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2.Yellow star jasmine
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女難の相、だと桂馬が言っていた。
確かにそうかもしれない。
自分の見た目が女から好まれる部類のものらしいと自覚したのは、実は中学に入ってからだった。
野球を始めるまではしょっ中熱を出す程身体が弱くて小柄だったのもあるだろう。何度も女子に間違われる程見事な女顔が、小学生時代は少しコンプレックスでもあった。
何より、母やスミが、身体が丈夫になって良かったとか、バカみたいにデカくなったとかぐらいしか、褒め言葉らしき事を口にしなかったのがあるかもしれない。
だから中学に入ってからやたらと絡まれる様になったのが、正直、意味不明だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「えっと…、今、付き合ってるコ、いる?」
何言ってんだコイツ?
と言うのが率直な感想だった。
多分、三年生だろう、スミよりも背は低かったけど、胸は恐ろしくデカくて、“ちち”と呼ぶ方がしっくり来るような大きさだ。
それを強調するかのように腕を後ろ手に組んでモジモジしながら聞いてくるが、正気だろうかとマジで思った。
いやだってそうだろ?
こっちは3月までランドセル担いでたし、彼女とか、冗談にしか聞こえない。
ただ、いないものをいるとは言えないから、「いや…」と言いながら首を傾げると、大袈裟な程満面の笑顔になった。
「あ、じゃあ、あたしと付き合わない⁈」
そう言われて、再度首を傾げた。
「付き合うって、何するんですか?」
「えっ? あ、えっと…、一緒に遊びに行ったり、とか…」
アンタと?…とは流石に言わなかったけど、顔には出たんだろう。慌てた様に顔の前で手を振った。
…それ、ガイジンにやったらアカンやつ。心の中で突っ込む自分の前で、その先輩は赤くなりながら視線を彷徨わせた。
「も、もちろんっ、それだけじゃ、無いよっ! 手ぇ繋いだりとか、…キス、とか…」
アンタと(以下略)
モジモジしながら上目遣いで見てくる先輩を黙ったまま真顔で見返すと、相手はぐっと黙り込んで俯いた。
そうする事1時間…なんて事は流石に無かったが、軽く1分は経っただろうか。
「な、何よ…」
ボソリと呟いて先輩が顔を上げる。
眉を逆立てたその顔は、真っ赤になっていた。
「もっとさ、言い方!ってあるじゃん⁈ 他に好きなコいるとかっ、部活頑張りたいからとかっっ!」
いや、何も言ってねぇし。
と言う間も無く、「もう、いい!」と吐き捨てると、ソイツ(もう先輩と呼ぶ気がしない)は走ってその場から離れていった。
「なんだ、あれ? ってカンジだったんだよな。意味わからんっつーか」
「進藤って…ヒトデナシだな」
「どこが?」
「いや、さ~、振るにしてももっと優しく…」
「してどうするんだ? 大体、何をもって好きだと言ってるのかもわかんねぇし」
「モテる奴はこれだから…。女子がクールとか、無口でカッコいいとか言ってんのが実はコレって…」
知るかよ、と肩を竦めた。
それ以来、呼び出される事がちょこちょこ増えたのだが、その度にただ黙ってるだけで向こうが勝手に逃げていくのだ。
もう好きにしてくれ、と言うのが本音だった。
告ってる間、全くこっちを見ないヤツも多いのだ。それで付き合ってどうなる? 顔が好きなら、立ってるだけでいいって事か?
容赦ねぇ…と桂馬が呟いた、その後ろをスミが通りがかった。
今日は味噌だったな…と思いながら視線を向けると、気付いたスミが、微かに口角を上げる。桂馬が、ん?と振り向いてスミの姿を確認した。
「…なるほど」
「? 何が?」
「いや、…ミヤマさんは別格なんだな~と思ってさ」
「幼なじみだからな」
真顔だったと思う。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「すっごいよね、お母さん、若っか~っっ」
手放しの賞賛にげんなりした。
息子からすれば、どう考えてもただの若作りとしか思えない。トシ考えろよと言った事もあるが、聞きゃしねぇ。流石に似合わねぇとまでは言わないが…後が怖いから。
「皆も言ってたよ~、あれ見慣れてりゃ、そりゃ、ちょっとやそっとじゃ靡かねえわーって。」
その言葉に更に脱力した。アレが俺の基準とか、マジ勘弁してくれ…
「つーか、お前は会ったことあっただろ?」
「えー、覚えてないよ。だってお母さん達って皆、帽子とか被ってて、顔よく見えなかったし。」
「ああ…」
言われてみれば、母親達の多くは、アームカバーだのサンバイザーだので完全防備した上で、試合観戦していたっけ?
