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2.Yellow star jasmine
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「―――あれ、 進藤?」
聞き覚えのある声に顔を廻らせると、見慣れた顔が手を振っていた。小柄な制服姿が人波をすり抜けて寄って来ると、眼鏡のブリッジを押し上げて見上げてくる。
「久しぶり、元気?」
「まあ、それなりに」
ホントに久しぶりだった。
中学の卒業式以来だから、3か月ぶりだ、 桂馬 とも。
「相変わらずデカいね。頭1つ飛び出してて直ぐわかったよ。」
「そりゃ、縮んだら怖いだろ?」
「まあそうだけどさ。…相変わらず容赦ないなぁ」
苦笑する桂馬に肩を竦めたところで、
「…あの、進藤君?」
という遠慮がちな声に遮られて思い出した。そういや、“コイツ”いたな…。
振り向くと、斜め直ぐ後ろに立って、例の2年の女が“うふっ”という字幕付きで微笑んでいた。いかにも“ツレ”感アピール満載なのがクソ苛つく。
「ああ、これ、明日の朝、部室に持ってっといたらいいですか?」
「あ、うん、お願い出来る?」
手にした買い物袋を軽く掲げて聞くと、あざとい感じに小首を傾げて、握った手を口元に寄せる。…ウザ。
「わかりました。じゃあ、失礼します。」
「えっ」
ええ~っ、待って進藤君~っという声をガン無視し、行こうと桂馬を促して歩き出した。
「いいの?」
一応、軽く会釈して、桂馬は一緒に歩き出す。
「いい。大体、こんなもん買う為に、わざわざここまで連れ出すとか、ありえねーし。」
買い物袋に入っているのは、箱入りの洗濯用粉洗剤三箱だ。
とっても安く買えるドラッグストアがあるの~と言って、バスで10分かけて連れてきたその店は、確かに安いが店の商品の半分以上が女子向けのコスメ類とか、なんだそれ。
挙げ句、ついでにちょっと他のものも見てみない~?と言い出すから、速攻店員を捕まえて洗剤を買い、店を出てきたところだった。
3日前はスポーツ用品店で水着売り場に連れ込もうとしたから、今日はまだましっちゃあ、まし。
「成陵って、名門なのにあんなチャラけたマネージャーでやってけんの?」
「やってけねぇよ。買い物1つでこれだぜ?スコアだって1年が付けてるし、一体何しにいるんだか」
「…何か、大変だね…」
そう言って、桂馬は眼鏡を押し上げた。
まだ塾までに時間があるという桂馬と連れ立って、すぐそこにあったコーヒーショップに入った。カウンターで出てきたカップを受け取り、窓際の席に並んで座ると、一口飲んで、桂馬がため息を付く。
「なんて言うか、ホント相変わらずだね」
「…何が?」
「いや、女難の相って言うか…」
コーヒーを啜りながら顔を顰めると、それを見て桂馬がまた苦笑した。
「…野球辞めるって言ってたのに、大丈夫なのか?進学コースで入ってるんだろ?」
「まあ、まだ1年だし。成績悪くなるようなら辞める。」
ただ、今は体を動かしていたい。正直、考える時間なんて無い方が良かった。
桂馬はふーんと言うと、自分のカップを揺らして中身を混ぜながら、窓の外の人波に視線を移した。
「…進藤、長篠に来るんだと思ってたよ。言ってただろ?老後の面倒見ないといけないのが3人いるから、フツーに大学行くって。」
桂馬の通う長篠高は公立だ。学区内ではまあまあの進学校だが、最近監督が変わったせいで野球が強くなり、去年はベスト8までいっていた。だから、そこで勉強しながら野球を楽しむつもりだったのだ、ホントは。
「よく、覚えてんな」
「そりゃ、いきなり老後とか言われたらねぇ。」
