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1.Cape jasmine
遠雷
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“一目惚れ”っていうのがどんなものか、正直言うとよくわからない。ただ、もの凄く興味を惹かれたというのは確かだったから、当たらずとも遠からずってとこだろう。
正直なところ、それまで“女子”と付き合いたいという気持ちはほとんど無かった。もちろん、男だし、それなりの欲求はある訳で、自慰行為は、まぁ、あるけど。
ただ、それまでは付き合おうと言われても、その子を相手にしたいかと言われたら、面倒くさい…という気持ちの方が強く、野郎と連んで遊んだり野球やってる方が楽しかったから、だから自分でもちょっと不思議ではあるんだけど。
ちらり…と隣に視線を向ける。
エレベーターの操作盤の前に立つスーツ姿は、ほっそりとして年齢を感じさせない。でも、彼女の母親という事はうちの母親とそう年齢が変わらないという事…なんだよなぁ。
「…何?」
「え、あー、いや、親子だなぁと思って」
そう?とでも言う様に首を傾げるとか、破壊力ありすぎじゃないかと思うのは俺だけか?正直、年齢知らなきゃ…いやいや。
「どっちかって言うと、あのコは父親似だけど」
「あー、そうっすね。顔っていうより、雰囲気かな?同じ空気感有る感じ」
「空気感…」
「透明感?んー、ちょっと他と違うっていうか…。しっかりしてる風だけど、どっか不安定な感じがある…」
そう言うと、ちょっと驚いた様に目を見張った。もしかして今まで指摘された事が無いんだろうか?
「不安定、か…」
低く呟いて前を向いた頬に薄く浮かんだ笑み。うん、やっぱ似てる。彼女も、こんな風に笑う―――頬に“笑顔”を張り付ける様に。
だからあの時驚いたんだ。
あんな風にも笑えるんだ、と。
神田が話しかけて、今どき女子特有の語尾を伸ばす話し方では無い、落ち着いた様子に好感を持った。
当たり前のようにバッグからソーイングセットを出して、ネットのほつれを直してくれた事に感動した。
“頑張って…”と、小さく呟いた時の、微かに浮かんだ微笑みが、頭から離れなくなって、それで、逢いに来た。
そしたら、ちょっとボケてる(天然?)わりに、人に頼るのを良しとしなくてちょっと強情で。でも、嫌な顔せずに人の話を聞いてくれるし、気遣いも出来る。それが好みのタイプとくれば惚れるだろ、そりゃ。
「幼馴染…でしたっけ、ソイツと、えーと、カスミ、さん?は、付き合ってる訳じゃ無いんですよね?」
友人でチームメイトだったという神田も、実際のところはわからないとは言っていた。『でも、どうでもいいヤツに“ハッセン”もしないですよね?』という謎発言はあったけど。自分だって“ナナセン”したのに…とも言ってたか。
ただ、何かあった事は確かで、クリスマス頃に2人は別れたんじゃないかとの噂が立ち、その頃ソイツは進路を変えたらしい。
『もう、スポーツ推薦終わってただろ』
『フツーに進学コースですよ。アイツ、クソみたいに頭も良かったんで』
うちもまあまあの進学校ではあるんだけど、成陵の進学コースはそれより偏差値高かったハズだ。1月から狙って受かるとか、どんだけだよ。
スパダリか? 意味知らんけど。
彼女自身、付き合ってる疑惑を全力で否定はしていたから、少なくとも今は…だと思うんだけど。親に聞く事じゃないかとは思いつつ、念の為聞いてみた。
「…本人がそう言うんならそうなんじゃないかな」
「ええー、どっちなんですか」
「まぁ、結局、付き合うっていう定義は人それぞれだからね。」
また微妙な事を…と恨めしい気持ちになった所で、1階に着いた。先にエレベーターを降りた背中が振り向く。
「因みに、こいしくんにとって、付き合うってどんな事?」
不意に聞かれて言葉に詰まる。そりゃあ、男にとって付き合うっつったら、ねえ?
「遊びに行ったりすんのは、“友達”でもいいですよね?」
「セックスするだけなら“セフレ”でいいよね?」
ゴフッ―――思わず咽せてしまう。
「すんません、えーと、俺、思春期なんで…」
「うん、でも、大事な事だから。」
真面目な顔で返されて立ち止まった。
幼、馴染み…なんだよな?
