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1.Cape jasmine
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「まだ大丈夫?」
アイスカフェラテの乗ったトレーを置いて、窓際のカウンターに腰掛けながらリツが聞いた。
昨日の約束通り、今日は放課後2人で電車に乗り、隣町に来ていた。
「昨日の残りがまだあるから、後は魚焼いて酢の物作って終わりにする」
「そっか…、お疲れ(笑)」
相変わらずの主婦発言でリツが苦笑するのに、アイスティーをストローでかき混ぜながら唇だけで微笑んで返した。
電車で30分かけて来た隣町の繁華街には、大きなファッションビルがいくつもあり、平日の夕方だというのに、沢山の人で賑わっている。地元のショッピングモールとは桁違いの人混みに疲れ、買い物を済ませた後、帰る前に一休みしようとコーヒーショップに立ち寄っていた。
しばらくは黙ったままお互いの飲み物を飲みながら、アーケードを行き交う人々を目の前の窓から見下ろしていると、ポツリとリツが呟くように言った。
「スミは、さ…、将来どうしようとか、考えてる?」
「―――将来?大学とかってこと?」
「も、含めてかな…」
リツは窓の外を眺めたまま。
私も視線を戻して人波をぼんやりと眺めた。
大学には、行こうと思えば行ける。
父は学資保険をかけてくれていたし、生活も困っていない―――と母が言っていた。
母が働いているのは、精神安定剤の代わりらしい。仕事をしていると余計なことを考えずに済むのだ、と。
でも、じゃあ大学に行くとして、その先は?
―――正直、何も浮かばなかった。
働かなければ食べていけない。
だから、何らかの仕事には就かないといけないだろうとは思うのだけど。
将来の夢とか、そんなキラキラしいものは何一つ、 今の私の中には無い。
「―――あと、3年かぁ…って、思うんだ。」
リツの言葉に顔を向けると、リツが自嘲気味に微笑みながら、ストローでカフェラテをかき混ぜている。
「せっかく“大学生と高校生”になったのに、来年には“サラリーマンと女子高生”、なんて」
援交かよって…呟くリツには、中学の時から付き合っている彼氏がいる。
キスまでしかしてないよ?という、大学生のコウさんはとても穏やかに笑う優しい人で、リツが塾からの帰り道、不審者に後をつけられて逃げ込んだコンビニの店員さんだった。
“中学生”を理由になかなか 付き合ってはもらえなかったらしいけど。
「コウさん、内定もらったんだっけ。」
「うん、インターン行ってたとこに声かけてもらったって。」
「すごいじゃん。」
「…」
視線を伏せたリツから目を逸らして、再び眼下の人波を眺めた。
「…何か、言われた?」
別に応えなくてもいい。
でも、聞いて欲しいから、誘ってきたんだろうと思う。たぶん。
「…大学は、行った方がいいって…」
小さな声だった。行かない、と伝えたんだろう。高校を出たら…と。
「大学行って、もっと色んな人に会って…」
「テンプレだね。」
バッサリと言ってやったら、ふふっとリツが笑った。
「ホントだね。」
「女子高行ってるとでも思ってんのかな?それか、試されてるとか?」
「試す?」
「最後は自分とこ帰ってくればいい、とか。ちょっと世間見て、成長しといでって、父親かってのよね。」
「あははははっ」
リツが声を上げて笑った。
「こっちは人生かけてんだから、卒業までにしっかり基盤作っといてよ!とでも言っといたら?」
言い切って、アイスティーの残りを一息に吸い込んだ。
「―――いいの、見つかって良かったね。」
「…うん。」
誕生日プレゼントは名刺入れだ。
特に何を買うでも無く、気の向くまま入った雑貨店で見つけた一点もの。革だから、使い込む程に味が出ますよ~と、店主らしき女性が言っていた。
高校生で買えるギリギリラインだったけど、作り手の拘りが感じられる品物だった。
「そろそろ行こうか?」
「うん。あ、ちょっとトイレいい?」
ついでに返してくるよ、と言ってトレーを二つとも持って行く後ろ姿を見送る。
―――アイラインは入れてなかったと思うけど、気になるんだろう。
スマートフォンで電車の時間を確認しようと視線を落とした、その時。
ふと、窓の下の人波が目に入った。
行き交う人の中、頭一つ飛び出した大きな躰。
肘の手前まで撒くったシャツの袖から伸びる腕。
肩幅の広い背中。
短く刈った少し癖のある髪。
3か月前と少しも変わらないその、姿。
―――でも、一人じゃなかった。
ズボンと同じ柄のスカートを履いた、華奢な女の子が、直ぐ隣を寄り添うように、歩いていた。