ついでに言うとうちの母親も、キンシローの事を男だと思っていたようで、
「えっ、えーっ、そうなの?! キンシロー君…?」
と言って、キンシローを膝から崩れ落ちさせていた。
「すなおっちがまともに呼んでくれてたら、そんな事にはならなかったと思う。」
「お前が言うな。」
「えーっ」
「つーか、鍵。お前はもう戻れよ。」
「えー、いや、ついでに洗剤の新しいの取ってこーと思ってさ。さっき見たらどこ有るかわかんなくって。風間がすなおっちしかわかんないかもって言うから」
「ああ…そういやそうか…」
それなら仕方ないか、と、連れ立ってクラブハウス棟に向かう事にした。(ちなみに風間の下の名前はモリオでは無い)
母親を追い返した後、着替える為に部室の鍵を貰おうと、まずグラウンドへ向かった。
練習していた部長に声をかけると、何故かわらわらと部員が集まり、「彼女か?! 」と言われるに至って、寮に入れなかったヤツがグラウンドに来ていた事を知り、愕然としたのである。
本気で要らん事しかしねぇわ、アイツ…そう思いながら目を眇めた。
“先輩”、か…。
3ヶ月だ、まだ。あれからスミが劇的に何か変わったなんて事は無いだろう。あの鈍さは国宝級だ。
顎にかかるさらりとした黒髪と、抜ける様に白い首筋を思い出してため息を吐いた時だった。
「…シシュンキだねぇ」
「は?」
黙って隣を歩いていたキンシローから不意に言われて、一瞬意味がわからず間の抜けた声が出る。それを見たキンシローが、普段の様なふざけたカンジとは違う顔で笑った。
「いや、ほら、こんぐらいの男子って、結構おかーさんの事邪険にするじゃん?ウザいとか言ってさ」
「ああ…」
確かにウザい。顔に出たのか、キンシローがさらに笑った。
「すなおっちのタイプって、じゃあ、おかーさんとは正反対なんだ?」
「…タイプ…」
思わず黙り込むと、キンシローが眉を上げた。
「無いの? もしかしてあれ? イケメンあるあるで、人を好きになった事無いとか?」
好きに―――?
「…お前は、どうなんだ? 好きなヤツとか」
「えっ、あたし?! そ、そりゃ、いるよ?! 、もちろんっっ」
質問で返してやると、キンシローが赤くなってワタワタし始める。こういうカンジのコイツを見るのは初めてだった。
そうか、さすがのキンシローもシシュンキなんだな。
「それって、どうなんだ?」
「ど、どうって…?」
「好きなんだろ、ソイツの事。それって、どんなカンジなんだよ?」
ずいぶん抽象的だと思いながら聞くと、キンシローが視線を泳がせた。
「ど、うって言われると困るんだけど…。そ、ソイツの事考えると、もー、スゴいドキドキして、なんかスゴい大変なんだけど、でもスゴい顔見たくてたまんなくって…」
「…スゴい多すぎねぇ?」
「や、そんぐらいスゴいんだって! もう頭ん中ソイツでいっぱいんなるんだよ!」
「何か、それって面倒くね?」
「面倒く無いよ!」
そう言って、キンシローは拳を握りしめた。
「だって、楽しいもん! 会えたら嬉しいし、笑ってくれたら、もーそんだけでスゴい幸せな気分なれる!」
鼻息荒く捲し立てたキンシローは、ちょっと顔が赤くなってて、でも不思議とブサイクには見えなかった。
そんだけ“幸せ”を感じてるって事なんだろう―――そう思って。
「じゃあ、違うな…」
この気持ちは、多分。
確かにそうかもしれない。
自分の見た目が女から好まれる部類のものらしいと自覚したのは、実は中学に入ってからだった。
野球を始めるまではしょっ中熱を出す程身体が弱くて小柄だったのもあるだろう。何度も女子に間違われる程見事な女顔が、小学生時代は少しコンプレックスでもあった。
何より、母やスミが、身体が丈夫になって良かったとか、バカみたいにデカくなったとかぐらいしか、褒め言葉らしき事を口にしなかったのがあるかもしれない。
だから中学に入ってからやたらと絡まれる様になったのが、正直、意味不明だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「えっと…、今、付き合ってるコ、いる?」
何言ってんだコイツ?
