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2.Yellow star jasmine
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今はただ思ひ絶えなむとばかりを
人づてならで言ふよしもがな
『天皇のお姫様の恋人だったんだって。でも許されなくて、諦めなくちゃいけなくて、せめて最後に、自分で伝えたいって、そういう意味…かな。』
思わず、電話を切っていた。
手の平のスマートフォンをしばらく睨みつけてから、画面を落とし、ハーフパンツのポケットに入れた。
部屋を出て、両親の寝室に入る。今日は年度末で忙しいと、父親は休日出勤していなかったから都合が良い。
クローゼットの中にある五段重ねのチェストの二番目、父の下着が入っている引き出しを開ける。大体そこら辺にあるらしいと誰かが言っていたが、なるほどな、と思いながら、そこにあった箱の中身をポケットに突っ込んだ。
それからリビングを通って、キッチンの水屋の小さい引き出しを開けると、中に通帳や印鑑などを入れた箱が入っていた。その中に入れてある、家のものと同じメーカーの鍵を取り出して握りしめる。
―――ぽつん、と。
いつかのように、胸の中に黒いシミが落ちるように。
じわじわと染み出してくる暗い思いに駆り立てられるように、玄関を出た。
隣の家にもある、プライベートポーチを通って、たどり着いた玄関の扉に鍵を挿して回す。
カチリ、と。
音を立てて、苦も無く鍵が開いた。
ドアを開けて中に入り、後ろ手に閉めると、ガシャン、と結構な音がしたが、誰も出てこない。
廊下の先にあるリビングのドアは開け放たれていて、まだ明るい日差しが挿しているのがわかる。微かに風を感じながら近寄ってドアから見ると、スミがベランダの掃き出し窓から入ってくる所だった。
顔を上げたスミがこっちを見て、大きく目を見開く。その様子を見て、自然に、口角が上がった。
リビングに入り、持ってきた本を見せるように掲げて、スミから少し離れたキッチンのカウンターに置いた。
「何か、もらっていい?」
「あ、うん…」という返事を背中に聞きながら、冷蔵庫を開ける。
「炭酸、飲まねぇんじゃなかった?」
砂糖も何も入ってないそれは、運動をしている自分のために、いつも買ってくれていたものだ。まだ封が開いてないボトルを取って、栓を捻る。
「あ、うん…癖で」
つい…と、呟くように言ってから、スミが小さく聞いた。
「玄関、開いてた…?」
ゴクリと、きつい炭酸を飲み込んで、スミに視線を移す。戸惑いを隠さない瞳に笑みを返しながら、ポケットから“トーコさんち”と書かれたラベルの付いた鍵を取り出して、机の上に置いた。
―――スミに見えるように。
トーコさんが薬を飲んだ後、母は何かあったときの為にと頼み込んで、合鍵を交換していた。
「もう直ぐ家出るから挨拶しとこうと思ったんだよ。長い付き合いだったし。」
何でもない風に話しながら、視線を逸らしてソファに洗濯物を落としたスミの方へ向かって歩き出す。
一歩、スミに近付くたびに。
奥深い場所から暗い思いが染み出して、蔦のように体中に絡み付き、爪の先まで余すところなく覆い尽くしていく。
「寮にはいつ入るの?」
「来週だな。お陰で今、部屋ん中がすげえよ。断捨離とか意味わかんねぇ」
あぁ、それで―――と言いながら振り向いたスミが、目を見開いて微かにたじろいだ。その事に、仄暗い喜びが湧き上がる。
「あー、そうだ、それ。持って帰る?間違って頼んじゃったから…」
困った様に視線を泳がせ、逃げる様に脇をすり抜けようとしたスミの腕を掴んだ。ビクッと身体を強張らせて見上げてくるスミの頼りなげな顔に、自然と口角が上がる。
「怯えんなよ」
今更、だろ?
