77 / 84
2.Yellow star jasmine
24
しおりを挟む
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「―――すなおっちってばっっ!!」
不意に腕を掴まれて、我に帰った。
振り返ると、キンシローが腕を掴んだまま、ゼィハァと息をしている。
「もー、呼んでるのに無視るとか」
「…悪ぃ…」
上目遣いに睨まれて素直に謝ると、キンシローは手を離しながら体を起こして、ため息をついた。
「貴重品は預けてきたよ。あの元マネージャーだっけ?あの人が鍵持ってた事も言っといたから。」
「ああ…」
そう言えば、そんな事があったな…
気のない相槌を打つと、キンシローがまたため息をついた。
「あの人は、監督の家直しに来た業者さんなんだって。鍵の事話したら、直ぐ交換してくれるって話してたよ。」
「…そうか」
「てっきり監督の彼女かと思ったよ。結構美人さんだったし。」
「彼女…」
「…もしかして、あの人とすなおっち付き合ってたの?」
一瞬、頭が真っ白になった。
付き合ってた?
「でもやめといた方がいいよ。あんな年上じゃ、上手くいきっこないじゃん?」
「…は?」
年上―――?
「娘さんが同い年って事は…」
「ちょっと待て、何の話だ?」
「え、だからあの人が元カノ?」
「は?!」
「だって訳ありっぽかったからさぁ…」
「な訳ねぇだろっ」
なんでよりにもよってトーコさんとなんだよ。うちの母親に負けず劣らずの美魔女ではあるが、そーいう趣味はねぇ!!
「ふーん、じゃあやっぱ娘さんの方か…」
その言葉に顔が強張った。
気付いたキンシローが、気不味げに肩をすくめる。
「あー、と。その、噂でね、聞いた事があってさ。…なんか、幼なじみと付き合ってたとか、なんとか。」
「付き合ってねぇよ。」
「えっ?」
ひくり…と、片頬が不自然に引き攣ったのがわかる。
そう、スミとは、付き合ってなんかいない。
それどころか―――
驚きに瞬きを繰り返すキンシローに、一歩近付いて顔を寄せた。
「俺が、アイツを、レイプしたんだよ。」
そう呟く様に告げて身体を離すと、キンシローが目を見開いて固まっていた。
片頬を歪めて笑い、踵を返す。
そう、付き合ってなんていない。
あれは自分の、一方的な―――
ぐっと、唇を噛み締めて、強く拳を握った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「飯食わねぇの?」
持ってきた弁当箱を片しながら桂馬が言った。手ぶらなの見りゃわかるだろうに。
4階の渡り廊下にあるこの多目的ホールは、普通教室から若干離れていて冷暖房も無いせいか、普段からあまり生徒がやって来ない。桂馬曰く、バブル期に作られた学校だから、色々無駄が多い―――らしい。
おそらく生徒を集めて何某かの会でもやるつもりだったんだろうが、一学年集めるには狭いし、展示を行ってもわざわざここまで見に来るやつなんていないに違いない。
ホールの隅には壊れているのだろう、薄汚れた長机や折りたたみのパイプ椅子が放置されているし、掃除もされていないのか、若干埃っぽい。
だが、今みたいな時にはもってこいな場所ではあった。
部屋の真ん中にある大きな窓は少し出窓になっていて、人が腰掛けられるようになっている。
そこに座って見るともなしに窓の外を眺めていると、ふう…と桂馬がため息をついて立ち上がったようだ。
音の気配からして、多分先に教室へ帰ったんだろう。
担任に進路変更を伝えると、なんとも微妙な顔をした。
「…もう推薦は「普通に受けます」」
「公立は受けないのか?」
「成陵一本で」
これ以上話す気はないというのが伝わったんだろう。
わかった、と、父親と同じ顔をして言いながらも、気が変わったらすぐ言えよ―――とも言った。
だが気が変わる事は無い。
正直、今すぐにでも家を出たいぐらいだった。スミの顔を見る事が出来なくて、朝も夕方も時間をずらしている。
結局、母親がごねて壁を直すのは保留になった。
「でも、ちょっとベランダから行き来するのは控えようか」
と言ったのは父親だ。
スミの方にも、窓に鍵をかける様に伝えると話したらしい。
「…今更…」
ふっ…と。
思い出して鼻で笑った。
ホントに今更だ。
もう取り返しはつかないだろう。
ゴン―――と、音を立てて窓に頭を押し当てた。窓の外のグラウンドでは、後輩達が練習を始めるのが見える。
フェンスの手前を何人かの生徒が歩いていて、中には校内だというのに手を繋いで歩いているヤツらもいた。
それを見ていると、なんだか虚しくなった。考えてみたら、自分とスミはあんな風に手を繋いで歩く様な事をした事が無い―――と気がついて。
もちろん、子供の頃はあった気がするが、少なくとも中学では無いだろう。
それでも、誰よりも一緒にいたはずだった。
あの雨の日から、ずっと。
それなのに―――
キュ…と、塩ビの床が鳴って、顔を上げた瞬間、身体が強張った。
ホールの端からこっちを見ていたスミが近寄って来る。
その顔は、薄らと微笑んでいた。
「―――すなおっちってばっっ!!」
不意に腕を掴まれて、我に帰った。
振り返ると、キンシローが腕を掴んだまま、ゼィハァと息をしている。
「もー、呼んでるのに無視るとか」
「…悪ぃ…」
上目遣いに睨まれて素直に謝ると、キンシローは手を離しながら体を起こして、ため息をついた。
「貴重品は預けてきたよ。あの元マネージャーだっけ?あの人が鍵持ってた事も言っといたから。」
「ああ…」
そう言えば、そんな事があったな…
気のない相槌を打つと、キンシローがまたため息をついた。
「あの人は、監督の家直しに来た業者さんなんだって。鍵の事話したら、直ぐ交換してくれるって話してたよ。」
「…そうか」
「てっきり監督の彼女かと思ったよ。結構美人さんだったし。」
「彼女…」
「…もしかして、あの人とすなおっち付き合ってたの?」
一瞬、頭が真っ白になった。
付き合ってた?
