残念少女は今ドキ王子に興味ありません

はなの*ゆき

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よん

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 列車到着の音楽が流れる中をホームへと向かう。
 この列車に乗ろうと思っているのだろう、男子学生が地下通路を走っていった。

『就職して直ぐの時にさぁ、東京で初めて到着メロディ聞いた時にびっくりしたんだよねー。』

 ちょっとミディアムなメロディに乗って“発車のベルが~”と歌う、可愛らしい澄んだ声を聞きながらレイちゃんが言っていた。その頃、地方ではまだJRの発着音はベルだったらしい。
 その時に聞いた話だと、駆け込み乗車抑制の為だったんじゃなかったっけ?結局あんまり意味無さそうだよね。

 ふと思い出して聞きたくなり、ポータブルプレイヤーを操作した。
 80年代に人気だったアイドルグループの一員で、ソロデビューしていた女の子の曲。
 夢へ向かって旅立つ彼との別れを歌った曲なのだけど、まるで映画のワンシーンを切り取ったような歌詞がすごく素敵でお気に入りだ。
 歌詞の中で“こぼれている”のは日差しだけれども、本当にこぼれたのは、彼女の思いだったり、涙だったりなんだと思う。
 そう思うとすごく切ない気がする。
 切ないとは一言も歌ってないけど。
 まあ、実際にはまだそんな気持ちになった事が無いから、ホントのとこはよくわからないけどね。

 最近は昔のアイドル曲もネット検索で聞く事が出来るけど、これはレイちゃんが持っていたカセットテープを音源にしたモノだ。
 昔のFM放送では、1曲まるごとノーカットで結構流してたとかで、それを録音したモノが、レイちゃんちにはたくさん残ってる。
 好きな曲あるし、パソコンに取り込めないかなぁ~とレイちゃんが言ってたけど、残念ながら、私もそういうのに詳しくないんだよね。

『そういうの得意な彼氏作ってよ。』
『えぇ~? レイちゃんこそ、そういう人見つけて結婚すればいいじゃん?』

 そう言う私を、レイちゃんは笑い飛ばす。
 レイちゃんは“結婚したい”と思った事が無いらしい。

『結婚したくないって事?』
『違うよ。んー、必要だったらするかもしれないけどね。ただ、“結婚するため”の相手を探す気は無いかな。』

 良く分からないと言うと、やっぱりまた笑われたっけ。

 恋をしたい
 彼氏が欲しい
 結婚したい
 ―――とは、思わない。

 恋は落ちるもの
 彼氏は出来るもの
 結婚はするもの
 ―――だからね。

『そのうちアンタにもわかるよ。』

 でも未だにわからないんですけど。
 私の女子力が低いせいかな?

 階段を上ってホームに入る。人の動線を遮らないと思われる場所―――自販機の側面近くに立って、カバンから本を取り出した。

 昨日届いた本の2冊目。
 このシリーズの主人公は冴えない女の子、どころか、今で言う底辺女子だ。身形にはあまり気を遣わないし、仕事のためならなりふり構わないし、女の子らしさは微塵も無い。
 物怖じしなくて、人懐こくて、困ってる人をほっておけない。
 だから毎回厄介事に巻き込まれては、体当たりで事件を解決―――するのは主に、巻き添え食らってる美少年の方だけど。
 出てくる登場人物達は、大抵みんな、何かしら傷を抱えていて、主人公はそれを知らずに癒しては、彼等に惚れられていくという、今流行の乙女ゲームみたいな展開をする。
 30年も前のお話しなのに、結局、人ってのはどれだけ時代が変わっても、根本が変わらないって事なんだろうなぁ…。

 そして主人公は今日も無謀にやらかしていく。

『バカッ、何で1人で突っ込んで行くんだよっっ!!』
『や、だって、この中で死んでも1番世の中の損失にならないのって、あたしじゃない?』
『ふざけんなっっ!!』

 うんうん、確かに―――なんて、心の中で同意していた時だった。

「それ、何読んでんの?」

 突然耳元で響いた声に飛び上がった。(気持ちだけ)
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