雨に薫る

はなの*ゆき

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2.Yellow star jasmine

黒南風①

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 伏せた睫毛に一瞬見惚れた。
 マジ、キレーだよなぁ…と、シミジミ思う。

 でも、そっか。
 やっぱ、シシュンキなんだなって、そう思ったら、何か心臓シンゾーがギュッてなった。

 前言撤回。

 こんな顔してるヤツに、好きなコがいないワケない。







 初めて会ったのは、小1ん時。

 その頃、野球マンガを読んで真似してたら、それ見て喜んだ父さんに近くでやってた野球クラブに入れられてた。好きだったんだろうなぁ、野球…父さんが。レプリカ着て球場観に行くぐらいだから当たり前か。
 まぁ、身体動かすのは好きだったし、男子より大きかったから、走るのも投げるのも打つのも負けてなくって、自分でも結構楽しんでたと思う。そんな時に入ってきたのが“すなおっち”だった。

 ぶっちゃけ、女の子だと思ったんだよね。

 なにしろあたしよりちっちゃかったし、色白で、ちょー可愛かったんだもん。だから、先輩として守ったげなきゃ!って思ったんだ。

「よろしくねっ、素直ちゃん!」

 その途端、もんのすごい勢いで睨まれた。
 あれ、馴れ馴れしかった?
 でも、女の子同士仲良くしたいなぁ…そう思ったんだけど、隣にいたコーチに「男だよ」って笑いながら言われてびっくりした。

「えっ、嘘、こんなカワイーのに?! 」

 思わずデッカイ声で言っちゃって、それが決定打になったのか、しばらく口きいてもらえなかった。いやだって、ホントに可愛かったんだよ…。
 後で聞いたけど、小学校入って直ぐの頃、何かアホなヤツらに絡まれたらしいんだよね。『すなおちゃーん』って。
 まあでもそこはすなおっち。
 軽蔑したヒョーテンカの目で、ソイツらにこう言い返したらしい。

『悪いけど、俺、そっちの趣味・・・・・・ねぇから』
『そっち?』
『男が好きなんだろ?』

 …周りに沢山人がいたらしい。

 おまけに今度は“可哀想なヤツ”みたいな目で見ながら、『大変だな』とまで言ったとかなんとか。
 一緒に聞いてたみんなは笑ってたけど、あたしはやっぱ申し訳なくって。そんで、謝ろうと思ったんだけど、近くに行くと物凄く嫌そうな顔されるからなかなか謝れなかった。

「“すなおっち”って呼ぶの止めればいいんじゃねぇの?」

 って言われたけど、そこは何か譲れなかった。だって、気付いたんだ。すなおっちは、どうでもいいヤツにはほとんど“無”になるって。あたしがそう呼ぶと、嫌がっててもちゃんとこっち見てくれてる。だから止められなかった。
 自分でもなんでかわかんなかったけど。




「お前、何やってんの?」

 話しかけられてビックリした。
 すなおっちから!ってのがね。だって、もしかしたら初めてかもしんないって。

「えっと、練習?」

 言っちゃなんだけど、あたし結構コントロール良かったんだ。投げるの。
 だからピッチャー希望出してたんだけど、いっつも選ばれるの“カンちゃん”で、それが悔しくって、こっそり壁で練習してたんだ。
 そう言ったらすなおっちは、防具を取ってきてあたしの前に座って言ったんだよね。

「ほら、投げろよ」

 って。
 それがどんだけ嬉しかったか、本人にはわかんないだろうな…。ピッチャーがカンダ1人じゃ無い方がいいって言われたけど、そんでも、ね。
 すなおっちが練習付き合ってくれたおかげで、カンちゃんと二枚看板張ってさ、小学校ん時はスゴい楽しかったなぁ…。

 だから、中学の3年間はホントつまんなかった。バス代かかるから、越境ダメって親に言われて、でも頑張って頼み込んで、成陵には入れてもらった。誰か野球部来ないかなって、そう思ってたんだけど。

「野球部に、スゴいイケメン入ったらしいよ?」

 名前聞いて、ヤッター!ってなった。すなおっちに会える!って。
 でも、実際会いに行ってびっくりした。あたしの中でヤツは、男なのに可愛カワイーコってイメージで止まってたから。なにコレ?育ち過ぎじゃね?ってカンジ。

 だって前は、側に居てもこんな心臓バクバクいわなかった。顔見るとスゴい嬉しくって、はたかれたって、逆にもっとやってって思っちゃう。
 ヤバくね?あたし…って思うけど、クラスのコとかから、女子に結構冷たいって聞いてたから、相手してもらえてるって、ちょっとユーエツ感あった、けど。

 チラッと隣を歩くヤツの横顔を見る。

 フツーの人みたく真ん中が陥没してない、高い鼻と引き締まった顎。
 微かに伏せた長い睫毛の下の瞳は、前を向いているけどどこか遠くを見ている様に見える。

 そんな顔は、当然だけど、あの頃には見たこともない。




 ―――同中のコが言ってたけど、幼なじみのコと付き合ってたらしいよ。

 ―――でも何か、別れたっぽいって

 ―――そもそも付き合ってたかどうかもアヤシイとかなんとか言ってなかった?


 顔が顔だから、違うクラスでも知ってるコ多くて、めっさ色々、噂ばっか流れてるけど、ホントの事を知ってるコは―――多分、いない。




『それって、どんなカンジなんだよ?』

 真顔で言われて びっくりしびっくった。マジで言ってる?てか、人好きになった事無いんかい?!
 心ん中でツッコミながら、自分の気持ちを力説して、―――後悔した。

『じゃあ、違うな…』

 何が?なんて、聞くまでもない。

 唇の端っこだけちょっと上げるなんて、そんな器用なやり方で、でも、ちっとも笑ってるようには見えない、そんな顔で、視線を伏せて。

 こんな顔、生まれてから…いや、たった15年しか生きてないけど、でも、一度も見た事無い。

 そりゃそうだよ。

 だって、周りの誰も、あたしと変わらない。ただの高校生で、好きって言ったら、大体同じくらいのヤツで、友達の延長線みたいなもんで、だから…。



 ―――好き・・、じゃないんだ、きっと。

 そんな簡単なヒトコトじゃ済まない。



 そんな気がして、それ以上何も言えなくなって、振り切るように前を向いた、その時。
 もう直ぐ目の前に迫っていたクラブハウス棟の、それこそ自分達が向かっている野球部の部室ドアから、見た事無いコが出てきた。
 絶対、服装検査で引っかかるだろってぐらい、尻下ギリギリの短いスカートにロングヘアのそのコは、出て直ぐ扉に向き直ってなんかしてる。

 ん?もしかして、鍵かけてる…?

 あれ?って思わず首を傾げた。
 さっき部長からもらってきたよね?鍵。あのコ、なんで持ってんの?

「…アイツ…」

 隣から聞こえた低い声に驚くより早く、ヤツが足早にクラブハウス棟へ近寄って行く。
 あわてて追いかけて隣に立つのと、そのコが階段降り切るのが同時だった。

「アンタ、そこで何してんだ?」

 低っく…!!
 自分が言われたら絶対ビビるって思ったのに。

 そのコは、にっこり―――と。

 テロップ出んじゃね?ってぐらい見事に微笑んだ。
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