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1.Cape jasmine
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「―――え?」
2人が揃って驚いた顔をした事に、逆に戸惑う。
そんなにおかしな事言ったかな…そう思う私の前で、ジンデ君が自分の左手に視線を落とした。
「…慣れるも何も、触ったの今日初めてだし―――もう、やらない、つもりだったし…」
そう言いながら、まだ、ボールをにぎにぎしてる。なんとも言えない、そんな顔で。だから、
「そうなんだ、勿体ないね。」
つい、言ってしまって、でもすぐちょっと後悔した。だってジンデ君は私の友達じゃない。本当なら、私が言う事じゃ無いって、わかってはいたのだけれど。
流石に顔が見れなくて、リュックを背中から下ろしながら続けた。
「硬球になったら、変化球色々投げれるんじゃないかって、楽しみにしてたから。」
「…それ、進藤が言ったのか?」
「うん、“カンダ”くん、器用だからって―――あ、」
ゴメン、と言おうとして顔を上げると、ジンデ君はこっちを見ていなかった。考え込む様に、じっ―――と、握ったボールを見つめている。
やっぱり、言うんじゃなかった…僅かな罪悪感を覚えて目を逸らし、下ろしたリュックから小さなポーチを出した。
小花模様の可愛いファブリックのそれは、去年の誕生日にもらったソーイングセットだ。
何故かしょっちゅうボタンが取れる人から、「またよろしく」と無造作に渡されたけど、実は女子に人気の海外ブランドのもので、意外に値が張ることを後から知ったっけ。…多分、かなちゃの入れ知恵だとは思うけど。
なんでいちいち思い出すのかと、そんな自分に苛立ちながら、中に入れていた木綿のボタン糸を30センチぐらいの長さの6本の束にして、ハサミで切る。
「…何してんの、それ?」
見ていたらしき先輩から不思議そうな声がかかった。
…だよね、お節介だとは自分でも思うけど仕方ない。先を玉留めのように指でくるっと丸めて結びながら苦笑いしてみせた。
「あー、ちょっと危ないかな、と思って。」
そう言って、先程の綻びたネットの穴にくくりつけ、4方向を引き寄せてぐるぐる巻いて縛り、取りあえず塞いだ。その場しのぎだけど、とりあえず今日明日で切れはしないと信じたい。ここを通っている人もそんなに多くは無いから、必要無いかもしれないけど。
なのに、おお…と先輩は感心したような声を上げた。
「スゴいね~、や、助かるよ、ありがとうっ。」
「いえ、これ木綿だし保たないと思うんで、ちゃんと直して下さいね。」
外気に晒さられば直ぐ朽ちるに違いない。ホントに応急処置でしか無いのだから、と。
それだけ言って、リュックをかけ直すと、じゃあ、と逃げる様に背中を向けた。
「あっ、あー、待って待って、ミヤマさんっっ」
焦ったような先輩の声に、反射的に振り向いた。
先輩がネットを握りながら、こっちに手を振っている。
「あのさっ、良かったら、その、マネージャー、やらない?!」
―――はい?
言われてる意味がわからない。今なんて?
「いやさ、この時間に帰ってるって事は、帰宅部、なんだよね?」
「え…、はぁ、まあ…」
確かにその通りだけど、いや、待って。さっきなんて言ってた?マネージャー…?
―――マネージャー?!
叫ばなかった自分は偉かったと思う。そのぐらい驚いた。
「あー、まぁ、うち、そんなに強くは無いんだけどさ。でも去年はベスト8までは行ったし、今年はもっと頑張るつもりで、部員も増えたし…」
「や、待ってください、そんないきなり…ムリですよ」
「でも、幼なじみ?が、野球やってたんだよね?」
何気なく言われた瞬間、身体が固まる。そうだよ、だから―――
「深山」
不意に呼び掛けられてハッとした。
顔を上げると、ジンデ君がこっちを見て、ふっ…と、微笑んだ。
「サンキュ」
言われて、瞬いた。
お礼言われるような事、何もしてない、けど…?
