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さん
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「“アイス・メイデン”? …何それ?」
「何か、一部でそーいうあだ名になってるらしいよ、アンタ。」
何だかやけに愉しそうな顔で、ユウキは長い足を組み直しながら言った。
この中学以来の悪友はバレー部なだけあって、175を超える高身長でスタイルも抜群だ。クールビューティー系の整った顔立ちも相まって、座ってるだけですごく絵になるし、カッコいい。
おまけにマニッシュなショートレイヤーをかき上げる仕草なんて、そこらの男子学生なんか逆立ちしたって出てこない程色気たっぷり、なのだ。
おかげでバレンタインはウハウハだったよ!主に私が!
そんな彼女を見つめながら、読んでいた本を閉じる。
かけてあるブックカバーは本皮で、だいぶいい感じにこなれてきた。中身は『漫画家せりな』だけどね(笑)
それにしても、あだ名ねぇ―――一体誰がつけたんだろう?
無意識にその表面を指でなぞりながら、頬杖をついてユウキを見上げた。
「て言うか、意味分かんないだけど、アイスは氷だよね?メイデンって何?」
小首を傾げて聞くと、ユウキがニヤリと実にイイ顔で笑った。
「“メイデン”は、“処女”だよ。つまり、“氷の処女”ってこと。」
「えぇ~! 何それ?!」
驚いた…“ショジョ”って“処女”だよね?
“初女”でも“諸女”でも、ましてや“症状”でもなく、“処女”!!
「あたしそんなに“処女感”醸し出してるってこと? ていうか、“処女感”ってどんなん?確かに処女は処女だけどさぁ…」
「うん、ちょっと食い付くトコ間違ってるね。あと、連呼すんのもやめようか?」
にこやかな笑みを浮かべたまま、ユウキがもう一度足を組み替えて続ける。
「“アイアン・メイデン”って知らない?“鋼鉄の処女”―――この名前のロックバンドもあるけど。」
「んー…あるような、ないような…?」
首を捻る私に、ユウキが笑みを深めた。
「“鋼鉄の処女”っていうのは、中世ヨーロッパの拷問道具で、女性型の内部が空洞になった人形の事だよ。」
―――ごっ、拷問っ?!
衝撃に固まる私の前でユウキはスマートフォンを取り出すと、“鋼鉄の処女”とやらの検索結果を見せてくれた。マトリョーシカみたいな人形の前面が扉になって、パカリと開いている写真が見える…けど。
「中の空洞に人を入れ、…扉には内側に向かって長い釘が…って、何コレ死ぬじゃん?!」
「まあ、拷問道具だからね。」
うんうんって頷いてるけど、違ぁう~!!
「これが“鋼鉄の処女”で、あたしのあだ名が“氷の処女”ってことは、要するにあたしが拷問道具みたいってこと?!」
「鋼鉄じゃなくて氷だけどね。ていうか、氷で作ったんじゃ、すぐ溶けちゃうよねぇ…」
「そこじゃなぁ~い!!」
さすがに拷問具ってないわ!と、ニヤニヤ笑ってるユウキを睨み付ける。ワタクシ一応、乙女なんですけど、これでも。ちゃんとまだ処女だし。
「まあ、要するにアンタが次々男を袖にしてるのが原因なんじゃない? 冷たいオンナって事で。」
「袖も何も、向こうが『やっぱいいです~』って逃げてくのに…」
「逃げて行かざるを得ないようにしてるの間違いじゃん?」
そんな事は無い!
ちゃんと、説得力のある“私を好きな理由”を言ってくれたら、全然オッケーだもん。
「つーかさ、どんな理由だったらいいわけ?」
「んー、それは言われてみないとわかんない。」
「何じゃそりゃ」
ユウキは若干呆れ顔で腕を組んだ。
「そもそもじゃあ、シズルの好きなタイプって、どんなのよ?」
「えー、どんなって…」
そこまで言ってから、私はフフッと笑みを浮かべた。
「そんなの、聞かなくったってわかるでしょ?」
言いながら机の上で両肘をつき、交差した指の上に顎を乗せて小首を傾げ、意味ありげにユウキを見上げる。
そんな私の様子に、ユウキが軽く眉を上げると、フッ―――と微笑んで椅子から立ち上がった。
ゆっくりと焦らすように歩いて私の机の前までやって来ると、身を屈めて、すっ…と私の頰を指の背で撫でる。
―――カシャッ
「ダメだよ、シズル。ちゃんと口にして言ってくれないとわからない。」
―――カシャッ
「わかってるくせに…」
―――カシャッ
「わかってても言葉が欲しいもんなんだよ。」
ユウキが更に身を屈めて顔を近づけ、耳元で囁く。
―――カシャッ
「ほら、言って?」
長い指がついっ―――と顎を掬い上げた。
―――カシャッ
「ユウキ…」
近付いてくる顔を見つめながら小さく呟く。
―――カシャッ
「シズル…」
ユウキの硬質な美貌が徐々に近付いて、そっと目を閉じた、次の瞬間。
―――カシャッ
ゴンッ―――!!!
「痛ったぁ―――!!!」
額に生じた強い衝撃に声を上げた。
「ちょっとぉ、頭突きいるっ?!」
「なに?マジキスが良かった?」
「ジョーダンッッッ!!!」
涙目でユウキを睨み付ける。
くっそー!いつかやり返す!
「いやー、いいの撮れたわぁ!」
実はずっと側にいたもう1人の悪友、リコがホクホク顔でタブレットを弄っている。さっき撮ったばかりの写真を確認してるんだろう。
「次はいつ?」
「夏休み前だよ。時間あるから、今回はちょっとページ増やそうかなぁ…」
リコの百合本は結構売れる。
春のフリマでも用意したのが全部売れたと喜んでいた。
もちろん、マージンは分配していただいてますよ?
「ま、とりあえず今日の分はこれで。」
うむ、苦しゅうない。
差し出された食堂のチケットを受け取る。
「今日の日替わりなんだった?」
「チーズハンバーグ」
「おっしゃあ!行こう!」
「おう」
立ち上がり、ユウキと連れ立って教室を出た。
後ろからボソッと響く、リコの声。
「アンタ達って、そろって“ザンネン・メイデン”よね」
コンビ名かよ。
「何か、一部でそーいうあだ名になってるらしいよ、アンタ。」
何だかやけに愉しそうな顔で、ユウキは長い足を組み直しながら言った。
この中学以来の悪友はバレー部なだけあって、175を超える高身長でスタイルも抜群だ。クールビューティー系の整った顔立ちも相まって、座ってるだけですごく絵になるし、カッコいい。
おまけにマニッシュなショートレイヤーをかき上げる仕草なんて、そこらの男子学生なんか逆立ちしたって出てこない程色気たっぷり、なのだ。
おかげでバレンタインはウハウハだったよ!主に私が!
そんな彼女を見つめながら、読んでいた本を閉じる。
かけてあるブックカバーは本皮で、だいぶいい感じにこなれてきた。中身は『漫画家せりな』だけどね(笑)
それにしても、あだ名ねぇ―――一体誰がつけたんだろう?
無意識にその表面を指でなぞりながら、頬杖をついてユウキを見上げた。
「て言うか、意味分かんないだけど、アイスは氷だよね?メイデンって何?」
小首を傾げて聞くと、ユウキがニヤリと実にイイ顔で笑った。
「“メイデン”は、“処女”だよ。つまり、“氷の処女”ってこと。」
「えぇ~! 何それ?!」
驚いた…“ショジョ”って“処女”だよね?
“初女”でも“諸女”でも、ましてや“症状”でもなく、“処女”!!
「あたしそんなに“処女感”醸し出してるってこと? ていうか、“処女感”ってどんなん?確かに処女は処女だけどさぁ…」
「うん、ちょっと食い付くトコ間違ってるね。あと、連呼すんのもやめようか?」
にこやかな笑みを浮かべたまま、ユウキがもう一度足を組み替えて続ける。
「“アイアン・メイデン”って知らない?“鋼鉄の処女”―――この名前のロックバンドもあるけど。」
「んー…あるような、ないような…?」
首を捻る私に、ユウキが笑みを深めた。
「“鋼鉄の処女”っていうのは、中世ヨーロッパの拷問道具で、女性型の内部が空洞になった人形の事だよ。」
―――ごっ、拷問っ?!
衝撃に固まる私の前でユウキはスマートフォンを取り出すと、“鋼鉄の処女”とやらの検索結果を見せてくれた。マトリョーシカみたいな人形の前面が扉になって、パカリと開いている写真が見える…けど。
「中の空洞に人を入れ、…扉には内側に向かって長い釘が…って、何コレ死ぬじゃん?!」
「まあ、拷問道具だからね。」
うんうんって頷いてるけど、違ぁう~!!
「これが“鋼鉄の処女”で、あたしのあだ名が“氷の処女”ってことは、要するにあたしが拷問道具みたいってこと?!」
「鋼鉄じゃなくて氷だけどね。ていうか、氷で作ったんじゃ、すぐ溶けちゃうよねぇ…」
「そこじゃなぁ~い!!」
さすがに拷問具ってないわ!と、ニヤニヤ笑ってるユウキを睨み付ける。ワタクシ一応、乙女なんですけど、これでも。ちゃんとまだ処女だし。
「まあ、要するにアンタが次々男を袖にしてるのが原因なんじゃない? 冷たいオンナって事で。」
「袖も何も、向こうが『やっぱいいです~』って逃げてくのに…」
「逃げて行かざるを得ないようにしてるの間違いじゃん?」
そんな事は無い!
ちゃんと、説得力のある“私を好きな理由”を言ってくれたら、全然オッケーだもん。
「つーかさ、どんな理由だったらいいわけ?」
「んー、それは言われてみないとわかんない。」
「何じゃそりゃ」
ユウキは若干呆れ顔で腕を組んだ。
「そもそもじゃあ、シズルの好きなタイプって、どんなのよ?」
「えー、どんなって…」
そこまで言ってから、私はフフッと笑みを浮かべた。
「そんなの、聞かなくったってわかるでしょ?」
言いながら机の上で両肘をつき、交差した指の上に顎を乗せて小首を傾げ、意味ありげにユウキを見上げる。
そんな私の様子に、ユウキが軽く眉を上げると、フッ―――と微笑んで椅子から立ち上がった。
ゆっくりと焦らすように歩いて私の机の前までやって来ると、身を屈めて、すっ…と私の頰を指の背で撫でる。
―――カシャッ
「ダメだよ、シズル。ちゃんと口にして言ってくれないとわからない。」
―――カシャッ
「わかってるくせに…」
―――カシャッ
「わかってても言葉が欲しいもんなんだよ。」
ユウキが更に身を屈めて顔を近づけ、耳元で囁く。
―――カシャッ
「ほら、言って?」
長い指がついっ―――と顎を掬い上げた。
―――カシャッ
「ユウキ…」
近付いてくる顔を見つめながら小さく呟く。
―――カシャッ
「シズル…」
ユウキの硬質な美貌が徐々に近付いて、そっと目を閉じた、次の瞬間。
―――カシャッ
ゴンッ―――!!!
「痛ったぁ―――!!!」
額に生じた強い衝撃に声を上げた。
「ちょっとぉ、頭突きいるっ?!」
「なに?マジキスが良かった?」
「ジョーダンッッッ!!!」
涙目でユウキを睨み付ける。
くっそー!いつかやり返す!
「いやー、いいの撮れたわぁ!」
実はずっと側にいたもう1人の悪友、リコがホクホク顔でタブレットを弄っている。さっき撮ったばかりの写真を確認してるんだろう。
「次はいつ?」
「夏休み前だよ。時間あるから、今回はちょっとページ増やそうかなぁ…」
リコの百合本は結構売れる。
春のフリマでも用意したのが全部売れたと喜んでいた。
もちろん、マージンは分配していただいてますよ?
「ま、とりあえず今日の分はこれで。」
うむ、苦しゅうない。
差し出された食堂のチケットを受け取る。
「今日の日替わりなんだった?」
「チーズハンバーグ」
「おっしゃあ!行こう!」
「おう」
立ち上がり、ユウキと連れ立って教室を出た。
後ろからボソッと響く、リコの声。
「アンタ達って、そろって“ザンネン・メイデン”よね」
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