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第二章

アントンの調査2

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「もうコーヒーはしばらくいいかな・・・」

 一週間の仕事を話し終えた僕はそう呟いた
 毎日のようにコーヒーをがぶ飲みしてたんだ
 一応ミルク多めとか砂糖無しとかいろいろ試した
 会話を聞いている間に眠くならないように食事を抜いていたからコーヒーだけ飲んでたんだよ・・・
 遠い目をしながらお茶を啜る

「しばらくは紅茶を出しますねぇ」
「ありがとうニーナ」

 やっぱりいい子だ
 僕がニーナに癒されていると

「得た情報は『シルクの寝間着』と『染み付き防具』ですね」

 ラビヤーは真面目に質問してくる
 僕もちゃんとしなきゃ・・・

「なんかそうやって言うと汚い防具みたいですねぇ・・・」
「どこの部位なんですか?」
「皮の軽鎧らしくて、胸と肩当てだって
 これが見つかればいい証拠になりそうだけど・・・」

 もしアントンが家に持ち帰ったのだとしたら、家に置いてあるかもしれない
 防具はともかく『シルクの寝間着』なんて奥さんにプレゼントでもしてそうな気もする
 売っていたらその証拠をどうにか探さなければならないが

「アントンさんは真面目に仕事していると証言があるんですよね?」
「ああ、僕とヒロミさんが聞いた限りでは対人に問題は無いらしいね
 むしろ好評だったみたい」
「横領を隠すための演技なのか、それともそういう性分なのか・・・
 どっちにしろ調べなければなりませんね」

 次に調べるのはアントンの周辺・・・家族や自宅などの予定である
 ラビヤーには家に行ってきてもらいたいんだが・・・

「追放対象の家に侵入するのは証拠に使えそうに無いんだよなぁ」
「とりあえず家族やプライベートを調べますよ」
「よろしく、僕とニーナは『ダイス』について調べてみる
 本当に存在するのかわからないけど」

 次の方針が決まった
 また1週間、頑張ろう



「やぁ、二人ともおはよう、そして1週間お疲れさま」

 1週間が経ち、集めてきた情報を吟味する時間である

「ダイスの調査の件なんだけど・・・ダイスは存在したよ」
「あら、本当にいたんですね」
「うん、彼はアントンの昔の仕事仲間だった
 彼の素性を今から説明するね」

 ダイスは実在した
 アントンの御者をやっていた時の同期だった
 ダイスはアントンが『王都良品』を辞めた後もずっと仕事を続けていた
 しかし、数年前に仕事の息抜きでギャンブルにハマってしまう
 しかも生活費をかなりつぎ込んでいたようだ
 そのまま借金漬けの生活になり仕事も粗くなり、最近は評判が悪い
 何度か捕縛歴もあるが誰かが金を払いすぐに釈放されているようだ

「こんな感じだよ」
「アントンと接触はあるんでしょうかぁ」
「その話は後で私がしましょう」

 ラビヤーがニーナの疑問に答える
 いや、ほぼ答え言ってるようなもんじゃないか

「誰かが保釈金を払っていると・・・」
「あの・・・それも・・・」
「あっうん」

 気まずい・・・
 空気を換えて違う話にしよう

「じゃ、じゃあ次はラビヤーの報告を聞こうか」

 彼女の担当はアントンの周辺とプライベートである
 仕事を真面目にしていたとしても横領が本当ならば金遣いが荒くなっていたり借金があったりと、何かしらほころびがあるかもしれない
 ラビヤーが咳払いを一つして話始める

「彼について調べて分かったことは・・・
 彼の娘が病にかかっていることです」
「なんだって?」

 もしや横領の原因はそれなのか?

「彼の娘・・・ルリといいますが、この子はスライム肺炎に犯されているんです」

 スライム肺炎とは、スライムに襲われた人がなる後遺症から発生する病だ
 スライムは体当たり、消化液などで襲って来る
 しかし弱いスライムは消化液が出せなかったり身体に弾力が無い
 そのため獲物の頭に飛びつき窒息させて殺そうとしてくる
 しっかりと口を塞ぎ、拭えば割と簡単に取れるのだが油断していると口に入ってしまう
 その時に飲み込んでしまい、気管に入るとスライムの持っていた菌などで肺炎になってしまうのだ

「滅多に起きない病だから普通のポーションも回復術も効かないんだよね?」
「ええ、定期的に薬を摂取して、加湿した部屋や空気の澄んでいる環境にしばらくいないと治らないと言われていますね」
「まさかそんな珍しい病気だなんてぇ・・・」
「そのために金が必要だったんだろう」

 子供のためなら何でもするのが親だ
 治療費もかかるだろう

「それで、さっきの話に戻りますがアントンはよくダイスの家に出入りしていました」
「そうなんだ」
「はい、しかも先ほどの話にあった保釈金ですが・・・
 これもアントンが払っていたみたいです
 禁固牢の警備詰め所にアントンが出入りしているところも見ました」
「何か弱みでも掴まれてるのかな」
「そこまでは分かりませんが、ダイスの家から出てくるアントンの顔色はひどく悪かったです」
「アントンが脅されている可能性も否定できなくなってきたね」

 いったい何が両者の間にあるのだろうか

 まだ情報が足りないとは思わなかった


 その時、追放部門の扉を叩く音が響く
 そこに現れたのは、ここに来るとは追放部門の誰もが考えつかなかった人物だった
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