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1.Cape jasmine
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「えっ、お母さん? …って、いくつ…」
言いかけたところで、先輩が片手で口を塞いだ。
うん、わかります。
ショートボブの黒髪はサラサラだし、パンツスーツをサラリと着こなすほっそりとした体型は、はっきり言って年齢不詳だと思う。
そんな母は軽く眉を上げると、うっとおしげに前髪をかき上げながら近づいてきた。
「誰?」
「あ、えっと、学校の先輩…」
「どうしてここに?」
なんだか尋問受けてるみたい。
別に何も悪いことをしてる訳でもないのに言いあぐねていると、私の前に先輩が進み出た。
「買い物の、手伝いをさせていただいてました!」
そう言って、先輩が腕の米袋見せると、さすがのポーカーフェイスが眉を下げる。
「なんで米?」
「ちょっとネットで頼むの忘れてて…」
「だからって、先輩に待たせるとか「あ、いや!俺が持たせて下さいって頼み込んだんで!」」
なぜか先輩が必死に言い訳(?)するけど、正直言い方がおかしいと思う。
そう思ったところで、母とは違う声が廊下に響いた。
「えー、じゃあ、その代わりに付き合ってって、そういう話なの?」
「えっ?」
声の主を探して首を巡らせると、隣の家のプライベートポーチの柵に肘を乗せて、かなちゃがこっちを見ている。
ニッコリ、と字幕がつきそうな程見事な笑顔―――でも、目が笑ってない。
「すごいねぇ、もう、ナオの代わり見つけたんだ?」
「かなちゃ…」
「まぁ、そうだよね~、もう、コーコーセーだもんね~。あ、じゃあ、ナオももう今頃、誰かと付き合ってんのかな?」
その言葉に、数日前に見た後ろ姿が蘇った。
寄り添っていた、髪の長い小柄な…
ふぅ…―――と。
大袈裟な程のため息に顔を上げると、かなちゃが背中を向けた所だった。
「そういう顔、するぐらいだったら止めなさいよ」
呟くように言って、かなちゃは玄関扉の向こうに消えていく。
何も言えずに立ち竦む背中を、ぽんっと軽く叩かれて我に返った。
「とりあえず、中入ろう。そっちの…」
「あ、小石です」
「小石君もどうぞ。コーヒー入れるから。ちょうどいい豆あるんだ」
「あ、いや、俺は…」
「手伝ってくれたんでしょ?―――それとも、もう気が済んだ?」
「え…」
戸惑った声を出した先輩に、母が何か意味ありげに口角を上げる。
それを見て、一瞬目を見開いた小石先輩が、真顔になって何故か背筋を伸ばした。
「―――じゃあ、お言葉に甘えて」
それに母が軽く頷く。
私は…と言えば、まだ半ば呆然としたままで、母に促されるまま家の中に入っていた。
母は隣町の小さな建設会社で働いている。
家のリノベーションをした所で、元々一級建築士を持っていた母に、父の葬儀にも来ていた社長さんから声がかかったのだ。
「この後打ち合わせ行かなきゃいけないんだけど、さっき寄った現場で汚しちゃってね」
そう言ったパンツの脹脛に、赤茶色の汚れが付いている…うん、錆だね、これ。
寝室に着替えに行く母を見送ってから、キッチンで電子ケトルのスイッチを入れた。
カウンター越しに見ると、リビングのソファーに座った先輩が繁々といった感じに辺りを見回している。
初めて入った家なのに、結構肝が据わってる、かも?
そう思いながら、冷蔵庫から取り出したペットボトルを持って行って差し出した。
「先輩、これ。うちは夏場でもコーヒーはホットなんで」
「あー、ありがとう…?」
先輩が緑色のボトルに首を傾げる。
そう言えば、これをコンビニで見かけた事が無かったっけ?
フランス産のスパークリングミネラルウォーターは、いつも米と一緒にネットで頼んでたやつだ。自分では飲まないから、もう止めよう…そう思って、それで、お米を買うのも忘れてたと気付く。
「ただの炭酸水です。天然の。砂糖入ってないから大丈夫ですよ。疲れを取る効果があるんだったかな…」
「へぇ…」
先輩は興味深げに言いながら、キャップを開けて一気に顔を仰向けた。いつも思うけど、男の子ってなんで炭酸を一気飲み出来るんだろう…?
