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1.Cape jasmine
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怒ってるナオに微笑んだ。
大丈夫、これはナオの為だから。
「もしかして気にしてる?」
何を?と聞き返す代わりに、ナオが目を眇めた。唇だけで笑って視線を逸らす。
「心配しなくても、妊娠なんてしてないよ。ちゃんと薬飲んだから」
「薬…?」
「今はそーいうの、あるんだよ。良かった、買っといて。最近ナオ、やり過ぎだって思ってたから」
その言葉に、ナオがハッと息を呑んだ。もしかしなくても自覚無かったんだな…そう思ったら、自然に笑いが込み上げた。
「大丈夫、誰にも言わないから。けど、彼女とする時は気を付けてね?」
それだけ言って、背中を向けた。
「あ、そうそう。私、長篠は受けないから。無理して行っても、後が大変だもん」
後ろ手に手を振って歩き出す。
何でも無い事のように、普通に、普通に歩いた。自分の教室まで。
ナオは、追いかけては来なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
サイテーなヤツだと思ってくれればいい。そう思った。学校が変われば会う事も無くなってくるだろうし、ナオなら直ぐに彼女が出来るに決まってる。
だから、長篠には行かないって言ったのに、結局ナオは物理的にも離れる事を選んだ。
かなちゃの懇願にも負けず、成陵を受験して寮に入ったのだ。スポクラじゃなければ通えるでしょ?というかなちゃに対抗するかの様に、野球部にも入ったらしい。
そしてそれを言い訳に、週末どころかゴールデンウィークすら家に帰って来なかった。
私は私で、周りから言われて、というか主にリツに誘われて、結局長篠を受けた。落ちてもいいと思ったのに受かったのは、やっぱりナオのおかげだったのかもしれない。
「…それ、あの子にもらったの?」
「え?」
「今日の…」
かなちゃの視線に気が付いて苦笑した。
「まさか、…ナオだよ」
かなちゃが目を見開く。そっと指先で喉元に触れた。
「誕生日の、お返しじゃないかな?」
「それ、本気で言ってる?」
かなちゃの声が低くなる。私はもう一度苦笑した。
「ナオは、優しいよね。かなちゃの事、アイツとか言ってても、コンビニで新作スイーツ見つけたら、買ってきてくれるでしょ?」
「スミちゃんのついでにね。」
間髪入れずに言うからまた笑う。わかってるくせに。
「遺伝子レベルだよね…本人は優しくしてるつもり、全く無いじゃない?しようとも思ってないから、自覚無い…。」
思い返すナオの顔は意地悪な笑みを浮かべている。どっちかっていうと口も悪い。それなのに、髪を撫でる手も、触れる唇も優しいのだからたちが悪いと思った。
私が他人だという事を忘れてたんじゃないかと思うぐらい、私達の距離は近過ぎたんだと思う。
―――あの、雨の日から。
目を伏せて、唇の端を曲げた。
「手を繋いだまんまになってるのに、気付いてないんだもん。ばかだよね。」
繋いだままで、色んなものから護ろうとしてくれてた。そんな義務もないのに、バカじゃないかと思う。
「まだ中学生だったのに、3人老後の面倒見なきゃとか、ホント、笑かす…」
ただの幼馴染なんだよ?
そんなものに縛られてどうするの?
ナオの人生はナオのものなのに―――
「その3人って、まさか私も入ってんのかな?」
低い声に顔を上げると、リビングの掃き出し窓にもたれながら、母が腕を組んで立っていた。
目を細めているその様子は、もしかしなくても怒ってるかもしれない。
「何で中学生にそんな事言われなきゃなんないの?」
母がそう言うと、今度はかなちゃが目を怒らせた。
「そんな言い方しなくたっていいじゃない。ナオは責任感強いんだよ」
「何の責任があるのよ」
「あのねぇ!散々面倒見させといて、何、その言い方!」
「散々面倒見させたから言ってんでしょ。あのコの人生何だと思ってんのよ。隣に住んでるだけの親子の面倒、この先ずっと見させる気なの?」
母の言葉に、かなちゃがハッとして、さっと私に視線を移した。思わず視線を伏せる。
「だから、ナオを振ったの?」
「えっ…」
顔を上げると、かなちゃが眉を潜めて睨んでいる。
「スミちゃんは、ナオの事、好きじゃなかったの?」
「かなちゃ…」
「カナン、ちょっと待って」
「中学生だからダメなの?」
「違っ」
「カナン!」
聞いたことも無い様な大きな声がベランダに響いた。
「カナン、この子達はまだ子供なんだよ。可能性のかたまりなの。親とか周りがそれを潰してどうするのよ」
「じゃあ、トーコさんが何か言ったの?ナオはダメって?」
「違うよ!」
ナオがダメなんじゃない。
「私が、悪いの。全部、私のせいだから…」
―――パンッ
乾いた音が響くと同時に、頬に痛みが走った。今のは…
「そんな事聞いてるんじゃ無いわ。ねぇ、スミちゃん」