「でもやめといた方がいいよ。あんな年上じゃ、上手くいきっこないじゃん?」
「…は?」
年上―――?
「娘さんが同い年って事は…」
「ちょっと待て、何の話だ?」
「え、だからあの人が元カノ?」
「は?!」
「だって訳ありっぽかったからさぁ…」
「な訳ねぇだろっ」
なんでよりにもよってトーコさんとなんだよ。うちの母親に負けず劣らずの美魔女ではあるが、そーいう趣味はねぇ!!
「ふーん、じゃあやっぱ娘さんの方か…」
その言葉に顔が強張った。
気付いたキンシローが、気不味げに肩をすくめる。
「あー、と。その、噂でね、聞いた事があってさ。…なんか、幼なじみと付き合ってたとか、なんとか。」
「付き合ってねぇよ。」
「えっ?」
ひくり…と、片頬が不自然に引き攣ったのがわかる。
そう、スミとは、付き合ってなんかいない。
それどころか―――
驚きに瞬きを繰り返すキンシローに、一歩近付いて顔を寄せた。
「俺が、アイツを、レイプしたんだよ。」
そう呟く様に告げて身体を離すと、キンシローが目を見開いて固まっていた。
片頬を歪めて笑い、踵を返す。
そう、付き合ってなんていない。
あれは自分の、一方的な―――
ぐっと、唇を噛み締めて、強く拳を握った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「飯食わねぇの?」
持ってきた弁当箱を片しながら桂馬が言った。手ぶらなの見りゃわかるだろうに。
4階の渡り廊下にあるこの多目的ホールは、普通教室から若干離れていて冷暖房も無いせいか、普段からあまり生徒がやって来ない。桂馬曰く、バブル期に作られた学校だから、色々無駄が多い―――らしい。
おそらく生徒を集めて何某かの会でもやるつもりだったんだろうが、一学年集めるには狭いし、展示を行ってもわざわざここまで見に来るやつなんていないに違いない。
ホールの隅には壊れているのだろう、薄汚れた長机や折りたたみのパイプ椅子が放置されているし、掃除もされていないのか、若干埃っぽい。
だが、今みたいな時にはもってこいな場所ではあった。
部屋の真ん中にある大きな窓は少し出窓になっていて、人が腰掛けられるようになっている。
そこに座って見るともなしに窓の外を眺めていると、ふう…と桂馬がため息をついて立ち上がったようだ。
音の気配からして、多分先に教室へ帰ったんだろう。
担任に進路変更を伝えると、なんとも微妙な顔をした。
「…もう推薦は「普通に受けます」」
「公立は受けないのか?」
「成陵一本で」
これ以上話す気はないというのが伝わったんだろう。
わかった、と、父親と同じ顔をして言いながらも、気が変わったらすぐ言えよ―――とも言った。
だが気が変わる事は無い。
正直、今すぐにでも家を出たいぐらいだった。スミの顔を見る事が出来なくて、朝も夕方も時間をずらしている。
結局、母親がごねて壁を直すのは保留になった。
「でも、ちょっとベランダから行き来するのは控えようか」
と言ったのは父親だ。
スミの方にも、窓に鍵をかける様に伝えると話したらしい。
「…今更…」
ふっ…と。
思い出して鼻で笑った。
ホントに今更だ。
もう取り返しはつかないだろう。
ゴン―――と、音を立てて窓に頭を押し当てた。窓の外のグラウンドでは、後輩達が練習を始めるのが見える。
フェンスの手前を何人かの生徒が歩いていて、中には校内だというのに手を繋いで歩いているヤツらもいた。
それを見ていると、なんだか虚しくなった。考えてみたら、自分とスミはあんな風に手を繋いで歩く様な事をした事が無い―――と気がついて。
もちろん、子供の頃はあった気がするが、少なくとも中学では無いだろう。
それでも、誰よりも一緒にいたはずだった。
あの雨の日から、ずっと。
それなのに―――
キュ…と、塩ビの床が鳴って、顔を上げた瞬間、身体が強張った。
ホールの端からこっちを見ていたスミが近寄って来る。
その顔は、薄らと微笑んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる