雨に薫る

はなの*ゆき

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2.Yellow star jasmine

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「結局、何目的だったんだ―――?」

 一通りロッカーの中身を確かめた後で、誰とも無しに漏れた言葉だった。
 とりあえず貴重品の盗難が無かった事に安堵はしたものの、じゃあ何で?と思うのは当然だろう。

「まさか、盗聴器、とか?」
「いや、盗撮とか!」
「げ~っっ、キモッ!!」

 言いながら腕を胸の前で交差させた山根に、冷たい視線を送ってやる。

「女じゃあるまいし、ヤローの裸見たって誰も喜ばねぇよ。」
「そうかぁ?進藤おまえのなら、女子が喜ぶんじゃね?」
「そうそう、割れてるしな。」
「えっ、割れてんの?!マジで?!」

 見たい~っと食いつくキンシローを、半眼で見下ろす。

「いいじゃん、減るもんじゃなし!」
「なんでそんなに見たいんだよ?」
「え~、参考までに?」

 なんじゃそりゃ、意味わからん…と放置して、リュックのサイドポケットからエコバッグを取り出した。
 小さく丸めてボタンで留めたそれを外し、軽く振って広げる。

「先輩、とりあえずこれに貴重品集めて…」

 と言いながら井口先輩に向き直ると、先輩が微妙な顔でこっちを見ていた。

「進藤、なんそれ?」
「は?」

 言われた意味がわからず聞き返すと、隣からキンシローが伺うように恐る恐る言った。

「…それって、まさかエコバッグ…?」
「エコバッグぅ―――?!お前、なんでそんなもん、当たり前に持ってんの?!」

 “つか、エコバッグって何?”“買いもん袋だよ、母ちゃんとか持ってる…”“ああ…”―――という、周りの雑音は、その時の自分にはもう聞こえてなかった。


 なんでって…

 それを当たり前のように持っていた理由を思い出して、バッグの持ち手をギュッと握り込んで黙り込んでしまう。

「…あー、えっと、貴重品?集めんのか?」

 そう言ったモリオに腕を小突かれて我に返った。

「あ…、ああ。」

 視線を泳がせながら呟く。

「監督の家が近いから、練習終わるまで預けに行くかと…」
「ああ、成程なる!ついでに報告しといた方がいいよな?! じゃあ、先輩、こん中入れてもらって…」
「お、おう…」

 何やら慌ただしく動き始めた周りを尻目に、部室の外へ出た。





 ―――コンビニなんて勿体ないよ、スーパーのが安いのに


 エコバッグは、スーパーで買い物する時の必需品だ。
 前髪をかきあげ、そのまま握り込んで目を閉じる。

 感化されすぎだろ?オバチャンじゃねえんだから。
 唇に乾いた笑いがこみ上げた。


 集まった貴重品を持って、キンシローと学校を出た。

「明日からは他のヤツらと順番に交代するから、道、しっかり覚えとけよ。」
「りょーかい!でも、この位の距離なら、一人でも行けると思うよ?」
「貴重品持ってるだろ?」
「ええっ、信用無っ」
「…そっちじゃねぇよ…」

 何だかコントしてるような気分になりながら、坂道を上った。

 監督の家―――厳密には、監督の母親の家だから、実家だ。
 昔ながらの瓦葺きで、でも白いフェンスに囲われた庭には、色とりどりの花が植えられている。一画には野菜も植えてあるとかで、ようは監督の母親の趣味が庭いじりだという事だろう。

「スゴいね~、ウチの庭なんて、草ボーボーだよ。母さん仕事してるし。」
「戸建てなのか?」
「うん。小五んとき、父さんが頑張ったのさ!すなおっちは?」
「…マンションだ。」
「へー、マンションとかって、隣近所とか面倒くさくない?ほら、よく言うじゃん、下の階から苦情来たとか。」
「いや、ガキの頃は…」

 言いかけて、思考が止まる。
 子供の時は、苦情が来るほど暴れる事の出来ない貧弱さだったから、スミと一緒に本を読む事が多かった―――それを思い出して。

「すなおっち?」

 呼びかけられて我に返る。
 幸いにも、監督の家の戸口がすぐそこだった。

「着いたぞ。」
「あ、りょーかい!」

 ぴょんと跳ねるようにキンシローが駆けだした。
 ピンポーン、と呼び鈴を鳴らしながら、同時にドアを開けるのを見てギョッとした。

「こんちは~、あ、」

 元気よく声を出したキンシローが止まる。

すみませんさーせん、お客さん…」

 思わずその頭を叩いてしまった。

「バカかお前、チャイム鳴らす意味ねえだろっ!」
「えー、いーじゃん。てか、すなおっち、監督彼女…」
「は?」

 何言ってんだコイツ?
 そう思いながら玄関を覗き込んで、体が強張った。




 玄関の薄暗がりに佇む、スラリとした細身の影。
 顎にかかる黒髪。白い肌。

 けど、そこに居たのは―――



「トーコさん…」


 絞り出した声は、自分のものとも思えないほどに掠れていた。
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