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第一章

二人目の仲間は調査員(斥候)

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 さて、次にやることは調査員の確保だ

 朝にギースさんと面接した際に聞いた追放対象となるステーレンと言う男の情報の裏取りをするための調査員が必要だ

 斥候部門から人を借りるか引き抜く

 さっきギルド長からそのための手紙も貰ったしスムーズにいけば良いんだけど

 斥候部門は簡単に言えば冒険中に魔物の痕跡、護衛中に不審なものをいち早く見つける役のスペシャリストの集まりだ

 中には自身の痕跡も残さないような人たちがいるらしい

 そんな集団の隊長が



「やぁやぁ待ってたよー」



 斥候部門の部屋に入ろうとしてドアノブの手をかけた僕の後ろに気づいたらいた





「音を立てずに後ろに立つのは金輪際やめてください」



 さっきは突然のことに軽い悲鳴を上げてしまった



「ごめんごめん、いつ気付くかなーって思ってたんだけどねー」

「いつ気付くかっていつから後ろにいたんですか」

「君が追放部門の部屋を出てうちの部門まで来るまでかなー」

「もうしないで!!」

「あははははは」



 僕ってそんなにからかいやすいんだろうか

 そんな風に僕を玩具にしているのは斥候部門隊長のハイムリッヒさんだ

 いつも同じ仮面、フード付きローブ、足袋で過ごしていて、ドアをかがまないと通れないくらいの長身である

 素顔は斥候部門の人でも見たことが無いらしい

 こんなにでかい人がなぜ存在感を感じないのか

 それは



「この仮面とローブと足袋はダンジョン産のお宝だからねー

 隠れやすくなる効果が付いてるんだー」



 表情すら読まれて僕の代わりに説明してくれる

 ダンジョンでは大抵魔物の素材を採集しに行くが奥の方では宝箱が出現することもある

 その中身は大抵金貨や銀貨、骨とう品などの金銭価値のあるもの

 しかし稀に希少な魔物を倒したりすると効果付きのアイテムが入ってることがある

 それを3つも持っているこの人はやはりすごい



「3つだけじゃないんだけどねー

 隠れる技術もあるからそう簡単には見つけられないよー」



 ・・・もう何も言わなくてもすべて察してくれそうだなこの方は

 そして懐に入れていたはずのギルド長の手紙を読んでいる

 何でもありかよ!!



「なるほどねー調査員が欲しいわけかー」

「ええ、そうなんです

 僕やもう一人の部下では情報の裏取りなどできませんから

 本人から直接追放になる理由を聞くわけにもいかないですし・・・」

「うん、それならちょうど役に立てそうな子が一人いるんだー」



 ほうほう

 この人が言うなら間違いなさそうだ

 ハイムリッヒさんがおもむろに右手を上げ指を鳴らす



「ラビヤー!」



 え、かっこいい

 そのしぐさはまさに自然

 物語に出てくるようなしぐさだった

 ならば次の展開は・・・?



「なんですか隊長」



 すたすたと部屋の奥から兎人の女性がやってくる

 彼女もなかなかの長身

 ・・・天井裏から急に現れるとか、煙と同時に出現するとかそういう事はありませんでした



「ラビヤー、君を追放部門へと追放する!」

「はぁ?」

「なんですって?」

 ハイムリッヒがラビヤーと呼ばれた女性に指を差し、高らかに宣言した

 彼が急にそんなことを言うとは思っていなかった彼女と僕は思わず聞き返してしまった



「この子はラビヤーって言うんだ

 仲良くしてあげてねー」

「え・・・あのラビヤーと申します」

「あ、追放部門隊長のマークですよろしく」

「硬いなー二人とも」

「無茶言わないでください、急にあんなこと言われたら誰だってそうなります」



 僕はハイムリッヒさんに抗議する

 ラビヤーも急展開についていけてないようだ

 彼女の頭の上に疑問符が見えるようだ



「ラビヤー、新しい部門の事は知ってるよね」

「ええ、午前中に隊長が話していましたけど」

「そこの部門で調査員が欲しいんだって、君を送り出そうかと思ってね」

「追放じゃ・・・無いんですよね?」



 まぁそこは確認したいだろう

 追放部門の隊長と自分の部門の隊長が話をしていていきなり追放だなんて言われたら仕事を辞めろって事だと思ってしまう



「さっきのは冗談だよー」

「良かったぁ・・・」



 ラビヤーが胸を撫で下ろす



「でもここ最近の君の評判がちょっとねー」

「えっ?」



 おっと?

 風向きが変わってきた



「聞いてよマーク君

 この子気配消したり聞き耳立てたりはすごく上手いんだよー

 僕もそこは認めてるんだー」

「隊長・・・」



 彼女は嬉しそうにハイムリッヒさんを見つめている

「だけど種族柄なのか機嫌が悪くなったり緊張が過ぎると地面をダンダン足踏みする癖があってねー

 最近それで何度か仕事に失敗してるんだよねー」

「うぅ・・・」



 すごい

 結構な高さまで上げて落とすこの所業

 これはマネできる人は限られるな



「ちょっとこのまま君に仕事を任せるのが厳しくなってきたところで丁度良く新部門の設立があったわけさー」



 もしかしてうちの追放部門は追放するだけじゃなくて

 追放される人の新しい仕事場になるんじゃないのか・・・?

 ハイムリッヒさんがこっちを見て肩を震わせている

 多分あれは笑っているぞ

 間違いない



「っていうわけでーマーク君、この子を頼んだよー」



 そんなわけって・・・

 ラビヤーは納得しているのだろうか

 目に見えて落ち込んでいる彼女に聞いてみよう



「ラビヤー、君は良いのかい?うちの部門に来てもらっても」

「はい・・・確かにここ最近癖が酷くなってて仕事に支障が出ていたんです

 正直別の仕事も考えていたところでしたので新しくお仕事が貰えるなら嬉しいです」

「わかった、じゃあこれからよろしく頼むよ」



 追放部門に新しく調査員が加わることとなった
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