白き時を越えて

蒼(あお)

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第3章:すれ違う心

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とんでもない話を聞かされたと思う。

でも、それでも……
私のために、
自分の友達と私たちの為だけに
動いてくれていた人がいたなんて。

柊さんはきっと
別の私の幻影を追っているだけだろうけど
そうだとしても。

知らない誰かが
ずっと私を見守っていた。
そう考えると、胸がどきどきした。

この感情が何なのか、
私はもちろん知っている。

それに気づかないほど
私は漫画的に鈍感ではない。

そして、この思いが
報われないことも分かっている。

だって、あの人が見ているのは別の私。
死んでしまった、
別の“時丘 華菜”だもの……。


私と綾は、とりあえずこの世界に留まることにした。
滅亡に付き合うつもりは
さすがに無いけれど
もし千秋さん達がいい方法を思いついてくれたら
確実に助かるかも知れないし。

私だって綾だって……
死ぬ可能性の方が高いところへは戻りたくない。


お互い、ちょっとひとりになって
気持ちを落ち着けよう……という話になったので
今はひとりで基地の中をうろうろしていた。
あまり遠くに行くと、
メンテナンスをしていないので
危ないと言われたから、
知っているところだけを歩くように注意しながら。


行けるところには窓が無くて
ここが海の底だなんて
やっぱり思えないけれど
金属の壁には近未来的な何かを感じる。
過去が少し変わったら、
私の世界もこうなっていたかも知れないんだ。

滅亡は御免だけど、科学文明が発展した
こういう世界って、ちょっと格好いいよね。

この時代の私や綾は
“移住完了”しているから、
理論上は私がここにいても問題ないはずらしい。

あるとすれば、元の世界で
私が失踪してしまっている、ということか。

そんなことを考えていると
段々こちらの世界にも慣れてきた気がしたので
居住区域に帰ろうと、廊下を歩いているときだった。

私の目に、柊さんの姿が飛び込んできたのは。


居住区の扉は、ロックが外されているので
開きっぱなしになっていて。
でも、それを開いた主は中へ入る前に
力尽き、倒れてしまったのだろう。



「……柊さん!?」
私は柊さんに駆け寄った。

「あの、しっかりしてください!
 綾ー! 誰かー!! 誰か来て!!」

汗をかいているようだったので、
拭いてあげないと、と思った。
ポケットから出したハンカチを
彼の額に当てたとき、
柊さんの腕がゆっくりと動いて……
私の制服の袖を、掴んだ。

「……誰も、呼ばないでくれないか」
弱々しい声だった。

「変な意地、張ってる場合ですか」
「……ちがう」
「そんなこと言って。男の人って、変ですね」
私は焦りと切なさを同時に抱いた、
おかしな精神状態になっていた。

「ちがうものは、ちがう」
「じゃあ、何ですか?」
「誰か来たら……ふたりきりでは
 無くなってしまうだろう?」
柊さんが、微笑む。

「……っ!!」
その言葉に、私は腹が立った。
正直、相手が病人でなければ
そのまま立ち去ったかも知れない。

この人は、死んでしまった別の私と
私を重ねているだけだ。
そして、そうなることは最初から理解はしていた。
分かっていたのに、
一瞬でもときめいた、私が馬鹿だった!!


その後はお互い無言になってしまった。
私は、拭いても拭いても止まらない
柊さんの汗を拭きながら、
誰かが来るのを待った。


「誰か叫んだか……って柊と華菜ちゃん!?」
駆けつけてくれたのは、空山さんだった。

「ここに倒れているのを、私がたまたま……」
私と柊さんを見下ろす空山さんは、
青ざめていた。
やはり、久しぶりに会えた友人が
再会するなり倒れたのがショックなんだろう。


「…………」
「あの、空山さん。後をお任せしてもいいですか?
 私じゃ、どうにもなりませんし」
「…………」

「……え? お?
 お、おう。当たり前だ。後は俺に任せとけ」
空山さんはかがむと、
倒れている柊さんに肩を貸すようにして担いで
そのまま居住区域の方へ歩いていった。

私はその後ろ姿を、切ない気持ちで見つめていた。
空山さんも不安そうだったし、
本当は一緒に行った方が良いのかも知れない。

でも、私の心は
そこまで広くは、ない……。
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