「はー、美味い。これ、本当に何も入って無いの?」
「はい」
「そっか、じゃあ練習の後に取り入れると良いね!」
「…あー、そう、ですね…」
しまった、ヤブ蛇…と思って口を噤むと、先輩が苦笑してから残りを飲み干した。そのまま、じっ…とラベルを見ているから、気に入ったのかも知れない。
「あの、先輩良かったら持って帰りませんか?私は飲まないんで…」
実は前回うっかり、履歴のまま頼んだのが1ケース丸々残っていた。
配達(?)のお礼にもなるし、丁度いい…そう思って言ったのだけど、
「飲まないのに、買ってたんだ?」
指摘されて、黙り込んでしまった。
確かに、自分が飲まないものなんて、普通は頼まない。
「えーと、幼、なじみ…だっけ?“彼”が飲んでたの?」
仲いいんだね?と言われて、視線を伏せたまま何とか笑顔を作ってみせた。
「そうです。…彼も、野球、やってて…」
「らしいね、神田が言ってたよ。ホントは長篠にくるって言ってたのに、騙された~って…」
思わず顔を上げると、小石先輩があ、しまったという顔で口元を押さえる。
「あの…」
それはどういう意味ですか?―――と続けようとした所を、小石先輩が手を上げて止めた。
「あー、待って、ゴメン。オッケー、作戦変更しよう。」
作戦?―――意味が分からなくて一瞬戸惑う。
「とりあえず、内角攻めてくから、死球に気を付けて。」
言いかけたところで、先輩が片手で口を塞いだ。
うん、わかります。
ショートボブの黒髪はサラサラだし、パンツスーツをサラリと着こなすほっそりとした体型は、はっきり言って年齢不詳だと思う。
そんな母は軽く眉を上げると、うっとおしげに前髪をかき上げながら近づいてきた。
「誰?」
「あ、えっと、学校の先輩…」
「どうしてここに?」
なんだか尋問受けてるみたい。
別に何も悪いことをしてる訳でもないのに言いあぐねていると、私の前に先輩が進み出た。
「買い物の、手伝いをさせていただいてました!」
そう言って、先輩が腕の米袋見せると、さすがのポーカーフェイスが眉を下げる。
「なんで米?」
「ちょっとネットで頼むの忘れてて…」
「だからって、先輩に待たせるとか「あ、いや!俺が持たせて下さいって頼み込んだんで!」」
なぜか先輩が必死に言い訳(?)するけど、正直言い方がおかしいと思う。
そう思ったところで、母とは違う声が廊下に響いた。
「えー、じゃあ、その代わりに付き合ってって、そういう話なの?」
「えっ?」
声の主を探して首を巡らせると、隣の家のプライベートポーチの柵に肘を乗せて、かなちゃがこっちを見ている。
ニッコリ、と字幕がつきそうな程見事な笑顔―――でも、目が笑ってない。
「すごいねぇ、もう、ナオの代わり見つけたんだ?」
「かなちゃ…」
「まぁ、そうだよね~、もう、コーコーセーだもんね~。あ、じゃあ、ナオももう今頃、誰かと付き合ってんのかな?」
その言葉に、数日前に見た後ろ姿が蘇った。
寄り添っていた、髪の長い小柄な…
ふぅ…―――と。
大袈裟な程のため息に顔を上げると、かなちゃが背中を向けた所だった。
「そういう顔、するぐらいだったら止めなさいよ」
呟くように言って、かなちゃは玄関扉の向こうに消えていく。
何も言えずに立ち竦む背中を、ぽんっと軽く叩かれて我に返った。
「とりあえず、中入ろう。そっちの…」
「あ、小石です」
「小石君もどうぞ。コーヒー入れるから。ちょうどいい豆あるんだ」
「あ、いや、俺は…」
「手伝ってくれたんでしょ?―――それとも、もう気が済んだ?」
「え…」
戸惑った声を出した先輩に、母が何か意味ありげに口角を上げる。
それを見て、一瞬目を見開いた小石先輩が、真顔になって何故か背筋を伸ばした。
「―――じゃあ、お言葉に甘えて」
それに母が軽く頷く。
私は…と言えば、まだ半ば呆然としたままで、母に促されるまま家の中に入っていた。
母は隣町の小さな建設会社で働いている。
家のリノベーションをした所で、元々一級建築士を持っていた母に、父の葬儀にも来ていた社長さんから声がかかったのだ。
「この後打ち合わせ行かなきゃいけないんだけど、さっき寄った現場で汚しちゃってね」
そう言ったパンツの脹脛に、赤茶色の汚れが付いている…うん、錆だね、これ。
寝室に着替えに行く母を見送ってから、キッチンで電子ケトルのスイッチを入れた。
カウンター越しに見ると、リビングのソファーに座った先輩が繁々といった感じに辺りを見回している。
初めて入った家なのに、結構肝が据わってる、かも?
そう思いながら、冷蔵庫から取り出したペットボトルを持って行って差し出した。
「先輩、これ。うちは夏場でもコーヒーはホットなんで」
「あー、ありがとう…?」
先輩が緑色のボトルに首を傾げる。
そう言えば、これをコンビニで見かけた事が無かったっけ?
フランス産のスパークリングミネラルウォーターは、いつも米と一緒にネットで頼んでたやつだ。自分では飲まないから、もう止めよう…そう思って、それで、お米を買うのも忘れてたと気付く。
「ただの炭酸水です。天然の。砂糖入ってないから大丈夫ですよ。疲れを取る効果があるんだったかな…」
「へぇ…」
先輩は興味深げに言いながら、キャップを開けて一気に顔を仰向けた。いつも思うけど、男の子ってなんで炭酸を一気飲み出来るんだろう…?
「はー、美味い。これ、本当に何も入って無いの?」
「はい」
「そっか、じゃあ練習の後に取り入れると良いね!」
「…あー、そう、ですね…」
しまった、ヤブ蛇…と思って口を噤むと、先輩が苦笑してから残りを飲み干した。そのまま、じっ…とラベルを見ているから、気に入ったのかも知れない。
「あの、先輩良かったら持って帰りませんか?私は飲まないんで…」
実は前回うっかり、履歴のまま頼んだのが1ケース丸々残っていた。
配達(?)のお礼にもなるし、丁度いい…そう思って言ったのだけど、
「飲まないのに、買ってたんだ?」
指摘されて、黙り込んでしまった。
確かに、自分が飲まないものなんて、普通は頼まない。
「えーと、幼、なじみ…だっけ?“彼”が飲んでたの?」
仲いいんだね?と言われて、視線を伏せたまま何とか笑顔を作ってみせた。
「そうです。…彼も、野球、やってて…」
「らしいね、神田が言ってたよ。ホントは長篠にくるって言ってたのに、騙された~って…」
思わず顔を上げると、小石先輩があ、しまったという顔で口元を押さえる。
「あの…」
それはどういう意味ですか?―――と続けようとした所を、小石先輩が手を上げて止めた。
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