桂馬がふっと思い出し笑いをしながら、カフェラテを啜る。自分のカップも揺らしながら、同じように外を眺めた。
そういえば、そんなこと言ってたっけな。…ずいぶん昔な気がするけど。
「―――深山さん…」
ピクッと、カップを持つ手が揺れた。桂馬は視線を前に向けたまま、もう一口カフェラテを飲む。
「…だよね、結局、進藤が長篠受けなかったの。何があったのか知らないけどさ」
「……」
「でもビックリしたよ、試験会場で深山さん見かけた時はさ。てっきり安城行くんだと思ってたから。よく受かったよねぇ?こんな事ならテキストのコピー代、貰っときゃ良かったなぁ…」
―――コンッ…
音を立ててコーヒーの紙カップをテーブルに置いた。ジロリと視線を向けると、桂馬がこっちを見ながらニヤリと笑った所だった。
「何?」
「…いくらだよ」
「進藤は使って無いんだろ?もらうんなら深山から貰うよ」
口角を曲げるようにして言う桂馬に、無言で財布を出した所でため息を吐かれた。
「もう止めなよ。いつまで面倒みるつもり?ただの幼馴染なんだろ?…少なくとも、向こうはそう言ってる」
痛い所を突かれて視線を落とすと、桂馬が三度目のため息を吐いた。
「バカじゃないの?」
まさか桂馬にまで言われるとは思わなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あのときは結果的に、1ヶ月の部活停止が功を奏した。停止中だけでも、毎日学校の後、スミを連れて家に帰る事が出来たからだ。
よくよく様子を見てみると、普段は特に変わりが無いが、雨の日になるとボンヤリとしていることが多かった。―――やはり、かずさんの事が影響しているのだろう。
それで、母と相談して、雨の日はなるべくスミを1人にしないよう心掛けた。
別にそうしろ、と言われたわけじゃない。ただ、気が付くとスミの事を考えている事が増えていた。
雨が振って、部活が休みになると、スミの姿を探す様になり、気がつけば中学最後の夏が訪れようとしていた。
聞き覚えのある声に顔を廻らせると、見慣れた顔が手を振っていた。小柄な制服姿が人波をすり抜けて寄って来ると、眼鏡のブリッジを押し上げて見上げてくる。
「久しぶり、元気?」
「まあ、それなりに」
ホントに久しぶりだった。
中学の卒業式以来だから、3か月ぶりだ、 桂馬 とも。
「相変わらずデカいね。頭1つ飛び出してて直ぐわかったよ。」
「そりゃ、縮んだら怖いだろ?」
「まあそうだけどさ。…相変わらず容赦ないなぁ」
苦笑する桂馬に肩を竦めたところで、
「…あの、進藤君?」
という遠慮がちな声に遮られて思い出した。そういや、“コイツ”いたな…。
振り向くと、斜め直ぐ後ろに立って、例の2年の女が“うふっ”という字幕付きで微笑んでいた。いかにも“ツレ”感アピール満載なのがクソ苛つく。
「ああ、これ、明日の朝、部室に持ってっといたらいいですか?」
「あ、うん、お願い出来る?」
手にした買い物袋を軽く掲げて聞くと、あざとい感じに小首を傾げて、握った手を口元に寄せる。…ウザ。
「わかりました。じゃあ、失礼します。」
「えっ」
ええ~っ、待って進藤君~っという声をガン無視し、行こうと桂馬を促して歩き出した。
「いいの?」
一応、軽く会釈して、桂馬は一緒に歩き出す。
「いい。大体、こんなもん買う為に、わざわざここまで連れ出すとか、ありえねーし。」
買い物袋に入っているのは、箱入りの洗濯用粉洗剤三箱だ。
とっても安く買えるドラッグストアがあるの~と言って、バスで10分かけて連れてきたその店は、確かに安いが店の商品の半分以上が女子向けのコスメ類とか、なんだそれ。
挙げ句、ついでにちょっと他のものも見てみない~?と言い出すから、速攻店員を捕まえて洗剤を買い、店を出てきたところだった。
