雨に薫る

はなの*ゆき

文字の大きさ
70 / 84
2.Yellow star jasmine

黒南風②

しおりを挟む
 ―――こいつ・・・は、ヤバい


 それは直感だった。
 いわゆる、女の勘ってヤツ?

 だっておかしいよ。
 まじで怒ってるっしょ。
 声めっちゃ低いし、何か、隣からすんごい冷気漂ってきてるカンジすんの気のせいじゃ無いハズ。
 なのに、なんか知らんけど、笑ってるとか、どうかしてるとしか思えない。てか、うっとりしてる?
 思わずマジマジ見てたら目が合った!やば!
 うわー、睨んでる。嫌だ、コワい、キモい。

 こーゆー女が、1番苦手なんだよ、あたし。

「何、そのコ?」
「アンタには関係ない。」

 その言葉が聞こえたと同時に、すっと、目の前が制服のシャツだけになった。

 えっ、何コレ?
 もしかして、あたし、庇われてる・・・・・?!

 気付いた途端、心臓がエラい事になった。いや、だってあたし、170あるんだよ?あたしより低い男も結構いるし、なんなら同じ位ってヤツとかザラだし。
 当然(?)女扱いなんてされた事無いし、今の今まで、ヤツにも女だと思われてないって、思ってた―――のに。

 そんなパニクるあたしを背中にしながら、ヤツが目の前のコに一歩迫った。

「さっき、部室から出てきただろ?何やってた?」
「何って、別に?忘れ物取りに来ただけだよ?」

 えへってカンジの、声だけで小首傾げてんのわかる…、あたしには絶対出来ない技だ。風に乗って甘い薫りもしてくるし、うーん、“ザ・女子”。
 でも、ヤツにそれは効かないらしい。背中越しに“ちっ”という舌打ちが響いた。

「何でアンタ鍵持ってんだ?」
「え~、だって、マネージャーだったし、色々?」
「もう違うだろ、出せよ。」
「? 何を?」
「鍵に決まってんだろ。」

 どこのヤクザか、って位ドスが効いた声に、は~い…と言う声とカチャカチャという音が響く。その呑気な響きに、華奢で小柄な見た目の割に、肝が据わってるなぁ…と思わず感心してしまった―――けれど。

「はい!」

 という声と同時に、ヤツの背中が左に動く。
 キーホルダーか何かを投げて寄越され、大きく逸れたのを既の所でキャッチした―――と、その時だった。



 ―――カシャッ



 えっ、何?

 ヤツの動きを追っていた視線を前に戻すと、壁が無くなった・・・・・・・おかげで、向こうに立っていた女子が、こっちにスマホを向けているのが見えた。
 いつの間に―――と唖然とするあたしの前で、スカートが翻る。

「おいっ」

 追いかけようとして脚を止め、こっちをみたヤツが舌打ちした。えっ、何で?!あたし何かした?!

「おい、グラウンド行くぞ。」
「へっ?」

 理由も言わずに急き立てられるまま走らされる。
 しかもグラウンドまで、一度も立ち止まらないとかって、どうなん?
 それでも何とか付いて走って練習中の皆のところにたどり着くと、モリオが驚いた顔で寄ってきた。

「何やってんだ、お前ら…」
「すぐ全員集めてくれ。ロッカー行かねえと。」
「は?」
「あの女、コピー持ってやがった。」

 ヤツが忌々しげにそう言って、場違いなほど可愛らしいラインストーンのチャームが付いた鍵を見せると、モリオは一瞬あっけにとられた後、顔を強張らせた。

「マジか…」
「俺は先に戻るから、コイツ一緒に連れて来てくれ。」
「了解」

 って、戻るんか―――い!!!

 膝の上に手を付いて、肩でゼイゼイと息を付きながら、心の中で叫ぶ。
 だったらあっちで待ってたのに~!!!

「キンシロー」

 腰を屈めてこっちを覗き込んでくるヤツを、ギロリと睨んでやる。すると苦笑しながら、頭をポンと叩いてきた。

「しばらく1人で歩くなよ。」
「…は?」
「さっき写真撮られただろ。」

 思いがけない言葉に顔を上げた。

「あれは、そっちじゃ…」
「今更撮らねぇよ。それより、アイツ、何考えてんだかよく分からねぇし、ちょっと嫌な目してたからな。当分、気を付けろ。」

 言いながら、尻ポケットを探って、また舌打ちした。そういや、鞄中かばんなか入れてたな…と呟いて。

「後でID教えとく。何かあったら直ぐ連絡しろよ。」

 モリオ来るまで動くなよ、と言い残して、クラブハウス棟に向かって走り出す。
 マジで体力バカだ、アイツ頭おかしい―――なんて、ディすってみても無理。
 さっきの言葉が、頭ん中ぐるぐるしてる。



 気を付けろ、とか。
 すぐ連絡しろ、とか
 IDなんか、不用意に教えちゃっていいんかい?



 すーはーと、大きく深呼吸するのに。

 ―――この動悸、どーしたら治まるんだろ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...