顔に出てたのか、ジンデ君が苦笑いしながら左手のボールに視線を落とした。
「変化球、か…」
そう言った彼の顔に、思わず頬が緩んだ。
「頑張って」
それだけ小さく呟いて背中を向けた。
ただの自己満足だとは、わかってるけど。それでも、少しだけ、自分のせいで間違った未来を修正する事が出来ていたらいい。
なんて―――
2人が揃って驚いた顔をした事に、逆に戸惑う。
そんなにおかしな事言ったかな…そう思う私の前で、ジンデ君が自分の左手に視線を落とした。
「…慣れるも何も、触ったの今日初めてだし―――もう、やらない、つもりだったし…」
そう言いながら、まだ、ボールをにぎにぎしてる。なんとも言えない、そんな顔で。だから、
「そうなんだ、勿体ないね。」
つい、言ってしまって、でもすぐちょっと後悔した。だってジンデ君は私の友達じゃない。本当なら、私が言う事じゃ無いって、わかってはいたのだけれど。
流石に顔が見れなくて、リュックを背中から下ろしながら続けた。
「硬球になったら、変化球色々投げれるんじゃないかって、楽しみにしてたから。」
「…それ、進藤が言ったのか?」
「うん、“カンダ”くん、器用だからって―――あ、」
ゴメン、と言おうとして顔を上げると、ジンデ君はこっちを見ていなかった。考え込む様に、じっ―――と、握ったボールを見つめている。
やっぱり、言うんじゃなかった…僅かな罪悪感を覚えて目を逸らし、下ろしたリュックから小さなポーチを出した。
小花模様の可愛いファブリックのそれは、去年の誕生日にもらったソーイングセットだ。
何故かしょっちゅうボタンが取れる人から、「またよろしく」と無造作に渡されたけど、実は女子に人気の海外ブランドのもので、意外に値が張ることを後から知ったっけ。…多分、かなちゃの入れ知恵だとは思うけど。
なんでいちいち思い出すのかと、そんな自分に苛立ちながら、中に入れていた木綿のボタン糸を30センチぐらいの長さの6本の束にして、ハサミで切る。
「…何してんの、それ?」
見ていたらしき先輩から不思議そうな声がかかった。
…だよね、お節介だとは自分でも思うけど仕方ない。先を玉留めのように指でくるっと丸めて結びながら苦笑いしてみせた。
「あー、ちょっと危ないかな、と思って。」
そう言って、先程の綻びたネットの穴にくくりつけ、4方向を引き寄せてぐるぐる巻いて縛り、取りあえず塞いだ。その場しのぎだけど、とりあえず今日明日で切れはしないと信じたい。ここを通っている人もそんなに多くは無いから、必要無いかもしれないけど。
なのに、おお…と先輩は感心したような声を上げた。
「スゴいね~、や、助かるよ、ありがとうっ。」
「いえ、これ木綿だし保たないと思うんで、ちゃんと直して下さいね。」
外気に晒さられば直ぐ朽ちるに違いない。ホントに応急処置でしか無いのだから、と。
それだけ言って、リュックをかけ直すと、じゃあ、と逃げる様に背中を向けた。
「あっ、あー、待って待って、ミヤマさんっっ」
焦ったような先輩の声に、反射的に振り向いた。
先輩がネットを握りながら、こっちに手を振っている。
「あのさっ、良かったら、その、マネージャー、やらない?!」
―――はい?
言われてる意味がわからない。今なんて?
「いやさ、この時間に帰ってるって事は、帰宅部、なんだよね?」
「え…、はぁ、まあ…」
確かにその通りだけど、いや、待って。さっきなんて言ってた?マネージャー…?
―――マネージャー?!
叫ばなかった自分は偉かったと思う。そのぐらい驚いた。
「あー、まぁ、うち、そんなに強くは無いんだけどさ。でも去年はベスト8までは行ったし、今年はもっと頑張るつもりで、部員も増えたし…」
「や、待ってください、そんないきなり…ムリですよ」
「でも、幼なじみ?が、野球やってたんだよね?」
何気なく言われた瞬間、身体が固まる。そうだよ、だから―――
「深山」
不意に呼び掛けられてハッとした。
顔を上げると、ジンデ君がこっちを見て、ふっ…と、微笑んだ。
「サンキュ」
言われて、瞬いた。
お礼言われるような事、何もしてない、けど…?
顔に出てたのか、ジンデ君が苦笑いしながら左手のボールに視線を落とした。
「変化球、か…」
そう言った彼の顔に、思わず頬が緩んだ。
「頑張って」
それだけ小さく呟いて背中を向けた。
ただの自己満足だとは、わかってるけど。それでも、少しだけ、自分のせいで間違った未来を修正する事が出来ていたらいい。
なんて―――
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