雨に薫る

はなの*ゆき

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1.Cape jasmine

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 その言葉に目を見開いた。
 それは、幼馴染、としてでは無く?

「カナン、だから…」
「あんた達、バカじゃないの?」

 不意にそう言って、かなちゃが腕を組んだ。

「中学生なんだから、好きだなんだ言って何が悪いのよ。老後の面倒見るって、言って・・・何が悪いの?それとも、ナオが心変わりしたら、約束が違うって責めるつもりな訳?中学生の戯言なのに」

 フンッとかなちゃが見た目に似合わない鼻息を立てた。

「考え過ぎなのよ2人とも。見ててイライラするわ。ナオもそう。好きならとっとと押し倒すなりすりゃいいのに」

 その言葉に、反射的に身体が強張った。

「えっ、ちょっと、まさか…」
「カナン、ちょっと…」

 動揺したかなちゃに母が近寄り、私をチラリと見る。

「あんたはお風呂入って寝なさい。明日も学校なんだから」

 言葉も無く立ち竦む私を残し、母はかなちゃを促して境界壁の向こうへと姿を消した。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「今、何て行ったの?」

 父にそっくりな、綺麗な顔を顰めてその人が言った。膝の上で両手を握りしめる。

「妊娠、しない為の、薬が欲しい」

 もう一度繰り返すと、目の前に座った人が、額に手を当てて大きくため息をつく。

「珍しくやって来ておねだりするのがそれなんてね…」
「ゴメン、美幸さんおばあちゃん…」

 その言葉に美幸さんは一瞬目を閉じてから開き、ローテーブルに置いたスマホを手に取った。

「とりあえず一緒に病院行きましょう。診察してからじゃないと処方出来ない薬だから。…内診は必要?」
「内診?」
「原因がレイプなら、中を痛めてないか調べる必要があるわ」
「違っ…」

 思わず腰を浮かすと、美幸さんが眉を潜めた。

「付き合ってる相手なの?」
「…付き合ってないよ。でも、迷惑かけたくないの」
「同意の上だったのかしら?」
「もちろん」

 それだけはしっかりと顔を上げて言うと、美幸さんが肩を竦める。

「だったら尚更避妊はしなさい。それぐらい、中学生でも・・・・・出来る事よ」
「ごめんなさい」
「謝るぐらいならしない事ね。正直私はまだ早いと思うわ」
「うん、ごめん。…今日だけは許して」

 目を逸らさずに言うと、美幸さんは困った様に眉を下げた。

「本当に、変な所が似てるわね」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 父の実家は総合病院をやっていて、美幸さんはそこで副院長をやっていた。70を過ぎてからは顧問だったっけ。
 跡を継いで医者にならなかった父と祖父は微妙に距離があったけど、美幸さん―――母がそう呼ぶからそのまんま呼んでるその人とは仲が良かったから、あんな事を頼むのは気が引けたのだけど仕方ない。
 一回で出来るとは思わないけど、可能性が無い訳じゃない。自分が気まずい思いをしても、これはナオの為だからちっとも構わなかった。むしろ、美幸さんの存在が有り難かった位。
 おかげでずっと少量続いていた出血は、薬を飲んで数日後には本格的な生理の量に変わったので安心したけど、そういえばその事を美幸さんには特に口止めしなかった。
 それだけ信用してたんだけど、さすがに美幸さんも母には話してたんだろう。

 相手が誰かも伝えてなかったのに―――


 パシャリ…と、湯船に浸かったままで頬に手を当てた。


 ―――バカじゃないの?


 かなちゃの言葉が鮮明に蘇る。


 ―――好きだなんだ言って何が悪いの?

 ―――心変わりしたら責めるつもり?

 ―――中学生の戯言なのに



 クスッと笑いが込み上げた。
 ホントに、その通りだったから。

 心変わりなんて、して当たり前だと思えばいい事だった。バカな事言ってる、そう言って笑い飛ばせば良かった。だって、ホントにまだ中学生なんだから。

 それが出来なかった私は、ナオの未来を縛りつける事が怖かったんじゃない。ナオが後からそれを悔やむのが怖かった。

 ナオが、心変わりする事・・・・・・・が怖かった。

 当たり前の様に側にいてくれた存在を失う未来に怯えてたのだ。父を失った時の様に。


 俯いて湯の中の自分の身体を見つめた。

 寄せて上げてないから谷間は無い。でも、ナオはその場所に無数の跡を付けた。

『ここ、弱いよな?』

 そう言って見上げたナオの顔を思い出した途端、まるでクレイアニメのようにそこが形を持って立ち上がった。

 自分で触れても何とも無い場所なのに、ナオの唇やゴツゴツとした指が触れるとそれだけで、震えが走り肌が騒めく。

 ナオの舌先を求めて疼く自分の舌を噛む。




『覚えとけよ、これが俺のカタチだって』
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