表情を消したかなちゃが、一歩近付いた。
「ナオの事、好きよね?」
大丈夫、これはナオの為だから。
「もしかして気にしてる?」
何を?と聞き返す代わりに、ナオが目を眇めた。唇だけで笑って視線を逸らす。
「心配しなくても、妊娠なんてしてないよ。ちゃんと薬飲んだから」
「薬…?」
「今はそーいうの、あるんだよ。良かった、買っといて。最近ナオ、やり過ぎだって思ってたから」
その言葉に、ナオがハッと息を呑んだ。もしかしなくても自覚無かったんだな…そう思ったら、自然に笑いが込み上げた。
「大丈夫、誰にも言わないから。けど、彼女とする時は気を付けてね?」
それだけ言って、背中を向けた。
「あ、そうそう。私、長篠は受けないから。無理して行っても、後が大変だもん」
後ろ手に手を振って歩き出す。
何でも無い事のように、普通に、普通に歩いた。自分の教室まで。
ナオは、追いかけては来なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
サイテーなヤツだと思ってくれればいい。そう思った。学校が変われば会う事も無くなってくるだろうし、ナオなら直ぐに彼女が出来るに決まってる。
だから、長篠には行かないって言ったのに、結局ナオは物理的にも離れる事を選んだ。
かなちゃの懇願にも負けず、成陵を受験して寮に入ったのだ。スポクラじゃなければ通えるでしょ?というかなちゃに対抗するかの様に、野球部にも入ったらしい。
そしてそれを言い訳に、週末どころかゴールデンウィークすら家に帰って来なかった。
私は私で、周りから言われて、というか主にリツに誘われて、結局長篠を受けた。落ちてもいいと思ったのに受かったのは、やっぱりナオのおかげだったのかもしれない。
「…それ、あの子にもらったの?」
「え?」
「今日の…」
かなちゃの視線に気が付いて苦笑した。
「まさか、…ナオだよ」
かなちゃが目を見開く。そっと指先で喉元に触れた。
「誕生日の、お返しじゃないかな?」
「それ、本気で言ってる?」
かなちゃの声が低くなる。私はもう一度苦笑した。
「ナオは、優しいよね。かなちゃの事、アイツとか言ってても、コンビニで新作スイーツ見つけたら、買ってきてくれるでしょ?」
「スミちゃんのついでにね。」
間髪入れずに言うからまた笑う。わかってるくせに。
「遺伝子レベルだよね…本人は優しくしてるつもり、全く無いじゃない?しようとも思ってないから、自覚無い…。」
思い返すナオの顔は意地悪な笑みを浮かべている。どっちかっていうと口も悪い。それなのに、髪を撫でる手も、触れる唇も優しいのだからたちが悪いと思った。
私が他人だという事を忘れてたんじゃないかと思うぐらい、私達の距離は近過ぎたんだと思う。
―――あの、雨の日から。
目を伏せて、唇の端を曲げた。
「手を繋いだまんまになってるのに、気付いてないんだもん。ばかだよね。」
繋いだままで、色んなものから護ろうとしてくれてた。そんな義務もないのに、バカじゃないかと思う。
「まだ中学生だったのに、3人老後の面倒見なきゃとか、ホント、笑かす…」
ただの幼馴染なんだよ?
そんなものに縛られてどうするの?
ナオの人生はナオのものなのに―――
「その3人って、まさか私も入ってんのかな?」
低い声に顔を上げると、リビングの掃き出し窓にもたれながら、母が腕を組んで立っていた。
目を細めているその様子は、もしかしなくても怒ってるかもしれない。
「何で中学生にそんな事言われなきゃなんないの?」
母がそう言うと、今度はかなちゃが目を怒らせた。
「そんな言い方しなくたっていいじゃない。ナオは責任感強いんだよ」
「何の責任があるのよ」
「あのねぇ!散々面倒見させといて、何、その言い方!」
「散々面倒見させたから言ってんでしょ。あのコの人生何だと思ってんのよ。隣に住んでるだけの親子の面倒、この先ずっと見させる気なの?」
母の言葉に、かなちゃがハッとして、さっと私に視線を移した。思わず視線を伏せる。
「だから、ナオを振ったの?」
「えっ…」
顔を上げると、かなちゃが眉を潜めて睨んでいる。
「スミちゃんは、ナオの事、好きじゃなかったの?」
「かなちゃ…」
「カナン、ちょっと待って」
「中学生だからダメなの?」
「違っ」
「カナン!」
聞いたことも無い様な大きな声がベランダに響いた。
「カナン、この子達はまだ子供なんだよ。可能性のかたまりなの。親とか周りがそれを潰してどうするのよ」
「じゃあ、トーコさんが何か言ったの?ナオはダメって?」
「違うよ!」
ナオがダメなんじゃない。
「私が、悪いの。全部、私のせいだから…」
―――パンッ
乾いた音が響くと同時に、頬に痛みが走った。今のは…
「そんな事聞いてるんじゃ無いわ。ねぇ、スミちゃん」
表情を消したかなちゃが、一歩近付いた。
「ナオの事、好きよね?」
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