雨に薫る

はなの*ゆき

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2.Yellow star jasmine

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「何、笑ってんだよ」

 唸る様に呟いた。
 おかしいだろ?何されたと思ってるんだよ。

「もしかして気にしてる?」

 当たり前だろ?!―――怒鳴りそうになるのを辛うじて堪えたのに、スミはふ、と微笑んで視線を逸らす。
 どこか遠くを見る様な顔で、スミは言った。

「心配しなくても、妊娠なんてしてないよ。ちゃんと薬飲んだから。」

 ―――薬?

「今はそーいうのあるんだよ。良かった、買っといて。最近ナオ、やり過ぎだって思ってた・・・・・・・・・・・から。」


 その言葉に息を呑んだ。
 なんだよ、それ―――
 呆然とする自分にスミが微笑んだ。


「大丈夫、誰にも言わないから。」


 それは、信じられない程に優しい声で。


「けど、彼女とする時は気を付けて・・・・・・・・・・・・ね?」

 それだけ言って、スミが背中を向ける。



 ―――彼女?


 彼女って、なんだ?
 彼女って―――




「あ、そうそう。私、長篠は受けないから。無理して行っても、後が大変だもん。」



 何を、言って―――


 問いかける間も無く、スミが後ろ手に手を振って歩き出す。
 それを見送って、くしゃり、と前髪をかき上げた手が震えていた。




 ―――“等価交換”?ていうのかな、対価っていうか



 ―――やっぱり、こういう事は、好きな人とするのが1番だと思うし。」



 ―――そりゃ、ナオは男だし、最初失敗すると恥ずかしいから練習したいのかも知れないけど。あたしは、ほら、一応女だし?



 あの日の声が蘇る。



「―――は…、」

 乾いた笑いが込み上げる。
 腹の底から込み上げて来る、何か。



「っざけんなっ…」


 吐き出して、握り込んだ拳を窓に叩きつける。

 ドンッ―――と重い音が、人気の無いホールに落ちた。






 ―――手、繋いでいい?

 そう言ったのはスミだったのに。









◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 翌日には業者がやってきて、ロッカールームの鍵を交換していった。
 今度のキーは、前のみたいなギザギザの形をしたピンシリンダーというヤツではなく、ディンプルと呼ばれる防犯性の高いものになった。
 このキーはコピーも普通には作れないと聞いて驚く。
 しかも、野球部だけかと思いきや、全ての部室を交換していた。

「生徒が簡単にコピー作ってたからな、まあ、色々問題あったんだよ。」

 監督が苦笑しながら言った。
 色々―――まあ、そうだろうな。

 高校生というのは、身体だけは一丁前に大人のくせに、都合のいい時だけ子供だと言い張れる。
 今でこそ、14才以上から逮捕される可能性があるとはいえ、成人とは扱いが違う。
 野球部の部室も、入ってすぐの頃はタバコ臭かったから、中で色々やってたんだろう。

 バレなきゃいい―――と。


「とりあえず、予備は学校の事務室で保管するらしいから、無くさねぇように気を付けろよ。結構高いからな。」
「えー、そんな事言われたら持ちたく無いです。」
「何言ってんだ…」

 キッパリと言い切ったキンシローに監督が脱力し、周りの部員達が笑った。

「やっぱ、いいよな~」

 隣に立っていた山根がそう言って、向こう隣の風間が首を傾げた。

「何が?」
「いや、雰囲気良くなったよな~と思ってさ。」
「ああ、まあな」
「これも、進藤の幼なじみのおかげだな。」

 そう言って、山根が背中を叩いた。
 おかげで、軽く動揺したのはバレなかったはずだ。

「けど、意外だよなぁ…」
「何が?」
「え、進藤、幼なじみと付き合ってたんだろ?」

 山根の言葉に、焦った風間がヘッドロックをかける。

「ばか、お前…」

 言いながらこっちを見る風間に、片頬だけで笑って見せた。

「付き合ってねぇよ。」




 それはまごうかた無き事実だった。
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