でも神田はどう言ってた?チームメートの、“彼女”―――少なくとも、周りにはそう見えてたって事で…セ…
「そんな顔しなさんな…」
苦笑されて、思わず自分の頬を撫でた。今、どんな顔してんだ、自分。
コツ…とヒールの音を響かせて、スーツの後ろ姿がエントランスを歩いていく。真っ直ぐに伸びた背筋は気持ちいい程で、でもほっそりとした首筋がどこか儚げな様子を醸し出している。
無防備だな、と思う。2人とも。
理由はわからないけど、多分、父親で夫である存在があの家には無い。そしてそれが理由なんだろう。
薄暗いエントランスを抜けると、外は見事な晴天だった。ざわり、と葉擦れの音を立てて、風が吹き抜ける。
その風に乗ってきたんだろうか、小さな白い花びらが、ショートボブの黒髪に降り注いだ。
「…風渡る、なり…か」
呟いて、振り向いた顔が微笑んでいた。
「私にはとやかく言えないから、まあ、頑張って」
正直なところ、それまで“女子”と付き合いたいという気持ちはほとんど無かった。もちろん、男だし、それなりの欲求はある訳で、自慰行為は、まぁ、あるけど。
ただ、それまでは付き合おうと言われても、その子を相手にしたいかと言われたら、面倒くさい…という気持ちの方が強く、野郎と連んで遊んだり野球やってる方が楽しかったから、だから自分でもちょっと不思議ではあるんだけど。
ちらり…と隣に視線を向ける。
エレベーターの操作盤の前に立つスーツ姿は、ほっそりとして年齢を感じさせない。でも、彼女の母親という事はうちの母親とそう年齢が変わらないという事…なんだよなぁ。
「…何?」
「え、あー、いや、親子だなぁと思って」
そう?とでも言う様に首を傾げるとか、破壊力ありすぎじゃないかと思うのは俺だけか?正直、年齢知らなきゃ…いやいや。
「どっちかって言うと、あのコは父親似だけど」
「あー、そうっすね。顔っていうより、雰囲気かな?同じ空気感有る感じ」
「空気感…」
「透明感?んー、ちょっと他と違うっていうか…。しっかりしてる風だけど、どっか不安定な感じがある…」
そう言うと、ちょっと驚いた様に目を見張った。もしかして今まで指摘された事が無いんだろうか?
「不安定、か…」
低く呟いて前を向いた頬に薄く浮かんだ笑み。うん、やっぱ似てる。彼女も、こんな風に笑う―――頬に“笑顔”を張り付ける様に。
だからあの時驚いたんだ。
あんな風にも笑えるんだ、と。
神田が話しかけて、今どき女子特有の語尾を伸ばす話し方では無い、落ち着いた様子に好感を持った。
当たり前のようにバッグからソーイングセットを出して、ネットのほつれを直してくれた事に感動した。
“頑張って…”と、小さく呟いた時の、微かに浮かんだ微笑みが、頭から離れなくなって、それで、逢いに来た。
そしたら、ちょっとボケてる(天然?)わりに、人に頼るのを良しとしなくてちょっと強情で。でも、嫌な顔せずに人の話を聞いてくれるし、気遣いも出来る。それが好みのタイプとくれば惚れるだろ、そりゃ。
「幼馴染…でしたっけ、ソイツと、えーと、カスミ、さん?は、付き合ってる訳じゃ無いんですよね?」
友人でチームメイトだったという神田も、実際のところはわからないとは言っていた。『でも、どうでもいいヤツに“ハッセン”もしないですよね?』という謎発言はあったけど。自分だって“ナナセン”したのに…とも言ってたか。
ただ、何かあった事は確かで、クリスマス頃に2人は別れたんじゃないかとの噂が立ち、その頃ソイツは進路を変えたらしい。
『もう、スポーツ推薦終わってただろ』
『フツーに進学コースですよ。アイツ、クソみたいに頭も良かったんで』
うちもまあまあの進学校ではあるんだけど、成陵の進学コースはそれより偏差値高かったハズだ。1月から狙って受かるとか、どんだけだよ。
スパダリか? 意味知らんけど。
彼女自身、付き合ってる疑惑を全力で否定はしていたから、少なくとも今は…だと思うんだけど。親に聞く事じゃないかとは思いつつ、念の為聞いてみた。
「…本人がそう言うんならそうなんじゃないかな」
「ええー、どっちなんですか」
「まぁ、結局、付き合うっていう定義は人それぞれだからね。」
また微妙な事を…と恨めしい気持ちになった所で、1階に着いた。先にエレベーターを降りた背中が振り向く。
「因みに、こいしくんにとって、付き合うってどんな事?」
不意に聞かれて言葉に詰まる。そりゃあ、男にとって付き合うっつったら、ねえ?
「遊びに行ったりすんのは、“友達”でもいいですよね?」
「セックスするだけなら“セフレ”でいいよね?」
ゴフッ―――思わず咽せてしまう。
「すんません、えーと、俺、思春期なんで…」
「うん、でも、大事な事だから。」
真面目な顔で返されて立ち止まった。
幼、馴染み…なんだよな?
でも神田はどう言ってた?チームメートの、“彼女”―――少なくとも、周りにはそう見えてたって事で…セ…
「そんな顔しなさんな…」
苦笑されて、思わず自分の頬を撫でた。今、どんな顔してんだ、自分。
コツ…とヒールの音を響かせて、スーツの後ろ姿がエントランスを歩いていく。真っ直ぐに伸びた背筋は気持ちいい程で、でもほっそりとした首筋がどこか儚げな様子を醸し出している。
無防備だな、と思う。2人とも。
理由はわからないけど、多分、父親で夫である存在があの家には無い。そしてそれが理由なんだろう。
薄暗いエントランスを抜けると、外は見事な晴天だった。ざわり、と葉擦れの音を立てて、風が吹き抜ける。
その風に乗ってきたんだろうか、小さな白い花びらが、ショートボブの黒髪に降り注いだ。
「…風渡る、なり…か」
呟いて、振り向いた顔が微笑んでいた。
「私にはとやかく言えないから、まあ、頑張って」
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