字。
息子を産んでしまったことに対する、呪いの言葉。
これは、母さんの心のすべてを綴ったノートだった。
何も知らないまま見れば、狂気しか感じられないだろう。
だけど、今の僕なら見方を変えられる。
ノートの汚れも、古さも、書かれた字もぜんぶ、
僕のために残されたもの。
あの人が抱え続けた苦悩。
僕はそれを胸に抱える。
書かれていることを、刻みつけるように。
最後に知ることができた、母さんの意志を
絶対に、忘れないように。
父さんは、このノートを渡せる時がきてよかったと
絞り出すような声で言った。
はじめて、この人の笑顔を見た。
母さんを一番近くで見守り続けた人。
正真正銘、僕の父親。
「これからは一緒に暮らそう」
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僕とこの人には、帰るべき場所がある。
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