雨に薫る

はなの*ゆき

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2.Yellow star jasmine

27✳︎

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「え、進学コースにすんのか?あそこ、練習結構ハードなんじゃねぇの?」
「野球しに行くわけじゃねぇから。」

 桂馬は何か言いたそうに口を開けて、閉めた。最近、こういう顔をよく見るような気がする。
 12月に入ってから、桂馬が行ってる塾に通うようになった。「必要無くね?」と言われたが、とにかく家に居たくなかったのだ。
 とはいえ、さすがに塾でも正月休み位はあるらしく、今年の授業は今日までだった。


「進藤、今日どうする?忘年会、駅前のカラオケボックスでやるけど。」

 声をかけてきたのは他中のヤツだ。名前―――覚えてねぇけど。
 隣の桂馬を見ると、知らん顔でテキストを読んでいる。まぁ、そうだろうな。
「何時?」と聞くと、桂馬が信じられないという顔をした。
 自分の返事に満足そうな顔をしてヤツが教室を出て行くと、外からきゃあ―――という歓声が聞こえる。桂馬が眉を顰めて聞いた。

「…正気か?」
「いいや。」

 真顔で言うなよ…と頭を抱えた桂馬を置いて塾を出た。


 結局その後も気が変わる事はなく、成陵を受験する事で決まった。
 電車で30分だから通えなくもなかったが、家を出て寮に入る。
 そうやって、物理的にも離れてしまえば、胸の奥で渦巻いたままの何かをやり過ごせるかもしれない。

 正直に言えば―――疲れていた。何もかもに。



「進藤君っ」

 呼び掛けられて、はっとした。
 声がした方を見ると、見覚えの無い女が下から覗き込んでいる。こっちの名前を知っているという事は、同じ塾の受講生なんだろう。

「大丈夫?気分悪い?」

 トイレに行こうとして、部屋の外へ出たところだった。ドアに程近い場所で、立ち尽くしていたらしいと気付き、苦笑した。
 なんとなく来てはみたものの、元々カラオケを歌って騒ぐタイプではないし、味の薄い飲み放題のドリンクはクソ不味かったから、直ぐに後悔した。

「いや、大丈夫。悪いけど、帰る。中のヤツに伝えといて。」
「え、じゃあ、あたしも…」

 なんで?とは思いながらも、無視して店を出た。料金は先払いだったから、問題無いだろう。
 繁華街にある店の外は、飲み屋帰りのサラリーマンらしきグループがたくさん歩いていた。
 それらを躱すように歩いていると、

「待ってよっ」

 もーっ、という声と共に、ガシッと腕を掴まれた。さっきの女だった。

「ね、こっち。人少ないから、歩きやすいよ?」

 胸に抱え込むように腕にしがみついて、人通りのない道へと連れて行くと、腕をそのままで立ち止まり、また下から上目遣いに覗き込んで言った。

「ね、進藤君て、彼女いるの?」

 不躾な質問に眉をひそめると、「あ、ゴメンね」と言いながらも、ますます腕を抱え込んできた。そもそも名前も(こっちは)知らないのに、なんでこんなべったりくっついてくるのか。

「受験生、て分かってるんだけど、でもやっぱり、後悔したくないっていうか…」

 懇願するように見上げてくる顔に、何の感慨も抱けないまま目を眇める。腕を振り解こうと力を入れたことに気付いたのか、ますますしがみついてきた。

 面倒だな…素直にそう思う。

 彼女とか、彼氏とか。
 そんな肩書きを付けただけで、一体何が変わるってんだ?


 ―――彼女とする時は気を付けてね。


 つまり、お前は違うって、そう言う事かよ。なのに、なんで―――


 しがみついているヤツの首の後ろを掴んで上向かせ、口を塞いだ。
 舌を割り込ませて向こうの舌を掬い取り、反射的に吸い込んで、―――離した。
 口の中の唾液を、飲み込む前にプッと吐き出し、唇に付いた脂を手の甲で拭う。

「…ひっど…」

 抗議の声を無視して踵を返した。さっきの道に戻って足早に人波を通り抜ける。見かけた自販機で水のペットボトルを買って煽り、口を濯いで吐き出した。

「キモ…」

 最悪の気分だった。
 そもそも人の唾液なんて飲める訳がない。そう思うのに。

 舌先に、痺れるような疼きを覚えて、手の平で口元を覆った。




 あの日、スミは頑ななまでに、口を開こうとしなかった。

 腹立たしくて、ジャンパースカートの肩ホックを乱暴に外し中のシャツをたくし上げる。剥き出しにした胸は細やかで、でも確かな膨らみの先端で柔らかく色付く場所にむしゃぶりついた。
 忽ち立ち上がったそれを舌先で転がすとスミが甘く声を上げる。でもその口元をスミは腕を上げて塞いだ。
 その手を取って唇に吸い付く。

「開けろ、スミ」

 なのにスミは唇を引き結んだまま首を振る。
 舌打ちしたい気分でスカートをまくり上げ、下着に手を突っ込んだ。中指を滑らせると背が跳ねる。それでも、歯を食いしばるから、こっちも意地になった。
 指を更に奥へと滑らせると、柔らかな襞の隙間に指が沈み込む。瞬間、スミが喉の奥から声を出した。ここか。
 更に指を押し込んで、ぐっと力を入れて掴んだ。

「っあ―――」

 待ち構えていた瞬間だった。直ぐさま唇を覆い被せ、舌を割り込ませる。スミの舌を探して、ぐるりと口内で舌を廻らせた。
 逃げられないように後ろ頭を掴み、更に深く探る。
 そうしながら、さっき押し込んだ指を動かした。
 唇よりも繊細な柔らかさと滑らかさが、圧力を持って指に吸い付いてくる。徐々に滑りを帯びてくるそこは、付け根まで指を押し込んでも、まだ先があるのがわかる。
 指の腹を上向きにして、わざと擦りつけるようにしながら、指を上に引き上げると、スミの体がビクビクッと痙攣し。塞いだままの唇から、呻くような声が漏れた。

 どうしたらいいのかを、本能的に悟って。そこからはもう無我夢中だった。
 シャツを掴んで逃げようと捩る身体を抱きすくめ、身体ごと揺さぶりながら指を突き上げる。
 指先なんて感じるはずもないのに、鼻先から抜ける甘い声に煽られて、ますます息が上がっていく。


 もっと、もっと、もっと―――!!



「っ、あ、あぁ―――っっ」

 不意にスミが身体を大きく震わせながら仰け反った。その瞬間、指先をキュウ―――と締め付けられて。

 ゾクリ、と背筋が震えた。

 身体を起こして指を抜き取ると、スミが短く息を吐いて身体を震わせる。ぬるりと滑るそれを口元に近づけながらスミを見下ろす。
 以前に言われた事を思い出し、わざと見せつける様に咥えて舐めると、スミが息を呑んだ。
 自然と上がった口角をそのままに、ゆっくりと顔を近付けてその唇を塞ぐ。

 スミが、欲しかった。


 でもそれは、こんなカタチではなかったはずなのに―――
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