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1.Cape jasmine
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「…らしくないんだよなぁ」
思案げにそう言った顔は、ホントにナオとそっくりだった。
お昼を買いに入ったコンビニで、たっくんにバッタリ会った。思わず辺りに視線を走らせたのを見たたっくんが苦笑する。
「いないよ。子供らは別に準備してあるから。素直と、何かあったの?」
「…うん、ちょっと…」
会場の県立グラウンドに着いて直ぐ2人とは別れて、午前中はトーナメント表で時間を確認しながら、目立たないようこっそり(?)スタンドで観戦していた。
帰りはバスで適当に帰るよと言うと、かなちゃは「わかった、気を付けてね」と笑ってくれたけど、たっくんは変な顔をしたから、かなちゃから何も聞いてないんだろう。
言葉を濁しながら、什器のドアを開けて烏龍茶のペットボトルを取り出すと、それをたっくんに取り上げられた。
「他は?食べ物も持っておいで」
「うん…ありがとう」
お礼を言うと、くしゃりと頭を撫でられる。
断るのも悪いかな…と思い、おにぎりを二つ追加して一緒にレジに並んだものの、お会計してもらった後で袋を別にしてもらったら、また変な顔をされてしまった。
「一緒に観ようよ。アイツもその方が調子上がるんじゃない?」
「え…ナオ、調子悪い?」
チームは順当に勝ち進んでいた…ように見えてた。決勝まで進んでいるのだから当然なのだけど。
「うーん、そうだな。元々軟球ってのはあんまり飛ばないんだけど、素直はそれを上手く掬い上げて長打にするのが得意なんだよ。それが無いのがなぁ…」
そういうものなのかな…?正直よくわからないので、曖昧に笑っておく。なにしろ、たっくんは野球オタク(?)だから、ついていけない時は笑っとけば良いよ~と、前にかなちゃが言ってたし。
そうやって、昼からの決勝戦は強豪だから、いつもみたいなロングヒットが欲しい!と熱く語るたっくんの隣を歩いていた時だった。
「あ…」
という声に顔を上げた。気のせいかな?と思いながら首を廻らせると、3人組の女の子達が、ささっと顔を背ける。あの女の子だ―――と思い出して、心臓が音を立てた。
「知り合い?」
「えっ、あ…ううん、私じゃなくて…」
「素直の?」
「多分…」
「ふーん…」
「あの、たっくん、私、トイレ行くからっ」
そう言って、何か言われる前に駆け出した。少し離れてから振り向いて見ると、さっきのコ達がたっくんと話している。そのまま、連れ立って歩き出したから、お昼からの決勝戦を一緒に観るのかもしれない。
そういえば、あのコは知ってるんだろうか、あの日の事を…そんな意地悪な考えが浮かんだ、そのすぐ後で。
ナオは、あのコと―――?
あの時、ナオはどうだっただろう?どうしたらいいかを、ナオは知っていた…?
