白き時を越えて

蒼(あお)

文字の大きさ
107 / 179
第5章:華菜と柊

しおりを挟む
私は千春さんの時間帯……
つまり千秋さんとは別の時間帯の
モニタリングを担当している。

千春さんのペアといえば
ついこの間までは空山さんと
決まっていた(らしい)のだが、
私と綾が来たこと、柊さんが戻ってきたこと、
綾が前線へ出るようになったこと……
色々な事が重なって、
その決まりも少し変わった。

仕事が速く有能な
千秋さんは今まで通り、基本ひとりで。

交代で入るのが、
見習い同然の私と、健康状態に問題のある柊さん。
弱っていても知識は確か、
健康でやる気もあるけど知識はまだまだ、
そんなふたりが組めば
千秋さんの8割くらいは
動けるのではないかと、
空山さんが提案してくれたのだ。

8割は買い被り過ぎだと思うけれど、
空山さんの期待と好意が含まれた
数字なのだと思っている。

彼には、他の狙いもあるのかもしれないけれど、
私は気にしないようにしていた。

空山さんと綾は基本休みになったけれど
毎日昼間になるとお茶を出しに来てくれる。
ふたりはお付き合いを始めたが、
それを見せつけるようなこともなく、
ただ仲間として私たちの前では振る舞っていた。

……いや、ただの仲間よりはちょっと
仲が良さそうに見えるけど。


深夜の今は柊さんとふたりきりで。
お互い、会話も干渉もすることのないまま
作業をしている日が多い。

私にとっては好都合だった。


柊さんに苦手意識があるからではなく、
個人的に、彼らには知られずに
知りたい情報があったからだ。


私は英語が苦手だ。
でも、これは暗号か何かだ、
言葉のパズルだと言い聞かせてなんとか覚えた。
未だにコマンドの入力を間違うことも多いけれど、
有事の際の操作は大抵、柊さんが変わってくれるから
問題は起こっていなかった。


(ああ、やっぱり……)
目的のデータを見つけた私は、そう感じた。

(だとしたら、あるいは……)
考え方を変えれば、みんな助かるかもしれない、とも。

このデータさえ見つかれば、
あとは難しいことを考える必要は無かった。
ただ、タイミングを待つだけで良いはずだった。

あの人達は、自分を犠牲にしすぎる。
だから、選ぶ余地もないようなタイミングで
この方法が使えることを告げれば……
きっと驚くだろう。

でも本当は諦めの悪い人達だから
なんとなく挑戦してしまうだろうと。

あとは時を待つだけだ。

そう思って、安心したせいだろうか……。
あろうことか、私はうたた寝してしまったのだ。

大切な画面は、そのままで。

座ったまま眠りに落ちた私は、
ガタン、と大きな音を立てて
キーボードに顔を叩き付けたらしい。
そこで目覚めない私が悪かったのだけど、
それに驚いた柊さんは
私のところへすぐ来てくれて……
そして、画面に映し出されていたものを見てしまった。

「……ん…あれ?」
気が付いた私は、
いつも空山さんが座っていた椅子に
寝かされていて。

「……気が付いたか。一度戻って、休め」
柊さんがモニタから視線を外さずに、言う。

「いえ、もうよく寝たから大丈夫です。
 それより私、変な寝方しちゃいましたよね?
 ごめんなさい、お見苦しいところを」

「俺の方がもっと見苦しいところを
 貴女に見られている、気にするな」

あ、ちょっと気にしてるんだ……あのこと。
そりゃ、男の人だものね。

空山さんからある程度、
真実を教えてもらっていた私は、
その件で怒る気もう無くなっていた。

しかし、個人的に……
この人に惹かれる要素がない。
違う私は、何を思ってこの人に惚れたんだろう。


「じゃあ、私もお仕事続けます」
そう言って、席に戻ろうとしたとき

「……大丈夫ではない!」
と、柊さんに怒鳴りつけられた。

彼は私の所に歩み寄ってきて、
私を睨み付ける。

「……平気ですよ、勉強中に居眠りする学生なんて
 私の世界じゃ珍しくないです」
柊さんはまた、違う私と私を重ねているのだろう。
ただの居眠りを、疲れを溜め込んでいると
勘違いしたのだろう。

「何を企んでいる!? 何を考えている!?
 何故、あのデータに辿り着いた?」
まだ怒鳴る柊さん。



あー、そう来たか。そっちに反応しちゃったか。
ふふん、こういう場合の対策も
ちゃんと考えてある。

「……え、何のことですか?」
私は英語を言語としては理解できていないのだから
しらを切ればいいのだ。

「あれは…あのデータは……」
「何か、おかしなものが表示されてましたか?
 ごめんなさい、眠たくて覚えてません。
 また操作、間違っちゃったのかな……」
私は目元をこする。

「あれは高度な暗号を解かないと……
 そして意図的にあれを探してでもいないかぎり
 辿り着けないデータだ。
 ……ごまかそうとするな」

さすがだなぁ、
うん、見つけるのに結構苦労したよ。

「私、パズルとか得意なんです。
 苦手な言語をそれと同じ感覚で
 習得もしてないのに使ってるから
 たまたまそこに迷い込んだだけ
 じゃないですか?」

「……本当か?」

「本当ですよ」

今、ばれる訳にはいかない。

「そうか……なら、
 事故の起こらないよう、
 俺からその内容を教えておこう」

「……え?」

え、ちょっと待って。
機密情報だから、部外者の私たちには
隠すべきものではないの?

ここでばらされたら……
台無し、なんだけど……。

「あれは」

どうしよう、どうしよう。
こう来るとは思わなかった……!

お願い、胸に秘めておいて。
私は何も知らないってことにしておいて。

「あれは未来から得た技術情報だ。
 過去も未来も、現在さえも曖昧なこの宇宙で
 何を未来と呼べばいいのかは分からないが……
 未来から得た情報なのだ」

…言われて、しまった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...