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1.Cape jasmine
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入ってきたナオが目を見開き、次の瞬間、スゴい勢いで睨み付けられた。
「何、やってんだよ」
それは聞いたことも無いぐらい低い声で。一瞬ひるんだけど、でも次の瞬間、何故かあのコの顔が浮かんで、それで何かがキレた。だって、考えてみたらおかしくない?あんな事、されたのはこっちだよ?
彼女がいるのにバカな事したって、後悔するとか、意味わかんない。
キュッと唇を噛み締めると、負けずに睨み返した。
「頼まれたの、かなちゃに。焼うどん作ったら帰るから」
吐き捨てるように言うと、テーブルにおにぎりを置いてキッチンへ向かう。どうせそのぐらいしか出来ないのだ。ただの幼馴染には。
とっとと作って帰ろう。
そしてもう、ここには来ない!決定!
腹立ち紛れに勢いよく電子レンジの扉を開けようとした、その腕を、強い力で掴まれた。
えっ…と驚く間もなく体勢が崩れて、そのままヒョイと担ぎ上げられる。お尻に腕を回した、いわゆる子供抱っこだ。
まさかそうくるとは思わなくて、ギョッとした私を腕に担いだまま、ナオがベランダに向かう。
「ちょっとっ、下ろしてよ、何すんのっ」
「黙れ」
「はぁ?」
更に抗議しようとすると、わざとなのかフワッと一瞬体が浮いて、反射的にナオの首にしがみ付いた。
その隙にナオが足を早めて、私の家のベランダに入る。掃き出し窓を開けて下ろし、そのまま背中を向けるナオの腕を、とっさに掴んだ。
「かなちゃに、頼まれたんだよ?」
かなちゃは、ほぼ母だ。私の。だから、その期待を裏切る事はしたくない。顔も見たくないなら部屋で待ってて、そう言おうとしたのに。
腕を振り払った、その勢いのまま振り向いたナオに腰を掴まれ、あっ、と思う間もなく床に押し倒されていた。
見下ろすナオが目を細める。
「バカじゃねえの?…懲りろよ、お前。なんでまたそのカッコなんだよ」
そう言って顔を歪めて笑う。その顔が、なんだか泣きそうに見えるのは気のせいだろうか。
こんな顔、させるなんて。
そう思ったら切なくなった。
バカだな、ホントはこんな事、したくも無いクセに。
「バカなのはそっちでしょ」
そう言って私は腕を伸ばしてナオの首筋を引き寄せた。驚いて目を見開くナオの、形の良い唇に、自分の唇を寄せて。
―――ガブリ
ナオの鼻先に噛み付いた。
「~~~~っっっ!!」
言葉にならない声を上げて、ナオが私を抱き抱えたまま身体を起こす。腿の上に、足を開いて跨がる様な状態になった所で口を離すと、ナオが鼻を押さえながら上目遣いに睨んできた。
僅かに涙目になってるのがおかしい。思わず笑った次の瞬間、後ろ頭を掴まれたかと思うと、柔らかな感触に唇が覆われた。
ぐり…と、強く押し付けられて、自分の唇の内側が歯に擦り付けられる。痛くて思わず首を動かし、抗議しようと口を開いた、その時。
狙ったかの様にナオが鼻の向きを変えて、今度は唇を割り込むように重ねる。何かが、前歯を掠めた。
「ん…」
何?…と思った時には、それが前歯を割って、口の中に入り込んでいた。舌先に触れたものが、ナオの舌だと気付いて目を見開くけど、ナオは更に深くそれを差し込んでくる。
「う、ん…んっ」
咄嗟に引っ込めようとした私の舌を追いかけるように、床に押し倒される。背中に当たったフローリングの床が冷たくて、咄嗟に目を閉じた。
肉厚なそれが絡みつくように動いて、同時にナオの唾液が流れ込む。強く抱き竦められて逃げる事も出来ないまま飲み込むと、その拍子に鼻先から声が漏れる。それに応えるように背中に回された腕に力が籠った。
息が苦しくて、舌先を離さないまま僅かな隙間を縫って喘ぐ様に息をするのに、吐き出す息すら奪われる様にまた唇を塞がれる。
さっき跨いだままだった足の間にはナオの身体がぴったりと収まっていて、鼻の向きを変えては身動ぐ度に、何かコブの様な物がショートパンツ越しに擦り付けられ、この前ナオの指が私に教えた、あの場所が疼いて、なんとも言えない感覚が下腹部に溜まっていく。
やるせなさに腰が揺れて、そうするほどに切なさが増して、無意識に鼻先から声が溢れた。