と言うのが率直な感想だった。
多分、三年生だろう、スミよりも背は低かったけど、胸は恐ろしくデカくて、“ちち”と呼ぶ方がしっくり来るような大きさだ。
それを強調するかのように腕を後ろ手に組んでモジモジしながら聞いてくるが、正気だろうかとマジで思った。
いやだってそうだろ?
こっちは3月までランドセル担いでたし、彼女とか、冗談にしか聞こえない。
ただ、いないものをいるとは言えないから、「いや…」と言いながら首を傾げると、大袈裟な程満面の笑顔になった。
「あ、じゃあ、あたしと付き合わない⁈」
そう言われて、再度首を傾げた。
「付き合うって、何するんですか?」
「えっ? あ、えっと…、一緒に遊びに行ったり、とか…」
アンタと?…とは流石に言わなかったけど、顔には出たんだろう。慌てた様に顔の前で手を振った。
…それ、ガイジンにやったらアカンやつ。心の中で突っ込む自分の前で、その先輩は赤くなりながら視線を彷徨わせた。
「も、もちろんっ、それだけじゃ、無いよっ! 手ぇ繋いだりとか、…キス、とか…」
アンタと(以下略)
モジモジしながら上目遣いで見てくる先輩を黙ったまま真顔で見返すと、相手はぐっと黙り込んで俯いた。
そうする事1時間…なんて事は流石に無かったが、軽く1分は経っただろうか。
「な、何よ…」
ボソリと呟いて先輩が顔を上げる。
眉を逆立てたその顔は、真っ赤になっていた。
「もっとさ、言い方!ってあるじゃん⁈ 他に好きなコいるとかっ、部活頑張りたいからとかっっ!」
いや、何も言ってねぇし。
と言う間も無く、「もう、いい!」と吐き捨てると、ソイツ(もう先輩と呼ぶ気がしない)は走ってその場から離れていった。
「なんだ、あれ? ってカンジだったんだよな。意味わからんっつーか」
「進藤って…ヒトデナシだな」
「どこが?」
「いや、さ~、振るにしてももっと優しく…」
「してどうするんだ? 大体、何をもって好きだと言ってるのかもわかんねぇし」
「モテる奴はこれだから…。女子がクールとか、無口でカッコいいとか言ってんのが実はコレって…」
知るかよ、と肩を竦めた。
それ以来、呼び出される事がちょこちょこ増えたのだが、その度にただ黙ってるだけで向こうが勝手に逃げていくのだ。
もう好きにしてくれ、と言うのが本音だった。
告ってる間、全くこっちを見ないヤツも多いのだ。それで付き合ってどうなる? 顔が好きなら、立ってるだけでいいって事か?
容赦ねぇ…と桂馬が呟いた、その後ろをスミが通りがかった。
今日は味噌だったな…と思いながら視線を向けると、気付いたスミが、微かに口角を上げる。桂馬が、ん?と振り向いてスミの姿を確認した。
「…なるほど」
「? 何が?」
「いや、…ミヤマさんは別格なんだな~と思ってさ」
「幼なじみだからな」
真顔だったと思う。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「すっごいよね、お母さん、若っか~っっ」
手放しの賞賛にげんなりした。
息子からすれば、どう考えてもただの若作りとしか思えない。トシ考えろよと言った事もあるが、聞きゃしねぇ。流石に似合わねぇとまでは言わないが…後が怖いから。
「皆も言ってたよ~、あれ見慣れてりゃ、そりゃ、ちょっとやそっとじゃ靡かねえわーって。」
その言葉に更に脱力した。アレが俺の基準とか、マジ勘弁してくれ…
「つーか、お前は会ったことあっただろ?」
「えー、覚えてないよ。だってお母さん達って皆、帽子とか被ってて、顔よく見えなかったし。」
「ああ…」
言われてみれば、母親達の多くは、アームカバーだのサンバイザーだので完全防備した上で、試合観戦していたっけ?
