メイドは厄介事も掃除する!

RayRim

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22話 朝の騒音と作戦会議

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『無知蒙昧なる子爵の領民に告ぐ!』

 夜明け前、突然の爆音に叩き起こされる。
 恐らくは拡声の魔導具によるもので、子爵邸の使用人室の窓ガラスや小物がガタガタと鳴る。

『南部の蛮族と結託し、北部の安寧を脅かすなど、言語道断!』

 いったい、なんのことだろう?
 いや、そんなことよりもこの爆音だ!耳が痛くてまともに聞いていられない!

『【古律守護派】、【ブレイド・オーダー】の【聖十二剣士】の【第六剣】たるウゴッ!?』

 そこで口上は途切れた。

『お騒がせしました。皆様、穏やかな朝をお過ごしくだだいませ。』
 
 何故かソニア様の声が聞こえてくる。いったいどうなっているのだろう?
 私の把握出来る距離ではないので後で確かめなくては…

「もうちょっと寝よう…」
ぱたかれたいですか?」
「いえ、起きます!おはようございます!今日も忙しい1日になりそうですね!アッハハー!!」

 急に聞こえてきたカトリーナさんの声で目が覚める。
 そうだそうだった。影に潜んでらっしゃるんだった…

 外出先ということでメイド服のまま寝ており、洗浄を掛けて全身の汚れを落とし、シワも取る。コルセットもつけて準備万端だ。

「締め足りませんね。」
「ぐふぅっ!?」

 すごい!ちからで!しめられる!!
 あ、アンコが出てしまいそうだ…

「では、抜かりなきよう。」
「は、はひ…」

 早朝から爆音で叩き起こされ、脅され、物理的に締め上げられ、もうクタクタだ…
 だが、確かに事態は動いており、これは波乱の始まりでしかない予感がしていた……



 簀巻きにされた『ブレイド・オーダー』が出入都市管理所にゅうかんの門の外に吊るされていたことに、子爵様が頭を抱える。
 当然の報いではあるが、都市に入りたいなら、まっとうな手続きをせよという皮肉にも思えた。

「ならず者の首と胴と手足がくっついている事に感謝した方がよろしいですわよ?」
「いや、たしかにやってる事は迷惑極まりないが…」

 フィオナ様が腕組みをしながら当然であるかのように言うが、子爵様は困惑が隠せない。私としても、当たり前のようにメイド服なことに困惑が隠せない。
 相変わらず不機嫌そうなハルカ様だったが、【獣人化】のスキルで生えたソニア様の尻尾をモフる事で徐々に表情がだらしなくなってくる。

 ビースト領に馴染む為という理由で、ソニア様がタマモの本体から賜ったスキルだが、今はハルカ様のご機嫌取りに使われていた。
 幻影の類なのだが、手触りが完璧で最高、そして唯一無二であることに異論は認めない。それを授けた本人よりも良いくらいだ。

「それより、今後の事を考えましょう。次はどんな手を使ってくるか分かりませんわ。」
「でも、ソニアちゃんが一撃で黙らせてたよ。凄そうな組織?チーム?名だけど大したことないんじゃ?」
「あちらもヒガン一家がいるとは思ってなかったんだろう。ワシが雇うなんて考えてなかっただろうからな。」

 どうにも相手の強さ、凄さが測れない。
 正直、今のところ『名前負けしてる懐古主義者』という感じだし。

「あちらも軍を派遣している様子はない。〈魔国覇王〉の伝承のように、1人で都市を蹂躙しようという腹積もりだったのかもしれんな。」
「バカバカしい。」

 そう答えたのは意外にもハルカ様だ。
 こういう話にはあまり感情が動かないと思っていた。

「連中に〈魔国覇王〉ほどの覚悟もなければ、1000年前とは何もかも違う。そんな古臭い考えの組織に振り回されるのもイヤ。」

 そう言って、ソニア様の尻尾に顔を突っ込む。
 セリフと行動のギャップが酷すぎる!
 
 ソニア様もなんだか落ち着きがない様子だ。やっぱり尻尾に感覚があるのだろうか?