止めなきゃ、なんて、考える余裕もなかった。
ただ夢中で。
そう、夢中で、ナオの唇を貪っていた。
もっと、もっと―――
そう願う浅ましさに、もしかしたら気付かれたのかもしれない。
はぁ…と息をついて唇を離したナオが、私の頭を抱え込みながら、耳元で呟いた。
「くっ、そ…」
絞り出すようなその声に、冷水を浴びせられたかのように目が覚めた、その時。
ジリリリリーン―――
レトロな呼び出し音が鳴り響いて、ナオがビクッと身体を強張らせた。一瞬顔を見合わせてから、慌ててスマートフォンを手に取った。
「もしもしっ」
『あ、スミちゃん?ゴメン、今どこ?』
かなちゃの声にナオの方を見やると、ナオは立ち上がって、リビングから出ようとしていた。追いかける事が出来ないまま、電話に意識を戻す。
「あー、ゴメン、今は、家…」
『あ、そうなんだ。や、たっくんから電話あって、ナオが居ないって言うからさ。もしかして、そっち居る?』
「あー、うん、居る、よ」
『ゴメン、一回戻るように言ってくれる?たっくん心配してるからさ』
「うん、わかった…」
つまり、たっくんはもう帰ってきてるって事だ。流石にたっくんは私のスマホの番号を知らないから、かなちゃ経由で問い合わせてきたんだろう。
急いでリビングを出ると、バスルームのドアが微かに開いていた。
「ナオ…?」
シャワーの音がする浴室に声をかけると、くぐもった声が返ってきた。
「悪い、着替え頼める?」
了解してまたリビングから隣へ向かう。掃き出し窓から覗くと、ちょうどたっくんが発泡酒のプルタブを開けているところだった。
「ゴメン、こっちでコーヒー飲んでたんだけど、私がミルクこぼしちゃって、今シャワー使ってるんだ」
ここに来るまでに考えた言い訳を口にしながらリビングを突っ切って、玄関隣のナオの部屋に入って着替えをもって出る。
「着替え置いてきたら、焼うどん作るね」
そう言って、またベランダに出ようとした時だった。
「スミちゃん」
呼び掛けられて振り向くと、たっくんが困った様な顔をしてこっちを見ていた。
「信用してるからね。…素直にも、そう言っといて」
もちろん、と。
少なくとも、その時はそう思ってた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「何、やってんだよ」
それは聞いたことも無いぐらい低い声で。一瞬ひるんだけど、でも次の瞬間、何故かあのコの顔が浮かんで、それで何かがキレた。だって、考えてみたらおかしくない?あんな事、されたのはこっちだよ?
彼女がいるのにバカな事したって、後悔するとか、意味わかんない。
キュッと唇を噛み締めると、負けずに睨み返した。
「頼まれたの、かなちゃに。焼うどん作ったら帰るから」
吐き捨てるように言うと、テーブルにおにぎりを置いてキッチンへ向かう。どうせそのぐらいしか出来ないのだ。ただの幼馴染には。
とっとと作って帰ろう。
そしてもう、ここには来ない!決定!
腹立ち紛れに勢いよく電子レンジの扉を開けようとした、その腕を、強い力で掴まれた。
えっ…と驚く間もなく体勢が崩れて、そのままヒョイと担ぎ上げられる。お尻に腕を回した、いわゆる子供抱っこだ。
まさかそうくるとは思わなくて、ギョッとした私を腕に担いだまま、ナオがベランダに向かう。
「ちょっとっ、下ろしてよ、何すんのっ」
「黙れ」
「はぁ?」
更に抗議しようとすると、わざとなのかフワッと一瞬体が浮いて、反射的にナオの首にしがみ付いた。
その隙にナオが足を早めて、私の家のベランダに入る。掃き出し窓を開けて下ろし、そのまま背中を向けるナオの腕を、とっさに掴んだ。
「かなちゃに、頼まれたんだよ?」
かなちゃは、ほぼ母だ。私の。だから、その期待を裏切る事はしたくない。顔も見たくないなら部屋で待ってて、そう言おうとしたのに。
腕を振り払った、その勢いのまま振り向いたナオに腰を掴まれ、あっ、と思う間もなく床に押し倒されていた。
見下ろすナオが目を細める。
「バカじゃねえの?…懲りろよ、お前。なんでまたそのカッコなんだよ」
そう言って顔を歪めて笑う。その顔が、なんだか泣きそうに見えるのは気のせいだろうか。
こんな顔、させるなんて。
そう思ったら切なくなった。
バカだな、ホントはこんな事、したくも無いクセに。