3日前はスポーツ用品店で水着売り場に連れ込もうとしたから、今日はまだましっちゃあ、まし。
「成陵って、名門なのにあんなチャラけたマネージャーでやってけんの?」
「やってけねぇよ。買い物1つでこれだぜ?スコアだって1年が付けてるし、一体何しにいるんだか」
「…何か、大変だね…」
そう言って、桂馬は眼鏡を押し上げた。
まだ塾までに時間があるという桂馬と連れ立って、すぐそこにあったコーヒーショップに入った。カウンターで出てきたカップを受け取り、窓際の席に並んで座ると、一口飲んで、桂馬がため息を付く。
「なんて言うか、ホント相変わらずだね」
「…何が?」
「いや、女難の相って言うか…」
コーヒーを啜りながら顔を顰めると、それを見て桂馬がまた苦笑した。
「…野球辞めるって言ってたのに、大丈夫なのか?進学コースで入ってるんだろ?」
「まあ、まだ1年だし。成績悪くなるようなら辞める。」
ただ、今は体を動かしていたい。正直、考える時間なんて無い方が良かった。
桂馬はふーんと言うと、自分のカップを揺らして中身を混ぜながら、窓の外の人波に視線を移した。
「…進藤、長篠に来るんだと思ってたよ。言ってただろ?老後の面倒見ないといけないのが3人いるから、フツーに大学行くって。」
桂馬の通う長篠高は公立だ。学区内ではまあまあの進学校だが、最近監督が変わったせいで野球が強くなり、去年はベスト8までいっていた。だから、そこで勉強しながら野球を楽しむつもりだったのだ、ホントは。
「よく、覚えてんな」
「そりゃ、いきなり老後とか言われたらねぇ。」
桂馬がふっと思い出し笑いをしながら、カフェラテを啜る。自分のカップも揺らしながら、同じように外を眺めた。
そういえば、そんなこと言ってたっけな。…ずいぶん昔な気がするけど。
「―――深山さん…」
ピクッと、カップを持つ手が揺れた。桂馬は視線を前に向けたまま、もう一口カフェラテを飲む。
「…だよね、結局、進藤が長篠受けなかったの。何があったのか知らないけどさ」
「……」
「でもビックリしたよ、試験会場で深山さん見かけた時はさ。てっきり安城行くんだと思ってたから。よく受かったよねぇ?こんな事ならテキストのコピー代、貰っときゃ良かったなぁ…」
―――コンッ…
音を立ててコーヒーの紙カップをテーブルに置いた。ジロリと視線を向けると、桂馬がこっちを見ながらニヤリと笑った所だった。
「何?」
「…いくらだよ」
「進藤は使って無いんだろ?もらうんなら深山から貰うよ」
口角を曲げるようにして言う桂馬に、無言で財布を出した所でため息を吐かれた。
「もう止めなよ。いつまで面倒みるつもり?ただの幼馴染なんだろ?…少なくとも、向こうはそう言ってる」
痛い所を突かれて視線を落とすと、桂馬が三度目のため息を吐いた。
「バカじゃないの?」
まさか桂馬にまで言われるとは思わなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あのときは結果的に、1ヶ月の部活停止が功を奏した。停止中だけでも、毎日学校の後、スミを連れて家に帰る事が出来たからだ。
よくよく様子を見てみると、普段は特に変わりが無いが、雨の日になるとボンヤリとしていることが多かった。―――やはり、かずさんの事が影響しているのだろう。
それで、母と相談して、雨の日はなるべくスミを1人にしないよう心掛けた。
別にそうしろ、と言われたわけじゃない。ただ、気が付くとスミの事を考えている事が増えていた。
雨が振って、部活が休みになると、スミの姿を探す様になり、気がつけば中学最後の夏が訪れようとしていた。
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