だから―――
すうっ…と血の気が引いて、もう夏になるというのに泡立った肌を抱えるように、二の腕を掴む。
「バカじゃないの…」
呟いて、そのままグラウンドを後にした。
ジリリリリーンという、レトロな着信音に目を開けた。少し寝ていたのかも知れない。スマートフォンを見ると、もう4時を回っている。
「…はい」
『あっ、スミちゃん?! あー、良かった』
心底安心した、という感じの声に少し苦笑する。
『もー、既読にもならないし、どうしちゃったのかと…』
「ごめん、ちょっと調子悪くなって寝てた」
『えっ、大丈夫?ていうか、家?』
「うん、スッキリしたから大丈夫。どしたの?…終わった?」
『あ、うんうん、終わった!何とか勝ったよ~』
「そうなんだ、おめでとー」
『ありがと~、でも危なかったんだ~、ナオが調子悪くって』
そう言って、事細かに決勝戦の様子を話される。聞いてないのに、ていうか聞きたくないけど、そうもいかないか。
『でね、よりにもよって、最後のバッターがナオになっちゃって…』
試合は接戦だった…らしい。
向こうもこっちも、ピッチャーが良くて、なかなか点が取れない中、向こうが足を使って上手く一点を上げた後からの、最終回。
ツーアウトニ、三塁からの打順だったらしい。普段だったら「漫画か」ってツッこむ場面で、ナオは甘めのストレートを高く打ち上げてしまったらしい。
センターフライで、試合終了。誰もがそう思ったのに、緊張したのか球を見失ったのか、向こうのセンターがそのボールを捕球し損ねたのだという。
大きく跳ねたボールを慌てて追いかけている間にランナーが戻って、結果、サヨナラ勝ちになってしまったそうだ。
『ナオが、ねー…』
言葉を濁しても分かる。
きっと、ナオは不機嫌だろう。そんな勝ち方、嬉しいとは思わないに違いない。それまでにいくつも空振り三振して、ゲッツーもあったっていうなら尚更。
『でね、これから学校帰って保護者会になるからさ、その、悪いんだけど、ナオに何か作ってやってくれない?』
断る事は出来なかった。
通話の終わった画面をしばらく見つめて、溜息をつく。多分、子供達の方が先に解散になるって事だ。
でも、帰ってくるのかな?
さっきのあのコ達と、お祝いにどっか出かけるかもしれないじゃん?あ、でもそうか、取り敢えず着替えには帰ってくるかも…。
結局、もう一度溜息をついてから立ち上がった。またキャミとショーパンだけど、構うもんか。ちゃっと行って、ちゃっと何か作って帰ろう。
ベランダから境界壁の隙間を通って隣家へ入る。早くしないと。もし、彼女連れで帰ってきたら目も当てられない。
冷蔵庫の中を覗く。野菜室と冷凍室を見て、焼うどんに決定。そういえば、買ってもらったおにぎり食べてなかったから、それも置いておこう。
うどん玉と小分けして冷凍されていた豚肉をレンジの解凍にかけてから、一旦家に戻る。おにぎりはリビングの机に置きっ放しだったけど、まあ、大丈夫かな…。
再びベランダから向こうのリビングに入るのと、廊下からの入り口ドアが開くのが同時だった。
思案げにそう言った顔は、ホントにナオとそっくりだった。
お昼を買いに入ったコンビニで、たっくんにバッタリ会った。思わず辺りに視線を走らせたのを見たたっくんが苦笑する。
「いないよ。子供らは別に準備してあるから。素直と、何かあったの?」
「…うん、ちょっと…」
会場の県立グラウンドに着いて直ぐ2人とは別れて、午前中はトーナメント表で時間を確認しながら、目立たないようこっそり(?)スタンドで観戦していた。
帰りはバスで適当に帰るよと言うと、かなちゃは「わかった、気を付けてね」と笑ってくれたけど、たっくんは変な顔をしたから、かなちゃから何も聞いてないんだろう。
言葉を濁しながら、什器のドアを開けて烏龍茶のペットボトルを取り出すと、それをたっくんに取り上げられた。
「他は?食べ物も持っておいで」
「うん…ありがとう」
お礼を言うと、くしゃりと頭を撫でられる。
断るのも悪いかな…と思い、おにぎりを二つ追加して一緒にレジに並んだものの、お会計してもらった後で袋を別にしてもらったら、また変な顔をされてしまった。
「一緒に観ようよ。アイツもその方が調子上がるんじゃない?」
「え…ナオ、調子悪い?」
チームは順当に勝ち進んでいた…ように見えてた。決勝まで進んでいるのだから当然なのだけど。
「うーん、そうだな。元々軟球ってのはあんまり飛ばないんだけど、素直はそれを上手く掬い上げて長打にするのが得意なんだよ。それが無いのがなぁ…」
そういうものなのかな…?正直よくわからないので、曖昧に笑っておく。なにしろ、たっくんは野球オタク(?)だから、ついていけない時は笑っとけば良いよ~と、前にかなちゃが言ってたし。
そうやって、昼からの決勝戦は強豪だから、いつもみたいなロングヒットが欲しい!と熱く語るたっくんの隣を歩いていた時だった。
「あ…」
という声に顔を上げた。気のせいかな?と思いながら首を廻らせると、3人組の女の子達が、ささっと顔を背ける。あの女の子だ―――と思い出して、心臓が音を立てた。
「知り合い?」
「えっ、あ…ううん、私じゃなくて…」
「素直の?」
「多分…」
「ふーん…」
「あの、たっくん、私、トイレ行くからっ」
そう言って、何か言われる前に駆け出した。少し離れてから振り向いて見ると、さっきのコ達がたっくんと話している。そのまま、連れ立って歩き出したから、お昼からの決勝戦を一緒に観るのかもしれない。
そういえば、あのコは知ってるんだろうか、あの日の事を…そんな意地悪な考えが浮かんだ、そのすぐ後で。
ナオは、あのコと―――?
