死に戻り公爵令嬢の逆襲~私を殺したお姉様へ。あなたの幸せは私が必ず奪います~

Kore

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第一章~儚い絆~

闇市場潜入!

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時刻は夜の八時を回るとこ。

夕食を食べ終え、家族が各々の時間を過ごす中、私は周囲を警戒しながらこっそりと部屋を抜け出す。

幸い通路には人通りがなく、まるで泥棒みたいにこそこそ物陰に隠れながら私は地下にある食糧庫を目指す。


それから、極力物音を立てず、最後に周囲をよく確認してから食糧庫の扉をゆっくりと開け、そっと扉を閉めた途端肩の力が一気に抜け落ち、思わずその場でしゃがみ込んでしまった。

とりあえず、なんとかここまで来れた。

ここに来るまで、どれだけ神経をすり減らしたことか。

おそらく、誰にも見られていないはずだから、大丈夫だと思うけど……。


ひとまず、気持ちを落ち着かせるために何度か深呼吸をすると、食料棚脇にある木箱の前に立つ。

そして、一つ一つそれをどかすと、薄暗い部屋の中できらりと光る金色の丸い印。

そこを恐る恐る指で押すと、あの時みたいに地響きが鳴り響き、煉瓦で出来た壁がゆっくりと動き出す。

そこから現れた真っ暗闇な入り口。

出来ることなら本当に外に繋がるのか確かめてみたかったけど、あまり頻繁に出入りすると怪しまれそうで、出たとこ勝負になってしまった。

もしかしたら、本当に罠かもしれない。
でも、それは行ってみないと分からない。

どっと押し寄せてくる不安と緊張の波。

しかも通路は灯一つない為、先の見えない暗闇が更に恐怖心を掻き立て、足が尋常じゃないくらい震えだす。


でも、行かなきゃ。

果たして、この先に自分の求めているものがあるのか分からないけど、行ってみないことには何も始まらない。

そう自分を奮い立たせると、私は首にかけているお守りのネックレスを強く握り締め、再び大きく深呼吸をした後、ゆっくりと隠し通路に足を踏み入れた。



通路は人一人がようやく通れるような広さで、歩く度に足音がこだまする。

灯となるのは今手に持っている蝋燭くらいで、視線の先は飲み込まれてしまいそうな暗闇が果てしなく続き、空気が冷たく、いかにもこの世ならざるものが出てきそうな雰囲気。

もしこのまま閉じ込められてしまったら、絶対に生きては帰ってこれない気がして。
そんなことを考えると余計に恐怖が増幅し、私は無理矢理邪念を振り払った。


それから、暫く歩いていると正面から仄かな風が吹き抜けてきて、真っ暗闇だった通路が徐々に明るくなり始める。

そして、突き当たりを曲がったところで、うっすらだった明かりが一気に広がり、目の前には満点の星空が飛び込んできた。


「……で、出られた!」

半分死を覚悟していたけど、無事に外に抜け出すことが出来、私は恐怖と緊張の開放感から自然と涙が浮かび上がる。

抜けた先はお姉様の言う通り、塀の外を乗り越えたお屋敷の裏に生えている雑木林の中。

ここも家の敷地内なので、勝手に侵入されることはないだろうけど、まさかここからお屋敷に繋がるなんて誰も思わないだろう。


一先ず外に出る前にもう一度周囲を警戒してから、私は小走りで雑木林を抜け、待ち合わせ場所である市街地へと向かった。



◇◇◇


「こんにちは、ラグナス家のお嬢さん。まさか本当に来るとは正直思っていなかったよ」

待ち合わせ時間丁度。
市街地にある大きな噴水の前に到着した途端、背後から若い女の人に声を掛けられ、私は目を大きく見開き、勢いよく振り返る。

「よ、よく私だって分かりましたね」

受け付のお姉さんに言われた通り町民の格好に扮し、フードとメガネまで掛けてきたと言うのに、即バレてしまい動揺を隠しきれない。

「あー。私って人を見分けるの得意なんだよね。大丈夫。傍から見れば分からないから、その格好でいいと思うよ」

自信ある変装を一瞬で見破った人にそう言われても、あまり説得力がないような……。

とりあえず、”大丈夫”という言葉に胸を撫で下ろすと、改めて目の間の人物に目を向けた。


護衛というから、てっきり強面な男性が来るかと思いきや。まさかの若い女性とは。

赤髪のベリーショートで身長もそこそこに高く、ビー玉のように綺麗で透き通った大きなエメラルド色の目と、色白の肌。
羨ましい程の長い睫毛と、ツンと高い筋の通った鼻に、ショートパンツからすらりと伸びた長い足。