あぁ、そういえば、今日も雨だった―――と。
背中を見送りながら、ぼんやりと思った。
アイスカフェラテの乗ったトレーを置いて、窓際のカウンターに腰掛けながらリツが聞いた。
昨日の約束通り、今日は放課後2人で電車に乗り、隣町に来ていた。
「昨日の残りがまだあるから、後は魚焼いて酢の物作って終わりにする」
「そっか…、お疲れ(笑)」
相変わらずの主婦発言でリツが苦笑するのに、アイスティーをストローでかき混ぜながら唇だけで微笑んで返した。
電車で30分かけて来た隣町の繁華街には、大きなファッションビルがいくつもあり、平日の夕方だというのに、沢山の人で賑わっている。地元のショッピングモールとは桁違いの人混みに疲れ、買い物を済ませた後、帰る前に一休みしようとコーヒーショップに立ち寄っていた。
しばらくは黙ったままお互いの飲み物を飲みながら、アーケードを行き交う人々を目の前の窓から見下ろしていると、ポツリとリツが呟くように言った。
「スミは、さ…、将来どうしようとか、考えてる?」
「―――将来?大学とかってこと?」
「も、含めてかな…」
リツは窓の外を眺めたまま。
私も視線を戻して人波をぼんやりと眺めた。
大学には、行こうと思えば行ける。
父は学資保険をかけてくれていたし、生活も困っていない―――と母が言っていた。
母が働いているのは、精神安定剤の代わりらしい。仕事をしていると余計なことを考えずに済むのだ、と。
でも、じゃあ大学に行くとして、その先は?
―――正直、何も浮かばなかった。
働かなければ食べていけない。
だから、何らかの仕事には就かないといけないだろうとは思うのだけど。
将来の夢とか、そんなキラキラしいものは何一つ、 今の私の中には無い。
「―――あと、3年かぁ…って、思うんだ。」
リツの言葉に顔を向けると、リツが自嘲気味に微笑みながら、ストローでカフェラテをかき混ぜている。
「せっかく“大学生と高校生”になったのに、来年には“サラリーマンと女子高生”、なんて」
援交かよって…呟くリツには、中学の時から付き合っている彼氏がいる。
キスまでしかしてないよ?という、大学生のコウさんはとても穏やかに笑う優しい人で、リツが塾からの帰り道、不審者に後をつけられて逃げ込んだコンビニの店員さんだった。
“中学生”を理由になかなか 付き合ってはもらえなかったらしいけど。
「コウさん、内定もらったんだっけ。」
「うん、インターン行ってたとこに声かけてもらったって。」
「すごいじゃん。」
「…」
視線を伏せたリツから目を逸らして、再び眼下の人波を眺めた。
「…何か、言われた?」
別に応えなくてもいい。
でも、聞いて欲しいから、誘ってきたんだろうと思う。たぶん。
「…大学は、行った方がいいって…」
小さな声だった。行かない、と伝えたんだろう。高校を出たら…と。
「大学行って、もっと色んな人に会って…」
「テンプレだね。」
バッサリと言ってやったら、ふふっとリツが笑った。
「ホントだね。」
「女子高行ってるとでも思ってんのかな?それか、試されてるとか?」
「試す?」
「最後は自分とこ帰ってくればいい、とか。ちょっと世間見て、成長しといでって、父親かってのよね。」
「あははははっ」
リツが声を上げて笑った。
「こっちは人生かけてんだから、卒業までにしっかり基盤作っといてよ!とでも言っといたら?」
言い切って、アイスティーの残りを一息に吸い込んだ。
「―――いいの、見つかって良かったね。」
「…うん。」
誕生日プレゼントは名刺入れだ。
特に何を買うでも無く、気の向くまま入った雑貨店で見つけた一点もの。革だから、使い込む程に味が出ますよ~と、店主らしき女性が言っていた。
高校生で買えるギリギリラインだったけど、作り手の拘りが感じられる品物だった。
「そろそろ行こうか?」
「うん。あ、ちょっとトイレいい?」
ついでに返してくるよ、と言ってトレーを二つとも持って行く後ろ姿を見送る。
―――アイラインは入れてなかったと思うけど、気になるんだろう。
スマートフォンで電車の時間を確認しようと視線を落とした、その時。
ふと、窓の下の人波が目に入った。
行き交う人の中、頭一つ飛び出した大きな躰。
肘の手前まで撒くったシャツの袖から伸びる腕。
肩幅の広い背中。
短く刈った少し癖のある髪。
3か月前と少しも変わらないその、姿。
―――でも、一人じゃなかった。
ズボンと同じ柄のスカートを履いた、華奢な女の子が、直ぐ隣を寄り添うように、歩いていた。
あぁ、そういえば、今日も雨だった―――と。
背中を見送りながら、ぼんやりと思った。
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