あの時、ナオはどうだっただろう?どうしたらいいかを、ナオは知っていた…?
だから―――
すうっ…と血の気が引いて、もう夏になるというのに泡立った肌を抱えるように、二の腕を掴む。
「バカじゃないの…」
呟いて、そのままグラウンドを後にした。
ジリリリリーンという、レトロな着信音に目を開けた。少し寝ていたのかも知れない。スマートフォンを見ると、もう4時を回っている。
「…はい」
『あっ、スミちゃん?! あー、良かった』
心底安心した、という感じの声に少し苦笑する。
『もー、既読にもならないし、どうしちゃったのかと…』
「ごめん、ちょっと調子悪くなって寝てた」
『えっ、大丈夫?ていうか、家?』
「うん、スッキリしたから大丈夫。どしたの?…終わった?」
『あ、うんうん、終わった!何とか勝ったよ~』
「そうなんだ、おめでとー」
『ありがと~、でも危なかったんだ~、ナオが調子悪くって』
そう言って、事細かに決勝戦の様子を話される。聞いてないのに、ていうか聞きたくないけど、そうもいかないか。
『でね、よりにもよって、最後のバッターがナオになっちゃって…』
試合は接戦だった…らしい。
向こうもこっちも、ピッチャーが良くて、なかなか点が取れない中、向こうが足を使って上手く一点を上げた後からの、最終回。
ツーアウトニ、三塁からの打順だったらしい。普段だったら「漫画か」ってツッこむ場面で、ナオは甘めのストレートを高く打ち上げてしまったらしい。
センターフライで、試合終了。誰もがそう思ったのに、緊張したのか球を見失ったのか、向こうのセンターがそのボールを捕球し損ねたのだという。
大きく跳ねたボールを慌てて追いかけている間にランナーが戻って、結果、サヨナラ勝ちになってしまったそうだ。
『ナオが、ねー…』
言葉を濁しても分かる。
きっと、ナオは不機嫌だろう。そんな勝ち方、嬉しいとは思わないに違いない。それまでにいくつも空振り三振して、ゲッツーもあったっていうなら尚更。
『でね、これから学校帰って保護者会になるからさ、その、悪いんだけど、ナオに何か作ってやってくれない?』
断る事は出来なかった。
通話の終わった画面をしばらく見つめて、溜息をつく。多分、子供達の方が先に解散になるって事だ。
でも、帰ってくるのかな?
さっきのあのコ達と、お祝いにどっか出かけるかもしれないじゃん?あ、でもそうか、取り敢えず着替えには帰ってくるかも…。
結局、もう一度溜息をついてから立ち上がった。またキャミとショーパンだけど、構うもんか。ちゃっと行って、ちゃっと何か作って帰ろう。
ベランダから境界壁の隙間を通って隣家へ入る。早くしないと。もし、彼女連れで帰ってきたら目も当てられない。
冷蔵庫の中を覗く。野菜室と冷凍室を見て、焼うどんに決定。そういえば、買ってもらったおにぎり食べてなかったから、それも置いておこう。
うどん玉と小分けして冷凍されていた豚肉をレンジの解凍にかけてから、一旦家に戻る。おにぎりはリビングの机に置きっ放しだったけど、まあ、大丈夫かな…。
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