こんな美人でスタイルのいい人がギルドの人間だなんて、とても想像がつかないけど、細身の割に体が良い具合に引き締まっていて、頼り甲斐はありそう。


私は暫く赤髪の女性に見惚れていると、そんな私の反応を面白がるように彼女はくすくすと小さく笑い出した。

「あたしみたいなのが来て意外だって顔してるね。安心して。これでも腕には自信あるから」

すると、思っていたことをズバリ言い当てられてしまい、私は何も言い返せない。

「あたしのことはリリスって呼んで。あなたのこともクレスって呼ばせてもらうから」

しかし、リリスさんは特に気に留めることなく。
綺麗な顔立ちとは裏腹に、少女のように花が綻ぶ可愛らしい笑顔で片手を差し出してきた。

「はい。よろしくお願いします。」

その笑顔に緊張が解れ、私も自然と笑みが溢れる。


「それにしても、年若な公爵令嬢がよくこんな遅い時間に外出れたね。お宅の門限はそんなに緩いの?」

軽い挨拶を済ませた後、早速鋭い所を突っ込まれ、私はこの際だからリリさんにも事情を説明しようと、ここに来るまでの経緯を包み隠さず話した。




「ふーん。確かに、それは匂うね」

「はい……。もしかしたら、お姉様は私の行動をどこかで監視しているかもしれません。あくまでただの憶測でしかないですが……」

度重なる私の外出を怪しんでいたし、頭の回転が早いお姉様なら何か勘付いているかもしれない。

仮にそうだとしたら、今この瞬間も危うい気がして段々と不安になってくる。


「とりあえず、あんたの心境は分かったけどさ。そもそも何でそんな状況になってるわけ?」

すると、すかさず最もな指摘をされてしまい、私はぎくりと肩が震えた。


確かに。

いきなりこんなことを言われても、その要因を話さなければただ混乱させるだけなのに。
 
それは、分かっているけど。
それでも、今はまだ………。


「…………ごめんなさい。身勝手で申し訳ないですが、それはお話出来ません」

話したくても話せないもどかしさと罪悪感に苛まれ、私は視線を足下に落とす。

「そっ。よく分かんないけど複雑な事情があるのは分かったわ。まあ、今日初めて会った人間に話せっていうのも無理があるしね。とりあえず、時間も限られてるし早く行くよ」

けど、リリスさんはこちらの状況をあっさり飲み込むと、それ以上深く追求することなく、足早に裏路地の方へと歩き出していった。


なんて、物分かりのいい人なんだろう……。
おかげで、気持ちが少しだけ楽になる。

彼女の竹を割ったような性格に救われながら、私も慌ててリリスさんの後を追うと、私達はどんどん人気のない場所へと向かっていった。 


◇◇◇


「……ここが闇市場の入口なんですか?」

リリスさんに連れて来られたのは、裏路地の突き当たりにある小さなお店の前。

そこには看板がなく、建物の周りにも物が何一つ置かれていないので、初見の人はここがお店だとは絶対に気付かないと思う。

そんな商売を放棄したような場所と闇市場がどう繋がるのか全く分からない。

辺りを見渡しても家が点在しているくらいだし、市場があるにしてはあまりにも人が居なさ過ぎる。

まさか、この数人くらいしか入れないようなお店のことを“市場”と言っているのだろうか……。


「中に入れば分かるよ。あと、これ持ってて」

疑心暗鬼になっている私とは裏腹に。
リリスさんは意気揚々とした面持ちで、文字が書かれた一枚のカードを渡してきた。

「これは?」

「闇市場の通行証。これがあれば簡単に出入りが出来るから。まあ、偽造だけどね」

そう言って悪びれる様子もなく、けらけらと笑う姿に私は唖然とする。

「そ、そんな!もしバレたら大変なことになるのでは……!?」

「大丈夫。あたし、あんたと同じような依頼でここ何回か来たことあるし、怪しまれることはないよ」

それから、躊躇うことなくリリスさんは自信満々にお店の中に入ると、そこには目つきの悪いおじさんが一人カウンターの椅子に座っていた。


「よおギルドの姉ちゃん久しぶりだな。今回もまた仕事か?」