「バカなのはそっちでしょ」
そう言って私は腕を伸ばしてナオの首筋を引き寄せた。驚いて目を見開くナオの、形の良い唇に、自分の唇を寄せて。
―――ガブリ
ナオの鼻先に噛み付いた。
「~~~~っっっ!!」
言葉にならない声を上げて、ナオが私を抱き抱えたまま身体を起こす。腿の上に、足を開いて跨がる様な状態になった所で口を離すと、ナオが鼻を押さえながら上目遣いに睨んできた。
僅かに涙目になってるのがおかしい。思わず笑った次の瞬間、後ろ頭を掴まれたかと思うと、柔らかな感触に唇が覆われた。
ぐり…と、強く押し付けられて、自分の唇の内側が歯に擦り付けられる。痛くて思わず首を動かし、抗議しようと口を開いた、その時。
狙ったかの様にナオが鼻の向きを変えて、今度は唇を割り込むように重ねる。何かが、前歯を掠めた。
「ん…」
何?…と思った時には、それが前歯を割って、口の中に入り込んでいた。舌先に触れたものが、ナオの舌だと気付いて目を見開くけど、ナオは更に深くそれを差し込んでくる。
「う、ん…んっ」
咄嗟に引っ込めようとした私の舌を追いかけるように、床に押し倒される。背中に当たったフローリングの床が冷たくて、咄嗟に目を閉じた。
肉厚なそれが絡みつくように動いて、同時にナオの唾液が流れ込む。強く抱き竦められて逃げる事も出来ないまま飲み込むと、その拍子に鼻先から声が漏れる。それに応えるように背中に回された腕に力が籠った。
息が苦しくて、舌先を離さないまま僅かな隙間を縫って喘ぐ様に息をするのに、吐き出す息すら奪われる様にまた唇を塞がれる。
さっき跨いだままだった足の間にはナオの身体がぴったりと収まっていて、鼻の向きを変えては身動ぐ度に、何かコブの様な物がショートパンツ越しに擦り付けられ、この前ナオの指が私に教えた、あの場所が疼いて、なんとも言えない感覚が下腹部に溜まっていく。
やるせなさに腰が揺れて、そうするほどに切なさが増して、無意識に鼻先から声が溢れた。
止めなきゃ、なんて、考える余裕もなかった。
ただ夢中で。
そう、夢中で、ナオの唇を貪っていた。
もっと、もっと―――
そう願う浅ましさに、もしかしたら気付かれたのかもしれない。
はぁ…と息をついて唇を離したナオが、私の頭を抱え込みながら、耳元で呟いた。
「くっ、そ…」
絞り出すようなその声に、冷水を浴びせられたかのように目が覚めた、その時。
ジリリリリーン―――
レトロな呼び出し音が鳴り響いて、ナオがビクッと身体を強張らせた。一瞬顔を見合わせてから、慌ててスマートフォンを手に取った。
「もしもしっ」
『あ、スミちゃん?ゴメン、今どこ?』
かなちゃの声にナオの方を見やると、ナオは立ち上がって、リビングから出ようとしていた。追いかける事が出来ないまま、電話に意識を戻す。
「あー、ゴメン、今は、家…」
『あ、そうなんだ。や、たっくんから電話あって、ナオが居ないって言うからさ。もしかして、そっち居る?』
「あー、うん、居る、よ」
『ゴメン、一回戻るように言ってくれる?たっくん心配してるからさ』
「うん、わかった…」
つまり、たっくんはもう帰ってきてるって事だ。流石にたっくんは私のスマホの番号を知らないから、かなちゃ経由で問い合わせてきたんだろう。
急いでリビングを出ると、バスルームのドアが微かに開いていた。
「ナオ…?」
シャワーの音がする浴室に声をかけると、くぐもった声が返ってきた。
「悪い、着替え頼める?」
了解してまたリビングから隣へ向かう。掃き出し窓から覗くと、ちょうどたっくんが発泡酒のプルタブを開けているところだった。
「ゴメン、こっちでコーヒー飲んでたんだけど、私がミルクこぼしちゃって、今シャワー使ってるんだ」
ここに来るまでに考えた言い訳を口にしながらリビングを突っ切って、玄関隣のナオの部屋に入って着替えをもって出る。
「着替え置いてきたら、焼うどん作るね」
そう言って、またベランダに出ようとした時だった。
「スミちゃん」
呼び掛けられて振り向くと、たっくんが困った様な顔をしてこっちを見ていた。
「信用してるからね。…素直にも、そう言っといて」
もちろん、と。
少なくとも、その時はそう思ってた。
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