ついでに言うとうちの母親も、キンシローの事を男だと思っていたようで、
「えっ、えーっ、そうなの?! キンシロー君…?」
と言って、キンシローを膝から崩れ落ちさせていた。
「すなおっちがまともに呼んでくれてたら、そんな事にはならなかったと思う。」
「お前が言うな。」
「えーっ」
「つーか、鍵。お前はもう戻れよ。」
「えー、いや、ついでに洗剤の新しいの取ってこーと思ってさ。さっき見たらどこ有るかわかんなくって。風間がすなおっちしかわかんないかもって言うから」
「ああ…そういやそうか…」
それなら仕方ないか、と、連れ立ってクラブハウス棟に向かう事にした。(ちなみに風間の下の名前はモリオでは無い)
母親を追い返した後、着替える為に部室の鍵を貰おうと、まずグラウンドへ向かった。
練習していた部長に声をかけると、何故かわらわらと部員が集まり、「彼女か?! 」と言われるに至って、寮に入れなかったヤツがグラウンドに来ていた事を知り、愕然としたのである。
本気で要らん事しかしねぇわ、アイツ…そう思いながら目を眇めた。
“先輩”、か…。
3ヶ月だ、まだ。あれからスミが劇的に何か変わったなんて事は無いだろう。あの鈍さは国宝級だ。
顎にかかるさらりとした黒髪と、抜ける様に白い首筋を思い出してため息を吐いた時だった。
「…シシュンキだねぇ」
「は?」
黙って隣を歩いていたキンシローから不意に言われて、一瞬意味がわからず間の抜けた声が出る。それを見たキンシローが、普段の様なふざけたカンジとは違う顔で笑った。
「いや、ほら、こんぐらいの男子って、結構おかーさんの事邪険にするじゃん?ウザいとか言ってさ」
「ああ…」
確かにウザい。顔に出たのか、キンシローがさらに笑った。
「すなおっちのタイプって、じゃあ、おかーさんとは正反対なんだ?」
「…タイプ…」
思わず黙り込むと、キンシローが眉を上げた。
「無いの? もしかしてあれ? イケメンあるあるで、人を好きになった事無いとか?」
好きに―――?
「…お前は、どうなんだ? 好きなヤツとか」
「えっ、あたし?! そ、そりゃ、いるよ?! 、もちろんっっ」
質問で返してやると、キンシローが赤くなってワタワタし始める。こういうカンジのコイツを見るのは初めてだった。
そうか、さすがのキンシローもシシュンキなんだな。
「それって、どうなんだ?」
「ど、どうって…?」
「好きなんだろ、ソイツの事。それって、どんなカンジなんだよ?」
ずいぶん抽象的だと思いながら聞くと、キンシローが視線を泳がせた。
「ど、うって言われると困るんだけど…。そ、ソイツの事考えると、もー、スゴいドキドキして、なんかスゴい大変なんだけど、でもスゴい顔見たくてたまんなくって…」
「…スゴい多すぎねぇ?」
「や、そんぐらいスゴいんだって! もう頭ん中ソイツでいっぱいんなるんだよ!」
「何か、それって面倒くね?」
「面倒く無いよ!」
そう言って、キンシローは拳を握りしめた。
「だって、楽しいもん! 会えたら嬉しいし、笑ってくれたら、もーそんだけでスゴい幸せな気分なれる!」
鼻息荒く捲し立てたキンシローは、ちょっと顔が赤くなってて、でも不思議とブサイクには見えなかった。
そんだけ“幸せ”を感じてるって事なんだろう―――そう思って。
「じゃあ、違うな…」
この気持ちは、多分。
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