そして私達の姿を見るや否や。
警戒するどころか、あっさりと迎え入れてくれて何だか拍子抜けしてしまう。

「そう。今日はこの子のお守り役。一見さんだからね」

「へえー。こんな華奢な若いお嬢ちゃんがねえ。人は見掛けによらねーな」

どうやら、見た目とは裏腹にとても気さくな人らしく。
闇市場の入口だというのに、まるで近所のおじさんと話しているような和気藹々とした雰囲気に、私は一人置いてけぼりをくらう。

それから話の流れでリリスさんから渡された偽造の通行証を見せると、彼女が言うように、特に疑いの目を向けられることなく、すんなりと通ってしまった。


闇市場というから、もっとピリピリとした空気で厳重に警備されているのかと思いきや。
こんな簡単に入れてしまっていいものなのかと、何だか色々不安になってくる。


それよりも、ここは本当に闇市場なのだろうか。
店の棚には雑貨がちらほら並べられているだけで、売り物となるような物があまりない。


……もしかして、揶揄われてる?


そう疑い始めた時だった。


おじさんが床収納の蓋を開けると、そこには地下へと続く階段が現れ、私は度肝を抜かされる。


「……え?まさかこれが入口?」

見た限りだと相当先まで続いているようで、とても家一軒分の地下室とは思えない。

「あはは。初めは皆嬢ちゃんみたいな反応になるよ。けど、これで驚くのはまだ早いな」

それは一体どういう意味なのか。
私は最後まで訳が分からず、階段を降りていくリリスさんの後を慌てて付いていった。


ラグナス家の隠し通路と違って、壁には等間隔で明かりが照らされているので、そこまで怖い雰囲気はないけど、果たしてこの先に市場が現れるのか未だ信じられない。

それに……

「さっきの方は随分とギルドに対して寛容的なんですね。てっきり、もっと警戒してくるのかと思っていました」

「ギルドは別に警察じゃないし、表裏の人間関係なく依頼は受けるからね。流石に犯罪に加担する依頼は受けないけど。だから、あたしらはかなり顔が広いの」

そう誇らしげに話すリリスさんの言葉に納得していると、気付けば段々と道幅が広くなり始め、何やら洞窟のような場所へと辿り着いた。



「あの。もしかして、ここって地下鉱山ですか?」

奥に突き進むにつれ道はどんどん広がり、分岐点がいくつか出来始めていく中、所々にリアカーやツルハシなどが放置されていて、私は興味津々な目で周囲を見渡す。

「御名答。ここは旧鉱山でずっと放置されていた土地を闇市場の支配人が丸ごと買い取ったんだって。まさか、あのボロいお店が地下鉱山の入り口に繋がるなんて誰も思わないよねー。はい、着いたよ」

すると、目の前には全長三メートルくらいの大きい鉄門が聳え立ち、その両脇には門番が二人立っていた。

どうやら、ここでもリリスさんの顔が効くようで。
門番は彼女の姿を見ると、警戒することなくあっさり扉を開いてくれた。

その直後、眩い光が一気に視界に飛び込み、目が眩んだ私は咄嗟に顔の前で手のひらをかざす。

そして、目が慣れたところで恐る恐る手をどかすと、そこには巨大な市場が広がっていた。


「……す、凄い。これが闇市場?」

中は小さな村一つ分ありそうな規模で、煌々とライトが照らされている下、所狭しと露店が建ち並び、溢れんばかりの人で賑わっている。

ここに来るまでは人の気配なんて全くなかったのに、まるで別世界に入り込んだような錯覚を覚え、私は暫く空いた口が塞がらなかった。


「まあ、こんな場所で商売やるぐらいだから、扱っている品物の殆どが違法品だけどね。それじゃあ、例のフード男の聞き込み調査でも始めますか」

そうだった。

不思議で煌びやかな光景に思わず感動してしまったけど、そもそもここはそんな綺麗な場所じゃなかった。


私はリリスさんの言葉ではたと我に返り、本来の目的を思い出すと、改めて気を引き締め、早速フード男の情報収集を開始することにした。
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