「ハルカの言う通りです。〈魔国覇王〉様の偉業は語り継ぐに値しますが、現代においては反面教師でしかありません。」
「その裏にあったであろう苦難や苦労に目をつむり、ただ力による弾圧を行おうなど愚かですわ。」

 力強い声と言葉で、リリ様とフィオナ様も〈魔国覇王〉の行いを否定する。
 いかに偉大な人物であっても、それは時代背景あってこそのものだ。様々な面で整備が進んだ現代にその居場所は少ない。

「時代の流れに逆らうのも時には必要だろう。だが、我が領民の安寧を脅かすなど言語道断。後悔させてやらねばならん。」
「そうだよ。こっちは久し振りのベッドだったのに…」

 それでハルカ様は不機嫌だったのか。
 依頼であちこち飛び回るのも大変だ…

 それにしても、敵対していた時は子爵様を古狸古狸と思っていたが、味方になるとしっかり領主の務めを果たしているのが分かる。
 自分の領地が第一だからこそ、陛下の息が掛かっている男爵に対して警戒していたのかもしれない。

「連中が入り込んでいる可能性もある。高い金を払っているんだからしっかり頼むぞ。」
「しっかり、額に見合った働きをしますわ。連中が何を相手にしているのか、思い知らせてやりましょう。では、リーダー。」
「えっ!?」

 フィオナ様がこのまま代表になる流れだったので、完全に油断していた…

 今回もちゃんと理想の自分を思い描き、それに相応しい言葉をひねり出す。

 『古律守護派』、『ブレイド・オーダー』、『聖十二剣士』――

 一家と縁のない組織だが、その成り立ちは無縁とも言い難い。
 だからこそ、古臭い組織は私たちの手でしっかり掃除しなくてはならない。

「今は他種族との共存共栄を目指す時代。1000年前の独裁者を崇拝する組織に居場所はありません。古臭い組織は解体され、生まれ変わるべきなのです。」

 一息吐き、皆様の顔を見る。
 怪訝な表情を浮かべる方は一人もなく、全員がこれからの事に気持ちを昂らせているようにすら思えた。

「罪なき人々の安寧を脅かす道理はありません。彼の者たちに深い後悔と反省を刻んでやりましょう!」

 スケッチブックを取り出し、高く掲げる。

「塵は塵取りに!ゴミはゴミ箱に!クエストスタートです!」
『おー!』

 子爵様とその配下、そしてクレアさん以外の全員が得物を出して同じように掲げてくれる。
 杖が多いが、鞘に納まったままの剣や刀も掲げられ、それっぽい雰囲気になる。全員、メイド服だけど。

「では、分かれて動きましょう。私とハルカは単独で、ソニアさんはジゼルと、アクアはリリ様、クレアさんと行動してくださいませ。」

 テキパキと指示をするフィオナ様。
 やっぱりそっちがリーダーでいいんじゃないかな?

「こちらも既に巡回の兵を増やしておいた。何かあれば指示に従うよう命令もしてある。」
「助かりますわ。領民も他所者の冒険者より従ってくれますから。」

 子爵様も対応が早い。北部とも南部とも一定の距離を保とうという気概は、こういう時に発揮されるのかもしれない。
 
「ハルカ、斬り捨てるのは無しですわよ?」
「そっちも凍死させたらダメだよ。」
「善処しますわ。」

 フィオナ様の氷の魔法は恐ろしいくらい強力なので、本気になればこの大きめの都市だろうと氷漬けにしてしまうに違いない。
 そうならない為に、旦那様にも協力してもらいたいが…

「アクアさん、何か心配でも?」

 クレアさんが私を見て尋ねる。
 不安がすぐ顔に出てしまうのは良くないと分かっているが、こればかりはどうしようもない!

「いえ、皆様がいれば安心ではあるのですが、やはり都市の規模や相手の数に対して私たちが少ないので…」
「それでも、やるしかありませんわ。特に私とハルカは判断の遅れが致命的になりかねません。油断も慢心もせずに当たりましょう。」
「うん。」

 万全な状態ではないのは重々承知のようだ。
 一家として大きな事件の対応したのは一度や二度ではなく、その度に誰か大怪我をしたり周囲に被害が及んだりもしている。
 人が足りないとボヤいていた旦那様の気持ちが今ならよく分かる。どんなに優れた人材を抱えていても、1人でできることは少なく、狭い。
 
『それでも、やるしかない。』

 この言葉を私もしっかりと心に刻み、リリ様、クレアさんと一緒に出発した。 
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