少し眉を上げながら首を傾げてやると、スミが力を抜いた。迂闊なヤツ。しかも強がりだ。
「怯えてないよ。ちょっと驚いただけ」
「そっか、なら、一個頼んでいい?」
「…頼み?」
「キスしたい」
手を伸ばして、スミの髪を撫で、指の背で頬に触れる。
微かに戸惑う瞳に、微笑みを返す。
「最後だから」
そう言うと、スミが一瞬瞳を揺らしてから、小さく頷いた。それを確認してから、そっと顔を寄せて、閉じられた唇に軽く口を押し当てて、離す。
瞬間、スミがほ…と息をついて、体の力を抜いた。
それを、見計らって。
腕を伸ばす。
背中に回して、細い体を抱きすくめる。
驚いて顔を上げたスミの唇を、かみつくように塞いで。
飢えた舌先で、それをこじ開けた。
スミが、悪い。
そう、心の中で呟いて。
人づてならで言ふよしもがな
『天皇のお姫様の恋人だったんだって。でも許されなくて、諦めなくちゃいけなくて、せめて最後に、自分で伝えたいって、そういう意味…かな。』
思わず、電話を切っていた。
手の平のスマートフォンをしばらく睨みつけてから、画面を落とし、ハーフパンツのポケットに入れた。
部屋を出て、両親の寝室に入る。今日は年度末で忙しいと、父親は休日出勤していなかったから都合が良い。
クローゼットの中にある五段重ねのチェストの二番目、父の下着が入っている引き出しを開ける。大体そこら辺にあるらしいと誰かが言っていたが、なるほどな、と思いながら、そこにあった箱の中身をポケットに突っ込んだ。
それからリビングを通って、キッチンの水屋の小さい引き出しを開けると、中に通帳や印鑑などを入れた箱が入っていた。その中に入れてある、家のものと同じメーカーの鍵を取り出して握りしめる。
―――ぽつん、と。
いつかのように、胸の中に黒いシミが落ちるように。
じわじわと染み出してくる暗い思いに駆り立てられるように、玄関を出た。
隣の家にもある、プライベートポーチを通って、たどり着いた玄関の扉に鍵を挿して回す。
カチリ、と。
音を立てて、苦も無く鍵が開いた。
ドアを開けて中に入り、後ろ手に閉めると、ガシャン、と結構な音がしたが、誰も出てこない。
廊下の先にあるリビングのドアは開け放たれていて、まだ明るい日差しが挿しているのがわかる。微かに風を感じながら近寄ってドアから見ると、スミがベランダの掃き出し窓から入ってくる所だった。
顔を上げたスミがこっちを見て、大きく目を見開く。その様子を見て、自然に、口角が上がった。
リビングに入り、持ってきた本を見せるように掲げて、スミから少し離れたキッチンのカウンターに置いた。
「何か、もらっていい?」
「あ、うん…」という返事を背中に聞きながら、冷蔵庫を開ける。
「炭酸、飲まねぇんじゃなかった?」
砂糖も何も入ってないそれは、運動をしている自分のために、いつも買ってくれていたものだ。まだ封が開いてないボトルを取って、栓を捻る。
「あ、うん…癖で」
つい…と、呟くように言ってから、スミが小さく聞いた。
「玄関、開いてた…?」
ゴクリと、きつい炭酸を飲み込んで、スミに視線を移す。戸惑いを隠さない瞳に笑みを返しながら、ポケットから“トーコさんち”と書かれたラベルの付いた鍵を取り出して、机の上に置いた。
―――スミに見えるように。
トーコさんが薬を飲んだ後、母は何かあったときの為にと頼み込んで、合鍵を交換していた。
「もう直ぐ家出るから挨拶しとこうと思ったんだよ。長い付き合いだったし。」
何でもない風に話しながら、視線を逸らしてソファに洗濯物を落としたスミの方へ向かって歩き出す。
一歩、スミに近付くたびに。
奥深い場所から暗い思いが染み出して、蔦のように体中に絡み付き、爪の先まで余すところなく覆い尽くしていく。
「寮にはいつ入るの?」
「来週だな。お陰で今、部屋ん中がすげえよ。断捨離とか意味わかんねぇ」
あぁ、それで―――と言いながら振り向いたスミが、目を見開いて微かにたじろいだ。その事に、仄暗い喜びが湧き上がる。
「あー、そうだ、それ。持って帰る?間違って頼んじゃったから…」
困った様に視線を泳がせ、逃げる様に脇をすり抜けようとしたスミの腕を掴んだ。ビクッと身体を強張らせて見上げてくるスミの頼りなげな顔に、自然と口角が上がる。
「怯えんなよ」
今更、だろ?
少し眉を上げながら首を傾げてやると、スミが力を抜いた。迂闊なヤツ。しかも強がりだ。
「怯えてないよ。ちょっと驚いただけ」
「そっか、なら、一個頼んでいい?」
「…頼み?」
「キスしたい」
手を伸ばして、スミの髪を撫で、指の背で頬に触れる。
微かに戸惑う瞳に、微笑みを返す。
「最後だから」
そう言うと、スミが一瞬瞳を揺らしてから、小さく頷いた。それを確認してから、そっと顔を寄せて、閉じられた唇に軽く口を押し当てて、離す。
瞬間、スミがほ…と息をついて、体の力を抜いた。
それを、見計らって。
腕を伸ばす。
背中に回して、細い体を抱きすくめる。
驚いて顔を上げたスミの唇を、かみつくように塞いで。
飢えた舌先で、それをこじ開けた。
スミが、悪い。
そう、心の中で呟いて。
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