白き時を越えて

蒼(あお)

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第1章:屋上にて

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「柊! おっそい!! この馬鹿!」
「……誰だ、お前は」
ずかずかと歩いてきた女の子に怒鳴りつけられて、
先生はきょとんとしている。

「あんたの捜し人だっちゅーに!!
 わからない!? ほんっとーに分からない!?」

「まさかアンタは別柊とか、そういうオチ!?
 どんだけ苦労しなきゃならないのよ、私!」
その生徒は、
先生とよく分からない会話を繰り広げている。

いや、先生も状況が飲み込めず
困っているように見えるが
それはさっきの私と似たような状態だろう。

うん、私はもう帰っても大丈夫そうだ。
私はその場を立ち去ろうとした。

「あ、ちょっと待ってよ、華菜ちゃん」
去ろうとする私を、さっきの生徒が呼び止めた。
「あの……私たちって、そんな仲?」
振り返った私は、
きっと機嫌の悪そうな顔だと思う。
下の名前を呼ばれたのが気になるから。
私を下の名前で呼ぶような子は……
いなくなった綾くらいのはず。

「あ、ごめーん。
 でも、そんな仲っちゃあそんな仲!
 気になるのなら時丘さんでもいいけど」
「じゃあ時丘さんで」
親しくなった覚えもない子にいきなり、
下の名前で呼ばれても困る。

しかし、星川さんってこんな人だったのか。
私も、目立つ人を華麗にスルーしたものだ。
よっぽど他人に興味がなかったんだなぁ。

……あの子、以外の他人に。

「分からないかも知れないけど、
 私、いちおう星川 千春な!
 分からないとは思うけど」

やけにそれを強調するんだね。

「……クラスメートじゃないの?」
「え、わかる? わかっちゃう?」
「いや、そんな名前の人がいたなぁと」
先生といいこの子といい、一体なんなのだ。

「……は? ちはる……千春なのか!?
 本当か!?」
先生が、星川さんの自己紹介を聞いて
なにやら驚いている。

「試して見るか、こら」
星川さんは、拳を握った。
「その暴力的な態度……間違いない」
「そこで判断するんかい」
「現時点では他の要素がない」
真顔で答える先生。

「顔とか声とか仕草とかいくらでもあるでしょーが!!」

……先生は結局、星川さんに殴られた。

うーん、いい音だ。

「うむ、やっぱり間違いない」
「その変な態度!
 そっちも間違いなさそうですなぁ!
 あはははは!!」
このふたりは今の一撃で何かを確認しあったようだ。
ふたりはやっぱり、恋人的なアレなのだろうか?
高校生と教育実習の先生なら、
歳もそうは離れていないし……。

「まさか、セーラー服がそんなに似合うとはな」
「自分でもびっくりだわ。
 この歳でセーラー服は無いわー、
 絶対浮くから嫌だー、って思ってたのに」
……この歳って、同じクラスなら
星川さんは17歳じゃないの?

「千春は元から、若く見える方だ」

「褒めても何も出ないけどねー、
 褒めてないのも分かってるけどもー」

私、ここにいる必要、ないよね?
なんで星川さんは呼び止めたんだろうか。
まさか、見せつけるためとか?
だとしたら、やっぱり相手を間違ってると思うけれど。
私は恋とか、興味ないし……。

私はそっと、この場を立ち去ろうとした。

「うわー、待って待って待って!
 メインが帰るのは無し!!」
「私、ここにいる必要、無いと思うんだけど」

その時、予鈴のチャイムが鳴った。
面白そうにこちらを見ていた子達も
この屋上から去っていく。

「時丘さんに話があるんだよ」
「でも、予鈴も鳴ったし」
「5分も掛からない話だから!」
いったい、何の話があるというのだ。
「教室に帰るのに2分かかる。
 3分で済ませて」

「カップ麺か!!」
変なツッコミを入れる時間があるのなら
本当にさっさと本題を話して欲しい。

「綾ちゃん……中井 綾さん。……捜してるでしょ?」

時が、止まった気がした。

綾。
中井 綾。
神隠し事件に巻き込まれて消えてしまった、私の親友。

……諦めてしまっていた。
だから、捜してはいなかった。
でも……もう一度会いたいと、思っていた……。

「何の話?」
私だけが生き残ったことに対する思いから来る
嫌がらせのつもりなら、やめてほしい。

「知ってるよ。どこにいるのか」
本当に、やめて。
私だって、自分だけが助かりたかった訳じゃない。

「よせ、千春。相手が混乱している」
「そうは言っても、穴を開ける回数は
 少ない方がいいでしょ?」
「それは……」

綾……綾。本当に、生きているの?

「綾ちゃんはね、ちょっと変わった穴の向こうにいるよ」
「私、冗談聞いてる余裕無い」
……本音だった。

「言葉であれこれ説明するより、
 実際見た方が早いと思うんだよね。
 で、元に戻すのも早いほうがいいし。
 どうする?」
突然『どうする?』なんて聞かれたって……。

「穴を通って綾ちゃんと会うかどうかってこと」
「何が何だか……」

「分からないんでしょ? でも、通れば分かる」
「そんなこと言われても……」


「…………」

私は何も答えなかった。
冗談にしては悪質すぎるけれど
冗談だと断定するには情報が足りないし
かといって信じるにも情報が足りないからだ。

つまり、選べない。
どうしようもない。

ああ、いつも通りの状況だな……。

「さすがに、
 すぐに答えを出すのは無理かー……」

星川さんが困った顔をしている。

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